猫の王子と鼠の姫君

五条葵

文字の大きさ
6 / 8

王太子との顔合わせ

しおりを挟む
 簡単な晩餐だから軽装で良い、と言われつつもそうは行かない、と先程までは行かなくとも晩餐会用のイブニングドレスに着替えようとしたリリーだったが、リリー付きになってくれると紹介された侍女達に「殿下も仕事を抜けて来たような格好だから殿下が浮いてしまいます」と止められ、クローゼットにこれでもか、と用意されたドレスの中から、淡い桃色のドレスを選んでもらった。

 可愛らしいが、締め付けも露出も少なく、どちらかというとお昼間に部屋でくつろぐときのような服に「本当にこれで良いのかしら?」と心配になったリリーだったが晩餐の部屋に案内されてその疑問は直ぐに解決した。

 部屋はもともと数人で集まるときに使うであろうこじんまりしたところで、装飾も控えめだし、料理も旅の疲れを考慮してか、ごく軽く食べやすいものが並べられている。そして侍女たちに案内されてやってきたリリーの手をごく自然にとり、中央のテーブルへエスコートする王太子は、明らかに私室での仕事中だと分かる、ベストは身につけているもののクラヴァットも外した楽な姿だ。

「こんな感じでごめんね。もう少しカチッとしても良いかな?と思ったのだけれど旅の疲れもあるだろうし、とりあえずは顔合わせも兼ねてこんな楽な感じが良いかな?と思って。」

「いえ、お気遣い嬉しいですわ。本音を言うと少し緊張してしまって疲れていたので、こんな風にしていただけてありがたいですわ」

 そう言って和やかに始まった晩餐はそのまま終始和やかに過ぎる。殿下は見た目通り穏やかな人のようで、ベルンでの生活や公国について聞かれたが、おそらく外遊で知っているであろうことも含めて興味深げに聞いてくれた。これまで人と打ち解けて食事を取る、という経験をしたことがない(城の厨房の皆とおやつを食べたりはしたが)リリーは既にこの国にきて良かったと思えていた。

 王太子に行ったとおり、出発までの余裕があるとは言えない準備期間と強行日程での移動にいささか疲れていたリリーにとっては、この軽い晩餐会はありがたかったが、それにしても気になることがあった。
 今日のこれは自分のためとしても、それにしたって給仕人たちの様子が妙に慣れている。いわばこういった食事風景がしょっちゅうあるような空気を感じるのだ。実際トレシアの王太子は相当切れ者でその分かなり忙しくしているという噂はベルンでも聞いていたので余計である。

 そう思ったリリーは思わずそれを口に出してしまっていた。

「ところで殿下?差し出がましいことで恐縮ですが、普段からきちんと食事なさってますか?なんと言いますか・・・・・・こういった軽い食事に使用人の皆様が慣れているような気がいたしまして」

 そんなリリーに図星を突かれたロビンだったが、努めて冷静に、

「まぁ、どうしても執務が立て込む時はあるからね。こういった感じになることもたまに」

「えぇ、姫様からも是非言ってください。会食の予定がある時はともかく、普段だと、執務室で片手間に取るときもあるのですから。」

 弁解しようとするロビンに横やりを入れるのはこれまで後ろで給仕のとき以外は空気となっていたアンドリューだ。昔なじみの護衛に悪行をバラされた気分のロビンは罰の悪そうな顔をするが、そんな二人にリリーは自分とクレアの関係を重ねてくくっと笑ってしまった。

 軽いとはいえ、シェフの腕が分かる美味しい料理をいただき、デザートとお茶が給仕されると、二人の打ち解けた姿を見て、気を使ってくれたのか使用人達達は扉は開けたままに姿を消す。

 そこで、ここまでのロビンを見て、とりあえず信頼できる人だな、と思っていたリリーはいずれ伝えようと思っていたことを伝えるタイミングを早めることにする。

「殿下、これから少しお行儀の悪いことをしますが怒らないでくださいね」

 そう一言断ると、手をカートに戻されていたティーポットの方へかざす。すると淡い色の光がポットを包みそのままふわっとりんご5個分程浮き上がるとリリーの前までふわふわと動いてそしてそっと着地した。

「これが我々が使える魔法、ですわ。殿下には早めにお見せしたほうが良いかと思いまして。」

 一人でに浮かぶポットを見ていたロビンはそんなリリーの言葉に

「いや、素晴らしい。これが魔法なんだね」

 と、痛く感激した様子だ。ただ、リリーの魔力はベルンでは本当に少ない部類。こうして感激されるとくすぐったい気持ちになる。それに魔法を使って褒められたことのないリリーは少し顔を赤くしつつ

「そう感激されると申し訳なくなります。私が使える魔法は本当に微々たるものですし。それに殿下はベルンにも何度かいらっしゃっていますから魔法も見たことがあるのでは?」

 そんなリリーにロビンは

「確かに魔法を見たことはあるといえばあるんだけど、私はトレシア王太子としてそちらへ行くからね。見るのは儀式で使うものと、後は歓迎の場で使われる「見せるため」の魔法になってしまうからね。もちろん遠くから見ることになるし。こんな間近で魔法を見たのは初めてだよ」

 と言う。なるほど確かにベルンにとって魔力は他国への牽制力であるとともに国の要でもある。当然殿下が来ても間近で魔法を使う瞬間を見るのは難しいだろう。

 いつかは見せないと、と思った魔法をあっさりと見せることが出来たリリーは更にリラックスし、二人の顔合わせはおよそ成功に終わったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

処理中です...