2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛

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53話 俺と愉快な仲間たち

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人類が人類圏大陸等と宣う、世界唯一の大陸の端の端。
極西とも呼べる僻地に、巨大な城が聳え立っていた。

正しく天を衝く尖塔が歪に重なり合った、荘厳で有りながら不可思議で不気味な建造物。
魔法による重力操作にて無理矢理成立させられた、この世界における魔物の立ち位置をしますかの様なこの城の名は、「魔王城」

魔を総べる王が繋がれた、牢獄の城である。

魔物には政治や統治と言った概念が薄い、政治機能の存在しない城は威容を表すと言う他に何の意味も無く、これもまた魔王の有様を表すようだ。

そんな、空虚で巨大な城の中枢。

朽ちた玉座に1人の青年が腰掛けていた。

「王よ」

恭しく傅く老ゴブリンが声をかけても、青年は答えない。
ぼうっと、覚醒と半覚醒の合間を彷徨い続けていた。

「王よ、お食事をお持ちしました。もう幾日も何も口にしておりません、どうか」

老ゴブリンは1週間近く何も飲み食いをしていない青年を案じ、食事を差し出した。

皿の上には野草を繊細に味付けた料理が盛り付けられている。

「緑の刃、それは? 」

「王が好んでおられた、野草の創作料理でございます。海が近く、塩と魚が手に入りましたので今回は……」

「いい。マナを直接取り込めるから食事はいらない」

老ゴブリン、緑の刃はしゅんとして皿を下げた。
こんな日々が毎日続いている。

どうしたと言うのだろう。
王は食事を好んでおられたと言うのに、城に帰還してからと言うもの寝食を放棄して瞑想に耽っている。

「……かしこまりました」

人類との戦いを再開すると、久方振りに聞いた魔物全体に通ずる言葉で宣言された時、血潮が沸き立つのを確かに感じた。
また王の為に戦える、嬉しくなって名の由来となった刃を携えて彼について大陸の端まで来たというのに。

緑の刃は、とぼとぼと皿を持って玉座の間から退出する。

直ぐ外で待っていたオーク、鉄の猪が心配そうに出迎えた。

「陛下はまた瞑想ブヒか? 食事は……そうか」

野草料理を受け取った鉄の猪が、1口でペロリと平らげる。

「いつも楽しげな陛下はどうしてあんな事になってしまったブヒか? 」

「いや……本来はああだった。40年前もあの様に寡黙な方であった、最近がおかしかったのだ」

まるで別人のよう。
そう思ったが、口には出さずに止めておいた。

「もしかしたら、戦争を前にして緊張しておられるのかも知れないブヒな。どれ、場を和ますオークジョークでも」

「止めておけ、オークの冗談は下ネタばかりでは無いか」

「ブッヒッヒ。だが……魔王陛下の様子より、もっと気になる事があるブヒよ」

朗らかに笑っていた鉄の猪が神妙な顔になって辺りを見回す、気になっている相手が居ない事を確認するとヒソヒソと話し出した。

「最近来て、地下の部屋に住み着いた人間ブヒ。陛下は味方と仰っていたブヒが、あいつ、帝国十二勇士の1人ブヒよね? 」

「あぁ、間違いない。あの暴力的な魔力
は十二勇士だ、裏切ったと言う事なのだろうか」

体格差のある2匹はお互いに、顔を寄せ合ってヒソヒソと話す。
誰か、魔王や例の人間に聞かれたらどうなるか分からない、細心の注意を払って居たというのに。

「ねぇねぇ! 私の話かしら! 」

幼い声が暗い廊下に反響する、

魔王と同じかそれ以上に流暢な魔物の言語で、いきなり声をかけられた2匹は驚いて武器を抜きそうになった。

「やーね! 話しかけただけじゃない。私お喋り好き! 噂話なら混ぜてちょうだいよ! 」

ゴブリンである緑の刃と同じ位の背丈。

見かけだけなら幼い子どもであるが、武器を抜こうとした瞬間に一瞬だけ発せられた荒れ狂う魔力。

間違いなく、この子どもは帝国十二勇士が一人に違いない。

「……陛下はお前を受け入れたが、我らは信用しきってはおらんぞ。人間が何故、我らの味方をする」

「そうブヒ! 」

ビシッ! と指を立てて魔女が笑った。

「ギブアンドテイク! 彼が私に提示した報酬が魅力的だったから味方になったの。それに、種族とか今更じゃないかしら? 魔王って人間だし」

「ますます信用出来んブヒ! それに人間だと言うブヒが、お前と陛下では何から何まで違う! 我らと陛下の間には強い絆があるブヒよ! 」

「……ぷ」

威勢よく言い切った鉄の猪。
殺気すら混じった啖呵を受けて、魔女は堪えきれない風に笑みを零した。

「ぷふ……絆……絆ね。そうね、魔王様バンザイバンザイ、君達の忠誠心には頭が上がらないよ」

魔女の顔に浮かぶのは明らかな嘲りだ。

可愛らしい笑顔、幼い声は言葉を連ねる毎に変貌していく。
数秒のうちに幼子から、老練な魔女の嗄れた声に。

一瞬、勘違いかと思う程の刹那。
鉄の猪も緑の刃も、魔王の客人という事を無視してでもここで殺さなければならないと思ってしまう程の恐怖。
また武器に手をかけてしまう。

