王国への独立宣言 〜この領地では自由にやらせてもらいます〜

雀の涙

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領地視察編

残りわずかな時間を

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 時間は過ぎ、今月末に僕はとうとう誕生日を迎えてしまう。ついに王都へ向かうのも1ヶ月をきったというわけだ。

 そんな僕は今、歴史を勉強しまくっている。
 以前に受験科目である歴史は2週間くらい前から始めればいいと考えていた。
 しかしサイラが僕の想像以上の出来の悪さに我慢できなくなり、めちゃくちゃ怒るようになってきた。
 直前でも大丈夫だと自信があったから覚えてこなかっただけなんだけど、サイラはそんなこと知らないので怒るのも当然だと思った。なので早めに終わらせることにしたのだ。
 とりあえず王都に行くまでの計画はあらかた完了しているので問題はない。



 そんなわけで今日も歴史の授業を受けている。

「頑張って教えてきた甲斐がありました…… やっと覚えられるようになってきたんですね」

 サイラは目に涙を浮かべ、鼻をすすりながら言う。今までの授業を思い出しているのだろう。あんなに一生懸命に教えてくれてたもんね。
 僕は全く聞いてなかったけども。大体サイラは僕が17歳だって知っているから怒ることができるけど、本当ならこのバカみたいな量を3歳児にやらせようとしてたんだからな。それも4ヶ月でね。

「サイラのおかげで何とか覚えられるようになってきたよ」

「本当によかったです! 勉強するのもあと少しですから。合格するために最後まで気を抜かずに頑張りましょう」

「うん、頑張るよ」

 あと1週間もあれば全部覚えられるけどね。




 そして1週間後。

「はぁー。やっと終わった」

 見事に全部覚えることができた。すごく無駄な1週間だった気がする。

 目の前でサイラが飛び跳ねて喜んでいる。

「そんなに嬉しいの?」

「それはもちろんですよ! これで間違いなく合格できます! あのクリスセント学院にですよ?」

「そうだね」

 僕は苦笑いしながら一言だけ返した。あんなに喜ぶなんでサイラは相当必死だったんだな。

「ありがとうね」

「これが私の役目ですから!」

 こうして僕の受験勉強は終わったのだった。


 
 その日の夕食、僕が食事を終えて部屋に戻ろうとしたところを父に引き止められた。

「なぁカケルよ、本当にあの教材全て覚えたのか?」

 疑うのも無理ない。僕が17歳であることを知らないんだからね。

「うん! ちゃんと覚えたよ! 心配しなくても大丈夫」

「そ、そうか! 本人がそう言うなら安心だな! ははは」

 ニコッとしながら答える僕に、父も笑いながら答える。しかし父のそれは明らかに作り笑いで、表情は笑顔というよりただ口角を上げているだけで引きつっているようにしか見えなかった。

 ただの3歳児が4ヶ月で全て覚えたというのだから恐ろしく思うだろう。それに受験は歴史の他に計算もある。その計算すらもできてしまうのだ。父は僕のことを本物の天才だと思っているに違いない。
 そしてそんな息子が我が蔑ろにしている領民を助けようとしている。何を考えて何をしようとしてるのか想像するのは難しい。一刻でも早くこの屋敷から、領地から遠ざけたいはずだ。

「おやすみなさい!」

 僕は部屋に戻った。



ーーーーーーーーーー



 書斎にて。

「まさか本当に全て覚えるとはな……」

 我はなんともいえない気持ちだった。

 3歳であれだけの量を全て覚え、計算も完璧にできるようになっている。カケルは天才以外の何者でもない。

 ジェイスに言われるがままにカケルの学院行きを決めた。それは、表向きは貴族とはどういうものなのかを学ばせるということになっているが、本当のところはカケルが何をするかわからないからと邪魔者扱いをして領地から遠ざけるためだ。

 今は天才であるカケルをたくさん褒めてあげたいし、これからも側で成長を見ていたい。可愛い息子を邪魔者扱いしていいわけがない。

 そう思う反面、カケルは我のしたいこととは正反対のことをしようとしてる。正直邪魔になってくるのも間違いない。加えてあの天才ぶりだ。我に対抗できるだけの力をいずれ持つはずだ。だから今のうちに追い出しておきたいとも思ってしまう。

