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魔界編(本編)
167.呪われた一族
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吸い込まれそうな黒い髪に整った白い肌、そして宝石のように赤い瞳。見た目はアリスより年上の女性である。髪は長く、大人の女性といった感じだ。胸の大きさや身長、他にも項目をあげようと思えば簡単だ。それでも、漂う雰囲気がアリスと重なる。
俺は脳内を駆け巡った疑問を、シンプルな言葉に変えて言った。
「お前は誰だ」
同じ疑問がアリスの脳内でも生まれていた。彼女はこれまで、自分と同じ特徴を持っている者にあったことがなかった。胸のうちに込み上げる戸惑いが、アリスの表情を曇らせていく。
「そんなに恐い顔しないで」
そんな俺達に向けて、謎の女性が口を開いた。声色も少しだけアリスと似ている。俺は睨むように女性を見ながら、確かめるように言う。
「味方……ではないんだろ」
女性はニヤリと笑った。
「ええ、もちろん敵よ」
女性の笑みから殺気がこぼれる。俺はすぐに戦える心構えをした。ムウも危険を察知して、ピンと尻尾を立てている。アリスはまだ戸惑っているようだ。
この女性は何者なんだろうか。もしかしたら自分と関係があるのでは?
次々に浮かぶ疑問に答えるように、女性は自らの名を語る。
「私はエリサ、つい最近までタルタロスに囚われていたのよ」
「やっぱりゼロの仲間か」
「ええそうよ」
「俺達を妨害しにきたか。それとも、先にあるガストニアが狙いか」
「いいえ」
エリサは首を横に振って言った。俺は眉をひそめて聞き返した。
「なら何をしにきたんだ」
「魔界へ来た理由は、あなたが言った通りよ。だけど、この場所に来たのは別の理由。個人的に寄っておきたい場所があったのよ」
そう言いながら、エリサはアリスへと目を向け微笑んだ。アリスは怯えたようにビクリと反応する。
「それにしても驚いたわ。偶然……いいえ、これが運命なのかしらね。まさか同胞に会えるなんて」
エリサの言葉は、アリスに向けられていた。同胞という単語に、俺もアリスも疑問を抱く。アリスはごくりと息を飲み、エリサに質問した。
「同胞とはなんですか?」
「そのままの意味よ。私とあなたは同胞、同じ一族の末裔」
「同じ……一族?」
アリスの合点のいかない表情を見て、エリサは目を細めた。
「あなた……もしかして何も知らないの? 自分が、呪われた一族の末裔だってことも」
「えっ……」
アリスの顔色が一気に青ざめてしまった。耳に入った言葉を疑うように、エリサのセリフを口にする。
「のろ……い?」
「そうよ。私達の先祖は大昔に大罪を犯した。人が超えてはいけない一線を、彼らは越えてしまったの。そして、同じ血が私達にも流れているわ。この世でも最も罪深く愚かな血が……」
「大罪……、一体なにを――」
「待てアリス」
深く入り込んでいこうとしたアリスを、俺が引き止めた。
「敵の戯言だ。耳を貸すな」
「レイ様……」
「いいかよく考えろ。こいつの話が真実なんて保障はどこにもないんだ。仮に真実だったとして、先祖がどうこうなんて、今のお前には関係ないだろ」
「ですが……」
アリスは納得していない様子である。
この際、エリサの言葉が真実であるかはどっちでもいい。問題は、彼女の言葉によってアリスの精神が不安定になっていることだ。これ以上話を続けるのはまずい。そう考えた俺は強引に前へ出た。
「あらあら、せっかちね」
「もうしゃべるな。お前は俺達の敵だ。だから倒す」
「そう簡単にいくかしら」
エリサが右腕を前に持ち上げ、手のひらを下にかざす。
「【死霊魔法:ネクロマンス】」
地面に魔法陣が展開される。直後、地中から朽ちた肉体が這い上がってくる。死した魔族の魂がゾンビとなって呼び起こされたのだ。
「さぁ、行きなさい」
「死霊魔法――ネクロマンサーか」
ゾンビ達が前進を開始する。俺は右手に聖剣デュランダルを召喚した。
「ムウ! アリスを守れ!」
「了解であります!」
俺は振り向いてムウがアリスの前に立ったことを確認した。その後すぐに振り戻り、聖剣を構えて突撃する。迫り来るゾンビ達を、通り過ぎざまに斬り去っていく。
「やるわね。だけど私も負けないわよ」
エリサが右手を天にあげた。彼女の後ろに巨大な蛇が出現する。
「ヘビーシャーク!? 魔物まで使役できるのか」
「やりなさい!」
出現した蛇は死霊魔法によって呼び出されていた。エリサが攻撃の指示を出すと、蛇は顎を大きく開き、毒のブレスを発射した。
俺は聖剣を縦に構え――
「守護の光よ」
光の障壁を生み出し防御した。毒のブレスは左右に散って、周囲の木々や大地を溶かしている。攻撃が止んだ瞬間、跳躍して接近し、のど元を切断する。
「まだよ!」
攻撃直後で空中に残った俺に、二体の羽を持った悪魔が挟む。二体の悪魔が爪をたて、俺に攻撃を仕掛けようと手を伸ばす。エリサがニヤリと笑みを浮かべた直後、悪魔に光の剣が突き刺さった。
「えっ――」
二体の悪魔が撃ち落された。動揺するエリサに反して、今度は俺は笑みをこぼした。
「【光魔法:ソードバレット】」
天から無数の光の剣が降り注ぐ。剣はエリサの身体を大地に縫いつけた。口から血を流す彼女に、俺は降り立って近づく。
「さて、いくつか質問に答えてもらおうか」
俺はエリサを見下ろしながらそう言った。
俺は脳内を駆け巡った疑問を、シンプルな言葉に変えて言った。
「お前は誰だ」
同じ疑問がアリスの脳内でも生まれていた。彼女はこれまで、自分と同じ特徴を持っている者にあったことがなかった。胸のうちに込み上げる戸惑いが、アリスの表情を曇らせていく。
「そんなに恐い顔しないで」
そんな俺達に向けて、謎の女性が口を開いた。声色も少しだけアリスと似ている。俺は睨むように女性を見ながら、確かめるように言う。
「味方……ではないんだろ」
女性はニヤリと笑った。
「ええ、もちろん敵よ」
女性の笑みから殺気がこぼれる。俺はすぐに戦える心構えをした。ムウも危険を察知して、ピンと尻尾を立てている。アリスはまだ戸惑っているようだ。
この女性は何者なんだろうか。もしかしたら自分と関係があるのでは?
