異世界労働戦記☆スキル×レベル☆生産者ケンタ

のきび

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2章 ゴブリンの花嫁たち

嘘。

『”暴食の魔光くわれろ”』

 後ろを振り向くまでもない、あいつの攻撃だ。多分シャーロンさん以外の者達を狙っている。振り向いている時間など無い。

盾庫解放ログ・シールド・レリーズ

 無数の盾が俺たちを守るように現れるその数は数千、明らかに武器より少ない。

 鍛冶師の熟練度を上げるには盾は素材も食うし簡単に制作できるため非効率でありそれほど作成してないのが原因だ。

 出された盾は次々黒い光に喰われていく。このままでは全滅する。

 そう判断した俺は前へと進む。ゴブリン・グリーディは魔法発動中は動けないようで、俺は光に喰われる盾を次々に変え前へ前へと進んでいった。

 怖い、怖いけどここは踏ん張らないといけないところだ。

 今頑張らないでいつ頑張ると言うのだ。

 盾は瞬時に侵食されるわけじゃない侵食されるまでわずかばかりのタイムラグがある。

 ゴブリン・グリーディの目の前に立ったとき、新たな盾の供給が終わり左腕が光に喰われた。

 その刹那、俺はツルハシで奴の頭を攻撃した。ツルハシの連続攻撃が入り頭部が粉砕されれた。

 ゴブリン・グリーディが魔法発動中で助かった。

膠着こうちゃくしていたおかげで難なくツルハシを当てることが出来た。

 動けていたら俺の攻撃は当たらなかっただろう。

 何より盾がギリギリもってくれて良かった。あと一歩遅かったら黒い光に喰われて死んでいた。

 俺はみんなに終わったことを伝えるために手をあげようと振り向こうとしたが破壊されたゴブリン・グリーディの頭部がまるで音をあげるように急速に回復し出した。

「こ、こいつ回復持ちかよ」

 完全に回復する前に更に頭部を攻撃した。

 頭部が再度破壊されるその一瞬で最後の一本の回復薬(大)を飲み喰われた左腕を回復した。

 今度は両手でツルハシを振るう、その威力でゴブリン・グリーディの胸部まで粉砕できた。

 しかしデカすぎる。俺の攻撃ではゴブリン・グリーディの身体を消滅しきれず、ツルハシで攻撃が入るたびに尋常じゃなく回復していく。

 回復速度がダメージを与えるよりも上回り出す。

 こいつ回復能力が成長している。

 ほぼ回復したゴブリン・グリーディは腕を振り俺の腹を切り裂く。


回復薬庫解放ログ・ヒール・レリーズ

 腹部の傷は瞬時に回復され事なきを得る。相当数の回復薬が俺の回復支援をしてくれる。回復薬(大)は気が遠くなるほど作ったからな。

 だが俺の攻撃が効かない以上、手詰まりだ。

「みんな逃げろ! 俺が押さえてる間に逃げるんだ!!」

 こいつは並の魔物じゃない、生産者である俺が戦っちゃいけないやつだ。

 だけど俺には守らなきゃいけない人たちがいる。

 大切な家族が……。

「イヤです! ケンタさん約束したじゃないですか一緒に帰るって」

 レオナが俺に駆け寄ろうとするが、サラに抱きしめられてこちらに来ることができない。

「ああ、帰るよ。これから最強の技おくのてを使うから、お前達がいたら使えないんだ。だから逃げろ」

「嘘ですよね、ケンタさん生産職じゃないですか。最強の技おくのてなんて」

 嘘じゃない、嘘じゃないんだ。ただ……。

「ケンタ本当に帰ってくるです?」

「当たり前だろ、俺の変える場所はサバラの、あの家だけだ」

「……分かったです、先に行ってるです」

 クニャラは優しく俺に笑いかける。できれば嫁に行くまで守ってやりたかったが。

「いやよ! わたしはここに残る」

 レオナは首をイヤイヤと振り、サラを振り払おうとする。鎧の効果かサラが両手で羽交い締めをしていても前に引きずられている。

睡眠スリープ

 クニャラがレオナを魔法で寝かせる。闇魔法の睡眠スリープは神杖で強化されレオナの魔法耐性を突破して昏睡させた。

「ありがとうクニャラ」

「良いのです、帰ってこなかったら私は殺されるです」

