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37話 ぶっ殺す
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一瞬で景色が後方へと流れていく。
超高速で飛行する竜の背中に、何人かの人影がしがみついていた。
「くぅ……! もう少し、先です! 禿げた山の中腹、目立たない洞窟の中にいます! 」
帝国十二勇士、ルーリエ・ヴィセアは必死になって月を見る者の背中に掴まっていた。
かといって、探索の手を緩める事は無い。
契約の媒介となった宝具、約定の杖を突風の中掲げて和也を探る。
「間違い、なかろうな、小娘」
「悪魔王とカズヤ様、お二人の契約の残滓を辿りました! 間違いありません! 」
もはや龍に冷静さなど無い。
居場所の詳細を聞くや否や、一気に速度を上げて強制的にルーリエを黙らせる。
そして……
巧妙に隠蔽していた悪魔王の魔力を感じ取ると、月を見る者は太陽の如く輝く炎の吐息を撒き散らした。
「なにを! 山を、森を消すつもりですか!? 」
「なんの、問題がある! 」
炎によって、悪魔王が何重にも張り巡らせていた防護の魔法が消えていった。
しかし当然、灼熱は森を片っ端から炭に変えていく。
契約を反故にすれば和也が死ぬ。
故に直接人は死んでいないだろうが、この森で生活を営む者たちは生活の基盤を丸ごと焼き払われた事となる。
路頭に迷った人々は死ぬかもしれない。
まあ、だからなんだ。
月を見る者には関係ない。
彼女の本質も悪魔王と何ら変わりない。
大切な和也を助ける。
その為なら人類や魔物が何千何万死のうがどうでも良い。
故に、外付けの良心である和也が必須となるが……その和也が攫われてこの有様だった。
「悪魔王オォ! 」
「そこに居るのは分かっているぞ! 出てこい! 焼き尽くしてくれる! 」
もう邪なる瞳の王に逃げ場は無い。
どうせあの性悪の事であるから、幾つか予備の逃げ道を用意しているであろうと龍は山々を焼き払った。
「邪なる瞳の王! 悪魔王! 」
次、悪魔が姿を現したその瞬間には焼き尽くしてやろうと龍は魔力を循環させる。
さあ何処だ。
密かに地下道でも掘ったか、それとも目眩しや身代わりを用意したか。
悪魔王相手に用心し過ぎるという事は無い。
月を見る者だけでなく、ルーリエや半分気絶していた愛歌も用心深く当たりを見渡す。
しかし、その予想を裏切り……
「……まさか、真っ向から来るとはな」
洞窟から、和也を抱いた邪なる瞳の王が現れた。
一見無防備に見えるが、これら全てがブラフで何か仕掛けているのかもしれない。
なんて言う、月を見る者の冷静な思考は和也の容態を確認した瞬間に弾け飛んだ。
悪魔の抱える和也は手足が切り取られ、包帯で巻かれた顔面の目と口の部位からは血が滲んでいる。
悪魔という種族の性、和也の無残な有様……それらを確認した瞬間月を見る者は一直線に飛び込んでいた。
その急加速についていけず、愛歌とルーリエは空中に振り落とされる。
瞬く間に巨体を急接近させ、悪魔を殴り飛ばすと尻尾で丁寧に和也を巻き取った。
「カズヤ、カズヤ……」
いくら呼びかけても、愛しい人は言葉を返さない。
ただくぐもった薄気味悪い笑い声を漏らすのみだった。
「よくも……」
視界の端で、ふらふらと立ち上がる邪なる瞳の王が見える。
「やってくれたな、悪魔」
カチ、カチ、と言葉の節々で紅蓮の炎が漏れていた。
もう我慢する必要は無い。
山々を焼いた炎とは比べ物にならない、ドラゴンが吐く本来の炎。
項垂れ、何言わず、何もしようとしない邪なる瞳の王を不審には思いつつ、月を見る者は顎をいっぱいに広げて行き場を求めていた炎を解き放った。
防御も回避も行わない悪魔が、灼熱に巻かれて悲鳴を上げる。
「……」
