2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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52話 地雷原拡大中

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「アークライトよ、進捗はどうだ? 」

ようやく落ち着きを取り戻した帝都中枢、その中でも平時にあっても万全の警備体制を維持し続ける特別厳重な区画。

皇帝の住まう屋敷。

人類の支配者と言っても過言では無い皇帝は、自室にてアークライトの報告を聞いていた。

「中々頑張っています。予定より良い仕上がりになるかと」

「ほうほう。お前にとっても初の弟子であるからな、構い過ぎて壊さんように……それにしても、お前も中々強かな奴じゃ」

「はい? 」

真面目な顔から一転、悪戯っぽい表情になった皇帝がニヤリと笑う。

「孫を嫁にやって、カズヤとの友好を確固たる物にするとはな」

「ん、うん? 陛下、何の事でしょう」

「儂の孫、ルーリエから来る手紙は同行した何処の馬の骨とも分からん兵士の事ばかりでなぁ……あれは惚れとる、間違いない。カズヤと仲良くなるように言い含めて送り出したというのに、全く」

「陛下!? 待ってください! 」

「うん? まぁ反対まではせんよ、恋愛は勝手にすれば良いからな」

自分の孫の事しか頭にない皇帝に痺れを切らし、アークライトは顔を寄せる。

「ベルの事です! ベルが、カズヤと? 」

「そのつもりでは無かったのか? 皆、あの堅物に春が来たと噂しておったぞ」

まさか、まさかと頭を抱えて座っては立つを繰り返す。
アークライトの頭の中では、幼子のベルライトが嬉しそうに駆け寄ってくる映像が流れていた。

「……カズヤには魔物の妻がいる! 」

「儂だって若い頃はハーレム王と揶揄されたものじゃよ、はっはっは。ベルライトは今何処に? 」

「そんな事聞いておりません! ベルは今、カズヤと練兵場で鍛錬をしております……2人きりで」

居ても立っても居られなくなり、アークライトは許可もなく皇帝の私室を飛び出した。
背後から愉快そうな高笑いが聞こえてくるが、構わずに練兵場へと真っ直ぐ進む。

「お疲れ様で……ひっ」

道行く兵士が、鬼気迫ったアークライトの表情を見て慌てて道を開ける。

練兵場に近付くと、孫娘と和也の威勢の良い声が響いていた。
良かった、やはり噂はただの噂、2人は真面目に鍛錬をしているではないか、と。

胸を撫で下ろして、様子を伺った。



「カズヤ! どうした! お爺様には威勢良く襲いかかっていたではないか! まさか刃物が怖い等と言うまいな! 」

「違ぇよ! どっちかと言うと君の剣よりお爺ちゃんの拳の方が怖ぇし、そうじゃなくて女の子に遠慮無く行くのってちょっと、あれっていうか! 」

ベルライトの振るう剣を危なげ無く躱して、和也が焦って言い訳をした。
女の子という単語に顔を赤くして、更に剣速が増す。

「ば、馬鹿者! 女の子なんて歳では無い! 」

これは、ギルティだろうか。
ギリギリ、談笑に入るだろうか。

「あぶね! はいはいすいませんね! でも俺より若いし! だから俺目線だと女の子! 痕とか付いたら大変でしょ! 」

「そ、その時は貴様が……貰ってくれたら」

アウト。

アークライトの鉄拳が和也の後頭部に炸裂する。

辛うじて腕を拳との間に差し込んで衝撃を和らげると、いきなり襲ってきたアークライトから和也は距離を取った。

「あぶねぇ!? 殺る気配があった!? 」

「カズヤ、随分楽しそうにしているでは無いか。もう日数も少ないと言うのに、余裕だな」

「い、いやいやそんなつもりは! 」

ちょっとむしゃくしゃして、つい背後から殴ってしまったアークライト。
実の所、怒りはあの一瞬で忘れてしまっていた。

先程の和也の対応、死角からの奇襲に見事対応してみせた身のこなし。
ベルライトと鍛錬していた時も、刃を潰してあるとは言え剣を相手に素手で危なげなく立ち回れていた。

「カズヤ、そんなに余裕なら久しぶりに本気で相手してやる」

白銀の炎を背負い、構えをとる。

ぶっちゃけ、口実だ。

ベルライトとの一件は置いておいて、和也の成長を確認したくなったアークライトはわざとらしい殺気を放つ。

「私に一撃でも……」

アークライトが戦闘態勢に入った瞬間。
和也はベルライトから訓練剣をひったくると、力の限り投擲した。
目標はもちろんアークライト、背中の炎が自動的に敵意を察知して飛来する訓練剣を焼き払う。

