一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

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魔界編(本編)

165.旅路の分岐点

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 魔界へ続く大きな橋、両界を渡る唯一の経路である橋を俺達は渡った。その先で待っていたタルタロスから脱獄した囚人達である。男女が交じり合い視認できる範囲では、総数三十人以上といったところだろう。

「結構多いな、おい」

 グレンがその数の多さに息を飲んだ。他のメンバーも警戒態勢を強めていく。そんな中俺は一歩先に出て言う。

「悪いな皆、ここは俺に任せてくれないか」

「えっ、でもお前」

「ああ、当初の予定じゃ全員で突破するつもりだったな。だけどやっぱり俺一人で戦いたいんだ」

 そう言った俺にグレンは疑問を感じ質問する。この時のグレンの表情は少し恐かった。

「それってつまり、俺達じゃ足手まといって事か」

「まさか。そう思ってるなら初めから、一緒に来てほしいなんて頼まないよ。一人で戦いたいのはまぁ……あれだ。今までずっと正体を隠してただろ? でもその必要も無くなったし、そろそろ本気で戦っておこうかなと思って。要するにリハビリだよ」

「本気って……今まで本気じゃなかったのか!?」

「手を抜いてたわけじゃないぞ。ただやっぱり、正体隠してる分、常に気は遣って戦ってたよ。そういうわけだからここで一つ――」

 俺の右手には聖剣、左手には魔剣が握られている。

「加減なしで戦わせてくれ」

 俺は視線に殺気をのせて脱獄者たちを睨んだ。脱獄者たちも俺の殺気を感じ取り、咄嗟に臨戦態勢をとる。グレン達はこれ以上何も言わなかった。言っても無駄だというものあるが、それ以上に見てみたいと思ったからだ。レイブ・アスタルテ、この俺の全力を。

「……」

 しばらく膠着状態が続いている。どちらも筋一本すら動かさない。彼らを見つめる者達も息を飲んでその時を待つ。
 膠着の中、先に動いたのは――

 来る!

 俺がピクリと右手を動かした。その瞬間を脱獄者たちは直感的に感じ取り、一気に集中力を高めた。彼らの対応は素早く正確だった。

「遅いぜ」

 俺は一瞬で三十人の真ん中を抉るように駆け抜けた。通りすぎざまに斬撃を浴びせ、舞い上がった血しぶきと対照的に脱獄者達が倒れていく。
 先にも言った通り彼らの対応は正確だった。それでも足りなかった。俺の動きが速過ぎたのだ。続けて俺は右へ駆け、その次は左に駆けて攻撃を繰り出す。

「ば……かな……――」

 脱獄者の一人がそう言葉にして倒れていく。
 その攻防は、時間すれば一秒にも満たなかっただろう。僅かな時間で、三十人の脱獄者は倒された。決して彼らが弱いわけではない。彼らもまた、タルタロスに捉えられるほどの大罪を犯した者達だ。そんな彼らの罪を笑い飛ばす程に、レイブ・アスタルテという存在は異常だった。

「ふぅ~ まだまだだな」

 俺は両手の剣をしまってそう口にした。
 やっぱり少し鈍ってるかもしれないな。昔はもっとこう、身体が軽かった気がする。こんなんじゃゼロに笑われるかな。
 あれだけの圧倒的な強さを見せて尚、俺は満足していなかった。今までの戦いも全力ではあったはずだ。それでも差が生まれる理由は、きっと精神的な部分だろう。倒すべき敵が明確になり、その強大さを知って初めて、俺は本気で戦えるのかもしれない。

「おまたせ」

「いや全然待ってねぇけど。やっぱ強いなお前」

「まぁな」

「じゃあゼロって奴も、お前と同じくらい強いのか」

 グレンがそう質問した。

「ああ、強いよ」

 それに対して俺は、これまでに無く真剣な顔つきで答えた。その表情にはグレン達に対する忠告の意味を含んでいる。
 もし出会ってしまっても、決して戦ってはならない。戦えばどうなるかは、今目の前に広がっている惨状を見れば明らかだ。絶対に戦うな……戦えばお前も、あそこに倒れた死体の山に並ぶだけだ――そう言っているように見えた。

「さて、こいつらの処理はエレナに任せるとして。そろそろ出発しようか」

「そうだな」

 俺とグレンのこのやり取りで、全員がそれぞれのチームにわかれた。互いに円になって集まり顔を見合う。

「いいか皆、俺達は戦いに行くんじゃなくて交渉に行くんだ。だから余計な争いは避けること、それでもし危なくなったらすぐに俺へ連絡すること」

「うん!」

 リルネットの右手に特殊なブレスレットが巻いてある。それを彼女だけでなく、他のメンバー全員が所持していた。これは俺が作成した転移用のマーキングである。これを各自が所持していることで、有事の際に俺が転移してかけつけられるようになっている。
 俺が右手を前に出す。他のメンバーもその手に自分の手を重ねていく。

「定時連絡は午後九時、最終目的地は魔王城だ。ここにいる全員が再会できなきゃ意味が無い。絶対生きて辿りついてくれ」

 各々が頷き俺と視線を合わせる。そして全員と視線を合わせた後、俺が掛け声をかける。

「行くぞ!」

「「おう!!」」

 互いの無事を祈り、必ず辿りつくと胸に誓って俺達は三方向へ散って行った。
 ここから三者三様の冒険が幕を開ける。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

さぁいよいよ次回から魔界の旅が!?
という所で、ここで一旦過去編に突入しようと思います。
章名は「魔王時代編」、レイブの魔王時代のエピソードです。
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