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歓迎舞踏会
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ロビンの指示で用意されたらしい、女性らしくも落ち着いた私室をとても気に入ったリリーは、その晩ぐっすりと熟睡し、そして昼前から今晩の歓迎舞踏会に向けての準備を始めたのだった。
来てそうそうに社交をすることになって、とリリー付きとなった侍女達は心配してくれたが、「姫は疲れているだろうから可能な限り休ませて上げるように」と殿下がわざわざ侍女長に指示してくれたおかげで、彼女達は起きなければならないギリギリまで起こさずにいてくれたし、ベルンではクレアだけで準備をしており、当然どれだけ彼女が頑張ってくれたとしても時間がかかっていたことを考えると、大勢の侍女達によって準備をしてくれるここでの準備のほうが余程負担が少ない。
そう笑顔で言うと、皆にとても悲しそうな目をされたのいむしろ焦ったリリーだった。
大勢の侍女を動員しても夜会の準備は時間がかかるものだ。なんだかんだで半日かけて気付けまで済まし、複雑に編み込まれた髪や一点の狂いもないよう着付けてもらったドレスをうっかり崩さないよう気をつけながら会場に入るまでの時間を待っていた。
「昨日は殿下といろいろとお話することができてよかったですわね姫様?お控えしている限りでは和やかそうで安心いたしましたが、実際いかがでしたか?」
この国に来たばかりのリリーを気遣ってか、先程まで大勢いた侍女たちは下がり、クレアとの二人にしてくれている。その心遣いに感謝して気のおけない彼女と昨日からの2日間をリリーは振り返っていた。
「クレアが想像する通りのお優しい方だったわよ。気遣いにあふれているし、一緒にいて落ち着く空気の持ち主ね。私のありふれたお話もつまらなさそうにすることなく聞いてくださるし、私なんかでは申し訳ないくらい良い方だわ。それに」
昨日の素敵な晩餐を思い出していたリリーは二人になった後のことを思い出す。それを聞いたクレアは心底驚いた表情になる。
「いずれは、とはお話されてましたが、早速魔法を披露されるとは思いませんでした。ですが、喜んでくださったなら良かったですわ。こちらは魔法を使うことは殆ど無いようですから姫様にとっても過ごしやすいと思いますし」
仮に魔法を使ってもその魔力の少なさから失笑を買うしかなく、余程必要に迫られない限り人前で魔法を使わなかった彼女が王太子には心をひらいていることを感じ、クレアは安心していた。
一方リリーもクレアの言う通り、魔法一辺倒の国から、ほとんど魔法を使わない国へ来たことでどうなるか、と思っていたが、予想以上に魔法がない、ということに居心地の良さを感じていた。あと問題があるとすれば、
「あとは、どうやってお散歩の魔法を使うかなのよね。流石にやってきたばかりの姫が突然消えたりしたら大事件だし、クレアの魔法もこの国の人達は魔法の気配で人を認識したりしないから通用しないのよね。クレアからすると少し変な感じかしら。」
「そうでございますね。ですが直ぐに慣れるでしょうし、いちいち魔法の気配を気にせずに行動するのも良いものですわ。それよりも姫様、理解はしてらっしゃるようですが、お転婆は控えめに。問題を起こさないようにしてくださいね。」
そう忠告するクレアにお小言モードを感じたリリーだったが、
「リリー様、そろそろ会場へ向かいましょう」
と、先程まで席を外してくれていたトレシアの侍女の一人が来たことで話しは一旦中断となったのだった。
今回リリーは主賓、かつ王太子の婚約者ということで会場に入るのは国王夫妻を除いて一番最後。広間の豪華な扉の前にたった段階で既に向こうからは音楽と人々のざわめきが聞こえる。
隣で腕を差し出すロビンの腕をとり、ゆっくりと会場へと入るとそのざわめきはピタッと一瞬静まり、そしてまたより大きなものへと変わる。
彼らにとっては近いうちに彼らが仕える相手となり、そしておそらくいずれはこの国の王妃となる人物だ。彼女はどんな人物なのか、そしてなによりもその位置にふさわしいのか、品定めをする視線をあちこちから強烈に感じた。
予想はしていたものの彼らの強い視線にリリーは内心おののく。いくら人々の注目に慣れており、さらに故郷では悪目立ちしていたことで、多くの視線にさらされていたとはいえ、ベルン公国とトレシア王国では貴族の数そのものが違う。