悪魔の肉体は人間を超越しているが、ドラゴンや他の上位の魔物の様に強靭というわけでは無い。
炎に焼かれ、再生はするが、徐々に再生が間に合わなくなり指先から黒く炭化していく。
やはり妙だった。
窮地にありながら、邪なる瞳の王は応戦も逃亡もしようとしない。
命乞いすらせず、ただ炎に焼かれる。
そして……
「まさか、死んだのか」
人型すら保てなくなった邪なる瞳の王は、地面に倒れ込んでボロボロに崩れ去った。
「……小娘こいつは本物の悪魔王か」
灰を観察しつつ、ようやく現場に到着したルーリエに尋ねる。
服や髪は煤に汚れているが、何とか無事に辿り着いた彼女は杖を掲げた。
「間違いありません。悪魔、邪なる瞳の王です……も、もしやそこに居るのは……」
灰となった悪魔より、異様な姿の和也に気が付いて駆け寄った。
至近距離でその惨い姿を確認し、ルーリエは悲鳴をあげる。
「そんな……カズヤ様」
せめて手当を、と和也に触れたルーリエの手を鋭い声が静止する。
「お待ちください! 離れて! 」
「え、え? きゃっ! 」
少し遅れて走ってきた愛歌が、ルーリエの腕を掴んで和也から無理矢理引き剥がした。
「今のお兄様に触れてはなりません! 離れて……山の麓、いえ息の続く限り遠くへ! 」
何を言っているのか。
理解が追い付いていないルーリエを強烈な悪寒が襲う。
慌てて視線を戻せば、和也が笑うのを止めていた。
「カズヤ様……? だれ」
ルーリエがカズヤと知る、陽気な青年の形をした何かが苦しむように唸りながら身を捩っている。
「駄目、負の感情が蓄積されて……これより緊急の鎮めを行います! どうかお早く待避を! 」
邪なる瞳の王による度重なる歪な記憶改竄と感情操作。
和也の中の禍神はいつ暴走してもおかしくない、無理矢理抑え込まれた爆弾の状態であった。
そこで、ストレスの原因でもあり和也の暴発を防いでいた邪なる瞳の王が死に……とうとう導火線に火が付いた。
愛歌は短刀を抜き、駆け寄って切先を和也の喉元に押し当てる。
「アイカ何をしてるまさかお前までカズヤを傷付けるつもりではあるまいなそれは許さんぞ貴様も殺すぞ」
「お待ちください! お兄様は以前のただ死んだ時とは比べ物にならない負を溜め込んでおられます! このままでは……縛りをすり抜けた朱渦獣命が受肉してしまうかも」
だからなんだ! と月を見る者が吠える。
「一度殺します。せめて、少しでもマシな顕現になるように……」
殺す。
和也を、愛する者を殺すと言われた月を見る者は、慌てふためいて愛歌を尻尾で取り押さえようとする。
「許さんぞそれは絶対に許さん傷から何とか治すカズヤが危険なら遠いところに連れて行く殺すだなんて絶対にさせんぞ」
死の概念を人間と同じ目線で理解し始めた月を見る者にとって、和也が死ぬと言う事なんて受け入れられるはずがなかった。
それが回り回って和也自身の為になり、本当に死ぬ事とはならないとしても……到底受け入れられるはずかない。
「それでも血縁か! カズヤが……」
「黙りなさい! 駄々をこねるしか出来ないなら黙っていろ! お兄様を殺すなんて私が一番したくないのですよ! 」
普段大人しい愛歌の鬼気迫る剣幕に、大きな身体を縮こませてビクリと震える。
「ふー……」
再び和也に短刀の切先を向けた。
血の気が引き、冷たくなる手を噛んで無理矢理自分を奮い立たせる。
愛歌が兄、和也を殺すのは初めてではない。
感情の起伏が激しく不安定なまだ幼い兄を、思春期で自分の境遇に鬱屈としていた兄を。
もう何度も殺してきた。
仕方の無い事だと、和也に言い訳した事は一度も無い。
顕現が軽度で済み、復活した和也に口汚く罵られた時も手を上げられた時もただ伏して謝罪し続けた。
薬物に頼れる年齢となってからも、慣れるまでは不安定になる事は何度もあり……額には一生消えない傷が深々と刻まれている。
「……」
進藤兄妹にとって死は何より身近に存在してきた。
しかし、死が軽々しいと思った事など一度も無い。
「……殺します」
良く研がれた刃を、勢いをつけて喉元に突き刺した。
超高速で飛行する竜の背中に、何人かの人影がしがみついていた。
「くぅ……! もう少し、先です! 禿げた山の中腹、目立たない洞窟の中にいます! 」
帝国十二勇士、ルーリエ・ヴィセアは必死になって月を見る者の背中に掴まっていた。
かといって、探索の手を緩める事は無い。
契約の媒介となった宝具、約定の杖を突風の中掲げて和也を探る。
「間違い、なかろうな、小娘」
「悪魔王とカズヤ様、お二人の契約の残滓を辿りました! 間違いありません! 」
もはや龍に冷静さなど無い。
居場所の詳細を聞くや否や、一気に速度を上げて強制的にルーリエを黙らせる。
そして……
巧妙に隠蔽していた悪魔王の魔力を感じ取ると、月を見る者は太陽の如く輝く炎の吐息を撒き散らした。
「なにを! 山を、森を消すつもりですか!? 」
「なんの、問題がある! 」
炎によって、悪魔王が何重にも張り巡らせていた防護の魔法が消えていった。
しかし当然、灼熱は森を片っ端から炭に変えていく。
契約を反故にすれば和也が死ぬ。
故に直接人は死んでいないだろうが、この森で生活を営む者たちは生活の基盤を丸ごと焼き払われた事となる。
路頭に迷った人々は死ぬかもしれない。
まあ、だからなんだ。
月を見る者には関係ない。
彼女の本質も悪魔王と何ら変わりない。
大切な和也を助ける。
その為なら人類や魔物が何千何万死のうがどうでも良い。
故に、外付けの良心である和也が必須となるが……その和也が攫われてこの有様だった。
「悪魔王オォ! 」
「そこに居るのは分かっているぞ! 出てこい! 焼き尽くしてくれる! 」
もう邪なる瞳の王に逃げ場は無い。
どうせあの性悪の事であるから、幾つか予備の逃げ道を用意しているであろうと龍は山々を焼き払った。
「邪なる瞳の王! 悪魔王! 」
次、悪魔が姿を現したその瞬間には焼き尽くしてやろうと龍は魔力を循環させる。
さあ何処だ。
密かに地下道でも掘ったか、それとも目眩しや身代わりを用意したか。
悪魔王相手に用心し過ぎるという事は無い。
月を見る者だけでなく、ルーリエや半分気絶していた愛歌も用心深く当たりを見渡す。
しかし、その予想を裏切り……
「……まさか、真っ向から来るとはな」
洞窟から、和也を抱いた邪なる瞳の王が現れた。
一見無防備に見えるが、これら全てがブラフで何か仕掛けているのかもしれない。
なんて言う、月を見る者の冷静な思考は和也の容態を確認した瞬間に弾け飛んだ。
悪魔の抱える和也は手足が切り取られ、包帯で巻かれた顔面の目と口の部位からは血が滲んでいる。
悪魔という種族の性、和也の無残な有様……それらを確認した瞬間月を見る者は一直線に飛び込んでいた。
その急加速についていけず、愛歌とルーリエは空中に振り落とされる。
瞬く間に巨体を急接近させ、悪魔を殴り飛ばすと尻尾で丁寧に和也を巻き取った。
「カズヤ、カズヤ……」
いくら呼びかけても、愛しい人は言葉を返さない。
ただくぐもった薄気味悪い笑い声を漏らすのみだった。
「よくも……」
視界の端で、ふらふらと立ち上がる邪なる瞳の王が見える。
「やってくれたな、悪魔」
カチ、カチ、と言葉の節々で紅蓮の炎が漏れていた。
もう我慢する必要は無い。
山々を焼いた炎とは比べ物にならない、ドラゴンが吐く本来の炎。
項垂れ、何言わず、何もしようとしない邪なる瞳の王を不審には思いつつ、月を見る者は顎をいっぱいに広げて行き場を求めていた炎を解き放った。
防御も回避も行わない悪魔が、灼熱に巻かれて悲鳴を上げる。
「……」
悪魔の肉体は人間を超越しているが、ドラゴンや他の上位の魔物の様に強靭というわけでは無い。
炎に焼かれ、再生はするが、徐々に再生が間に合わなくなり指先から黒く炭化していく。
やはり妙だった。
