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王太子との顔合わせ
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簡単な晩餐だから軽装で良い、と言われつつもそうは行かない、と先程までは行かなくとも晩餐会用のイブニングドレスに着替えようとしたリリーだったが、リリー付きになってくれると紹介された侍女達に「殿下も仕事を抜けて来たような格好だから殿下が浮いてしまいます」と止められ、クローゼットにこれでもか、と用意されたドレスの中から、淡い桃色のドレスを選んでもらった。
可愛らしいが、締め付けも露出も少なく、どちらかというとお昼間に部屋でくつろぐときのような服に「本当にこれで良いのかしら?」と心配になったリリーだったが晩餐の部屋に案内されてその疑問は直ぐに解決した。
部屋はもともと数人で集まるときに使うであろうこじんまりしたところで、装飾も控えめだし、料理も旅の疲れを考慮してか、ごく軽く食べやすいものが並べられている。そして侍女たちに案内されてやってきたリリーの手をごく自然にとり、中央のテーブルへエスコートする王太子は、明らかに私室での仕事中だと分かる、ベストは身につけているもののクラヴァットも外した楽な姿だ。
「こんな感じでごめんね。もう少しカチッとしても良いかな?と思ったのだけれど旅の疲れもあるだろうし、とりあえずは顔合わせも兼ねてこんな楽な感じが良いかな?と思って。」
「いえ、お気遣い嬉しいですわ。本音を言うと少し緊張してしまって疲れていたので、こんな風にしていただけてありがたいですわ」
そう言って和やかに始まった晩餐はそのまま終始和やかに過ぎる。殿下は見た目通り穏やかな人のようで、ベルンでの生活や公国について聞かれたが、おそらく外遊で知っているであろうことも含めて興味深げに聞いてくれた。これまで人と打ち解けて食事を取る、という経験をしたことがない(城の厨房の皆とおやつを食べたりはしたが)リリーは既にこの国にきて良かったと思えていた。
王太子に行ったとおり、出発までの余裕があるとは言えない準備期間と強行日程での移動にいささか疲れていたリリーにとっては、この軽い晩餐会はありがたかったが、それにしても気になることがあった。
今日のこれは自分のためとしても、それにしたって給仕人たちの様子が妙に慣れている。いわばこういった食事風景がしょっちゅうあるような空気を感じるのだ。実際トレシアの王太子は相当切れ者でその分かなり忙しくしているという噂はベルンでも聞いていたので余計である。
そう思ったリリーは思わずそれを口に出してしまっていた。
「ところで殿下?差し出がましいことで恐縮ですが、普段からきちんと食事なさってますか?なんと言いますか・・・・・・こういった軽い食事に使用人の皆様が慣れているような気がいたしまして」
そんなリリーに図星を突かれたロビンだったが、努めて冷静に、
「まぁ、どうしても執務が立て込む時はあるからね。こういった感じになることもたまに」
「えぇ、姫様からも是非言ってください。会食の予定がある時はともかく、普段だと、執務室で片手間に取るときもあるのですから。」
弁解しようとするロビンに横やりを入れるのはこれまで後ろで給仕のとき以外は空気となっていたアンドリューだ。昔なじみの護衛に悪行をバラされた気分のロビンは罰の悪そうな顔をするが、そんな二人にリリーは自分とクレアの関係を重ねてくくっと笑ってしまった。
軽いとはいえ、シェフの腕が分かる美味しい料理をいただき、デザートとお茶が給仕されると、二人の打ち解けた姿を見て、気を使ってくれたのか使用人達達は扉は開けたままに姿を消す。
そこで、ここまでのロビンを見て、とりあえず信頼できる人だな、と思っていたリリーはいずれ伝えようと思っていたことを伝えるタイミングを早めることにする。
「殿下、これから少しお行儀の悪いことをしますが怒らないでくださいね」
そう一言断ると、手をカートに戻されていたティーポットの方へかざす。すると淡い色の光がポットを包みそのままふわっとりんご5個分程浮き上がるとリリーの前までふわふわと動いてそしてそっと着地した。
「これが我々が使える魔法、ですわ。殿下には早めにお見せしたほうが良いかと思いまして。」
一人でに浮かぶポットを見ていたロビンはそんなリリーの言葉に
「いや、素晴らしい。これが魔法なんだね」
と、痛く感激した様子だ。ただ、リリーの魔力はベルンでは本当に少ない部類。こうして感激されるとくすぐったい気持ちになる。それに魔法を使って褒められたことのないリリーは少し顔を赤くしつつ
「そう感激されると申し訳なくなります。私が使える魔法は本当に微々たるものですし。それに殿下はベルンにも何度かいらっしゃっていますから魔法も見たことがあるのでは?」
そんなリリーにロビンは
「確かに魔法を見たことはあるといえばあるんだけど、私はトレシア王太子としてそちらへ行くからね。見るのは儀式で使うものと、後は歓迎の場で使われる「見せるため」の魔法になってしまうからね。もちろん遠くから見ることになるし。こんな間近で魔法を見たのは初めてだよ」