 確かに、あの状態なら寝かせたクニャラは後で相当レオナに怒られるだろうな。できれば擁護してあげたいが。せめてすぐに仲直りしてほしい。

「そんなことさせられないな。必ず帰るよ」

「ハイです」

 クニャラが笑顔で元気よく俺に返事をする。

 守りたいこの笑顔。

 本当に……。

「ケンタ、結界の出口で待ってるから!」

 サラがそう叫ぶ。

「ケンタさん私に恩をちゃんと返させてくださいね」

 シーファが鶴の恩返しよろしく強制恩返しを申し出る。

「ケンタさん私はあなたのことが好きでした。必ず帰ってきてください」

 シャーロンも今日から家族だ。その顔を曇らせたくない。俺はサムズアップしてみんなと別れた。

『別れは済んだか人よ』

 もう、俺の攻撃はゴブリンを止めることができなくなっていた。ダメージは通るが一瞬で回復してしまうのだ。

「おい、まだ寝てろよ」

『ふふふ、まさか我にまだ成長の余地があったとはな。感謝するぞ人よ』

「ああ、感謝しなくて良いぞお前はここで死ぬんだから」

 俺のその言葉にゴブリン・グリーディは大喜びをする。長い間閉じ込められて狂ったのかこいつ。

『フハハハ、言いよるわ愚かなる人よ、ならば我はこの拳で貴様をほふってやろうぞ』

 そう言うとゼクスなど及ばない程のスピードのパンチを俺に食らわせる。

 その瞬間、俺の腕が吹き飛んだ。しかしそのダメージは一瞬でなおる。この回復速度は回復薬(大)ではなく回復薬(極)だ、その能力は完全回復だ御覧の通り伊達じゃない。

能力向上薬ログ・プレイアップ解放レリーズ

 筋力や俊敏性などのステータスが極限まで上がる。そのお陰で奴の攻撃が見えるようになった。

 ゴブリン・グリーディの拳もなんとかかわせる。

 だが、ゴブリン・グリーディへの攻撃は逆効果だ。奴の回復力を向上させるだけで倒すことはできない。

 できるだけ攻撃をしないで時間を稼がなければ。

 だが、ゴブリン・グリーディはそんな俺の考えを見抜き、空に向けて魔法を放つ。その方向は皆が逃げた方向だ。

『興ざめだな人よ。今のはあえて外した、だが時間稼ぎをするようなら次はあの女共を殺すぞ』

 俺の考えは完璧に読まれていた。

 ならば、もう攻撃しするしかない。少しでも時間を稼ぐために。

 ゴブリン・グリーディはわざと俺の攻撃を頭以外の場所で受け回復を促す。

 その都度、回復力が上がっていく。

 頭部を破壊すれば他の部位よりも時間が稼げる。しかし頭を狙った攻撃はことごとく腕でかわされる。

 そして、ついに俺の攻撃ではゴブリン・グリーディの身体を破壊することはできなくなった。

 いや正確には破壊してるのだが回復薬(極)よりも速い速度で瞬時に傷を治ってしまうまでに進化したのだ。

 超回復力でインパクトの瞬時、治る速度で俺のツルハシが弾かれるのだ。

『さて、あやつらは我が子を生む嫁だ逃がすわけにはいかんな。これで終わりにすることとしよう』

「ひとつ聞かせてくれよ仲間は今結界の側なのか?」

『そうだ、逃がすわけにはいかないので、ここでお主の命を終わらせる。楽しかったぞ人よ』

 なるほど、結界の側までたどり着いたか。なら、最強の技おくのてが使えるな。

『では消え去るが良い人よ。我を強くしてくれて礼を言おう』

「礼ならいらんぞ、お前はここで死ぬんだから」

 俺の言葉でゴブリン・グリーディはニヤリと笑う、右腕を振り上げ闇の球を作り出す。

『死ぬがよい』

「ああ、一緒に逝こうぜ”爆発薬庫解放ログ・ボム・リレーズ”」

 その瞬間、奴の右腕が吹き飛ぶ。

 自分の腕が消えたというのにゴブリン・グリーディは余裕の表情である。

 一瞬で傷は治ると言う驕りおごりからだろう。

 だが残念だったな、その傷は治ることがない。

 エルダートレインの最上位爆弾は数秒間回復を阻害する。

 爆弾がゴブリンの四肢を吹き飛ばし身動きできないようにする。

『ハハハ、このくらいの傷すぐに回復してやろう』

 回復しないことに気がつかないのか、ゴブリン・グリーディはまだ大口を叩く。

「悪いがその爆薬はしばらく回復不可能になるんだ。残念だったな」