窮地にありながら、邪なる瞳の王は応戦も逃亡もしようとしない。
命乞いすらせず、ただ炎に焼かれる。
そして……
「まさか、死んだのか」
人型すら保てなくなった邪なる瞳の王は、地面に倒れ込んでボロボロに崩れ去った。
「……小娘こいつは本物の悪魔王か」
灰を観察しつつ、ようやく現場に到着したルーリエに尋ねる。
服や髪は煤に汚れているが、何とか無事に辿り着いた彼女は杖を掲げた。
「間違いありません。悪魔、邪なる瞳の王です……も、もしやそこに居るのは……」
灰となった悪魔より、異様な姿の和也に気が付いて駆け寄った。
至近距離でその惨い姿を確認し、ルーリエは悲鳴をあげる。
「そんな……カズヤ様」
せめて手当を、と和也に触れたルーリエの手を鋭い声が静止する。
「お待ちください! 離れて! 」
「え、え? きゃっ! 」
少し遅れて走ってきた愛歌が、ルーリエの腕を掴んで和也から無理矢理引き剥がした。
「今のお兄様に触れてはなりません! 離れて……山の麓、いえ息の続く限り遠くへ! 」
何を言っているのか。
理解が追い付いていないルーリエを強烈な悪寒が襲う。
慌てて視線を戻せば、和也が笑うのを止めていた。
「カズヤ様……? だれ」
ルーリエがカズヤと知る、陽気な青年の形をした何かが苦しむように唸りながら身を捩っている。
「駄目、負の感情が蓄積されて……これより緊急の鎮めを行います! どうかお早く待避を! 」
邪なる瞳の王による度重なる歪な記憶改竄と感情操作。
和也の中の禍神はいつ暴走してもおかしくない、無理矢理抑え込まれた爆弾の状態であった。
そこで、ストレスの原因でもあり和也の暴発を防いでいた邪なる瞳の王が死に……とうとう導火線に火が付いた。
愛歌は短刀を抜き、駆け寄って切先を和也の喉元に押し当てる。
「アイカ何をしてるまさかお前までカズヤを傷付けるつもりではあるまいなそれは許さんぞ貴様も殺すぞ」
「お待ちください! お兄様は以前のただ死んだ時とは比べ物にならない負を溜め込んでおられます! このままでは……縛りをすり抜けた朱渦獣命が受肉してしまうかも」
だからなんだ! と月を見る者が吠える。
「一度殺します。せめて、少しでもマシな顕現になるように……」
殺す。
和也を、愛する者を殺すと言われた月を見る者は、慌てふためいて愛歌を尻尾で取り押さえようとする。
「許さんぞそれは絶対に許さん傷から何とか治すカズヤが危険なら遠いところに連れて行く殺すだなんて絶対にさせんぞ」
死の概念を人間と同じ目線で理解し始めた月を見る者にとって、和也が死ぬと言う事なんて受け入れられるはずがなかった。
それが回り回って和也自身の為になり、本当に死ぬ事とはならないとしても……到底受け入れられるはずかない。
「それでも血縁か! カズヤが……」
「黙りなさい! 駄々をこねるしか出来ないなら黙っていろ! お兄様を殺すなんて私が一番したくないのですよ! 」
普段大人しい愛歌の鬼気迫る剣幕に、大きな身体を縮こませてビクリと震える。
「ふー……」
再び和也に短刀の切先を向けた。
血の気が引き、冷たくなる手を噛んで無理矢理自分を奮い立たせる。
愛歌が兄、和也を殺すのは初めてではない。
感情の起伏が激しく不安定なまだ幼い兄を、思春期で自分の境遇に鬱屈としていた兄を。
もう何度も殺してきた。
仕方の無い事だと、和也に言い訳した事は一度も無い。
顕現が軽度で済み、復活した和也に口汚く罵られた時も手を上げられた時もただ伏して謝罪し続けた。
薬物に頼れる年齢となってからも、慣れるまでは不安定になる事は何度もあり……額には一生消えない傷が深々と刻まれている。
「……」
進藤兄妹にとって死は何より身近に存在してきた。
しかし、死が軽々しいと思った事など一度も無い。
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