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第5話
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ダイニングに入ると、ギルフォード様は既に席に着いていて、食事が準備されていた。
だいぶ待たせてしまったのかも……!!
急いで席に着こうとしたが、ギルフォード様がハッと立ち上がり、私の元まで来ると手を取った。そのまま私の手を、自身の腕に添わせると、席までエスコートしてくれた。
ギルフォード様の斜め右前の席に着くと、食事が運ばれてきた。私は冷めた料理しか食べた事がなく、温かい料理がこんなに美味しいなんて知らなかった。
パンだって、こんなに柔らかいのは初めて……ふわふわだわ。
私があまりにも美味しそうに食べるからか、ギルフォード様は最初、不思議そうな顔をされたが、直ぐに表情を和らげ笑ってくれた。
「ルヴィア嬢、怪我は大丈夫だろうか?」
「は、はい…もうだいぶ良くなりました。使用人の皆さんのお陰です」
「そうか、良かった」
「ギルフォード様、此度の件、大変申し訳ありません」
私はギルフォード様に向けて頭を下げた。
「……」
ギルフォード様は無言だった。
「私のような不気味な女を娶ることになり、ギルフォード様にはなんとお詫びしたら良いか……」
「……ル」
「え?」
「ギル……と、呼んで欲しい」
無言だったギルフォード様は、急に自分の事を、ギルと愛称で呼んで欲しいと私に言った。
「……えっと……」
「駄目か……?」
顔を赤くし、落ち込んだ様子でギルフォード様は、私を覗き込んできた。
その様子が、なんて言うか……可愛かった。
ギルフォード様の方が年上で体格も大きいのに、まるで大きな狼が、尻尾を振っているかのような、そんな風に感じ取れてしまった。
なんだか、可哀想に思えてしまって……
でも、私なんかに呼ばれて、本当に嬉しいのだろうか?
不安が頭を擡げたが、ギルフォード様が望むなら応えたいと思った。
「あの……ギル様」
恥ずかしくて、最後の方は少し尻すぼみしてしまった。だが、ギルフォード様には聞こえていたようで、満面の笑顔で応えてくれた。
「ありがとう、ルヴィ」
と、私の事も愛称で呼んでくれた。
いつの間にか、私の謝罪は有耶無耶になり、その後の話題に上がらなかった。
「ルヴィ、今日は帰りが遅くなる。結婚の話は明日で構わないか?」
「は、はい!大丈夫です!……っ、でも、あの!今更ですが、本当に私なんかと結婚して良いのですか?ギルフォード様なら……「ギル」……え?」
「ギルと呼んで欲しいと言ったはずだ」
射抜くような瞳で、私を見つめるギルフォード様。まるで、私が愛称で呼ぶまで逃がさないと言わんばかり……
「っ……ギル様…」
「ん、よし」
「………」
「それで、なんだ?」
「…ギル様ならば、私なんかよりももっと、もっと他に相応しい方が居るかと思います」
「……ふむ、ルヴィが言う相応しいとは、どういう者を指す?」
「え?」
「都で着飾るしか脳のない女か?陰口を囀るしか脳のない女か?自身の体を武器に、男に擦り寄るしか脳のない女か?俺は、どれもごめんだな」
ギルフォード様が語る女性像は、どれも具体的で……嫌な思いでもしたのだろうか…。
確かに王都にいる女性は、ギルフォード様を悪し様に言う方が多い……けれど、それはほんのひと握りだと私は思ってる。
ギルフォード様の本質に気付けば、きっと、絶対、私なんかより良い女性は沢山いる。
「……」
「ルヴィが、どういった女性なのかは、まだ分からない……知り合ってほんの数時間だが、俺は……お前を気に入ってる」
(むしろ、一目惚れと言ってもいい)
最後は小声すぎて、私には聞こえなかった。
「……?」
「ゴホン、兎に角、俺はお前と結婚する事に異を唱えることは無い。ルヴィさえ良ければ、このまま話を進めても良いと思ってる」
「わ……たしは、ギル様と結婚する事は、その、嬉しい事……です」
「…っ、そ、そうか!ならば明日、早めに帰ってくるから、その時にちゃんと話そう」
「はい」
翌日、私はギルフォード様と正式に婚約し、数ヶ月後に結婚式を上げることになった。
両陛下に話は通り、私は国王夫妻から謝罪と祝福を頂いた。
だいぶ待たせてしまったのかも……!!
