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原李子

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ドレスメード

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 せりあがる嫌悪感。
「ねえ。どう?似合う?」似合う似合う似合う似合う似合う似合う似合う似合う似合う似合う似合う似合う似合…
私の肩を掴む、汗ばんだ手。この、暑い、のに。黒の、ゴシックドレス。それにふさわしくない、女。
「離して。」手を振りほどくと、ねっとりとした、笑いを浮かべた。直後風が吹き。押され。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン。グシャ。
私は、その時、女を引っ張る、白い手を、見た。

 私は、コスプレ衣裳制作のアトリエでバイトしている。短大でデザイン専攻しているが、コスプレ衣裳の、再現へのこだわりは楽しい。理想と現実の壁は大きいが。
「真鍋さん、スタイルいいから、こっちとか似合いそう。」とチーフがいう。日本人離れしたアニキャラ衣裳が?
手元には銀髪黒ゴシックドレスの、資料。
「…しかし…。」そして、お客様、の資料。
「本当に、この方、これきるんすか?」若干悲し気に社員がいう。
「滅多なこといわないの。お客様だから。」手元の写真。同じデザイン科の。
「げえっ。」「えっ?大丈夫?」

 奴は、有名デザイナーの、母の、コネで、入学した。本人は、何も、できなかった。見るたび、横に増えていく。私は奴の面倒係にされた。できる方だったから。
 いつの間にか、デザインを盗まれていた。

 ひたすら長々と裾のレースを縫い付ける。たっぷりとしたゴシックドレスの、いたるところに、レース。
 レースの形にまでこだわられ、こちらの制作がちまちま作成していた。
納期がやたら短い。イベント向けではないような。納期がやたら短い。
 やっとのことで仕上げる。
「あ、あがった?こっちも。」
奴は、2着頼んでいた。こちらは、きゃらの設定どおりのサイズだ。
B88、w58、H85。イベントの為の、女の子設定。

奴、は、それを、きていた。
作り上げたときは、自分をほめたそれが、今、自分の、首をしめる。
いろんな物への、冒涜。
「ねえ?どう?似合う?」
奴は私のバイト先を知って、注文して、あげたの、言う。
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ…
ベタッ。
奴の上目遣いが、こびりつく。
その時、さあっと吹いた風が、汚れを払っていった。

「ねえ。誰でも殺してくれるの?」
呪いのサイトで、オンラインで、相談された。相手は
「じゃあ、私を殺して。」…ターゲットだ。
「私をね、あの子、って、これ、この子、。」と写真を見せ
「この子にね、この子のせいで、私が死んだって見えるように。」
「なんでそんなことを。」こいつは、他殺予定者ではない。
「この子の事、好きなの。」この子が私にさわられると、鳥肌をたてるところ、この子の顔が、私を見るなり歪むところ、気配で逃げようとするところ、声を耳をふさぎたそうに聞くところ
「見て。」この服あのこが作ったのきっと嫌だったでしょうねでもあのこのにおいがするの想像しただけで
「報酬は?」断りたい。
「あなた綺麗ね。…に似てるわね。こっちの服きっと似合うわ。」
「ふーん。分かった。」
 当日こちらは写真の娘を守った。袖を握ろうとした手から。

「マスターの服に、そんな由来があったとは。」ただの趣味かと思ってた。
「趣味じゃない。」ただの。
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