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カタストロフィ編

40話 柚夏奈さんもエンドちゃんもお怒りですよ。

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 まるで阿鼻叫喚、腰を抜かしてお漏らししている女の人たち、怯えて身を屈める騎士たち、その中心に立つ四人の女性と頭上にフワフワと浮遊する大人の全裸の女性が一人。

 その黒い髪黒い瞳に肌も灰色にところどころ暗い影を纏っている姿は間違いなくエンドちゃんで。

「今すぐにご主人様であるニワタイチを返さねば!皆殺しぞ!」

 メチャメチャ怒ってらっしゃる!あわわわわ、あんなに怒ると怖いなんて……最悪の使徒の名は伊達じゃなかったんだ。

 私は恐る恐る近づいて行くと、エンドちゃんが気付くより早く私に気付いた女の人が走って向かってくる。

「ペノー!」
「柚夏奈さん!」

「よかった、無事……みたいね、それで太一くんは?どこ?大丈夫なの?それとも怪我してるとか?」

 まるでキツツキのような速さ、柚夏奈さんよほど心配だったんだ。

「大丈夫です、主は怪我を治すために今治療に」
「け、怪我……あの太一くんが怪我?太一が怪我……エンド……ここにいる人間!全員を負傷させて!」

 柚夏奈さん!?

「任せよ!」

 エンドちゃん!?

「二人とも!落ち着いて下さい!主は無事なんです!まずは私の説明を~!」

 その後、抜かれた性剣全裸セイバー、唱えかけられたカースフィールド、と色々あったものの何とか二人を止めることができた。柚夏奈さんは主いわく“目には目を歯には歯を”の行動をとるらしいので“負傷”と言ったのだろう。

 もちろん二人を止めるために美衣香さんや心優さんも動いてくれたけど、二人の言葉で止まるほど柚夏奈さんもエンドちゃんも心穏やかでない様子だった。

 私が太一さんは今女の人が治療していると言うと、「どこ!今すぐ案内して!」と凄い権幕で柚夏奈さんが言い、エレオノーラさんに案内されて二人は王宮の様に立派な魔法学院の建物へと入っていった。

「この惨状を残したまま……」

 お漏らし者“多数”、錯乱者“複数”、失神者“若干名”、崇拝者“数名”。

「こっそりついて行けばいいでしょ」
「だね、ミイちゃんに賛成。ペノーちゃんも行こう」

「あ、はい」

 さすが柚夏奈さんに次ぐ主の奥方のお二人……この惨状よりも太一さんを優先するのは当たり前ですね。

「ま、ギュアヒーリングぐらいはかけていくけどね」

 おぉ!心優さんの回復魔法!その特性はあらゆる魔法が二段階上の効果を発揮するとか!主いわく“チート回復娘”だそうな。

 チラリと後ろを見ると、殆どの人が正気に戻ったのかお漏らしに関して恥ずかしがる女の人たちの姿だけが印象に残った。

 そうして全員が合流して主のいる治療室に入ると、事態は変化していてそれを説明してくれたのは、その部屋にいた金髪のキリっとした女の人だった。

「私はメイルランフェス・ベ・ダリアンマイステルです、ここの治療室で彼を治療していたところ、そこの壁にめり込んでいるフジミアオが斬りかかったのです」
「フシミアオね、で、どうして彼は壁画みたいなことになっているの?メイルランフェスさん」

 エレオノーラさんがそう聞くと、彼女は起こったことをゆっくりと説明しだした。

「治療の妨げになるので彼の服を脱がしたところ、彼の一物に気分が悪くなり花瓶の花を置いて一物を隠しました」

 主の一物に花が置かれている図。

「そして、治療を終えたらそこのフシミアオが侵入してきたので私は悲鳴を上げて床に伏せました。すると、フシミアオはそのまま剣を抜いて彼の喉元へ切っ先を向けたのです」

 いや!そこは守ってもらわないと困るんですけど!