『なっ、だ、だが今のでもう終わりだろう、これ以上の攻撃できるのか? ん?』

「お前は頭が悪いだけじゃなく目も悪いのか? 俺達の周りにある爆弾が見えないのか?」

 山積みにされた半透明の瓶を見てゴブリンは始めて驚愕の表情を浮かべる。 

 今まで作った爆弾の数は50億個、それが一気に解放されるのだ、俺の逃げ場すらない。 この技は自爆技だと公式がアナウンスしていた。


 ”魔物を最上位爆弾で動けないようにし、自分の周囲に今まで作った爆弾が時限式で爆発する瞬間をお楽しみください。多分汚い花火が上がりますよ。ただしあなたも死にますが(笑)”


 少しでも俺たち生産職を楽しませようとする試みだろうが本当に自爆は余計な機能だからと苦笑する。

「5」

 カウンターが時を刻む。

「4」

 カチリ、カチリと減っていくその進みはまるで時が止まったと思えるほどゆっくりだ。

「3」

 この世界に来てからの記憶がよみがえる。クニャラやレオナが笑いかける。

「2」

 現実世界のことなどまったく出てこない。皆との楽しい日々だけが繰り返される。

「1」

「さようならだ猿野郎ゴブリン・グリーディ

『やめろぉぉぉぉお!!!』

 白い閃光が俺たちを襲う。一瞬だ痛みはない。

 こんな世界だけど家族ができて俺は幸せだった。

 慕ってくれる仲間がいて嬉しかった。

 白い閃光の中、クニャラやレオナ、サラにみんなの笑顔が浮かび上がる。

 「嘘ついてゴメンな……」

 そう呟いてすべてを終わらせた。
 



◆◇◆◇◆


 結界の出口を目指す少女達の後ろで爆発音が響く。

 少女達が後ろを振り向くと大きな、とても大きな赤い炎の球体が見えた。

 その時サラの足の花嫁の呪印が消え去った。

 それはケンタがゴブリン・グリーディを倒したと言う証であり。あの炎の球体の中にケンタがいるということなのだとサラはすぐに悟った。

  レオナを抱えるサラはクニャラも抱きかかえるとシーファとシャーロンに結界の出口に飛び込めと叫んだ。

 三人は早かった、特にサラとシーファは元S級と言っても並ぶものがない冒険者の双璧を成すと言われた二人だ、その動きは現役のシャーロンを上回る。

 結界の外に出ると三人は岩影に隠れた。

「どうしたのサラ」

「私の花嫁の呪印が消えた」

「それじゃ――」

 その言葉が紡がれる前に雷が落ちたような轟音が鳴り響く。

 それは地面を揺らし結界を揺さぶる。

「結界が壊れる!」

 シーファのその言葉と共に結界にヒビが入り弾けとんだ。

 熱い熱風が少女達を襲う。

 どのくらい経っただろうか熱い熱風が止んで少女達は結界内へと歩を進める。

 結界内の木々はすべて炭化しており生き物はすべて死滅していた。

「ケンタ……」

 サラから飛び降りるとクニャラは戦いがあった地に向かう。

 熱風が無くなったとはいえ、空気はまだチリチリと肌を焼く。

 クニャラはそんなこともお構いなしに、前へ前へと進むケンタを迎えにいくために。

 ほどなくクニャラは爆心地にたどり着く、そこはまるで隕石が落ちたようにクレーターができており、何者も存在することができないような状態だった。

「嘘です……嘘なのです」

 絶望のあまりクニャラはその場に腰を落とし爆心地だけをずっと見つめる。

 そんなクニャラの瞳に赤い光が反射する。

 クレーターの中心で赤色に光る物があった。それは見覚えのあるものだった。

 大事なものだった。

 クニャラはクレーターの中心に飛び降りる。

 クレーターの中心地はまだかなりの高温でクニャラの肌を焼いた。

 だが焼かれる肌を気にすることなく前へ前へと進む。

 あそこにケンタがいる、ケンタがいるのと進むクニャラの皮膚は焼けただれていく。

 中心地についたクニャラはその指輪を拾う。

 その指輪は誰の指にも繋がってはおらず。高温で溶けて形を変えてはいるが見覚えのある指輪だった。

 家族の証しである赤い指輪だった。

 赤い指輪だけだった。



 第二章★完
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