だからといってその心の揺らぎを知られてしまってはそれこそ失格の烙印を押されてしまう。自信に溢れた、しかし気品ある笑みを貼り付け、一挙一足に気を配って足を進める。
そんなリリーの緊張に気づいてかどうか、ロビンは少しだけエスコートする手を引くと、ほんの少しだけリリーに微笑んで見せる。それにつられて少し彼女の表情が和らいだのを見ると、また歩を進め、広間の中央近くで足を止めた。
リリーの不安をよそに会場の人々は隣国から来た姫君の美しさに圧倒されていた。できるだけ国に利益のある縁を得ようと、ベルン大公はリリー姫の美しさを各国に宣伝して回っていたが、ベルン自体がこの周辺では魔法で知られているとはいえ、パワーバランスとしては取るに足らない存在であることもあって彼女のことを詳しく知っている物はそう多くはなかった。
しかし実際見てみるとどうだろう。華やかな見目に、気品あふれる表情、そして何よりも美しい所作。まさに姫君といった高貴さである。
そしてそんな彼女がほんの一瞬だけ表情をこわばらせたのを直ぐに気づき微笑む王太子と、彼をみて表情を和らげる微笑ましいやり取りは、人々の心を和ませた。
王太子とその婚約者が足を止めたのを見て、衛兵がまたドアを開ける。この国の頂点、国王陛下とその妃の入室である。ざわめきが一弾大きくなると共に、人々が一斉に腰を折り、膝を折る。その異様な空気の中を差も当然のように歩き、そしてまた深々とお辞儀をとるリリー姫の前で止めると。頭上から威厳がありつつも落ち着いた声が降りてきた。
「顔をお上げなさい。」
その声で一度姿勢をといたリリーは顔をあげ、そして国王が促すままに、もう一度深くお辞儀をして言葉を発する。
「陛下並びに妃殿下。ご無沙汰をしております。ベルン公国より参りました、リリー・ベルンと申します。
本日はこのような盛大な場を下さり誠に感謝しております。」
すると、少しだけ微笑んだ国王は
「お会いするのはあなたがずっと小さかった頃以来ですね。トレシア王国へようこそ、リリー公女。」
と、返し、そして後ろに控える侍従を促し一枚の紙を受け取る。
盛大に儀式を行う結婚と違い、婚約は当事者同士、今回の場合は国同士の契約のようなものだ。国王はベルンからの婚約の申し入れの書面に自ら承諾の署名がしてあることを掲げてみせ、そして二人の婚約が成立していることをこの場の貴族達に知らせる。これにより二人の婚約がトレシア王国で認められる事となるのだ。
あっけなくはあるものの儀式を終えた国王は今度は楽団に目で合図をし、会場にはワルツの前奏が流れ出す。
そして王太子とその婚約者に目を合わせると、
「この曲は私からのお祝いです。どうぞ今日の佳き日を祝って、まずはお二人が踊ってきなさい。」
本来、先陣を切るはずの国王陛下から、ファーストダンスを譲られた二人は深くお辞儀をして、そしていつの間にか大きく空間の出来た広間の中心へと移動する。それに合わせて曲がテンポを変え、二人はたくさんの視線を一身に受けつつ、初めてのダンスを踊り始めた。
昨日会ったのが初めてならば当然踊ったことも一度もない。とはいえ演奏されるているのがかなり定番の曲であることもあって、曲が始まってすぐに二人は会話をできるぐらいの余裕を持ち始める。
「いくらベルンの至宝とはいえ、これだけの人前だと緊張しますか?」
「なんですか、その至宝、というのは?大方父上が良縁を得ようと流した言葉ですわよね。」
「そうなのかもしれませんが、実際有名ですよ。姿はなかなか見れないが麗しく、気品あるベルンの末の姫君。それに実際あってみたら噂以上に美しい方でした。ほらみなの目線もあなたに釘付けですよ」
自然に繰り出される口説き文句に赤面するリリーは少し強引に話題を変える。
「それよりも私は陛下への挨拶に緊張いたしました。さすがは大国を治める方は雰囲気が違いますわね。緊張のあまりぎこちなくなっていなければ良いのですが」
「それこそ完璧でしたよ。それに緊張して多少失敗したところでなにか言うような父ではありません。父も母も穏やかな人ですから心配はいりませんよ。」
「そう言っていただけると助かります。それに陛下も妃殿下も威厳はお持ちですが、優しそうな方で安心しました。」
「えぇ、ですからこれからはここを我が家だと思って、過ごして下さい。」
ゆっくりと会話を交わしつつ、踊る時間は穏やかに過ぎ、やがて曲が終わると一度二人は会場の奥の国王夫妻の方へと向かい、それを合図に他の参加者達が踊り始める。