「ですが!その剣が彼を傷つけるかと思われた時、彼が突然と何かを口走り始め!気が付けばフシミアオは壁画になっていて!彼がこのように神の壁とも言える神々しいものに囲われてしまったのです!」

 確かに主は今よく分からない四角い空間に囲まれている。

「これはコマンドよ」

 いつの間にかいなくなっていたライデミア・ベールさんは、柚夏奈さんよりもエンドちゃんよりも早くここへ辿り着いていた様子で。

「彼が無意識の時に発動するようになっているアビリティで、耳のピアスに付与されているわ」

 いつの間にピアスなんてと思うのは私だけではないはず。

「無意識下にある彼に攻撃しようとすると、最悪の使徒の二つの封印を解除してタイチの傍にある転移可能なものへと転移して彼を助け出させるためのものよ。そして彼を守っているのはその最悪の使徒の絶対防御よ」

 柚夏奈さんは不満そうにライデミアさんのことを見て主へと視線を移す。

「この壁はタイチじゃなくて最悪の使徒の力だから、そこの壁画男がそうなったのは当然ね。ユカナ……だっけ?あなただけがこの絶対防御の領域へ入れる、そう彼は言ってたわ」

「私だけ……うん!分かったわ!」

 そうして柚夏奈さんが壁に近づくと、ライデミアさんはその壁に触れるのを止めて一歩退いた。

 柚夏奈さんは恐る恐るその壁に触れようとしていたけど、触れる前にピタッと止まってそれまでの恐れがまるで無くなったかのように全身で壁へ突っ込んだ。

「……入れた」

 その瞬間の柚夏奈さんの安堵は私も同じ気持ちだった、けど、壁の外にいたライデミアさんのその時の表情は何か切なさや悲しさや寂しさがグシャグシャに混ぜられたようなもので。

「……ね」
 その時彼女が言った言葉は“特別なのね”だった。

 それが意味しているところは私も分からなくはない、だから、分かるから彼女の表情の意図を察してもう一度柚夏奈さんと主を見る。

 まるで二人だけがいられる小さな世界のようで、私も美衣香さんや心優さんも見ているだけ。でもそれは今はだから、いつかは二人と同じ場所へ。

「ペノーさん」
「?なんですか?エレオノーラさん」

「あの……最悪の使徒様が出している殺気について、抑えてもらうことはできないのでしょうか?」

 なんか話方がかなり丁寧になったような。

「エンドちゃん、殺気抑えてくれないかな、じゃないと私がハムハムしないといけないかもだし」
「……ハムハムは嫌だからな……仕方ない、この不躾な奴らはあとでご主人様にハムハムされればいいのだ」

 ハムハムへのトラウマが尋常じゃない……なんだか可哀想だな~、でも私は太一さんにハムハムされてみたい。

 ダメです主~ハムハムしちゃラメ~。

 一瞬想像してしまい二ヘラと笑った私に心優さんが声をかけてきた。

「太一くん大丈夫なの?」
「はい、おそらくですけど大丈夫ですよ、主は気を失っただけですから……でも傷付くところを初めて見たので私も不安になってますけど」

「そっか……そうだよね、勇者を倒した太一が怪我させられるなんて」

 太一?呼び捨て……ん~奥方であればいいでしょう!ペノ―判定ではセーフです!

「ミイちゃんまた呼び捨てにしてる、たく、本人の前以外だとすぐに呼び捨てにするんだから」
「え~でもいつかは呼び捨てにするんだから徐々に慣れていかないと」

「いやいや、ちゃんと親密度を上げて仲良くなれば自然に呼び捨てにできるのよ」
「ミユもゲーム脳やめなよ~恋愛はゲームとは違うんだよ?」

「乙女ゲームは現実と同じよ!違うのは男が浮気するってことだけ!お父さんもお兄ちゃんも同じだったし!でも太一くんはいいの、彼はハーレム系の泣き崩し系主人公だから」

「……(ミユの家――父親が不倫して離婚したら、義理の父と母親が不倫してて再婚、義理のお兄ちゃんができてミユと付き合うかもってなったけど結局そのお兄ちゃんも別に彼女がいたのよね)」

 何やら盛り上がっているようなので、私はお二人に失礼しますとだけ告げて壁へと近づいた。

「主……」
「大丈夫だ、気絶しておるだけのこと」

「エンドちゃん」
「ペノー、お主はご主人様を他の者に取られるとは思わんのか?」

「……主は物ではないので、誰かが所有することはできないから、だからそんな心配はいらないよ」
「ほぅ、意外とお主は二番手かもしれぬな」

 二番手?何の?

 そう言ったエンドちゃんは、当然のように壁の中へと入って行って柚夏奈さんと主のもとへ合流した。
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