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本編
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「まぁ、それはシンシアも悪いわね。あっ、誤解しないでね、シンシアもよ。圧倒的に悪いのはあの男よ。大体トーマスの過去が原因でシンシアが困らされる、というのも腹立たしいし、まさかまだ話していなかったとは思わなかったわ。言うに事欠いて、延々としらばっくれていた自分のことを棚に上げて、妻を怒鳴りつけけるだなんて、ご丁寧に使用人や従業員にまで箝口令を敷いていてみたいですしね」
だんだんイライラが募ってきたのだろう、そこまで一息で言い切ったアデルは、目の前のカップに残ったお茶をゴクリと煽る。決して中上流の女性として褒められた態度ではないが、彼女がするとさまになる。喉を潤した彼女はフッと息を吐いた。
初めて見るトーマスの本気の怒りに当てられ、自身の罪悪感に押しつぶされそうになり、とっさに屋敷を飛び出したシンシアが向かったのはホールトン邸。アデルの元だった。
突然やってきた、それも顔を泣きはらしたシンシアにアデルは驚いたが、なにかあったのだろうと察した彼女は快くシンシアを屋敷に迎え入れ、お茶を入れてくれた。お茶を飲みようやく落ち着いたシンシアに何があったのかを聞いたアデルがしたのが冒頭の発言である。
「いえ、箝口令を敷いた、ということはよほど知られたくなかったということですわ。それなのに私は勝手に探るような真似をして、皆様にも迷惑をかけてしましました」
シュンとするシンシアの頭をテーブルの向こうから伸びてきたアデルの手が優しく撫でる。
「まぁ・・・・・、できればトーマス本人に教えてもらうようにすればよかったかしら。あのことはトーマスにとってもショックだっただろうし、あなたも気付いているでしょうけどトーマスはああ見えて繊細だわ」
「でも、ブラッドリーという大きな商会を背負わないといけないから、繊細な部分は見せないようにしていたのですよね」
「えぇそうね。でもそれは組織を預かる者なら多かれ少なかれそうだし、トーマスも学生の頃から覚悟はしていたわ。多少その時期が早くなりはしたけど」
そう行って、懐かしげに宙を見上げたアデルは目の前のシンシアを見据える。
「まぁ、たしかに怒ったトーマスはなかなか迫力があるけど、彼も後悔しているでしょうし、めげずにトーマスに過去のことを教えてもらえないか聞いてみなさい?」
「良いのですか?旦那様は触れられたくないのでは?」
「でも、触れないとあなたが感じたとおり、一生本当の意味で夫婦にはなれないわよ。これはトーマスが超えるべき試練でもあるわ。完璧にすべてを隠すのなんて無理なのだから、どうせいずれは誰かから噂を聞くことになるでしょうし、なら本人から聞いたほうが良いと思うわ」
「わ、わかりました」
「急がなくて良いわよ。二人のペースを掴みなさい。それはそうと、今日は泊まって行くわよね」
「よろしいのですか?」
「えぇ、もちろん。よろしいも何も、まず今はもう真っ暗よ。いくら近くてもいまさら帰せないわ。どうせならせっかくだし2,3日泊まっていきなさい。トーマスには私が手紙を出しておくし、急ぎの用があれば別だけど。こういう時は一旦距離を置くのも大事よ」
その言葉にシンシアは自分の予定を思い出す。数日後にお茶会に呼ばれてはいるが、ある程度準備は出来ているし、2,3日アデルのもとに入る分には構わないだろう。それに正直今屋敷に帰っても夫とどんな顔で合えば良いのか分からない。
「ではお言葉に甘えさせてもらっても良いですか?」
「喜んで。私も早くにこの世界に入ったから、普通の女の子の友達が少なくて。こうしてシンシアが頼ってくれてとても嬉しいの。だから自分の家だと思ってくつろいでね」
じゃあ、少しだけ準備をしてくるわ、とアデルは席を立ち部屋を後にした。