その後、国王夫妻ともう一度ゆっくり話したリリーは、更にトレシアの有力貴族達から次から次に挨拶を受けたが、ロビンが上手く会話を進めてくれたこともあり、至極穏やかに最初の社交を進めることが出来たのだった。
来てそうそうに社交をすることになって、とリリー付きとなった侍女達は心配してくれたが、「姫は疲れているだろうから可能な限り休ませて上げるように」と殿下がわざわざ侍女長に指示してくれたおかげで、彼女達は起きなければならないギリギリまで起こさずにいてくれたし、ベルンではクレアだけで準備をしており、当然どれだけ彼女が頑張ってくれたとしても時間がかかっていたことを考えると、大勢の侍女達によって準備をしてくれるここでの準備のほうが余程負担が少ない。
そう笑顔で言うと、皆にとても悲しそうな目をされたのいむしろ焦ったリリーだった。
大勢の侍女を動員しても夜会の準備は時間がかかるものだ。なんだかんだで半日かけて気付けまで済まし、複雑に編み込まれた髪や一点の狂いもないよう着付けてもらったドレスをうっかり崩さないよう気をつけながら会場に入るまでの時間を待っていた。
「昨日は殿下といろいろとお話することができてよかったですわね姫様?お控えしている限りでは和やかそうで安心いたしましたが、実際いかがでしたか?」
この国に来たばかりのリリーを気遣ってか、先程まで大勢いた侍女たちは下がり、クレアとの二人にしてくれている。その心遣いに感謝して気のおけない彼女と昨日からの2日間をリリーは振り返っていた。
「クレアが想像する通りのお優しい方だったわよ。気遣いにあふれているし、一緒にいて落ち着く空気の持ち主ね。私のありふれたお話もつまらなさそうにすることなく聞いてくださるし、私なんかでは申し訳ないくらい良い方だわ。それに」
昨日の素敵な晩餐を思い出していたリリーは二人になった後のことを思い出す。それを聞いたクレアは心底驚いた表情になる。
「いずれは、とはお話されてましたが、早速魔法を披露されるとは思いませんでした。ですが、喜んでくださったなら良かったですわ。こちらは魔法を使うことは殆ど無いようですから姫様にとっても過ごしやすいと思いますし」
仮に魔法を使ってもその魔力の少なさから失笑を買うしかなく、余程必要に迫られない限り人前で魔法を使わなかった彼女が王太子には心をひらいていることを感じ、クレアは安心していた。
一方リリーもクレアの言う通り、魔法一辺倒の国から、ほとんど魔法を使わない国へ来たことでどうなるか、と思っていたが、予想以上に魔法がない、ということに居心地の良さを感じていた。あと問題があるとすれば、
「あとは、どうやってお散歩の魔法を使うかなのよね。流石にやってきたばかりの姫が突然消えたりしたら大事件だし、クレアの魔法もこの国の人達は魔法の気配で人を認識したりしないから通用しないのよね。クレアからすると少し変な感じかしら。」
「そうでございますね。ですが直ぐに慣れるでしょうし、いちいち魔法の気配を気にせずに行動するのも良いものですわ。それよりも姫様、理解はしてらっしゃるようですが、お転婆は控えめに。問題を起こさないようにしてくださいね。」
そう忠告するクレアにお小言モードを感じたリリーだったが、
「リリー様、そろそろ会場へ向かいましょう」
と、先程まで席を外してくれていたトレシアの侍女の一人が来たことで話しは一旦中断となったのだった。
今回リリーは主賓、かつ王太子の婚約者ということで会場に入るのは国王夫妻を除いて一番最後。広間の豪華な扉の前にたった段階で既に向こうからは音楽と人々のざわめきが聞こえる。
隣で腕を差し出すロビンの腕をとり、ゆっくりと会場へと入るとそのざわめきはピタッと一瞬静まり、そしてまたより大きなものへと変わる。
彼らにとっては近いうちに彼らが仕える相手となり、そしておそらくいずれはこの国の王妃となる人物だ。彼女はどんな人物なのか、そしてなによりもその位置にふさわしいのか、品定めをする視線をあちこちから強烈に感じた。
予想はしていたものの彼らの強い視線にリリーは内心おののく。いくら人々の注目に慣れており、さらに故郷では悪目立ちしていたことで、多くの視線にさらされていたとはいえ、ベルン公国とトレシア王国では貴族の数そのものが違う。
だからといってその心の揺らぎを知られてしまってはそれこそ失格の烙印を押されてしまう。自信に溢れた、しかし気品ある笑みを貼り付け、一挙一足に気を配って足を進める。
そんなリリーの緊張に気づいてかどうか、ロビンは少しだけエスコートする手を引くと、ほんの少しだけリリーに微笑んで見せる。それにつられて少し彼女の表情が和らいだのを見ると、また歩を進め、広間の中央近くで足を止めた。