次々に浮かぶ疑問に答えるように、女性は自らの名を語る。
「私はエリサ、つい最近までタルタロスに囚われていたのよ」
「やっぱりゼロの仲間か」
「ええそうよ」
「俺達を妨害しにきたか。それとも、先にあるガストニアが狙いか」
「いいえ」
エリサは首を横に振って言った。俺は眉をひそめて聞き返した。
「なら何をしにきたんだ」
「魔界へ来た理由は、あなたが言った通りよ。だけど、この場所に来たのは別の理由。個人的に寄っておきたい場所があったのよ」
そう言いながら、エリサはアリスへと目を向け微笑んだ。アリスは怯えたようにビクリと反応する。
「それにしても驚いたわ。偶然……いいえ、これが運命なのかしらね。まさか同胞に会えるなんて」
エリサの言葉は、アリスに向けられていた。同胞という単語に、俺もアリスも疑問を抱く。アリスはごくりと息を飲み、エリサに質問した。
「同胞とはなんですか?」
「そのままの意味よ。私とあなたは同胞、同じ一族の末裔」
「同じ……一族?」
アリスの合点のいかない表情を見て、エリサは目を細めた。
「あなた……もしかして何も知らないの? 自分が、呪われた一族の末裔だってことも」
「えっ……」
アリスの顔色が一気に青ざめてしまった。耳に入った言葉を疑うように、エリサのセリフを口にする。
「のろ……い?」
「そうよ。私達の先祖は大昔に大罪を犯した。人が超えてはいけない一線を、彼らは越えてしまったの。そして、同じ血が私達にも流れているわ。この世でも最も罪深く愚かな血が……」
「大罪……、一体なにを――」
「待てアリス」
深く入り込んでいこうとしたアリスを、俺が引き止めた。
「敵の戯言だ。耳を貸すな」
「レイ様……」
「いいかよく考えろ。こいつの話が真実なんて保障はどこにもないんだ。仮に真実だったとして、先祖がどうこうなんて、今のお前には関係ないだろ」
「ですが……」
アリスは納得していない様子である。
この際、エリサの言葉が真実であるかはどっちでもいい。問題は、彼女の言葉によってアリスの精神が不安定になっていることだ。これ以上話を続けるのはまずい。そう考えた俺は強引に前へ出た。
「あらあら、せっかちね」
「もうしゃべるな。お前は俺達の敵だ。だから倒す」
「そう簡単にいくかしら」
エリサが右腕を前に持ち上げ、手のひらを下にかざす。
「【死霊魔法:ネクロマンス】」
地面に魔法陣が展開される。直後、地中から朽ちた肉体が這い上がってくる。死した魔族の魂がゾンビとなって呼び起こされたのだ。
「さぁ、行きなさい」
「死霊魔法――ネクロマンサーか」
ゾンビ達が前進を開始する。俺は右手に聖剣デュランダルを召喚した。
「ムウ! アリスを守れ!」
「了解であります!」
俺は振り向いてムウがアリスの前に立ったことを確認した。その後すぐに振り戻り、聖剣を構えて突撃する。迫り来るゾンビ達を、通り過ぎざまに斬り去っていく。
「やるわね。だけど私も負けないわよ」
エリサが右手を天にあげた。彼女の後ろに巨大な蛇が出現する。
「ヘビーシャーク!? 魔物まで使役できるのか」
「やりなさい!」
出現した蛇は死霊魔法によって呼び出されていた。エリサが攻撃の指示を出すと、蛇は顎を大きく開き、毒のブレスを発射した。
俺は聖剣を縦に構え――
「守護の光よ」
光の障壁を生み出し防御した。毒のブレスは左右に散って、周囲の木々や大地を溶かしている。攻撃が止んだ瞬間、跳躍して接近し、のど元を切断する。
「まだよ!」
攻撃直後で空中に残った俺に、二体の羽を持った悪魔が挟む。二体の悪魔が爪をたて、俺に攻撃を仕掛けようと手を伸ばす。エリサがニヤリと笑みを浮かべた直後、悪魔に光の剣が突き刺さった。
「えっ――」
二体の悪魔が撃ち落された。動揺するエリサに反して、今度は俺は笑みをこぼした。
「【光魔法:ソードバレット】」
天から無数の光の剣が降り注ぐ。剣はエリサの身体を大地に縫いつけた。口から血を流す彼女に、俺は降り立って近づく。
「さて、いくつか質問に答えてもらおうか」
俺はエリサを見下ろしながらそう言った。
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