翌日の夜。シンシアを怒鳴りつけたトーマスはいつものように書斎にいた。違うのはいつもの時間になってもシンシアが現れないことである。
「旦那様、ブラウンでございます」
硬質な規則正しいノックの後にブラウンの声がドアの向こうからする。部屋に入るよう言うと、彼は屋敷の差配に関するものだ、という書類を側に置く。もっとも仕事熱心なトーマスも今はそれを読む気に慣れなかった。
「今日は・・・・・シンシアは来ないんだな」
「シンシア様でしたら、ホールトン邸に預かった、ではなくホールトン邸で泊まってもらうと、ミス・ホールトンから手紙がありましたよね」
この期に及んでそんなことを言う主人に若干呆れつつ、ブラウンはそう言う。シンシアがトーマスのもとを走り去ってから数時間後。アデルからトーマスへそんな手紙が届いていた。
「そんなに後悔なされるのでしたら、あんなことをおっしゃられなければよろしかったのでは?アーシェル子爵夫人のことはご自身で仰るタイミングを測っていらっしゃると思い、我々は黙っておりましたが、完全に裏目に出てしまいましたね」
ブラウンは主人を散々にこき下ろすが、トーマスは反論することができない。これまで寂しかった屋敷に暖かな風を呼び込んだシンシアを使用人たちはとても慕っている。
シンシアがトーマスの書斎を飛び出した後も、驚きはしたものの、すぐにシンシアを落ち着かせそしてしっかり身支度を整えさせてから、馬車でホールトン邸まで送り届けた。今回の件についてはシンシアに付く、という彼等のメッセージだろう。
ハウスキーパーのミセスリードに至っては朝から直接厳しい言葉を頂いてしまった。とは言え、彼等はシンシアだけの味方ではない。トーマスが幼い頃から仕え、彼が若くしてブラッドリーを率いる、という重圧に耐えてきた様子を間近で見てきた使用人たちはトーマスにも幸せになって欲しいと願っている。だからこそこの夫婦の円満を願っていた。
「ですが、考えようによってはよかったのでは?ミスホールトンのもとなら安心ですし。トーマス様も少し落ち着いて考える時間が出来るのではないでしょうか?」
そう言って、「しょうがない人だ」とでも言いたげな笑みを浮かべるブラウンにトーマスを息を吐く。
そして少し何かを考えると、少し後ろに控える執事に
「明日の朝、先触れを走られせてくれないか?」
と言い、何かを書き始めた。
だんだんイライラが募ってきたのだろう、そこまで一息で言い切ったアデルは、目の前のカップに残ったお茶をゴクリと煽る。決して中上流の女性として褒められた態度ではないが、彼女がするとさまになる。喉を潤した彼女はフッと息を吐いた。
初めて見るトーマスの本気の怒りに当てられ、自身の罪悪感に押しつぶされそうになり、とっさに屋敷を飛び出したシンシアが向かったのはホールトン邸。アデルの元だった。
突然やってきた、それも顔を泣きはらしたシンシアにアデルは驚いたが、なにかあったのだろうと察した彼女は快くシンシアを屋敷に迎え入れ、お茶を入れてくれた。お茶を飲みようやく落ち着いたシンシアに何があったのかを聞いたアデルがしたのが冒頭の発言である。
「いえ、箝口令を敷いた、ということはよほど知られたくなかったということですわ。それなのに私は勝手に探るような真似をして、皆様にも迷惑をかけてしましました」
シュンとするシンシアの頭をテーブルの向こうから伸びてきたアデルの手が優しく撫でる。
「まぁ・・・・・、できればトーマス本人に教えてもらうようにすればよかったかしら。あのことはトーマスにとってもショックだっただろうし、あなたも気付いているでしょうけどトーマスはああ見えて繊細だわ」
「でも、ブラッドリーという大きな商会を背負わないといけないから、繊細な部分は見せないようにしていたのですよね」
「えぇそうね。でもそれは組織を預かる者なら多かれ少なかれそうだし、トーマスも学生の頃から覚悟はしていたわ。多少その時期が早くなりはしたけど」
そう行って、懐かしげに宙を見上げたアデルは目の前のシンシアを見据える。
