父と私の12年間

チキン南蛮

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交通事故

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小学2年生の春の事だった。
始業式が終わった日の下校時間、1人で歩いて帰っている時にそれは起こってしまった。

横断歩道を渡っている時の事。
もう少しで渡り切るところで乗用車が私をはねた。私ははね飛ばされ、歩道に倒れた。
痛い。とにかく痛い。
幸いランドセルと体操服を入れたバッグのおかげで頭を打たずに済んだが、私を守ってくれたランドセルは衝撃で壊れてしまった。
私をはねた車の運転手が近寄って来て、何か声をかけていた。そしてすぐに電話をしていた。多分救急車だと思う。
歩道を歩いていた高校生カップルも私に声をかけてくれた事を覚えている。

どれくらい時間が経っただろうか。
目が覚めると病室だった。
左足は包帯で巻かれ、身体が痛む。
ベッドの隣に母と祖母が座っていた。
「ああ良かった。目が覚めて。」
母が涙を零す。
「覚えてる?車に跳ねられたのよ。身体が痛いでしょ。」
「跳ねられた所までは覚えてる。めっちゃ身体が痛いよ。」
「身体の色んなとこ打撲してるからね。生きてて良かった。ほんとに…」
祖母が涙ながらに話す。
この時の祖母の顔が未だに忘れられない。
「お父さんは?ここに来るの?」
「来るわよ。」
「そっか。」
この時の私の感情は今となっては理解できないが、父にとても会いたいという気持ちがあった。
心配して私に対する暴力が終わるとでも思ったのだろうか。

暫くして父が病室に入ってきた。
「目が覚めたのか。」
「うん。」
父は珍しく優しい口調で話した。
流石に娘が事故に遭ってしまったからだろう。
「もうすぐ警察が来るけど、事故の事話せるか?」
「うん。話せるよ。」
父は近くにあった椅子に腰掛け、はぁ…とため息をついた。安心したのだろう。
私は事故に遭って、これをきっかけに父が暴力をやめてくれると思っていた。
父は下を向いてこっちを見てくれない。
沈黙が場を貫く。
「学校にはいつ行けるの?」
「わからない。あなたの怪我が治ったら行けるわよ。」
母は私の頭を撫でながら話す。
なんだか病室がとても居心地が良かったのを覚えている。
いつも母に甘えられない分、ここで甘えられる、そして父に優しくしてもらえる事がなんとも嬉しかったのだろう。
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