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11話 人類最強、アークライト・シーザー
しおりを挟む鋭く睨む者は怒っていた。
それはもう激おこプンプン丸ムカ着火ファイヤーである。
滅多に出さない最高速度で空を裂きながら飛行する、目的地は東であった。
ドラゴンは気紛れで気分屋で、気に入らない事があると癇癪を起こして目に映る物全てを破壊する事すらある。
大きな子供と表現出来てしまう危うい存在であるが、鋭く睨む者は永い永い時を生きた分、他のドラゴンより少しだけ冷静で頭も回った。
風に当たっていると嫌でも落ち着き、考える余裕が産まれてくる。
そうだ。
乗り心地が悪くて魔王に振られたのであれば、乗り心地を良くすれば良い。
そもそもケンタウロスに乗り心地で勝負するのは些か無謀であったと流石の鋭く睨む者も猛反省。
早速改善の為動き出した。
目指すは東、鋭く睨む者が普段巣にしている山よりもずっと東、人間の領域である。
魔物に騎乗という概念は無い、大抵の魔物は馬より早く動ける。
必要が無いからだ。
馬より早い魔物はケンタウロスを初め何種類か存在するが、魔物同士協力し合う事は殆ど無く背に乗せるなんて普通有り得ない。
ケンタウロスは特殊な風習の関係上鞍の様な物を身に付けるが、制作技術は失われており親から受け継いだり嫁いできた人間に作ってもらっている。
人間の街ならば、ドラゴンの大きな背にも合う、高速飛行にも耐えうる理想的な鞍が作れるかもしれない。
「ふんすふんす今に見ておれ浮気者の魔王め泥棒馬め完璧な乗り心地に酔いしれるが良い」
お金だってしっかり持ってきた。
人間社会の価値はよく分からないので大きめな金塊を持ってきたのだ、きっと足りるだろう。
足りなければまた一飛びで山まで取りに行けば良い。
巣には蓄えた財宝がまだまだ山程あるのだ。
鍛冶屋から立ち上る黒い煙を探して境界線、人間達が安全線と呼ぶエリアを越えた。
大きな砦の真上をおちょくりながら通過し、少し飛ぶと人間の集落が見えてくる。
人間は皆鋭く睨む者を指差し、悲鳴を上げながら逃げ惑う。
鞍を作る職人が居なくなっては堪らないと1番動きが遅かった職人の元へと急降下し、傷付けないよう気を付けて爪で摘む。
「おい人間暴れるなお前鞍は作れるかお仕事を頼みたいぞ」
「た、助けてくれ! やめてくれぇ! 」
「おっきな鞍を頼みたいのだお金だってしっかり払うぞ」
「ひいいいい!! 」
「むー」
職人は悪魔のように恐ろしいドラゴンに覗き込まれ、泣き喚く事しか出来ない。
傍から見ればドラゴンが食べる餌の品定めをしている風にしか見えないのだ。
困ったぞと鋭く睨む者が顎を搔いた。
「……む騒がしい奴らだ」
どうしたものかと悩んでいたら、ガチャガチャと忙しなく人間の兵士が現れる。
ざっと見て30人、士気も練度も高く並の魔物相手であれば犠牲無く討伐出来るであろう集団を、尻尾一振で吹き飛ばす、多分死んではいないだろう。
…………死んでないよな?
「うっ……」
よし、死んでない。
「むそうかこの姿だな臆病者め仕方ない奴だ」
仕方なく竜の姿を解き省エネモード、人間形態に変わる。
爪に引っ掛けていた和也のジャージを羽織り、再度交渉を試みた。
突然恐ろしいドラゴンが若い女の姿に変化した事に驚く職人、鱗に覆われた腕や尻尾を見て姿が変わっただけのドラゴンであるのに気が付き、腰を抜かす。
あの尻尾が今度は自分に振り下ろされるかもしれない。
「この姿であればまだ話せるであろう特別だぞ本当なら人間相手にわざわざこんな事をしてやらないんだからなさあ仕事を」
抱える程大きな金塊をずいっと差し出す。
「さあさあキリキリ働くのだ私に最高の鞍を用意せ……!? 」
職人に仕事を頼もうとした鋭く睨む者を、何かが横合いから強く叩き付けた。
金塊を放り出し、鋭く睨む者が隣の家屋に吹き飛ばされる。
「逃げなさい、先に警備隊が陣を構築している」
「ひ、ひい! あなた、は」
土煙を払い、現れたのは職人にとっての天上人。
安全を保障してくれる生きた伝説、帝国十二勇士が1人アークライト・シーザー辺境伯であった。
帝国には十二勇士、とかいう規格外に強い十二人が居た。
居た、という表現を使ったのはその十二人のうち半分の6人が既に死んでいて、未だ空席のままだからである。
