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1章 変態紳士二度目の異世界転移

お約束をやらせない神はヒンヌー教の女神様

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 全てが白い、白い世界に俺はいた。

 柱はあるのに天井が無い、まるで孫悟空の如意棒が天を支えてるかのような柱だった。天井があれば、あれを言えたのに。

 俺はお約束も守れないこの世界に少しイラッとした。

「誰かいませんか?」

「いませんよ」

 お約束は守れないくせにボケはするのか。

 つまり、これは逃げる私を追いかけてってことだな? 俺はアイテムボックスから包丁を取り出すとその声の主に「ハハハ、追いかけちゃうぞぉ~」といって走り出した。

「キャハハハ。つかまえてごらんなさいな~」

 その声が聞こえると、突然白いブラウスを着た女性が現れ、両手をわざと左右に振って可愛い子ぶりッ子をしながら逃げていく。

 俺は包丁を振り上げると「まてぇ~」と言って追いかけた。

 しかし、全然追い付かない。俺は全力で走っているのに、追い付くどころか差が開いて見えなくなってしまった。

 俺はその場でヘタリこみ虚空に向かって言った。

「女神様、冗談はこのくらいにしましょうよ」

「少しは楽しませてくれても良いと思うのですよ?」

 先程の女性が俺の目の前に現れると女神の姿に戻り俺に笑いかける。

 俺は包丁をアイテムストレージに戻すと女神に聞いた。

「俺がここにいるってことは死んだんですか?」

 ここは最初にエルダートレインの世界に送られる前に女神と邂逅かいこうした場所だ。

「いえいえ、違いますよ。ほら、あなた最初に言ったじゃないですか、”女神様ゲーム知らないんですか”って」

 確かに俺はクソゲーを寄こしてきた友達を呪うように女神に呪いの言葉を吐いた。

「当然じゃないですか。普通スキル制のゲームからレベル制のゲームに転移とかありえないですよ?」

 転移させるなら同じシステムじゃなきゃ意味がない。とは言え微妙にスキルが無駄になっていないところがまたむかつくんだけど。

「私も反省して勉強したんですよ。それでちゃんとスキル制の世界に転生させてあげようと思いまして、魂をここに呼び寄せました」

 転生させる?転移じゃなくて転生だと……。

「つまり、新しい世界で、新しい肉体でやり直させてくれると言うことですか?」

「そう言うことです」

「なにか特典はいただけるんですか?」

 これ一番大事だ。特典もなく生まれ変わったって面白味がない。

 0から始めるのも、もちろん楽しいよ? 

 でも、それは別な100を知ってるから楽しいのであって、本当に0から始めると100に行くための労力は並大抵の努力では済まない。

 へたすればその領域に行くまでに死んでしまう。


「はい、私もこんな世界に転移させて悪いと思っていますので、イケメンでお金持ちの家で義理の妹と幼馴染みのいる生活で世界最強の能力と体を与えます」

 義理の妹と幼馴染みだと……。

 バカな義理の妹だけでも宝くじに当たったようなものなのに、さらに幼馴染みまでいるだと。

 いや幼馴染みは義理の妹と比べたら格落ちだ。

 義理の妹が10億円宝くじに当たったのと比べると、幼馴染みはサマージャンボ宝くじ、いや良いところ地方クジの一等だ。

 だが地方くじ一等とは言え、その価値は計り知れない。

「当然、同い年のツンデレメイドやデレデレメイドもいるんですよね?」

「ええ、もちろんですとも。美人巨乳家庭教師もいますよ」

 ひょおおおおお!? 役満、役満、ウルトラ満貫! ドラ・ドラ・ドラ われ転生に成功したり。

 なにそれ最強じゃないですか。俺の人生始まっちゃう? やっと俺のターン? そしてずっと俺のターン?
 
「さあ、私の手をとりなさい、さすれば新たな世界で生まれ変われるでしょう」

 俺は女神の手をとろうとしたが、伸ばした手は自然に止まる。

 クニャラ、レオナ、ゴメスさん……。

「やっぱりやめておきます」

「それは、あの世界に戻ると言うことですか?」

「はい」

「あなたの体は破損したままですし、レベルも1ですよ?」

 レベル1だと? あの魔獣を倒したのに? 俺は自分のステタータスを確認して驚愕した。

 レベル1 生産者:ケンタ

「女神様、魔物倒したのにレベルって上がらないんですか?」

 俺のその問いに女神は笑って答える。

「だって、あなた生産職ですもの魔物倒してレベル上がるわけないでしょ」

 女神が言うには生産職は生産して経験値を上げないとレベルが上がらないのだと言う。

 しかも俺の職業:生産者は、すべての生産職業の経験値をまんべんなく上げないと次のレベルに上がらないのだと言う。

 なにそのクソゲー。

 「あの世界の生産系職業いくつあるんですか?」

 「さぁ? あの世界は前担当が死んじゃったので私が変わりに担当してるんで詳しくはわからないんですよ」

 神様死ぬのかよ……。

 わからないなら仕方ない。でも、それでも俺はあの世界に帰らなきゃいけない。

 だってレオナが嫁にいくまで責任とるって約束したからな。俺だけ幸せな世界に逃げるわけにいかない。

「元の世界に返してください、クニャラやレオナがいる世界に」

 女神はがっかりした表情をすると仕方がないですねと言って俺を見る。

「本当に良いんですね?」

「はい、帰りたいです」

「分かりました、ではこれをあなたに与えましょう」

 女神が差し出したのはただの棒だ。まさかこれが噂のひのき棒? 

