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【ショートショート】目的の地へ
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僕たちは芽生えた。
僕はいま、自分がここにいるということを、はっきりと理解することができた。自我を持ち、周りを見渡すことができた。そしていくつもの仲間たちが、僕と同じように芽生えるのを、互いに感じとることができた。
それでも、これで僕たちが生まれたわけではない、ということを、僕たちの全員が知っていた。どういうわけかはわからないが、僕たちはまだ生まれていない。僕たちはいまから、どこかへと向かわなければならない。今日芽生えた僕たちの全員が、そのことを確信していた。どこへ向かえばよいかは、まったくわからない。それでも僕たちは、先へ進まなければならない。
「ふしぎなことだ。僕たちは芽生えたばかりなのに、もう体を動かすことができる」
「この気持ちはなんだろう。むしょうに、どこかへと行きたくなる」
「なにかが僕たちを、呼んでいるような気さえしてくる。さて、どうしたらいいだろう」
「進もう。それがきっと、僕たちの使命にちがいない」
僕たちは動きだした。大いなる目的のために。ここを出て、進み続けることこそが僕たちの使命だ。進み続けさえすれば、僕たちは真に生まれることができる。そんな気がするのだ。僕たちが芽生えたところは、とても大きな部屋の中だった。壁は丸みがかっていて、端にはひとつ穴が空いていた。居心地は悪くなかったが、いつまでもここにはいられない。僕たちはひとつにまとまり、穴に向かって旋回した。こうして僕たちは、僕たちが芽生えたところを後にした。これが僕たちの、旅の始まりだった。
旅の途中は、不思議なところをいくつも通り抜けた。力がみなぎる山脈に、動きたくなくなる平野。道を知っているわけではなかったが、僕たちは進み続けられた。進むたびに現れる道が、ただただ一本道だったからだ。それはまるで、僕たちを導いているかのようだった。その一方で、どんなに進んでも、旅の終わりが近づいているとは思いがたかった。僕たちは、いまどこにいるのだろうか。それでも僕たちは、決して不安になることはなかった。大いなる目的のために、みんながひとつにまとまっていたからだ。
進むたび、僕たちの仲間は少しずつ減っていった。僕たちの体力には差があった。彼らはついぞ、真に生まれることができなかった。仲間のひとつひとつが死ぬたびに、僕たちは悲しんだ。その一方で気持ちはみなぎり、この旅が間違ったものではないということを確信できた。
「あと、どれくらいでたどり着けるだろう」
「わからない。いままで進んできた道のりよりも、さらに長いかもしれない」
「それでも、進むしかないさ。きっといつか、僕たちはかならずたどり着く」
仲間が減るたびに、僕たちの結束はさらに強くなった。まだ道がある、進むことこそが僕たちの使命だ。力あるかぎり、僕たちは使命を果たし続けるのだ。
もうずいぶんと長い間、僕たちは旅を続けてきた。視界はかすみ、体はすでに思うように動かない。追いうちをかけるように、突然、道が狭くなった。進むたびに暗さが増していき、ついには前が見えなくなった。すでにずいぶんと数が少なくなった僕たちだったが、さらにそのほとんどが、この道で最後の力をなくしていった。仲間の死を悲しんだり、まだ生きている仲間たちを励ましたりする力は、とっくになくなっていた。もう駄目だ、これ以上は進むことができない──
そう思った、まさにそのときだった。はるか先に、ぼんやりとした小さな光がわずかに差し込んでいるのが見えた。その瞬間、ひとつの感覚が全身に走った。あれこそが、この旅の目的地。なんという快感。僕たちは、旅の終わりを確信した。そして、この思いに呼応するかのように、僕たちの進んできた道がゆっくりと前後に動き始める。これにはとても驚いたが、その動きに合わせれば、体は自然と前に進んだ。あと少し、あと少しだ。光が大きくなってゆく。もう少しで、僕たちはたどり着けるのだ。
ふしぎな高揚感だった。力はもうほとんど残っていないはずなのに、体は速さを増してゆく。そして、あの光が近づいてくるにつれ、僕たちには新しい気持ちが芽生え始めていた。それは、僕たちの旅はまだ終わりではない、という素晴らしい感覚だった。きっとあそこは、次の始まりなのだ。さらなる終わりのための、最初の誕生。それを迎えるための、とてつもない僕たちの長旅。その門出を祝うかのように、道は激しく蠕動する。そうしてついに闇が晴れ、輝きだけが視界を覆った。今、生まれる。僕たちはついに、生まれるんだ──。
「うっ」