「まぁ、たしかに怒ったトーマスはなかなか迫力があるけど、彼も後悔しているでしょうし、めげずにトーマスに過去のことを教えてもらえないか聞いてみなさい?」
「良いのですか?旦那様は触れられたくないのでは?」
「でも、触れないとあなたが感じたとおり、一生本当の意味で夫婦にはなれないわよ。これはトーマスが超えるべき試練でもあるわ。完璧にすべてを隠すのなんて無理なのだから、どうせいずれは誰かから噂を聞くことになるでしょうし、なら本人から聞いたほうが良いと思うわ」
「わ、わかりました」
「急がなくて良いわよ。二人のペースを掴みなさい。それはそうと、今日は泊まって行くわよね」
「よろしいのですか?」
「えぇ、もちろん。よろしいも何も、まず今はもう真っ暗よ。いくら近くてもいまさら帰せないわ。どうせならせっかくだし2,3日泊まっていきなさい。トーマスには私が手紙を出しておくし、急ぎの用があれば別だけど。こういう時は一旦距離を置くのも大事よ」
その言葉にシンシアは自分の予定を思い出す。数日後にお茶会に呼ばれてはいるが、ある程度準備は出来ているし、2,3日アデルのもとに入る分には構わないだろう。それに正直今屋敷に帰っても夫とどんな顔で合えば良いのか分からない。
「ではお言葉に甘えさせてもらっても良いですか?」
「喜んで。私も早くにこの世界に入ったから、普通の女の子の友達が少なくて。こうしてシンシアが頼ってくれてとても嬉しいの。だから自分の家だと思ってくつろいでね」
じゃあ、少しだけ準備をしてくるわ、とアデルは席を立ち部屋を後にした。
翌日の夜。シンシアを怒鳴りつけたトーマスはいつものように書斎にいた。違うのはいつもの時間になってもシンシアが現れないことである。
「旦那様、ブラウンでございます」
硬質な規則正しいノックの後にブラウンの声がドアの向こうからする。部屋に入るよう言うと、彼は屋敷の差配に関するものだ、という書類を側に置く。もっとも仕事熱心なトーマスも今はそれを読む気に慣れなかった。
「今日は・・・・・シンシアは来ないんだな」
「シンシア様でしたら、ホールトン邸に預かった、ではなくホールトン邸で泊まってもらうと、ミス・ホールトンから手紙がありましたよね」
この期に及んでそんなことを言う主人に若干呆れつつ、ブラウンはそう言う。シンシアがトーマスのもとを走り去ってから数時間後。アデルからトーマスへそんな手紙が届いていた。
「そんなに後悔なされるのでしたら、あんなことをおっしゃられなければよろしかったのでは?アーシェル子爵夫人のことはご自身で仰るタイミングを測っていらっしゃると思い、我々は黙っておりましたが、完全に裏目に出てしまいましたね」
ブラウンは主人を散々にこき下ろすが、トーマスは反論することができない。これまで寂しかった屋敷に暖かな風を呼び込んだシンシアを使用人たちはとても慕っている。
シンシアがトーマスの書斎を飛び出した後も、驚きはしたものの、すぐにシンシアを落ち着かせそしてしっかり身支度を整えさせてから、馬車でホールトン邸まで送り届けた。今回の件についてはシンシアに付く、という彼等のメッセージだろう。
ハウスキーパーのミセスリードに至っては朝から直接厳しい言葉を頂いてしまった。とは言え、彼等はシンシアだけの味方ではない。トーマスが幼い頃から仕え、彼が若くしてブラッドリーを率いる、という重圧に耐えてきた様子を間近で見てきた使用人たちはトーマスにも幸せになって欲しいと願っている。だからこそこの夫婦の円満を願っていた。
「ですが、考えようによってはよかったのでは?ミスホールトンのもとなら安心ですし。トーマス様も少し落ち着いて考える時間が出来るのではないでしょうか?」
そう言って、「しょうがない人だ」とでも言いたげな笑みを浮かべるブラウンにトーマスを息を吐く。
そして少し何かを考えると、少し後ろに控える執事に
「明日の朝、先触れを走られせてくれないか?」
と言い、何かを書き始めた。
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