2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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36話 断罪者

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ドラゴンは財宝を守る。

戦利品として勝ち取った金銀財宝を巣に持ち帰って、使うでも売るでもなくただ蓄える。

過去に人類や他の魔物がその宝を狙い幾度と無くちょっかいをかけたが、それらが成功した事は1度として無い。

彼ら、ドラゴンは宝を愛する。
その宝に触れる狼藉者を許さない。

なら、鋭く睨む者改め月を見る者はどうか。

彼女にとっての1番の財宝とは愛する和也に他ならない。

人類が紅龍山と呼ぶ山の頂きに蓄えられた莫大な財宝は、和也という1番の宝物を手に入れた彼女にとって大した価値のない物となっていた。

山ほどの黄金も、煌びやかな宝石も、愛する和也の笑顔の為なら支払う事に何の躊躇なくも無い。

そんな、かけがえ無い宝をみすみすと奪われた月を見る者は。

「落ち着いて下さい! どうか! ここは安全線より東、暴れれば契約によってお兄様のお命が! 」

「黙れ、小娘。カズヤの、血縁と、言え、ぶち殺すぞ、あぁ? 」

竜本来の姿となった月を見る者は、苛立たしさを隠す事無く周り物を爪や尻尾で破壊し続けていた。

和也一行に割り当てられていた城の1部は完全に崩れ落ち、月を見る者の居る一角だけが廃城のような有様となっている。

しかしこれでも随分堪えた方だ。
本当ならこの国全て焼き尽くしても、怒りは収まりそうに無い。

「直ぐにでも出発の許可は降ります! どうか今は! 」

「あいつ、は、私の夫、それを、クソアマ、悪魔王、殺す、種族ごと、滅ぼしてくれる」

普段の息継ぎを全くしない話し方も特異であるが、今の彼女に比べれば可愛らしい物だろう。

言葉を一言発する度に鋭い牙の生えた口の端から白銀の炎が漏れ出て、何とか宥めようとする愛歌の髪を焦がす。

辛うじて人類言語を話せているのは、ただの偶然だった。

「フー……フー」

悪魔王が和也を連れ去ってから3日も経っていた。

邪なる瞳の王は和也を連れ去る際、なけなしの魔力をあろう事か帝都全体に振り撒きながら逃走を行ったのだ。
それにより帝都の魔力を用いた機能の殆どが誤作動を起こす。

物流の要である転移魔法陣やセキュリティの為の何重にも施された防護の点検が完了するまでは、魔物である月を見る者や愛歌は帝都を出る事を禁じられてしまっていた。

「もう、我慢ならん、十二勇士の、あのジジイを、連れて来い、あいつなら、許可でも何でも、出せるだろう」

「それは……」

シーザーは、彼そのものが安全線警備の要。
転移魔法陣がマトモに使えない今は帝都守備の為に奔走していた。

もう暫くの間、愛歌は彼のことを見ていない。

「いいから、出せと言っている! 」

「シーザー様はお忙しい方です。そんな直ぐには……」

暴風のような龍の咆哮。
物理的な圧すら発生しかねない暴力的なマナの奔流の中。

少し疲れたような、老人の声が響いた。

「良い」

「シーザー辺境伯様! 」

アークライト・シーザー、今まさに月を見る者が呼び出せと暴れていた老人が姿を現した。
鋭い瞳には、いつもより疲労が滲んでいる。

「今しがた帝都の問題は全て片付けて来た」

潜伏していた幾つかの犯罪組織、皇帝の権力基盤を少しでも揺るがさんとする諸国の勢力。
ゆっくりと時間をかけて燻り出すべき帝国の敵が、今こそ好機と飛び出た所を全てその足で出向き、殴り、鎮圧してきた。

