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3章 モンキー・ダンス・レボリューション

妹との恋愛においてデレデレは甘えでありツンデレこそが至高なのである。

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 俺は体を洗えないまま街道をひたすら進んだ。

 おぶられていることでシンミアの溜飲が下がったのか俺にあまり突っかからなくなった。まあ、ただ端に痛いから俺にちょっかいをかけるのをやめたとも考えられるが。

「ふぅ、あるじ。あるじの名前はなんと言う名前なんだ?」

「ケンタだ」

「ケンタか長いな犬と書いてケンでいいな? 正直、俺より弱い奴ををあるじと呼びたくないしな」

 おいおい、三文字がなんで長いんだよ。そもそも俺は健太郎だぞ。すでに略されてんだよ。俺の(タ)大事にして!

 今それを言うと、またシンミアが苦しむことになるから俺はそれを飲み込むしかないのだが。もう少し仲良くなったらお兄ちゃんと呼ばせよう。

 そう、こんな不良になったのは俺のせいじゃない。シンミアが不良になったのは俺の両親のせいだ。つまりシンミアは俺の妹なのだ。

 古来より兄が妹をかわいいと思うように。妹が兄をウザイと思うのは自然の摂理なのだ。

 純愛から生まれる兄妹愛?

 デレデレ妹もいいだろう。だがそんな妹はただのチョロインだ。

 そんな妹じゃ禁断の愛を乗り越えられない。

 ツンツン妹だからこそ禁断の愛を乗り越えられるんだろうがよぉ!

 下僕で生まれる兄妹愛!

 禁断の愛はミステリー。

 喧嘩することで生まれるケミストリー。

 そこから生まれる愛のストーリー。

 Oh、Yeahそうですね

「だいたい俺がケンじゃ西遊記なのか桃太郎なのかわからないだろ?」

ケンは何をいってるんだ?」

 了承も得ずにすでに犬呼ばわりかよ。別にあるじって呼んで欲しいわけじゃないけど、
 ケンよりはましだよな?

「ぬ? 降ろせケン、敵だ」

 俺から飛び降り、シンミアは草むらの方をにらむ。

 ガサゴソと言う音ともに顔が牛で体が犬のブルドックが現れた。当然二足歩行だ。

「ふん雑魚が、オレのストレス解消に付き合ってもらうぜ」

 シンミアが殴りかかるのと同時にブルドックも四足になり突進する。

「おりゃ! 死にさらせ!!」

 ”ドゴン!!”

 すごい音がしてシンミアが吹き飛ぶ。

「グハッ!」

「え?」

 シンミアが倒されるほどなの? まかりなりにも、あの幼女は神だろ?

 ブルドックがさらに追撃をかけるべく前足で砂を掻く。

 俺はシンミアとブルドックの対角線上に立った。

「おいケン逃げろお前の叶う相手じゃない……」

 シンミアは口から血を吐きながら必死に立とうとしている。

「良いから寝てろ俺が助けるから」

「バカ!レベル2の生産職がなにカッコつけてんだ逃げろって!」

 暴力幼女で俺を嫌っているからと言って逃げられるわけないだろ。

 俺に戦わせないようにブルドックに先手をうったのくらい俺にだってわかる。

 なら次は俺の番だ。

 ブルドックが目標を俺に変え突進してくる。避ければシンミアが餌食になる。

 絶体絶命。

 なら止めてやるよ、くそ野郎。

 俺の腹部にブルドックの角が当たる瞬間、俺の両手がブルドックの角をわしづかみにした。

「とまれぇぇぇぇ!!!」

 ”ボキッ! ボキッ!”

 止めた角に抵抗がなくなる。ブルドックの角が二本とも折れ、そのままブルドックが俺に体当たりをする。

 くそ、シンミアに体当たりしたときに角が脆くなっていたのか?

 このままだとまずい生産者の俺などシンミアより弱い、一撃でももらえば死んでしまう。

 俺はとっさにニーキックを出した。それは生存本能のなせる技か神の奇跡か。

 その一撃はブルドックの首の骨を折り絶命させた。

「あぶねぇ……」

「バカ野郎なんで逃げねぇんだよ!」

 俺に罵声を浴びせるシンミアは苦痛に顔を歪ませる。俺を怒鳴ったことで生理痛を起こしているようだし、そもそもダメージがでかいのだろう。

「逃げられるわけないだろ。俺が逃げたらシンミアが死んじゃうだろ」

「オレは不死身なんだよバカ! さっき説明したろ」

 そう言えばそんなこと言ってたな。しかし、シンミアはいまだにダメージが抜けきらないようで、立つことすらできない。

 俺はストレージから回復薬を取り出そうとしたが回復薬(大)がない。

 たしか2,3個あったはずなんだが。その回復薬(大)の代わりに回復薬低++と言うのが一杯あった。

 こんな回復薬もってたっけ?

 無い物ねだりをしていても仕方ない、回復薬みたいだしこれに頼るしか無いな。

 俺はシンミアにその回復薬を飲ませた。

 その回復薬のおかげかシンミアの様態がよくなり、立てるほどには回復した。

「べ、別に治るんだから回復薬なんていらないんだよ」

「いや、シンミア。お前の傷治ってなかったぞ」

「そんなわけ、あ……」

「どうした?」

「自然回復はLV10からだった」

 俺のせいとはいえ自分が低レベルなの忘れてたのか。

 なにげに天然だな。天然妹かわいい。

 俺はシンミアを担ぐとまた背中におんぶした。

「歩けるよ!」

「回復薬(低)++なんかでちゃんと治るわけないだろ。良いから黙って俺の背中に乗ってろ。俺はケンなんだから、ちょうど良いだろ」

「んだよ……。 でも、お前は俺より強かったから少しは認めてやるよ」

「おう、ありがとうな」

「でも勘違いすんなよ! お前はまだあるじじゃなくてケンだからな!」

「ははは、了解、了解」

 俺のために先に戦ってくれたシンミアなら、まあケンでも良いかと笑いながら道を西へと進むのだった。

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