「……! 」

知らずのうちに抜いていた刃を、魔女は片手間に抑える。

「それじゃ! 魔王は体調悪そうだし帰るわね! 完全復活まであと一月もかからないかしら、多分……それまでには彼が来るのかな」

「何の話をしている」

「うふふ! 秘密よ! 会っても多分、君達は……」

愉悦か同情か、或いはそれらを半々にした表情を浮かべて魔女は去っていった。

2匹は気まずい雰囲気のまま取り残され、互いに顔を見合わせる。

「……彼? 」

「さぁ、なんの事ブヒかな」






「そこで、俺が言ってやった訳よ。鋭く睨む者を返せぃ! 如何に帝国十二勇士とて、我が心の焔は止められぬぞっ! てな」

「な、お爺様にそんな! なんて命知らずなのだ」

今日の修行を終えた和也とベルライトは、火照った身体を冷ます為にと練兵場の隅で座り込み話し込んでいた。

「でもお爺ちゃんは容赦しない訳よ。何度も死にながら、一進一退の攻防を繰り広げていると援軍に駆け付けた総勢5万の魔物と我が愛妹が……」

流石に盛り過ぎたか。
そう思って様子をちらりと見るが、ベルライトは和也の次の言葉を心待ちにしているようだった。
少し心苦しくなって話を畳む。

「まぁ、結構盛ったけどね……とりあえず、それがお爺ちゃんとの出会いだったかな」

興奮して熱心に話を聞いていたベルライトは、一段落すると哀しそうな目で夜空を仰いだ。

「私は……お爺様の戦う姿を実は見た事が無かった。十二勇士に憧れながら宝具に触れず、お爺様を尊敬しながらも恐れて戦いを見ようとしなかった。私は臆病者だ、理想ばかり高くて……本当に命をかけている君が眩しい」

「……星空をみてセンチメンタルな気分になっちゃった? 」

「気の効かんやつだ! 」

ディシッ、ディシッと肩を小突かれて和也が笑う。
骨髄液のお陰で体幹は全くブレないが、大袈裟におどけて見せた。

「カズヤ、私も魔王討伐に連れて行って欲しい。必ず力になる、足でまといにはならない」

真っ直ぐ、訴えるように切り出した言葉を、しかし和也は無視した。
冷えた身体で立ち上がって、隊舎に向かい始める。

「カズヤ! 」

「ベルライトさん、何かに命を賭けたいって理由で着いてこようとするなら駄目だ。俺は君を連れて行けない。戦力とかそういう話じゃないよ、分かるよね」

だって。
命を賭ける覚悟が彼女にあったとしても、和也にはその粗末にされた命を背負わなくちゃいけない義理なんてない。

「わ、私は」

献身とか、自己犠牲とか、重過ぎて付き合ってられない。
これは世界を救う戦いとかじゃない、そんな高尚な気持ちで着いてこれると、ちょっと、困る。

「お爺様に認められたいんだ」

「それだけ? 」

「……宝具が無くたって、帝国十二勇士に数えられたい! お爺様に、私が孫で良かったって思ってもらいたいんだ! 」

「それだけぇ? 」

むぐぐ、と言い淀んでいたベルライトは、和也の挑発に乗り徐々に口を滑らし始める。

「いっぱい、チヤホヤされたい! 凱旋パレードで、浴びる程の酒を飲みながら、宝具で着飾った男勇士を侍らせて……」

「いいぞぉ! いいぞぉ! 不純で素敵だ! 」

「こんな理由でいいのか!? こんな……私利私欲だ」

ついぶちまけてしまった欲望に恥じ、頭を抱えて項垂れてしまった。
小刻みに震える肩に、和也は手を置く。

「喧嘩に高尚な理由つける奴が俺は一番嫌いだ。俺は魔王が気に入らないから殴りたい、俺が好きだって言う奴、自分勝手な罪滅ぼしをしたい奴、富や名声が欲しい奴、みんな不純なら大歓迎だ」

ようこそ! 
和也は夜空を抱く様に手を大きく広げ、深夜という事も憚らず大きな声でベルライトを迎え入れた。

「俺と愉快な仲間たちで、魔王をぶっ飛ばしに行こうぜ! 報酬は山分けな! 」



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