リリーの不安をよそに会場の人々は隣国から来た姫君の美しさに圧倒されていた。できるだけ国に利益のある縁を得ようと、ベルン大公はリリー姫の美しさを各国に宣伝して回っていたが、ベルン自体がこの周辺では魔法で知られているとはいえ、パワーバランスとしては取るに足らない存在であることもあって彼女のことを詳しく知っている物はそう多くはなかった。
しかし実際見てみるとどうだろう。華やかな見目に、気品あふれる表情、そして何よりも美しい所作。まさに姫君といった高貴さである。
そしてそんな彼女がほんの一瞬だけ表情をこわばらせたのを直ぐに気づき微笑む王太子と、彼をみて表情を和らげる微笑ましいやり取りは、人々の心を和ませた。
王太子とその婚約者が足を止めたのを見て、衛兵がまたドアを開ける。この国の頂点、国王陛下とその妃の入室である。ざわめきが一弾大きくなると共に、人々が一斉に腰を折り、膝を折る。その異様な空気の中を差も当然のように歩き、そしてまた深々とお辞儀をとるリリー姫の前で止めると。頭上から威厳がありつつも落ち着いた声が降りてきた。
「顔をお上げなさい。」
その声で一度姿勢をといたリリーは顔をあげ、そして国王が促すままに、もう一度深くお辞儀をして言葉を発する。
「陛下並びに妃殿下。ご無沙汰をしております。ベルン公国より参りました、リリー・ベルンと申します。
本日はこのような盛大な場を下さり誠に感謝しております。」
すると、少しだけ微笑んだ国王は
「お会いするのはあなたがずっと小さかった頃以来ですね。トレシア王国へようこそ、リリー公女。」
と、返し、そして後ろに控える侍従を促し一枚の紙を受け取る。
盛大に儀式を行う結婚と違い、婚約は当事者同士、今回の場合は国同士の契約のようなものだ。国王はベルンからの婚約の申し入れの書面に自ら承諾の署名がしてあることを掲げてみせ、そして二人の婚約が成立していることをこの場の貴族達に知らせる。これにより二人の婚約がトレシア王国で認められる事となるのだ。
あっけなくはあるものの儀式を終えた国王は今度は楽団に目で合図をし、会場にはワルツの前奏が流れ出す。
そして王太子とその婚約者に目を合わせると、
「この曲は私からのお祝いです。どうぞ今日の佳き日を祝って、まずはお二人が踊ってきなさい。」
本来、先陣を切るはずの国王陛下から、ファーストダンスを譲られた二人は深くお辞儀をして、そしていつの間にか大きく空間の出来た広間の中心へと移動する。それに合わせて曲がテンポを変え、二人はたくさんの視線を一身に受けつつ、初めてのダンスを踊り始めた。
昨日会ったのが初めてならば当然踊ったことも一度もない。とはいえ演奏されるているのがかなり定番の曲であることもあって、曲が始まってすぐに二人は会話をできるぐらいの余裕を持ち始める。
「いくらベルンの至宝とはいえ、これだけの人前だと緊張しますか?」
「なんですか、その至宝、というのは?大方父上が良縁を得ようと流した言葉ですわよね。」
「そうなのかもしれませんが、実際有名ですよ。姿はなかなか見れないが麗しく、気品あるベルンの末の姫君。それに実際あってみたら噂以上に美しい方でした。ほらみなの目線もあなたに釘付けですよ」
自然に繰り出される口説き文句に赤面するリリーは少し強引に話題を変える。
「それよりも私は陛下への挨拶に緊張いたしました。さすがは大国を治める方は雰囲気が違いますわね。緊張のあまりぎこちなくなっていなければ良いのですが」
「それこそ完璧でしたよ。それに緊張して多少失敗したところでなにか言うような父ではありません。父も母も穏やかな人ですから心配はいりませんよ。」
「そう言っていただけると助かります。それに陛下も妃殿下も威厳はお持ちですが、優しそうな方で安心しました。」
「えぇ、ですからこれからはここを我が家だと思って、過ごして下さい。」
ゆっくりと会話を交わしつつ、踊る時間は穏やかに過ぎ、やがて曲が終わると一度二人は会場の奥の国王夫妻の方へと向かい、それを合図に他の参加者達が踊り始める。
その後、国王夫妻ともう一度ゆっくり話したリリーは、更にトレシアの有力貴族達から次から次に挨拶を受けたが、ロビンが上手く会話を進めてくれたこともあり、至極穏やかに最初の社交を進めることが出来たのだった。
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