彼は尿道から出てきた白いものをちり紙にくるみ、そのままくずかごに放り込んだ。
僕はいま、自分がここにいるということを、はっきりと理解することができた。自我を持ち、周りを見渡すことができた。そしていくつもの仲間たちが、僕と同じように芽生えるのを、互いに感じとることができた。
それでも、これで僕たちが生まれたわけではない、ということを、僕たちの全員が知っていた。どういうわけかはわからないが、僕たちはまだ生まれていない。僕たちはいまから、どこかへと向かわなければならない。今日芽生えた僕たちの全員が、そのことを確信していた。どこへ向かえばよいかは、まったくわからない。それでも僕たちは、先へ進まなければならない。
「ふしぎなことだ。僕たちは芽生えたばかりなのに、もう体を動かすことができる」
「この気持ちはなんだろう。むしょうに、どこかへと行きたくなる」
「なにかが僕たちを、呼んでいるような気さえしてくる。さて、どうしたらいいだろう」
「進もう。それがきっと、僕たちの使命にちがいない」
僕たちは動きだした。大いなる目的のために。ここを出て、進み続けることこそが僕たちの使命だ。進み続けさえすれば、僕たちは真に生まれることができる。そんな気がするのだ。僕たちが芽生えたところは、とても大きな部屋の中だった。壁は丸みがかっていて、端にはひとつ穴が空いていた。居心地は悪くなかったが、いつまでもここにはいられない。僕たちはひとつにまとまり、穴に向かって旋回した。こうして僕たちは、僕たちが芽生えたところを後にした。これが僕たちの、旅の始まりだった。
旅の途中は、不思議なところをいくつも通り抜けた。力がみなぎる山脈に、動きたくなくなる平野。道を知っているわけではなかったが、僕たちは進み続けられた。進むたびに現れる道が、ただただ一本道だったからだ。それはまるで、僕たちを導いているかのようだった。その一方で、どんなに進んでも、旅の終わりが近づいているとは思いがたかった。僕たちは、いまどこにいるのだろうか。それでも僕たちは、決して不安になることはなかった。大いなる目的のために、みんながひとつにまとまっていたからだ。
進むたび、僕たちの仲間は少しずつ減っていった。僕たちの体力には差があった。彼らはついぞ、真に生まれることができなかった。仲間のひとつひとつが死ぬたびに、僕たちは悲しんだ。その一方で気持ちはみなぎり、この旅が間違ったものではないということを確信できた。
「あと、どれくらいでたどり着けるだろう」
「わからない。いままで進んできた道のりよりも、さらに長いかもしれない」
「それでも、進むしかないさ。きっといつか、僕たちはかならずたどり着く」
仲間が減るたびに、僕たちの結束はさらに強くなった。まだ道がある、進むことこそが僕たちの使命だ。力あるかぎり、僕たちは使命を果たし続けるのだ。
もうずいぶんと長い間、僕たちは旅を続けてきた。視界はかすみ、体はすでに思うように動かない。追いうちをかけるように、突然、道が狭くなった。進むたびに暗さが増していき、ついには前が見えなくなった。すでにずいぶんと数が少なくなった僕たちだったが、さらにそのほとんどが、この道で最後の力をなくしていった。仲間の死を悲しんだり、まだ生きている仲間たちを励ましたりする力は、とっくになくなっていた。もう駄目だ、これ以上は進むことができない──
そう思った、まさにそのときだった。はるか先に、ぼんやりとした小さな光がわずかに差し込んでいるのが見えた。その瞬間、ひとつの感覚が全身に走った。あれこそが、この旅の目的地。なんという快感。僕たちは、旅の終わりを確信した。そして、この思いに呼応するかのように、僕たちの進んできた道がゆっくりと前後に動き始める。これにはとても驚いたが、その動きに合わせれば、体は自然と前に進んだ。あと少し、あと少しだ。光が大きくなってゆく。もう少しで、僕たちはたどり着けるのだ。
ふしぎな高揚感だった。力はもうほとんど残っていないはずなのに、体は速さを増してゆく。そして、あの光が近づいてくるにつれ、僕たちには新しい気持ちが芽生え始めていた。それは、僕たちの旅はまだ終わりではない、という素晴らしい感覚だった。きっとあそこは、次の始まりなのだ。さらなる終わりのための、最初の誕生。それを迎えるための、とてつもない僕たちの長旅。その門出を祝うかのように、道は激しく蠕動する。そうしてついに闇が晴れ、輝きだけが視界を覆った。今、生まれる。僕たちはついに、生まれるんだ──。
「うっ」
彼は尿道から出てきた白いものをちり紙にくるみ、そのままくずかごに放り込んだ。
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