2 / 8
第2話
しおりを挟む「お前の相手は、野獣伯だ!」
「ギルフォード辺境伯様ですか」
「そうだ!大男で野蛮で、殺人狂の野獣伯だ!」
「ギルフォード辺境伯様は、隣国との戦争に勝利を持ち帰って下さった英雄様です。野獣などと蔑称で呼ぶのは、腐った貴族様だけですよ」
「なっなんだと!?貴様、この私を侮辱するのか!?」
(真実を述べただけですのに……)
私は呆れた目をグザル殿下に向けた。
「まぁいい!兎に角!貴様は今すぐに荷物を纏め野獣の元に行け!」
「畏まりました。英雄様の元へ嫁ぐのなら、構いませんわ」
「なに?」
「貴方様より、100倍もマシですもの……いえ、1000倍かしら?」
100倍ではギルフォード様に失礼でしたわ。
1000倍が正しいですわね。
「ぐっ!」
「まぁ、可哀想なお姉様……グザル様、せめて明日になさってさしあげては?」
妹は、私を思いやるような言葉を吐き出すが、追い出す事は決定なのね。そして、そんな妹に心酔している殿下は、あの子の言葉の声色と表情に一切気付いていない。
「チェルシーは優しいな、こんな女にまで情けをかけてやるとは…だがな、こんなクソな女にまで優しくしてやる必要は無いんだ」
チュっとリップ音をさせてキスをする殿下。
さも当然のように受け取る妹。
目の前で繰り広げられる馬鹿みたいな舞台に、私は嫌気をさし「では、失礼します」と礼をとって、さっさと部屋を出て行った。
扉の向こうでは未だに……「あぁ、お前は可憐だな」「そんな、グザル様こそ素敵ですわ……あ、あぁ」と声が漏れ出ていた。
きっと……これから、情事に耽るのでしょう。
馬車で屋敷に戻り、荷物を纏めた。
両親は私に無関心だったから、使用人も私に関わるものは居なかった。そのため、1人で荷物をまとめる。
屋敷を出ても、誰も見送りになど出ては来ない。家の馬車もなく、1人で街に出た。
本来なら、ギルフォード様の元に嫁ぐのだから、馬車くらい用意してくれてもいいでしょうに、両親は呆れるほどに私に無関心だった。
街に出て、乗合馬車で辺境伯領に向かう。
その頃、辺境伯領では……
「お、おい!この手紙に書いてある事は本当の事なのか!!?俺に嫁ぐ娘が居るなんて……!」
アッシュフォード王国の北方領土を任せられているギルフォードが、手紙を握り締め声を荒らげていた。
「事実でございます。元々は王太子の婚約者だったそうですが、素行が悪く破棄されたそうです」
手紙は王太子から出されたもので、婚約を破棄しその妹と婚約した為、破棄された憐れな女をギルフォードに下賜する、と。
そういった内容が手紙には書かれていた。
「……は?」
「ですが、私が調べました所、ルヴィア様は何も問題は無いように思います。寧ろ王太子の方に問題があるように思いますが……」
俺は、頭が真っ白になった。
破棄だと?もう一度、手紙の内容を読み上げれば、そこに書かれた内容に怒りを覚えた。
「……破棄?だと?」
「どうなさいましたか?旦那様」
「破棄をするという意味を理解しているのか?あの馬鹿王太子は!娘に傷をつける行為だぞ!嫁の貰い手にも影響が……!」
「ですから、旦那様に話が来たんでしょう。王都共は、旦那様を野獣伯と馬鹿にしてますからね」
(クソ!ただでさえ18の若い娘が、29のおっさんの元、加えて野獣と言われる俺に嫁がされるなんて……可哀想だ…!)
自分で言ってて悲しくなるが、事実だから仕方がないな。
「アルフレート、彼女の事は丁重に扱ってくれ。お前が調べた通り、噂の真意はガセだろうが、もう一度屋敷での彼女の様子を見てくれ。もし無理そうなら、王都に返す」
「承知致しました」
アルフレートは、一礼し部屋を出て行った。
若い娘に、この地は過酷過ぎる。
娯楽は殆ど一切なく、唯一の娯楽と言えば酒場のみ。若い娘が行く所ではない。
そういった理由があるから、俺に嫁ぐ女は居なかった。
ルヴィアと言う娘も、長くは続くまい。
無理やり結婚した所で愛などとは無縁だろうな……だが、この地にいる間は、丁重に扱おう。こんな俺を愛してくれたら嬉しいが、叶わぬ望みを何時までも抱いていても仕方ない。
そのやり取りの数日後に、ルヴィアは屋敷に辿り着くが、その姿はボロボロだった。
45
あなたにおすすめの小説
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました
ラム猫
恋愛
セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。
ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
※全部で四話になります。
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました
ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。
けれどその幸せは唐突に終わる。
両親が死んでから何もかもが変わってしまった。
叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。
今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。
どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥??
もう嫌ーー
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる