一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

文字の大きさ
115 / 132
魔界編(本編)

167.呪われた一族

しおりを挟む
 吸い込まれそうな黒い髪に整った白い肌、そして宝石のように赤い瞳。見た目はアリスより年上の女性である。髪は長く、大人の女性といった感じだ。胸の大きさや身長、他にも項目をあげようと思えば簡単だ。それでも、漂う雰囲気がアリスと重なる。
 俺は脳内を駆け巡った疑問を、シンプルな言葉に変えて言った。

「お前は誰だ」

 同じ疑問がアリスの脳内でも生まれていた。彼女はこれまで、自分と同じ特徴を持っている者にあったことがなかった。胸のうちに込み上げる戸惑いが、アリスの表情を曇らせていく。

「そんなに恐い顔しないで」

 そんな俺達に向けて、謎の女性が口を開いた。声色も少しだけアリスと似ている。俺は睨むように女性を見ながら、確かめるように言う。

「味方……ではないんだろ」

 女性はニヤリと笑った。

「ええ、もちろん敵よ」

 女性の笑みから殺気がこぼれる。俺はすぐに戦える心構えをした。ムウも危険を察知して、ピンと尻尾を立てている。アリスはまだ戸惑っているようだ。
 この女性は何者なんだろうか。もしかしたら自分と関係があるのでは? 
 次々に浮かぶ疑問に答えるように、女性は自らの名を語る。

「私はエリサ、つい最近までタルタロスに囚われていたのよ」

「やっぱりゼロの仲間か」

「ええそうよ」

「俺達を妨害しにきたか。それとも、先にあるガストニアが狙いか」

「いいえ」

 エリサは首を横に振って言った。俺は眉をひそめて聞き返した。

「なら何をしにきたんだ」

「魔界へ来た理由は、あなたが言った通りよ。だけど、この場所に来たのは別の理由。個人的に寄っておきたい場所があったのよ」

 そう言いながら、エリサはアリスへと目を向け微笑んだ。アリスは怯えたようにビクリと反応する。

「それにしても驚いたわ。偶然……いいえ、これが運命なのかしらね。まさかに会えるなんて」
 
 エリサの言葉は、アリスに向けられていた。同胞という単語に、俺もアリスも疑問を抱く。アリスはごくりと息を飲み、エリサに質問した。

「同胞とはなんですか?」

「そのままの意味よ。私とあなたは同胞、同じ一族の末裔」

「同じ……一族?」

 アリスの合点のいかない表情を見て、エリサは目を細めた。

「あなた……もしかして何も知らないの? 自分が、呪われた一族の末裔だってことも」

「えっ……」

 アリスの顔色が一気に青ざめてしまった。耳に入った言葉を疑うように、エリサのセリフを口にする。

「のろ……い?」
 
「そうよ。私達の先祖は大昔に大罪を犯した。人が超えてはいけない一線を、彼らは越えてしまったの。そして、同じ血が私達にも流れているわ。この世でも最も罪深く愚かな血が……」

「大罪……、一体なにを――」

「待てアリス」

 深く入り込んでいこうとしたアリスを、俺が引き止めた。

「敵の戯言だ。耳を貸すな」

「レイ様……」

「いいかよく考えろ。こいつの話が真実なんて保障はどこにもないんだ。仮に真実だったとして、先祖がどうこうなんて、今のお前には関係ないだろ」

「ですが……」

 アリスは納得していない様子である。
 この際、エリサの言葉が真実であるかはどっちでもいい。問題は、彼女の言葉によってアリスの精神が不安定になっていることだ。これ以上話を続けるのはまずい。そう考えた俺は強引に前へ出た。

「あらあら、せっかちね」

「もうしゃべるな。お前は俺達の敵だ。だから倒す」

「そう簡単にいくかしら」

 エリサが右腕を前に持ち上げ、手のひらを下にかざす。

「【死霊魔法:ネクロマンス】」

 地面に魔法陣が展開される。直後、地中から朽ちた肉体が這い上がってくる。死した魔族の魂がゾンビとなって呼び起こされたのだ。

「さぁ、行きなさい」

「死霊魔法――ネクロマンサーか」

 ゾンビ達が前進を開始する。俺は右手に聖剣デュランダルを召喚した。

「ムウ! アリスを守れ!」

「了解であります!」

 俺は振り向いてムウがアリスの前に立ったことを確認した。その後すぐに振り戻り、聖剣を構えて突撃する。迫り来るゾンビ達を、通り過ぎざまに斬り去っていく。

「やるわね。だけど私も負けないわよ」

 エリサが右手を天にあげた。彼女の後ろに巨大な蛇が出現する。

「ヘビーシャーク!? 魔物まで使役できるのか」

「やりなさい!」

 出現した蛇は死霊魔法によって呼び出されていた。エリサが攻撃の指示を出すと、蛇は顎を大きく開き、毒のブレスを発射した。
 俺は聖剣を縦に構え――

「守護の光よ」

 光の障壁を生み出し防御した。毒のブレスは左右に散って、周囲の木々や大地を溶かしている。攻撃が止んだ瞬間、跳躍して接近し、のど元を切断する。

「まだよ!」

 攻撃直後で空中に残った俺に、二体の羽を持った悪魔が挟む。二体の悪魔が爪をたて、俺に攻撃を仕掛けようと手を伸ばす。エリサがニヤリと笑みを浮かべた直後、悪魔に光の剣が突き刺さった。

「えっ――」

 二体の悪魔が撃ち落された。動揺するエリサに反して、今度は俺は笑みをこぼした。

「【光魔法:ソードバレット】」

 天から無数の光の剣が降り注ぐ。剣はエリサの身体を大地に縫いつけた。口から血を流す彼女に、俺は降り立って近づく。

「さて、いくつか質問に答えてもらおうか」

 俺はエリサを見下ろしながらそう言った。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。