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32話 月より綺麗だ
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「愛歌ちゃんや、鋭く睨む者見てない? 」
「いいえ? お夕飯の時は居ましたよね」
怒涛の面会を終えた夜。
和也は鋭く睨む者の姿が見えない事を気にかけ、探し回っていた。
いつもなら可能な限り和也にべったりな分、少しでも居なくなると急に不安になってくる。
契約の件もあり暴れている事は無いだろうが、逆にここの人間に虐められていないか心配だ。
犬や猫じゃあるまいし。
「やあ、鋭く睨む者をお探しかい? 」
「あっ性格悪魔王」
ぬっと出てくる邪なる瞳の王。
そういえば、彼女も何だかんだと和也の傍を離れない。
「やめて? 彼女なら確か、窓から出て屋根の上に這って行ったよ、トカゲみたいにね。それより、君の村に帰ってからの事なんだけど、僕は」
「屋根の上ね、了解! 」
何かを言いかけた邪なる瞳の王は口篭り、駆けていく和也背を見送った。
「……ちぇ」
流石に、魔物である鋭く睨む者と同じルートを進めない。
和也は何とかメイドやらに話を聞きつつ、泊まっていた場所の屋根に辿り着いた。
下を見たら1歩も動けなくなりそうな高所、勢いに任せたいつもの行動とは言え、少し後悔しつつ四つん這いでひょこひょこ進む。
不格好極まりないが、無駄ではなかった様だ。
「……お」
キラキラと、月明かりに照らされる紅い宝石のような翼が見えた。
室内は窮屈だったのか、広げたり畳んだり、羽ばたいたりを繰り返す翼は息を呑む程に美しい。
翼を解しつつ、鋭く睨む者は月を見上げていた。
「こんばんは」
「む魔王かこっちへ来い隣が空いているぞ」
「じゃ、お言葉に甘えます」
ここも下を見たらチビってしまいそうだ。
努めて上を、夜空に浮かぶ月を見る。
「ごめんなさい」
「ん? えっ!? 」
「ごめんなさい魔王こんな事になったのは私のせいだろうお前は何も言わないがきっと怒っているんだろう私だって少しだけ反省している」
珍しく、鋭く睨む者がしょんぼり。
ナイフの様に鋭利な爪を、カチカチと合わせる。
「あ、いや俺の方こそ。俺が君に乗って帰らないって言ったのが原因でしょ? ごめんなさい」
「うん結局鞍は手に入らなかった私は駄目な奴だお前を背に乗せて飛んでやる事も出来ない」
「そっか、鞍……よし! 俺が鞍を用意してやる! 俺は魔物のリーダーだぞ! お前に合う鞍を手に入れるなんかお茶の子さいさいだ! じゃあ、仲直りな」
ぎょっとしたように和也を見上げた。
人間の姿をとっている時は和也の方が背が高い。
見上げられ慣れていない和也は照れくさくなって月を見る。
少し時間が流れる。
その間、いじらしく和也をチラチラと見続ける鋭く睨む者。
「なあ魔王」
「……」
「魔王どうした耳が通じなくなってしまったか」
グイグイと耳を引っ張る。
下手な刃物より鋭い爪で摘む物だからとにかく痛い、ピアス用の穴が開いてしまいそうだ。
「いたいいたい」
「聞こえているな何故無視した折角仲直りしたのに意地悪か殺すぞ」
「取れる取れるというか抉れる! えっちょっと穴開いてない……? ちょ、見て見て」
「大丈夫」
和也は耳の無事を確かめるとまたそっぽ向いた。
意地悪とは少し違う表情に気付き、顔を近付ける。
「近っ……照れる……」
「魔王」
「あの、魔王って、呼ぶの止めない? 君の言う魔王って40年前に死んだ魔王でしょ? 俺は魔王じゃないよ」