流石の人類最強と言えど、堪える。

「竜よ、カズヤの救出を許可する」

アークライトが言い終わるや否や、竜は真紅の比翼を大きく広げ二本足で立ち上がった。

陽光を受け焔のように煌めく鱗は戦闘態勢に入った獅子の鬣が如く逆立ち、近寄れない程の熱気を放つ。

愛歌が短く悲鳴をあげて距離をとった。

「だが、奴らの居場所は如何にお前といえ正確には分からんだろう」

「虱潰しだ、ここから、大陸の、端まで、踏み潰し、焼き払う!! 」

月を見る者が音響兵器のような咆哮を轟かせながら地団駄を踏んだ。
城が揺れ、窓が片端から砕けていく。

「馬鹿者、カズヤごと殺す気か……」

苦言を呈するアークライトに対して、月を細めた様な瞳が鋭く向けられた。

「あぁ? なら、どうすると」

「カズヤは帝国の大事な客人だ。それが帝都で、城で攫われたとあれば我等の責任でもある。故に、捜索に協力する」

「……」

怒りに任せ、全てを破壊し尽くす衝動に駆られていたが流石にカズヤが危ないとなれば幾らか冷静にならざるを得ない。

月を見る者がアークライトに話の続きを促すと、奥から見覚えのある女が遠慮がちに進んできた。

「わ、私が彼の居場所を探ってみせます」

「……契約の、時の、娘か」

皇帝の孫娘、ルーリエが手を挙げた。
帝国十二勇士の証、宝具、約定の杖が炎に反射して厳かに輝く。







邪なる瞳の王は途方に暮れていた。
頭を抱えて、洞窟の奥で1人。

正確には1人ではなく、進藤和也も加えれば2人だが、今の彼を頭数に加えるのには無理がある。

手足を失い、五感を失い、絶望は根拠の無い喜びに変換され続け、精神は崩れ会話はもう不可能だ。

「どうしよう……どうしよう」

答える者はいない。
この洞窟にいるのはくぐもった笑い声を漏らす和也と、諸悪の根源である悪魔の王のみ。

「ぼ、僕は」

邪なる瞳の王はこの世で最も優れた魔女だ。
ただ、使える魔法は全て相手を破壊し、冒涜する精神作用の魔法や自衛の為の破壊魔法。

使い勝手が悪いったらありゃしない、でも彼女は今まで困った事なんて一度も無かった。

だって。

誰かを癒したいと思った事は無い。
誰かを守りたいと思った事も無い。

この世界における、史上最悪であった。

いやもう糞だ。
史上最糞、蝿すら寄り付かねぇ、あー汚ねぇぺっぺっ。

「ごめん、ごめん。どうしたらいいんだろう。僕はどうしたらいい」

そんな悪魔が今更罪悪感を覚えるなんて、自らの行いを悔いるだなんて。

今更報われるはずは無い、赦されたり、取り返しがつくはずが無い。
何人も殺して、破滅させて、それを愉しんだ。

今、抱え切れない程の理解不能な罪悪感に押し潰されそうになってようやく。
ようやくだ、本当にようやく、産まれて以来の罪を何万分の幾らかを精算出来る。

「……マナの揺めき」

そして、この史上最糞を裁く断罪者が飛来する。
業火の如き竜鱗を煌めかせ、満月の如く輝く瞳を見開いて縦に割り。

「悪魔王ォォ! 」

暴力の化身が咆哮を放つ。

鋭く睨む者、改め、月を見る者。
遥か東の彼方より、流星の如く尾を引いて。

「そこに居るのは分かっているぞ! 出てこい! 焼き尽くしてくれる! 」

もはや人類の言語を捨てた、魂に直接打ち付ける竜の咆哮が轟く。

洞窟の外から差し込む光が、太陽が直ぐ側まで来ているかのように激しく瞬いていた。

「邪なる瞳の王! 悪魔王! 」

逃げなければ。
あの烈火に呑まれる前に逃げて、生き延びて、泥でも何でも啜って。

また何度でも絶望を味わいたい。

そう、今までの邪なる瞳の王なら思っただろう。
実際、その生き汚なさは彼女の実力と同じくらいに人類を苦しめた。

だが……

邪なる瞳の王は芋虫の様になった和也を抱えると、ゆっくり外に向かって歩き出した。













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