星夜に種を〜聖母になっちゃったOL、花の楽園でお花を咲かせる!〜

はーこ

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本編

*10* 小瓶の秘密

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 思えば就活の面接のときだって、こんなにあたふたしたことはない。

「自分の部屋だと思って、楽になさってください」

「おっ、お気遣いありがとうございます!」

 シックなダークウッドの家具で統一された部屋が、ヴィオさんの私室だった。
 ネモちゃんの途中退場により取り残された星凛さん、やたら座り心地のいい一人がけチェアで、縮こまっている真っ最中。

 奥にベッドがあるんだろうけど、書斎のようなスペースがメインで、生活感とは程遠い。オフィスにでもいるみたいだ。
 泳ぐ視線が真っ先に行き着いたのは、OL時代に使っていたデスクの倍はあるだろう広い机上に、山積みにされたもの。

「もしかして、お仕事中でした?」

「あぁ、いえ。個人的にいただいたパピヨン・メサージュのお返事を、したためていたところです」

「お手紙なんですか! あれ全部!?」

 ヴィオさんは誰にだってお返事は欠かさないって花屋のおばさんも言ってたけど、ここまでとは。
 あれ全部、ファンレターなりラブレターだろう。芸能人でもこんなにもらう?
 それにもれなく返事をするって、もはや筆まめってレベルじゃないのでは?

「まったく苦ではありませんよ。ウィンローズの民が幸せに暮らすことこそ、私の願いですから。みなの声を直に聞くことができるのは、ありがたいことです」

「真性のイケメンだな……?」

 何をどうしたら、こんな見た目も中身もイケメン王子が仕上がるんだろうか。
 ぽろっとこぼれたひと言は、何故かヴィオさんのまなざしを緩めさせた。

「ドキドキ、していますか?」

「どき……えっ、はっ」

「私はしています。セリ様とふたりきりだと思うと、胸がきゅんとして、気分が舞い上がってしまいます」

 ヴィオさんの口から、ドキドキとか、きゅんとするとか……もしかしなくてもあたし、今ものすごいこと聞いちゃった?

「あなたの心の中に少しでも私がいるのなら、こんなに喜ばしいことはありません」

 ウィンローズの民なら、誰だって恋に落ちる。
 そんなヴィオさんの初恋をあたしが奪ってしまったなんて、未だに信じられない。
 ……なんてこと、とろりと熱を帯びたペリドットに射抜かれたら、否定するほうが難しいんだけど。

「セリ様、あなたに、お渡ししたいものがあります」

 思わず見上げたあたしに、微笑みだけが返される。
 手紙の山に占領された机のほうへ向かったヴィオさんは、その引き出しからあるものを取り出し、あたしのもとへと戻る。
 それから、片膝をつく。
 お姫様の前に跪く、王子様みたいに。

「受け取って、くださいますか?」

「えっと……わぁ、綺麗!」

 視線を落としたそこには、陽光にきらめく薄紫の花。
 アメシストだろうか。見るも上品な小花がふたつ、差し出された黒いレザーのジュエリーケースに慎ましく収まっている。

「ピアスですか? これを、あたしに?」

「はい。私からセリ様への、贈り物です」

「誕生日でもないのに、なんか、悪いな……」

「あなたにこそ、受け取っていただきたいのです」

 申し訳なさが先行していたけど、思い直した。
 ここで遠慮したほうが、せっかくプレゼントしてくれたヴィオさんに、失礼だって。

「実は、いつも着けてたピアスを失くしちゃってたんです」

 エデンに来てから、色んなことがあったからなぁ。
 髪を耳にかけて、申し訳程度に透明ピアスで埋められたそこをあらわにすれば、ふわりとペリドットがほころんだ。

「お着けしても?」

 こくり。
 失礼します、と衣擦れがして、花の香りが近づく。

 さらり、さらりと、ダークブロンドが視界の端で揺れる。
 右、そして、左。時折掠める指先の感触は、気恥ずかしかったけど、嫌ではなかった。

「お似合いです……とても」

 少しだけ身体を離し、噛みしめるようにつぶやいたヴィオさんは、なんだか泣きそうだった。

「ヴィオさん……?」

「セリ様、先ほどの褐色瓶を、お持ちでしょうか」

「あっ……はい!」

 荷物をゲストルームに置いてからも、手のひらサイズの小瓶は、ずっと懐に入れたままだ。
「むやみに日光に当てちゃダメだよ!」と同じくらい「肌身離さず持っていること!」と、おばさんに言い含められていたから。

「お貸しいただけますか? それから、手を」

「大丈夫ですけど……?」

 何をするんだろう……? 首をかしげながら、そっと懐から取り出した小瓶を手渡す。
 受け取ったヴィオさんが取った行動は、驚くべきものだった。
 言われるがままに上へ向けた両の手のひらへ、ふたを取り去った小瓶を、真っ逆さまにひっくり返したのだ。

「ヴィオさん!?」

 とろりとした水飴のような液体が、小瓶から滴り落ちる。
 慌てて受け止めようとしたあたしは、信じられない光景を目の当たりにした。
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