まさか、婚約者の心の声が聞こえるなんて……~婚約破棄はしない、絶対に~

紫宛

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6話

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(俺も愛してる、リディ。リディの本心を知る度に、この気持ちは強くなる)

最近の俺は、どこかおかしい。

リディを思うと胸が苦しくなり、リディが俺以外の男と話してると、イライラして邪魔したくなる。
この気持ちの正体を、俺は知らなかった。

俺達は……政略結婚だし、愛し愛される関係を築くのは難しいと思っていた。
婚約したのは幼い頃だし、お互いに忙しくしていたから会う回数も少なかったし、相思相愛というものとは無縁だと思っていた。

だが、違った。
俺は、歩み寄る努力をしていなかっただけだ。忙しさにかまけ、リディを避けていただけ。

だから、彼女の変化に気付けなかった。
俺がもう少し歩み寄っていれば、彼女の心を支えてあげられたのに……

だから逃げるのをやめ、自分の気持ちと向き合ってみたのだ。

会えば、嬉しくて胸が震え、離れてもリディを思えば胸が震えた。
会っても会わなくても、胸が苦しかった。
ならば、自身の気持ちと向き合うため、リディに会いに行ったとき、彼女の笑顔をみて胸に衝撃が走った感覚がした。

ああ、恋なのだと。
これが、愛しいという気持ちなのだと。
誰にも、渡したくない!と強く思ったのだ。

「ヴェル…様?」

まだ俺の名を呼びなれないリディが、とても愛おしい。

「リディ、今度2人で出かけないか?」
わたくし……と?」
「ああ、リディと2人で、街へ出かけないか?」

《ヴェル様と、2人でお出かけ?!これは、夢?!やだ、嬉しい!どうしましょう!?何を着ていけば…帰ったら、早速来ていく服を決めなくてはいけませんわね!》

嬉しそうな声を聞きながら、行く日時を決めてラウンジを後にした。
数日後、俺はリディと街に出かけた。

だが、まさか今回の事が原因であんな事になるなんて……俺は、夢にも思わなかった。
メディアーナが、あそこまでするなんて……



    ※※※メディアーナ視点※※※


今日は、大事なイベントの日!
ヴェル様を、裏庭に呼び出すための手紙は渡したし、準備は万端ね!
あとは、あの女が邪魔しなければ問題なしだわっ!

(うふふ、これでヴェル様の唇は私の物ね!)

この世界は、私の好きだった乙女ゲー【乙女は永遠の愛を聖堂で誓う】に似た世界だった。
私はこの世界とは違う世界の住人で、私の世界の神様が、私を死なせてしまったお詫びにと、好きな世界に転生させてくれると言うから、私はダメ元で言ってみたの!

そしたら、似た世界があるからって、この世界の神様に話を通してくれて、ヒロインに転生させてくれたのよ!
その上、神様が加護もくれたの!

ただ、魂の定着に時間がかかって記憶が戻ったのが1年前だったけど!そこがちょっと不満ね。
じゃなかったら、もっと早くにヴェル様達と知り合えたのに~悔しいわ!

でも、まっいいけどね。
物語自体には間に合ったし!

そ~れ~で~、今回のイベントはなんと!
事故チューよ!

(くふふ、ふふ、ふふふふふ)

やだ、もう、ニヤニヤしちゃうっ


そこに、アース様が来たの!
まさか、私に会いに来てくれたの?!
超嬉しいんですけど!

「メディアーナ嬢」
「はい!何ですか?アー「ヴェルグ殿下から伝言があります」」
「……え?」
「放課後、お会いする気は一切無いとの事です。それから、こちらもお返しします。では、失礼しました」

一礼して出ていこうとするアース様を呼び止める。

「ま、待って下さい!アース様!」

ギロリと睨まれて、

「俺を愛称で呼ぶのは、やめて下さい。サーシャにしか許可してませんので」

と言われ、部屋を出て行った。

「何で?!どうしてよ!」

良いわ、放課後までにヴェル様を捕まえて、裏庭に行けばいいんですもの!
あのイベントだけは起こしたいの!
あのイベントのスチルが、すごく良かったんだから!

なのに、ヴェル様とお話する機会が無いまま、放課後を迎えてしまった。
それなのに、裏庭にも来ないし、どこにいるのかと思えば……ラウンジでリディアーナ悪役令嬢とお茶してるですって!?

(どういう事よ!なんで悪役令嬢なんかと!もしかして……あの女も転生者とか?!)

有り得る話だった。
だって私も、転生者だもの。


でも、あの女は惚けるし、ヴェル様もアース様達も何故か私を責めるし!
どうして!?


あの時は引いたけど、絶対に許さないから!
ヒロインは、私なのよ?!
私こそが主人公!

なのに、なんでリディアーナ悪役令嬢がチヤホヤされてんのよ!



屋敷の庭で地団駄を踏みながら、これからの事を考える。

あの女が邪魔だわ……邪魔、邪魔、邪魔……
邪魔な女なら消してしまえば良いじゃない。
そうよ、ならず者に汚して貰えばヴェル様との婚約も破棄できるんじゃ……!

そうよ、これだわ!


(ふふ、覚えておきなさいリディアーナ悪役令嬢)

「なぁ~」
『おいたが過ぎるよ、相原あいはら 鈴音すずね

(な!?)

急に日本名で呼ばれびっくりした。その名前を知っているのは神様だけ……

「誰よ!」

振り返るが誰もいない。
人は誰も居ないが、銀色の毛並みをした猫がそこにはいた。
右目が金で、左目はアイスブルーの小さな猫が……。

「なんだ、猫じゃない!どこから迷い混んだのよ?!あっち行きなさい!しっしっ」

追い払おうと、手を振るが猫はこらえた様子はなく、その場から離れなかった。

「にゃうぁ~~」
『あんまりおいたが過ぎると、さすがに僕も黙ってはいないよ』

猫の鳴き声と一緒に厳かで淡々とした声が頭の中に響く。この声……、さっきの声もこの猫が?

「にゃ」
自重じちょうしろ』
「にゃぁ~ん、にゃにゃぁ~」
『これは、私からの最初で最後の忠告だ』

うるさい!うるさい、うるさい、うるさい!
私は神様に愛されてるの!加護だってあるんだから!

「にゃあ」
『天罰が下っても?』
「消えてよっ!」

近くにあった石を、猫に投げつけた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

猫は居なくなっていた。
何が天罰よ、何が忠告よ!
私は、何も悪い事はしてないわ!

私はヒロイン!
誰からも愛される存在!
私が王妃よ!
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