 ひのきの棒、それは勇者が一番最初に持つ神の武器、俺の勇者としての冒険はこれから始まるというのか。

「盛り上がっているところ悪いのですが、そんなものじゃありませんよ」

 この棒をもって使用したい道具を思い浮かべると、その道具に変化するアイテムで使用上限がないので壊れることがない特別なアイテムなのだという。

 そして、このアイテムを使って得た経験値はすべての生産職業に振り分けられるので、仕事さえしてればレベルが上がると言うクソゲーを生きていくための素晴らしいアイテムなのだ。

「ただし一日でも仕事を休むと、この棒は光になって消えさりますので注意してくださいね」

 なに、そのブラック企業的アイテム。

 月月火火木金金、365日死ぬまで働け、馬車馬に言葉はいらない。

 女神に、なんで馬がしゃべってるんだと罵られて、種馬ですからと言って交尾したい。

 だが待て、この女神貧乳につき萌える要素がありません。

 いや、本当にそうだろうか?

 貧乳だから良いんじゃないか? 

 巨乳は服の隙間から乳首が見えないけど、貧乳はしゃがんだりすると胸ポチが見えることが多々ある。

 それはキューピットのいたずらか、はたまた天使のわけまえか。

 しかし、それが良いそれで良い。まな板最高。微妙に口も悪いのもツンと考えれば貧乳ツンデレ女神の出来上がりだ。

 そしてなにより顔も良い。これは需要あるね! 

 しかし、ここまでみごとな貧乳は見たことがない。もしかしてヒンヌー教の女神なのだろうか?

 ”ヒンヌー! ヒンヌー! ヒンヌー!”

 異教徒のロリコン共の声が聞こえる、殲滅せよ!ロリコンを滅ぼせ。

 奴らは一匹見たら百匹いると思え殺せ殺すのだ虐殺だ!鏖殺おうさつだ!

 長い戦いの末、ロリコンは世界の倫理観という見えない圧力により殺された。
 
 ……そして世界は平和になった。

 だが本当に平和になったのだろうか?

 ロリコンは本当に居なくなったのだろうか?

 君の隣の友達は実は隠れロリコンタンなんじゃないのか?

 それから10年の月日がたった。

 ロリコンたちと戦ったあの日が懐かしくも感じる。

 最近ロリコンと言われる年齢が上がってきている気がする。

 男が自分の年齢より年下を好きになるとロリコンと言われるようになったのだ。

 同年齢か年上以外許さない風潮が出来上がってしまった。

 つまり年を取れば取るほどロリコンになる確率が増えていく。

 故に年寄りの男はすべてロリコンと蔑まれるようになった。

 俺たちは同士を殺してしまったのか!?

 ”ヒンヌー! ヒンヌー! ヒンヌー!”
 
 どこから貧乳を崇める声がする、フェミニストを倒せと轟き叫ぶ。

 そうだ僕らの自由を守るんだ。僕らは自由の戦士なんだ。

『ようやくその粋に達したか同志よ』

 どこからともなく男の声が聞こえる。

『君は俺が殺したロリコン』

 俺がそう言うと彼は首を振り、俺はお前でお前は俺だという。

 そうか分かったよ。

 ”一人はみんなのために、ロリショタは自由のために”開こう自由の翼!
 
 男の娘最高!!!

 もう怖いものなど無い、邪魔するものもない俺は声高らかに叫んだ。

「ヒンヌー! ヒンヌー! ヒンヌー!」

 女神に殴られた、ぶっ殺すぞと脅された。Aカップこわいよぉ……。

 その後、小一時間正座させられたのは言うまでもない。
 
「ところで、あの世界のレベルって打ち止めはいくつなんですか?」

「通常は99ですが、あなたはスキル1000ありますので1000ですね」

「……あのう、女神様、ゲーム勉強したんですよね?」

「ええ、しましたよですからスキル値をレベルに換算しました」

 馬鹿だこの女神、せめて100にしてレベル1でスキル10にしてくれないと、上げきれるわけないだろ。

「俺、寿命何年あるんですか?」

「さぁ? わたしは死神じゃないのでわかりませんよ」

 いや、女神様、あんた十分死神ですから……。

「分かりました、色々言いたいこともありますけど、色々してくれて有難うございます」

 俺がお礼を言うと女神は「そうそう、それでいいのよ。神はちゃんと敬いなさい」と言い、今までの無礼は許しましょうとドヤ顔をした。

「では、元の世界に送り返しますね。あなたに幸多からんことを」

 そう女神が言うと俺の体が光に包まれ意識を失った。
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