「どらあ! 」

迎撃の為に範囲が広がっていた炎を突破して、和也が突っ込んで来た。
勢いそのままに、形振り構わずアークライトの腰に全体重をぶちかます。

骨髄液によって強化された和也の膂力はアークライトに僅かに及ばないものの、勢いを十分に付けた事で彼を数歩後退らせた。

「一撃でもなんだい、お爺ちゃ……ンー! 」

してやったり。
ニヤリとした顔で見上げた瞬間、胴体を掴まれて上下逆さまに持ち上げられた。

「ちょ! ま! 」

高く持ち上げられた状態から、和也は一気に地面に叩き付けられる。
我武者羅に受身を取り、辛うじて頭部と腰は守ったが痛みに転げ回る事となった。

「まだまだ詰めが甘い」

吐瀉物を撒き散らして転げ回る和也に、ベルライトが駆け寄ってくる背中を摩る。

「か、カズヤー! 」

結果的にアークライトが和也を簡単にあしらった様に見えるが、実際は良い所を突いていた。

体格差のある相手にタックルを仕掛けてしまった事、攻撃を加えた後に油断した事、それ以外の戦闘の組み立て方はアークライトも一瞬対応出来ない程であった。

惜しい、10年、いや5年あれば付け焼き刃ではない本当の格闘術を叩き込んでやれるのに。
彼自身が選んだ道だ、とアークライトはifの想像を取り止めた。

「カズヤ、あと何回分残っている」

「うぐおぉ……えーと、あと5回分……骨髄液を飲んで2日経つから、もう少しで残り4回かな」

「そうか、仕上げに入る。戦闘中に骨髄液の採取は出来ないだろうから、最低限の2回分に調整して鍛錬して行くぞ。今日は休め、明日から今までより一層厳しくいく、心の準備をしておくように」

「今までより厳しく!? そ、そっか頑張るよ……」

アークライトは仏頂面のまま練兵場を後にした。

随分久しぶりに日が沈む前に家に帰り、これまた久しぶりに酒を口にする。
ズキズキと痛む腰を擦りながら、仏頂面を解いて満足気に笑った。




一方、愛歌。

「なるほど、女神の薬瓶は状況に即した多種多様な薬が溢れ出るのですね」

和也が鍛錬に励む傍ら、愛歌は宝具の理解に勤しんでいた。
付け焼き刃の戦う術を身に付けるより、宝具を上手く扱えた方が即戦力になると言うアークライトの判断であるからだ。

「それにしても、不思議な道具ですね。科学でも魔法でも説明が付かない、世界の理を無視するような異常な品物が十二個も……」

この世界は、技術や文化の獲得を目的とした異世界人の召喚が頻繁に行われている。
人類が自ら国を持って100年にも満たないのに、高度な文明を築けているのは異世界人召喚に起因していた。

愛歌や和也のいる世界だけでなく、様々な世界の技術や概念が流入した結果、このような異常な武具が生まれたのかも知れない。

「ま、考えても仕方ないですね。それにしても、勇者様は戦闘技術もくれたら良かったのに」

宝具は人外じみた能力を与えてくれるが、相手は本当の人外だ。
操る愛歌自身が集中的に狙われるとどうしようもない。

聖剣を魔力灯に翳し、透き通る様な刃を眺めていると戸がノックされた。

「はーい。開いています」

声をかけると、鎧を脱いで身軽な私服姿になったベルライトが辺りを見渡しながら部屋に入ってきた。

「失礼する」

「あら、ベルライト様。どうかなさいましたか? 」

珍しい客人だ。
当初、和也に敵対的だった故に愛歌も良く思っていなかった彼女だが、最近は和也と仲が良い。

まあ歩み寄ってやっても良いか、と部屋に通してお茶を淹れてやる。

「すまない、宝具の勉強中に……」

「いえいえ。何もしなくてもあちらから色々教えてくれるので、覚えるくらいです」

しまった、少し嫌味っぽくなってしまったかも知れない。
と後悔したが、何やらベルライトは他の事に気を取られているようだ。

「所で、ご要件は? 」

「うむ。その……実はだ、決戦に向けてカズヤは少し緊張しているようで、何か……気を紛らわすと言うか、元気づけられるような物を贈りたい。そこで君の意見を聞きたくて」

うん?

「つまり、お兄様にプレゼントを? 」

「ぷ……レゼントと言う程大袈裟では、なくて……」

あら?

「彼には大切な事に気付かされた。その恩返しも兼ねて……」

「てめぇお兄様に惚れたな! 」

パーン!
椅子を蹴っ飛ばして聖剣を担いだ。
7つの宝具が臨戦態勢を感じ取って愛歌の周りを浮遊する。

「ほ、ほ、惚れた!? バカを言うな! 」

「うるさい! こう言う事言ってくるやつ大抵惚れてるんですよ! 漫画で読みましたもんね! 」

「なんだそれは何の根拠にもなっていない! 私はただアイツに……」

「くそ、エルヴィン様を呼ぶしかないか……」

愛歌は密かに、対女性決戦兵器みたいなイメージを抱いているエルヴィンを帝都に呼ぶ事を決意した。
多分、良い感じにラブコメって彼女もエルヴィンの虜になるだろう。

それはそうと、ちゃんとプレゼントの相談には乗ってあげた愛歌ちゃんです。


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