意を決した和也が、今まで何度も拒否されてきた事をもう一度繰り返す。
「お前は……」
「違う、俺は君の言う魔王じゃない。生まれ変わりでも無いし、記憶を失った訳じゃない。他人だ」
正直、好いた女の子に別人の勘違いされたままなのはとても辛い。
この子が好意的に接しているのは自分では無く、死んだ他人なのではと思ってしまう。
この距離感は俺の物で良いのかと疑問が胸を離れない。
「何となく分かってきたやはりお前はアイツじゃないんだな」
「おう、俺は魔王だけど魔王じゃないぞ。別人だったら、あの時の魔王じゃ無かったら、こんなに好き好き言ってくれないか? 」
「言わないぞ私はお前が好きだぞ」
「じゃあ俺を和也って呼べ」
「……」
ようやく、鋭く睨む者の中で、死生観が和也と繋がる。
魔王は死んだ。
こいつは魔王では無く、和也だ。
「カズヤ」
「うん、和也だ」
「……ちょっと照れるぞ」
「な、なんか俺も」
「……」
「……」
鋭く睨む者は和也の妹、愛歌と少し前に話していた事を思い出していた。
こんなロマンチックで綺麗な月夜にピッタリな、愛を伝える方法が彼らのいた世界にはあると言う。
「ま、カズヤ」
「どした? 」
「月が……」
「お? 」
むぅ……と唸る。
確かにロマンチックでは、あると思う。
月の美しさを語り合うなぞ、余程心が通じ合い、かつ雰囲気が良くなければ出来ないシチュエーションだろう。
しかし、月。
この鋭く睨む者を放っといて、空をプカプカ浮く月を褒め称えるのは、何だか負けた気がする。
超常の存在にしか分からない、下らないプライドだ。
だとしても、譲りにくい。
プライドを捨てるのは嫌だ。
何より自分らしくない。
「むむむむ」
「お? 」
バッと立ち上がった。
翼を広げ、飛び上がって月と和也の間に割って入る。
「おおお? 」
紅い宝石の様な翼をめいいっぱい広げ。
名剣魔剣を両断する爪を構えた。
「カズヤ! 」
「お!? なんだ! 」
「月と私どちらが綺麗だ! 」
「おお!? 」
比べてみれば良い。
あの時は負けたが今ならどうか。
望むのならあの月すは割って見せよう。
これが最も美しい、力強い、自分らしいと威圧感を全開で解き放つ。
ブルりと震え、へたり込むのを必死で耐える和也。
「月より綺麗だ」
「ふふ」
嘘偽り一切なく、打算も出来ずに口に出る。
鋭く睨む者は、当然だと誇らしげに微笑んだ。
「カズヤ今この時から私は名を改めるぞこの月夜に相応しい世に轟く名をつけるぞカズヤ」
「な、名前? 」
「うむ!! 」
魔物にとって名とは魂を表す言葉だ。
名を変えるとは、在り方を変えると言う意味だ。
鋭く睨む者。
はるか昔にそう恐れられた時は目に入った人間を全て殺し、魔物や同種のドラゴンであろうと全て殺した。
怖かった、この世の全てが怖くて怖くて堪らなくて当たり散らして殺し尽くした。
食って食って食って。
人類の天敵と呼ばれ、何時しか鱗は血の様に紅くなっていた。
「カズヤ私に新たな名をつけろ」
誰よりも高く飛んでいて、その実全てが羨ましくて見上げ、睨み上げていた。
鋭く、刃物の様に。
触れた者を全て切り刻み、誰も近づけないように。
「……よし」
何時からか何も怖くなくなった。
和也から貰ったジャージを握ると勇気が湧く。
ボロボロになってしまったけれど、解れや補修だらけで不格好だけど。
これを着ていれば全てが同じ目線にある気がして、何も睨まずにいれる。
「月を見る者、どうだろう」
「月を見る者」
鋭く睨む者、改め月を見る者の紅い瞳から色素が抜ける。
