『 使えない』と勇者のパーティを追い出された錬金術師は、本当はパーティ内最強だった

紫宛

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勇者王決定戦

第28話 第3試合

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サムアさんから話があると呼び出され、彼の執務室に入った。サムアさんの話だと、死の蜘蛛デス・スパイダーがとても危険なチームらしく、依頼はしないで観戦してて欲しいと頼まれた。

いざとなったら、戦いを止めることになっても選手を守る為、一般人の観客を守る為に行動をして欲しいと。そして紅の獅子レオーネ・ロッソの回復を迅速に行って欲しいということを頼まれた。

それ程に危険なチームなら、どうして参加を許可したのでしょうか?

「サラサード公爵の推薦だ」

と、苦虫を噛み潰したような顔で、苦々しく言葉を放った。

ボルドー・サラサード公爵。
守旧派の筆頭……の推薦

「公爵の推薦なら断れんだろうな」
「ああ、あまりいい噂を聞かないチームだ。対戦相手を殺すことは無いと信じたいが確証は持てん。お前達に託すしかない」
「もし彼らが問題を起こした場合は、どうするんだ?このまま、やらせるのか?」

フォルスは、暗に彼らが問題殺しをすると思ってるようだった。

「流石に、問題殺しをするような連中を失格にしない訳には行かないだろう」
「ですが、サラサード公爵が見に来るんですよね?」

そうなの。
明日のトーナメント戦には、サラサード公爵が観戦に来るらしいです。
自分が推薦した相手を応援するのが目的らしいけど、絶対違うと思う。

「ああ、失格にしたらしたで何か言われそうだがな。それでも、俺には冒険者を守る義務がある。そして、これにはあんた達の協力が不可欠。分かるわよね?」

男口調から、女口調に戻ったサムアさんが、真剣な目で私たちを見つめてくる。
私達は、何も言わずにお互い確認せずに頷いた。全員が同じ思いだったから。




翌日

トーナメント戦 1回戦

「第3試合、紅の獅子レオーネ・ロッソ死の蜘蛛デス・スパイダーとの試合を開始致します!両冒険者、前へ!」

「始まりますね……」

緊張した面持ちで闘技場を見ながら、誰に言うともなく呟く。

両冒険者とも3人のチームだ。

紅の獅子レオーネ・ロッソのランクはA+で、主に攻撃型のチーム。
傭兵、竜騎士、狙撃手の編成みたい。
対して、死の蜘蛛デス・スパイダーもランクはA+で、こちらも攻撃型。
大魔道士、暗殺者、狙撃手の編成。


開始の鐘が鳴る。

紅の傭兵と竜騎士が死のチームへ突撃を仕掛ける。死のチームは、どちらかと言えば近接が苦手な職業編成だから、間合いに入られたら為す術がない。

けれど、暗殺者が一瞬笑った。
フードに隠れてて、見えにくかったけど……笑ったのだ。
傭兵の動きを読んだ暗殺者が暗器を投げつける。傭兵は暗器を剣で弾き、間合いを詰めて行く。暗殺者は、それでも暗器を投げる。

無謀にも思える戦法だった。
大魔道士も、狙撃手も、手を出さない。

「なんで?」

疑問だった。
暗殺者だけが暗器で傭兵を攻撃するだけで、他の仲間は手出ししないから。

紅の獅子も、疑問に思ったのか竜騎士が頭上を旋回し待機していた。
傭兵と暗殺者の2人が互いの武器で応戦していた。

均衡を保っていた両者に、一陣の風が吹く。
大魔道士が動いていたのだ。

傭兵を風の魔法で切り刻み、空を旋回していた竜騎士に矢の雨を浴びせた死のチーム。

「え?詠唱が…なかった……?」
「………………」

フォルスさんは、黙って戦場を見渡した。
初級、中級も一部なら、詠唱なくても使えるものがある……が、上級、最上級ともなれば詠唱無しで唱えるのは厳しい筈なのに。

今使った魔法は、風の魔法でも中級クラスのウィンドブラスト……詠唱無しでは唱えられない魔法。

なのに、どうやって?

切り刻まれた傭兵は、戦意を失っておらず、立ち上がると竜騎士に向かって「戦えるか!!?」と問う。
「大丈夫だ!」と、答える竜騎士は相棒の竜と再び空に舞い戻る。
狙撃手も、長弓を構える。

紅のチームは油断してた訳じゃないと思うけど、死のチームは、何かおかしい。

何が?と言われても、ここからじゃよく分からない……たぶん、紅のチームも疑問に思ってる。

ふと、視線を感じて振り向く……!
すると、こちらをじっと見つめる視線が一つ、サラサード公爵……

「っ!なに?」
「どうしました?イレーネ殿」
「あっ、いま……」

ラハルに声をかけられ一瞬視線を外し、再びそちらを向くとサラサード公爵の視線は闘技場に戻っていた。

(気の所為?私を見てた気がするんだけど……)

その後も、死のチームが不正をすることは無かった。





否、不正をしてる所を私達は見抜けなかった。

無詠唱の魔法を幾度となく発揮し紅の獅子を追い詰めた。
無詠唱の魔法は、魔封石を使ったのだろう事は分かった。でも、証拠がない。見抜けなかったから。

トーナメント戦での魔法アイテム使用は、錬金術師やアイテム士、薬師と言った職業の人達のみ使用可能なの。
戦闘職や支援職は、それぞれに合った戦いをしないといけないの。

でも私達は……使用したのを見抜けなかった。不正の証を見つけられなければ、現行犯で問い詰めるしかないけど、使った瞬間が分からなかった。

私も、フォルスさん達も、サムアさんをも欺き、彼らは紅の獅子を打ち負かして準決勝に駒を進めた。

紅の獅子も正々堂々と戦い負けたのなら納得も出来よう、でも彼らは不正に負けた。

サラサード公爵が笑って拍手を送っている。
今ここで、証拠もないのに、死の蜘蛛デス・スパイダーを問い詰めれば、罪に問われるのは私達。

悔しいけれど、今は歯を食いしばり耐えるしか無かった。

第3試合 死の蜘蛛デス・スパイダー勝利




勇者王決定戦本線まで、あと44日。



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