急いで席に着こうとしたが、ギルフォード様がハッと立ち上がり、私の元まで来ると手を取った。そのまま私の手を、自身の腕に添わせると、席までエスコートしてくれた。
ギルフォード様の斜め右前の席に着くと、食事が運ばれてきた。私は冷めた料理しか食べた事がなく、温かい料理がこんなに美味しいなんて知らなかった。
パンだって、こんなに柔らかいのは初めて……ふわふわだわ。
私があまりにも美味しそうに食べるからか、ギルフォード様は最初、不思議そうな顔をされたが、直ぐに表情を和らげ笑ってくれた。
「ルヴィア嬢、怪我は大丈夫だろうか?」
「は、はい…もうだいぶ良くなりました。使用人の皆さんのお陰です」
「そうか、良かった」
「ギルフォード様、此度の件、大変申し訳ありません」
私はギルフォード様に向けて頭を下げた。
「……」
ギルフォード様は無言だった。
「私のような不気味な女を娶ることになり、ギルフォード様にはなんとお詫びしたら良いか……」
「……ル」
「え?」
「ギル……と、呼んで欲しい」
無言だったギルフォード様は、急に自分の事を、ギルと愛称で呼んで欲しいと私に言った。
「……えっと……」
「駄目か……?」
顔を赤くし、落ち込んだ様子でギルフォード様は、私を覗き込んできた。
その様子が、なんて言うか……可愛かった。
ギルフォード様の方が年上で体格も大きいのに、まるで大きな狼が、尻尾を振っているかのような、そんな風に感じ取れてしまった。
なんだか、可哀想に思えてしまって……
でも、私なんかに呼ばれて、本当に嬉しいのだろうか?
不安が頭を擡げたが、ギルフォード様が望むなら応えたいと思った。
「あの……ギル様」
恥ずかしくて、最後の方は少し尻すぼみしてしまった。だが、ギルフォード様には聞こえていたようで、満面の笑顔で応えてくれた。
「ありがとう、ルヴィ」
と、私の事も愛称で呼んでくれた。
いつの間にか、私の謝罪は有耶無耶になり、その後の話題に上がらなかった。
「ルヴィ、今日は帰りが遅くなる。結婚の話は明日で構わないか?」
「は、はい!大丈夫です!……っ、でも、あの!今更ですが、本当に私なんかと結婚して良いのですか?ギルフォード様なら……「ギル」……え?」
「ギルと呼んで欲しいと言ったはずだ」
射抜くような瞳で、私を見つめるギルフォード様。まるで、私が愛称で呼ぶまで逃がさないと言わんばかり……
「っ……ギル様…」
「ん、よし」
「………」
「それで、なんだ?」
「…ギル様ならば、私なんかよりももっと、もっと他に相応しい方が居るかと思います」
「……ふむ、ルヴィが言う相応しいとは、どういう者を指す?」
「え?」
「都で着飾るしか脳のない女か?陰口を囀るしか脳のない女か?自身の体を武器に、男に擦り寄るしか脳のない女か?俺は、どれもごめんだな」
ギルフォード様が語る女性像は、どれも具体的で……嫌な思いでもしたのだろうか…。
確かに王都にいる女性は、ギルフォード様を悪し様に言う方が多い……けれど、それはほんのひと握りだと私は思ってる。
ギルフォード様の本質に気付けば、きっと、絶対、私なんかより良い女性は沢山いる。
「……」
「ルヴィが、どういった女性なのかは、まだ分からない……知り合ってほんの数時間だが、俺は……お前を気に入ってる」
(むしろ、一目惚れと言ってもいい)
最後は小声すぎて、私には聞こえなかった。
「……?」
「ゴホン、兎に角、俺はお前と結婚する事に異を唱えることは無い。ルヴィさえ良ければ、このまま話を進めても良いと思ってる」
「わ……たしは、ギル様と結婚する事は、その、嬉しい事……です」
「…っ、そ、そうか!ならば明日、早めに帰ってくるから、その時にちゃんと話そう」
「はい」
翌日、私はギルフォード様と正式に婚約し、数ヶ月後に結婚式を上げることになった。
両陛下に話は通り、私は国王夫妻から謝罪と祝福を頂いた。
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