血の様に紅かった瞳は、薄く発光する白い瞳と変わった。
「私はこれから月を見る者だカズヤ改めてよろしく頼むぞ」
「いいえ? お夕飯の時は居ましたよね」
怒涛の面会を終えた夜。
和也は鋭く睨む者の姿が見えない事を気にかけ、探し回っていた。
いつもなら可能な限り和也にべったりな分、少しでも居なくなると急に不安になってくる。
契約の件もあり暴れている事は無いだろうが、逆にここの人間に虐められていないか心配だ。
犬や猫じゃあるまいし。
「やあ、鋭く睨む者をお探しかい? 」
「あっ性格悪魔王」
ぬっと出てくる邪なる瞳の王。
そういえば、彼女も何だかんだと和也の傍を離れない。
「やめて? 彼女なら確か、窓から出て屋根の上に這って行ったよ、トカゲみたいにね。それより、君の村に帰ってからの事なんだけど、僕は」
「屋根の上ね、了解! 」
何かを言いかけた邪なる瞳の王は口篭り、駆けていく和也背を見送った。
「……ちぇ」
流石に、魔物である鋭く睨む者と同じルートを進めない。
和也は何とかメイドやらに話を聞きつつ、泊まっていた場所の屋根に辿り着いた。
下を見たら1歩も動けなくなりそうな高所、勢いに任せたいつもの行動とは言え、少し後悔しつつ四つん這いでひょこひょこ進む。
不格好極まりないが、無駄ではなかった様だ。
「……お」
キラキラと、月明かりに照らされる紅い宝石のような翼が見えた。
室内は窮屈だったのか、広げたり畳んだり、羽ばたいたりを繰り返す翼は息を呑む程に美しい。
翼を解しつつ、鋭く睨む者は月を見上げていた。
「こんばんは」
「む魔王かこっちへ来い隣が空いているぞ」
「じゃ、お言葉に甘えます」
ここも下を見たらチビってしまいそうだ。
努めて上を、夜空に浮かぶ月を見る。
「ごめんなさい」
「ん? えっ!? 」
「ごめんなさい魔王こんな事になったのは私のせいだろうお前は何も言わないがきっと怒っているんだろう私だって少しだけ反省している」
珍しく、鋭く睨む者がしょんぼり。
ナイフの様に鋭利な爪を、カチカチと合わせる。
「あ、いや俺の方こそ。俺が君に乗って帰らないって言ったのが原因でしょ? ごめんなさい」
「うん結局鞍は手に入らなかった私は駄目な奴だお前を背に乗せて飛んでやる事も出来ない」
「そっか、鞍……よし! 俺が鞍を用意してやる! 俺は魔物のリーダーだぞ! お前に合う鞍を手に入れるなんかお茶の子さいさいだ! じゃあ、仲直りな」
ぎょっとしたように和也を見上げた。
人間の姿をとっている時は和也の方が背が高い。
見上げられ慣れていない和也は照れくさくなって月を見る。
少し時間が流れる。
その間、いじらしく和也をチラチラと見続ける鋭く睨む者。
「なあ魔王」
「……」
「魔王どうした耳が通じなくなってしまったか」
グイグイと耳を引っ張る。
下手な刃物より鋭い爪で摘む物だからとにかく痛い、ピアス用の穴が開いてしまいそうだ。
「いたいいたい」
「聞こえているな何故無視した折角仲直りしたのに意地悪か殺すぞ」
「取れる取れるというか抉れる! えっちょっと穴開いてない……? ちょ、見て見て」
「大丈夫」
和也は耳の無事を確かめるとまたそっぽ向いた。
意地悪とは少し違う表情に気付き、顔を近付ける。
「近っ……照れる……」
「魔王」
「あの、魔王って、呼ぶの止めない? 君の言う魔王って40年前に死んだ魔王でしょ? 俺は魔王じゃないよ」
意を決した和也が、今まで何度も拒否されてきた事をもう一度繰り返す。
「お前は……」
「違う、俺は君の言う魔王じゃない。生まれ変わりでも無いし、記憶を失った訳じゃない。他人だ」
正直、好いた女の子に別人の勘違いされたままなのはとても辛い。
この子が好意的に接しているのは自分では無く、死んだ他人なのではと思ってしまう。
この距離感は俺の物で良いのかと疑問が胸を離れない。
「何となく分かってきたやはりお前はアイツじゃないんだな」
「おう、俺は魔王だけど魔王じゃないぞ。別人だったら、あの時の魔王じゃ無かったら、こんなに好き好き言ってくれないか? 」
「言わないぞ私はお前が好きだぞ」
「じゃあ俺を和也って呼べ」
「……」
ようやく、鋭く睨む者の中で、死生観が和也と繋がる。
魔王は死んだ。
こいつは魔王では無く、和也だ。
「カズヤ」
「うん、和也だ」
「……ちょっと照れるぞ」
「な、なんか俺も」
「……」
「……」
鋭く睨む者は和也の妹、愛歌と少し前に話していた事を思い出していた。
こんなロマンチックで綺麗な月夜にピッタリな、愛を伝える方法が彼らのいた世界にはあると言う。
「ま、カズヤ」
「どした? 」
「月が……」
「お? 」
むぅ……と唸る。
確かにロマンチックでは、あると思う。
月の美しさを語り合うなぞ、余程心が通じ合い、かつ雰囲気が良くなければ出来ないシチュエーションだろう。
しかし、月。
この鋭く睨む者を放っといて、空をプカプカ浮く月を褒め称えるのは、何だか負けた気がする。
超常の存在にしか分からない、下らないプライドだ。
だとしても、譲りにくい。
プライドを捨てるのは嫌だ。
何より自分らしくない。
「むむむむ」
「お? 」
バッと立ち上がった。
翼を広げ、飛び上がって月と和也の間に割って入る。
「おおお? 」
紅い宝石の様な翼をめいいっぱい広げ。
名剣魔剣を両断する爪を構えた。
「カズヤ! 」
「お!? なんだ! 」
「月と私どちらが綺麗だ! 」
「おお!? 」
比べてみれば良い。
あの時は負けたが今ならどうか。
望むのならあの月すは割って見せよう。
これが最も美しい、力強い、自分らしいと威圧感を全開で解き放つ。
ブルりと震え、へたり込むのを必死で耐える和也。
「月より綺麗だ」
「ふふ」
嘘偽り一切なく、打算も出来ずに口に出る。
鋭く睨む者は、当然だと誇らしげに微笑んだ。
「カズヤ今この時から私は名を改めるぞこの月夜に相応しい世に轟く名をつけるぞカズヤ」
「な、名前? 」
「うむ!! 」
魔物にとって名とは魂を表す言葉だ。
名を変えるとは、在り方を変えると言う意味だ。
鋭く睨む者。
はるか昔にそう恐れられた時は目に入った人間を全て殺し、魔物や同種のドラゴンであろうと全て殺した。
怖かった、この世の全てが怖くて怖くて堪らなくて当たり散らして殺し尽くした。
食って食って食って。
人類の天敵と呼ばれ、何時しか鱗は血の様に紅くなっていた。
「カズヤ私に新たな名をつけろ」
誰よりも高く飛んでいて、その実全てが羨ましくて見上げ、睨み上げていた。
鋭く、刃物の様に。
触れた者を全て切り刻み、誰も近づけないように。
「……よし」
何時からか何も怖くなくなった。
和也から貰ったジャージを握ると勇気が湧く。
ボロボロになってしまったけれど、解れや補修だらけで不格好だけど。
これを着ていれば全てが同じ目線にある気がして、何も睨まずにいれる。
「月を見る者、どうだろう」
「月を見る者」
鋭く睨む者、改め月を見る者の紅い瞳から色素が抜ける。
血の様に紅かった瞳は、薄く発光する白い瞳と変わった。
「私はこれから月を見る者だカズヤ改めてよろしく頼むぞ」
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