かつて勇者と共に戦い、勇者の死後宝具と呼ばれる特別な遺品を分け合った十二人は、遺品の力と自身の積み上げた経験、武力を以てヴィセア帝国指揮下の元大陸の東半分を平定、安全線を引き人類の安全を確固たる物とした。
その過程で十二勇士は半分が死に、何人かはまともに戦えなくなり、残った勇士も40年経てば老いて第1線を退いた。
アークライト・シーザー辺境伯、ただ1人を除いて。
「……おのれ」
鋭く睨む者は帝国十二勇士のうち1人を殺した事がある。
確か、勇者の使っていた聖剣を扱う女剣士。
とても強かった、そして高潔であった。
ドラゴンと人間、敵同士、種族や立場の差があるにも関わらず、鋭く睨む者はその闘い様、生き様に敬意を評し全力で迎え撃った。
殺し、食った。
「おのれ、おのれ、おのれ、おのれ」
鋭く睨む者は倒壊した家屋の中で、ボロボロになったジャージを抱き締めて涙を零す。
「魔王の、贈り物を、貴様ァ!!! 」
人間形態から竜に変じて、下手人に向けて突進をかます。
「先程は人間の言葉を喋っていたが、その余裕は無くなったようだな邪竜。何を言っておるのやら」
鋭く睨む者、体躯は15mを超え体重は同体積の鉄より重い。
そんな巨体が怪力を以て全力の突進を行えば、なんの工夫なんて無くても石で作られた砦を打ち壊し、人間であれば形を留めずグチャグチャとなってしまう。
はずであった。
「ハァッ! 」
突進を両手でしっかりと受け止めたアークライト・シーザーが顎を蹴り上げた。
キラキラと真紅の鱗が砕けて舞う。
「なぁ……!? 」
たたらを踏んだ鋭く睨む者の、無防備な腹に重ねて拳がめり込んだ。
当然のように竜結界を貫通する。
「貴様ァ……十二勇士か! 見覚えがあるぞ! 人間風情が私の鱗を、貫くなぞ」
「魔物の言葉は分からぬと言っておろう。邪竜鋭く睨む者、我が友エリザベスの仇である。死せよ」
「抜かせぇ! 」
鋭く睨む者が口内に魔力を集める。
阻止しようと飛び上がったアークライト・シーザーを両手でがっしりと押さえ込み、意表返しにと家屋に叩き付けた。
瓦礫とドラゴンの膂力に押し付けられたアークライト・シーザーが呻きをあげる。
鋭く睨む者は魔力を限界まで圧縮。
口内で輝く魔力はもはや太陽の輝き、その物である。
「消えて、無くなれ、過去の遺物がぁ」
太陽が放たれた。
大質量と大熱量を内包した光が家屋ごと、街を、アークライト・シーザーを消し飛ばす。
嵐の中心点の如き暴風の中、些か冷えた頭で爪を退ければ、アークライト・シーザーは居なくなっていた。
「あの鎧ごと吹き飛ばしたか……? 」
確かに人間程度、跡形もなく消す魔力を込めたが結果が予想と違った。
あの鎧は確か勇者の遺物、宝具「不死鳥の鎧」に違いない。
かつての魔王でさえ破壊はおろか傷一つ付けることが叶わなかった規格外の逸品であるはずだ。
「さて、鎧を砕いたと思ったか? 邪竜」
「ッ! ……あぁ! 」
背後からの突然の衝撃に耐えきれず、さっきまでアークライト・シーザーを押さえ付けていた瓦礫に頭を打ち付ける。
身を捩り背後を見ると、無傷のアークライト・シーザーが瓦礫の上から鋭く睨む者を見おろしていた。
鎧からは真っ白な炎が立ち上り、彼の頭上を熱で揺らがしていた。
「流石だ、鋭く睨む者。今のは1度死んだぞ」
「馬鹿、な」
「何を言っているかは分からんが、困惑しているのは分かるぞ。してやったり、良い気分だ」
不死鳥の鎧はその名の通り、不死鳥の力を宿す白銀の鎧である。
発動出来る能力は2つ。
魔力が続く限りその場で転生し続け、魔力に応じて身体能力を強化する。
幾重にも強化を施されたアークライトの身体能力は、既にドラゴンのそれに匹敵していた。
かつての魔王はこの鎧を初め、数々の反則級宝具を身に付けた勇者に対して命を過剰供給させて自滅させた。
その魔王でさえ、刺し違えるのがやっとであった。
鋭く睨む者に、この男を殺し切る手段は無い。
「さぁ、幾らでもやろうか。死なぬ者同士、無限にな」
10時間にも及ぶ激戦の後。
戦闘の余波で更地となった街の中心点で、最後まで立っていたのは辺境伯アークライト・シーザーであった。
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