と言う。なるほど確かにベルンにとって魔力は他国への牽制力であるとともに国の要でもある。当然殿下が来ても間近で魔法を使う瞬間を見るのは難しいだろう。
いつかは見せないと、と思った魔法をあっさりと見せることが出来たリリーは更にリラックスし、二人の顔合わせはおよそ成功に終わったのだった。
可愛らしいが、締め付けも露出も少なく、どちらかというとお昼間に部屋でくつろぐときのような服に「本当にこれで良いのかしら?」と心配になったリリーだったが晩餐の部屋に案内されてその疑問は直ぐに解決した。
部屋はもともと数人で集まるときに使うであろうこじんまりしたところで、装飾も控えめだし、料理も旅の疲れを考慮してか、ごく軽く食べやすいものが並べられている。そして侍女たちに案内されてやってきたリリーの手をごく自然にとり、中央のテーブルへエスコートする王太子は、明らかに私室での仕事中だと分かる、ベストは身につけているもののクラヴァットも外した楽な姿だ。
「こんな感じでごめんね。もう少しカチッとしても良いかな?と思ったのだけれど旅の疲れもあるだろうし、とりあえずは顔合わせも兼ねてこんな楽な感じが良いかな?と思って。」
「いえ、お気遣い嬉しいですわ。本音を言うと少し緊張してしまって疲れていたので、こんな風にしていただけてありがたいですわ」
そう言って和やかに始まった晩餐はそのまま終始和やかに過ぎる。殿下は見た目通り穏やかな人のようで、ベルンでの生活や公国について聞かれたが、おそらく外遊で知っているであろうことも含めて興味深げに聞いてくれた。これまで人と打ち解けて食事を取る、という経験をしたことがない(城の厨房の皆とおやつを食べたりはしたが)リリーは既にこの国にきて良かったと思えていた。
王太子に行ったとおり、出発までの余裕があるとは言えない準備期間と強行日程での移動にいささか疲れていたリリーにとっては、この軽い晩餐会はありがたかったが、それにしても気になることがあった。
今日のこれは自分のためとしても、それにしたって給仕人たちの様子が妙に慣れている。いわばこういった食事風景がしょっちゅうあるような空気を感じるのだ。実際トレシアの王太子は相当切れ者でその分かなり忙しくしているという噂はベルンでも聞いていたので余計である。
そう思ったリリーは思わずそれを口に出してしまっていた。
「ところで殿下?差し出がましいことで恐縮ですが、普段からきちんと食事なさってますか?なんと言いますか・・・・・・こういった軽い食事に使用人の皆様が慣れているような気がいたしまして」
そんなリリーに図星を突かれたロビンだったが、努めて冷静に、
「まぁ、どうしても執務が立て込む時はあるからね。こういった感じになることもたまに」
「えぇ、姫様からも是非言ってください。会食の予定がある時はともかく、普段だと、執務室で片手間に取るときもあるのですから。」
弁解しようとするロビンに横やりを入れるのはこれまで後ろで給仕のとき以外は空気となっていたアンドリューだ。昔なじみの護衛に悪行をバラされた気分のロビンは罰の悪そうな顔をするが、そんな二人にリリーは自分とクレアの関係を重ねてくくっと笑ってしまった。
軽いとはいえ、シェフの腕が分かる美味しい料理をいただき、デザートとお茶が給仕されると、二人の打ち解けた姿を見て、気を使ってくれたのか使用人達達は扉は開けたままに姿を消す。
そこで、ここまでのロビンを見て、とりあえず信頼できる人だな、と思っていたリリーはいずれ伝えようと思っていたことを伝えるタイミングを早めることにする。
「殿下、これから少しお行儀の悪いことをしますが怒らないでくださいね」
そう一言断ると、手をカートに戻されていたティーポットの方へかざす。すると淡い色の光がポットを包みそのままふわっとりんご5個分程浮き上がるとリリーの前までふわふわと動いてそしてそっと着地した。
「これが我々が使える魔法、ですわ。殿下には早めにお見せしたほうが良いかと思いまして。」
一人でに浮かぶポットを見ていたロビンはそんなリリーの言葉に
「いや、素晴らしい。これが魔法なんだね」
と、痛く感激した様子だ。ただ、リリーの魔力はベルンでは本当に少ない部類。こうして感激されるとくすぐったい気持ちになる。それに魔法を使って褒められたことのないリリーは少し顔を赤くしつつ
「そう感激されると申し訳なくなります。私が使える魔法は本当に微々たるものですし。それに殿下はベルンにも何度かいらっしゃっていますから魔法も見たことがあるのでは?」
そんなリリーにロビンは
「確かに魔法を見たことはあるといえばあるんだけど、私はトレシア王太子としてそちらへ行くからね。見るのは儀式で使うものと、後は歓迎の場で使われる「見せるため」の魔法になってしまうからね。もちろん遠くから見ることになるし。こんな間近で魔法を見たのは初めてだよ」
と言う。なるほど確かにベルンにとって魔力は他国への牽制力であるとともに国の要でもある。当然殿下が来ても間近で魔法を使う瞬間を見るのは難しいだろう。
いつかは見せないと、と思った魔法をあっさりと見せることが出来たリリーは更にリラックスし、二人の顔合わせはおよそ成功に終わったのだった。
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