ここは西の果て 恋する魔法姫は兄を身代わりに海を越える

原李子

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第三章 舞踏会と幼なじみ

ここは西の果て 恋する魔法姫は兄を身代わりに海を越える

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 妹が旅立つのと時を同じくして、城での社交シーズンが始まった。まるで狙ってたかのような…。
 家族は未だに、俺を見ると悩まし気な顔をする。父上など
 「本当に王女だったら…。」と言った。兄上は、自分じゃなくてよかった、的な。でも、微妙みたいな。
 母上は、俺を衣裳部屋に連れて行った。
 「…。」
 今日は舞踏会。俺と、母上は別室にて、本日デビューの令嬢の挨拶を受けている。それぞれ裾の長い華麗なドレスを身に着けている。お辞儀の際は腰を深く落としそのまま後ずさる。なんて技術がいる動作なんだろうか。
 次の令嬢に見覚えがあった。友人の妹のフローラだ。非常に内気な娘でよく兄のジョージの後ろに隠れていたっけ。初々しい白いドレス。大きなハシバミ色の瞳はこぼれんばかりに見開かれ顔は真っ赤だ。がちがちに緊張している。一歩踏み出そうとして。「キャッ。」うん、お約束。抱き留めてみる。栗色の髪に抜けるように白い肌。なかなかに愛らしいが、顔色はより赤くなり、気絶してしまった。
 「運びます。」リムが抱き上げて運ぶ。母上に目配せされ「では私も。」と言った。
 隣の控室の寝台に寝かせる。しばらくすると、侍女とジョージがやってきた。
 「妹が世話をかけた。申し訳ない。」そう言って頭をさげてくる。妹と同じ色彩。ただ日に焼け以前よりだいぶ大人びて。医者は「少し寝かせておけば大丈夫。」といって退室した。 
 もう少し寝かせておくことにした。
 「…失礼。どこかでお会いしたことは?」とジョージが聞く。
 「いいえ。初めてお会いしました。」とにこやかに言った。…あまりじっとみないでくれ。ぼろが出る。
 「そうですか。いえ、知っている人と似ていたもので。」そしてフッと笑って。
 「申し訳ない。いや、その人は、男なんで、ある訳ないんですけどね。あいつが、ウォールからルクスにいってもう五年かな。どうしているのか、あまり手紙とかもなくて。頭は良いんだけどちょっとうかつ…あ、まあその。何言ってるんだ、俺。」頭をかきつつしどろもどろで言う。顔も赤い。
 「…変わらないなぁ…。」つい、ぽろっと。うん、うかつ。
 「え?ちょ…」リムが慌てて口をふさいだ。
 
 「なるほど。そんなことが…。それは災難、なのか…?」微妙な顔。
 「微妙なところなんだよ。いままで彼女が問題なくこなしてたことが、できんってのも。」
 「まあそれは。しかし、麗しいな。」しみじみと言うなよ。
 「そういうのはちょっと。」
 「いろいろ、言い寄られたりは…。」
 「フローラのおかげで、今日はない。」ちょっと含みを持たせていってみる。
 「あったのか?」身を乗り出して聞いてくる。
 「ないよ。まだ。」と言うと少し考えて
 「追っ払ってやろうか?今来られても大変だろう?」と言った。
 ああ、こいつはこういう奴だった。
 「ありがとう。」本当に。

   ふと、夜中目覚める。…今日は驚いた。ウォルターが女性になってしまっていた。非常に、なんというか…
 相変わらず自分の容姿には無頓着で。話すと昔と変わらず最新の学説とか哲学とかの話題に花が咲く。
 好ましい容姿に柔らかなビロードのような美声。いつまでもこうしていたい。その気持ちを読んだ様に
「また話したいな。」と無邪気に笑う。ルクスの色々な技術や、学んだ様々について話したい、と。
 なら、今度の非番の日に伺うと約束した。
 そうこうしているうちに、フローラが目覚めたので帰路に就いた。
 
 「ようこそいらっしゃいました。」とにこやかにいう。ジョージは一瞬止まって
 「ああ。」と言う。とりあえず、とか言ってバラの小さな花束と菓子の箱を差し出す。
 「ありがと。」なんか、うーむ、とかうなっている。
 「なんか、不思議な感じだなぁ…。中味はウォルターとか。いや、話すと紛れもなく本人なんだけどさ…。」
 「…まぁ、気にするな。」俺は貰った花を生け、菓子を盛りつけ、お茶と共に差し出す。
 「で、ルクスはどうだった?」立ち直り早いな。俺は、ルクスの商業同盟の話をした。
 ルクスは、ネディ自治領の中の商業都市だ。ネディ自治領は、フェル王国とルーイ王国、二つの大国に挟まれた緩衝地帯という位置づけになる。緩衝地帯として自治を保てているのは、自治領を構成する個々の都市の経済力である。それぞれ出資して、海の向こうの大陸に拠点をもっている。ルクスは、造船が発達している。
 「ルクスの製材は独特なんだ…。」なあ、とリムに声をかける。一応男女二人きりは、と、同席してもらっている。ジョージには、ルクスでの生徒だったと伝えてある。
 「ええ。ルクスでは風車を使います。なんで、かなり早いです。」
 「しかも、船も、操船する人数が少なくても動くようにできてるんだ。」
 「はー、すごいな。風車か。どうやってるのか見てみたいものだな。」と感心したように言う。
 「ん?えーっと。ちょっといいか?」「えっ?」俺は右手をジョージの額に触れる。少しジョージの慌てた気配。俺は目を閉じ、ジョージに見えるように念じる。俺の記憶のルクスを。
 「すごいな…。」ジョージの顔が赤い。
 「すごいだろ。」というと。「ああ。」そういって笑った。

 「ようこそいらっしゃいました。」輝くような微笑み。天上の美声。女神もかくやというような、この女性は、わが積年の友。…慣れない。自分は騎士団に所属し、あまり女性には…。今日も行く先を言うと、先日のお礼にと言って、フローラが、花と菓子を用意してくれた。
 「兄様、がんばって。」とそっと。…。何か誤解があるような。見た目だけなら…いやいや。
 「…まあ、気にするな。」そういって手早く花を生け、菓子を盛り、茶を淹れてくれた。…中身は、ウォルター…なんだろうか?とりあえず話したら分かる。お茶には、ルクスの生徒だったリムもいる。なかなかはっきりとした受け答えで好感がもてる。というか、いてもらって助かった。
 「はー、すごいな。風車か。どうやっているのか見てみたいものだな。」
 「ん?えーっと。ちょっといいか?」そして。たおやかな手が額に触れる。触れられた所が、熱い。
 ルクスの造船や船の様子がみえる。が、自分の鼓動もうるさい。すっと手が離れる。そして。
 「すごいだろ。」どうだ、といったその顔は友人のまんまで。
 「ああ。」かすかな胸の痛みを覚えた。

  「先生は今女性なので、あまり男性に気軽に触れるのはどうかと思うのですが。」
  リムがそっと言う。お茶とともに。
 「そうだな…気を付けるよ。」リムは「はい。」とどこか困ったように言った。
 ぼんやり、壁の地図を見る。「…?」盗賊や治安の良くない所に印がある。なんとなく引っかかった。 
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