 我はこの2つの反する思いでいっぱいになっている。まるで自分の中に2人存在しているかのように。

 そんなことを思っていると、側に控えていたジェイスが紅茶を入れてくれた。

「何かお悩みですか?」

「いや、カケルのことでちょっとな」

「言ったでしょう? カケル様はだと。これで安心して送り出せますね」

「ジェイス、お前はまるでカケルのことを何でも知っているようだな? なぜカケルが優秀だとそこまで言い切れるのだ?」

 そういえば学院に入学させることを提案してきた時も確かに言っていたなと思い出し、聞いてみた。

「何をおっしゃいます、ウール様の子ではありませんか。優秀でないわけがありません」

「褒めても何もでないぞ」

 褒められて思わずにやけてしまった。

「もちろんです。私は普段からウール様にたくさん頂いてますから。」

「ん? そうか」

 何のことかわからないが適当に返しておく。

「とにかく、これでカケル様が学院に入学することができればもう不安に思うことはなくなります。これから先ウール様の邪魔をされてしまっては困りますからね。」

「確かにそうなのだが、それでも我の息子に変わりはないのだ…」

「失礼ですが、ウール様は何か勘違いをしてらっしゃいます。カケル様はきっと学院に入学しその後も良い成績を残し、王都で優秀な人材が一番集まる王城に呼ばれることでしょう。そこには大貴族も多く集まります。若く優秀なカケル様なら将来安泰かと。ですから何も悲しむことなど無いのです」

「なるほど………! そういうことか! 我は勘違いをしていたのだな」

「いつものウール様に戻られたようでよかったです。ささ、紅茶を飲んでゆっくりしましょう」

「そうだな!」

 ジェイスはいつも我のことを考えてくれている。本当にできた執事だな。
 そう感心しながらジェイスの入れてくれた紅茶を一口、また一口と味わいながら飲んだ。



ーーーーーーーーーー



 屋敷のとある一室。隅に簡易ベッドが置いてあり、それ以外には机と椅子が1つずつあるだけの殺風景な部屋にて。

「くっくっくっ、ははは! 全くおかしいぜ」

 そのベッドに寝転がりながら、ジェイスは先ほどのウールとのやり取りを思い出して笑っていた。

「あいつは本当にどうしようもないやつだな。結局また俺に言いくるめられてやがる」

 しかしあいつが悩んでいるのがわかった時は一瞬焦ったな。

 あいつは俺の提案を一度は採用したものの気分次第ではそれを却下し、入学させることを中止することだってできる。

 きっと優秀だと分かりどうにか自分の側にいさせたかったか、自分がしようとしていることに少し罪悪感でも感じたんだろう。

 だがあの方のためにも中止させることは絶対に阻止しなければならない。

 いつものように褒めて持ち上げてみたが、今回は上手くいくかは分からなかった。今日のあいつは普段と違う感情を強く抱いていると思ったからだ。
 しかしそんな不安はするだけ無駄だった。結局いつもと変わらなかった。本当に馬鹿だ。何かと自分を天秤にかけたら自分を取るやつだからな。迷ったとしても他人の意見に左右されてしまう。

 そもそも自分の子を思い通りに育てられない時点で貴族としてなってない。他の貴族は自分の跡取りになれるよう、継がせた後に楽できるよう育てている。

 つまり出来損ないの貴族ってことだ。

 まぁとにかくカケルは受験の準備はできたし、あいつも中止するようなことはしないと思うし、これでもう安心だな。
 残りの時間はゆっくりと過ごせそうだ。



ーーーーーーーーーー
 


「うーん。どうしようかな」

 部屋戻った僕は椅子に座り、机に肘をつきながら誕生日までの残された時間をどう過ごすか考えていた。

 机の上には日本語で書かれた計画表が置いてある。それは父に学院へ入学することを言われた夜に作ったものである。

「受験勉強も終わったし、魔法も今の自分にできる最大限は努力した。ゲイルにも伝えるべきことを手紙で伝えることができた。」

 呟きながら、その計画表の完了した項目をペンで消していく。そして残った項目は2つ。

「これは王都に行く日に完了するから……っと」

 残った2つも消していく。

 僕は不必要となった計画表をぐしゃぐしゃにして丸め、手で握りしめる。
 そして手に魔力を込め握りしめた手を広げると、あったはずの計画表は細かなチリとなって消えていった。
 
 さてと、どうするかな。

 僕は自由に行動することができないから特にすることが何もない。あるとすれば毎日やっている鍛錬くらいしかない。
 
 
 んー………… 

「よし、いつも通り過ごそう!」

 もうできることはなさそうだからな。今から焦って何かしようとしても上手くいくとは思えない。
 
 そうと決まればと、早速ベッドの上に移動していつものように鍛錬を始めた。
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