星夜に種を〜聖母になっちゃったOL、花の楽園でお花を咲かせる!〜

はーこ

文字の大きさ
26 / 70
本編

*25* 蜜香にさそわれて

しおりを挟む
 顔を洗って、着替えて、メークをする。
 起床してからごく当たり前のことをこなしていたはずなのに、どっと疲れたのはなんでだろ。

「あなたの魅力は日を追うごとに輝きを増すばかりですね、セリ様」

 答え。文字通り手取り足取り、身支度の世話を焼かれてるから。
 今朝は直々にヴィオさんが部屋をたずねてきて、今なんか姿見の前に用意された椅子で、甲斐甲斐しく髪をブラッシングされている。
 何だこの手厚い展開は。ちょっと意味がわからない。

「ありがたいけど複雑……」

「おや。理由をお訊きしても?」

「ヴィオさんの貴重な時間を割いてもらっちゃって、申し訳ないったらないですよ」

 ウィンローズに来てから、何かと付きっきりでお世話してもらっている気がする。
 ただでさえ騎士団のお仕事で忙しいだろうに、賓客ってだけで、こんな破格の待遇が許されていいものなのか。

「私が職務でこちらに赴いたとお思いですか?」

「えっ、違うの!?」

「違います。『セリ様をおそばでお守りさせてください』と個人的にお願い申し上げて、母上もそれを聞き届けてくださいました」

「待って待って……それってつまり!」

「私はあなただけの騎士だ、ということです」

「ひぇ……!」

「ほんの少しの間ではありますがね」と残念そうに苦笑するヴィオさんだけど、そりゃそうでしょうよ。
 あたしがウィンローズに滞在してる期間だけだとしても、頭を抱えたくなるようなVIP待遇に違いはない。
 ……そう、か。セントへレムに戻ったら、また離れ離れになっちゃうんだ。ヴィオさんとも……

「セリ様が、並々ならぬ覚悟で決断を下されたのです。私はそんなあなたを、誰よりもおそばでお守りしたいのです」

 髪を梳く手は動きを止めないままに、背後で奏でられる声音はいっそうの穏やかさを重ねる。

「──いつだって私には、剣を握ることしか出来はしないのだから」

「ヴィオさん……?」

「さぁ、出来ましたよ」

 頭上にかかる影が退き、髪にふれていた感触もなくなる。姿見をじっと覗き込んで、苦笑。
 朝は特にひねくれる亜麻色の髪も、ヴィオさんの手にかかればお行儀よくまとまっちゃって。

「えへへ、ありがとうございま──」

 気恥ずかしくなりながらも、振り返って。
 覆い被さる影。頬を掠めるダークブロンド。
 呼吸を阻まれた一瞬後に、ふわり。花がほころぶ。

「あなたの甘い香りは……蝶を惹きつける蜜のようだ」

 囁きは低く掠れ、熱を帯びた吐息を生み出す。
 呆けるあたしの顎に手が添えられ、く……と持ち上げられた視線が焦点も結べないうちに、再び覆われる唇。

「んっ……ふぁっ!」

 胸を押し返して、熱と熱にわずかな距離が生まれる。

「まって……くださ、」

「──待てない」

「ひぁっ……!?」

 主導権を奪われるのは、一瞬だ。
 つぅ……と背筋をなぞり上げられる感触に、甲高い悲鳴が抑えられない。
 驚き仰け反る身体はしなやかな腕に絡め取られ、あたしの世界は、熱を帯びたペリドットがすべて。

「……んっ……」

 ちゅ……と掠めるだけのキスがひとつ。
 びくりと過剰なほど肩を震わせれば、穏やかな声音が耳を擽る。

「怖いですか?」

「……わ、かんない……」

「力を抜いて……大丈夫」

 ──大丈夫。大丈夫だから。

 脳裏をよぎる光景は、そう遠くないあの日の記憶。
 そうだ……はじめて会った日から、彼女はこんなにも優しくて。

 ふ……と四肢の強ばりがほどける。
 頬を包み込む手のひら。
 薄く開いた唇を親指の腹でなぞられ、そっと重ねられたやわらかさに、今度は胸がざわめかない。

「は……」

「……ふぁ、ん」

 ついばむようなキスに、ただただ脳が痺れゆくだけ。

「……ん……んぅ…………んんっ……」

 角度を変え、次第に熾烈さを増す交わり。
 濡れそぼった熱が、しっとりと、深く深く吸いついて、離れない。

 食べられているみたいだ、と思った。唇も、吐息も、駆り立てられた熱情さえ……何もかも。
 頭が、ふわふわする。
 真っ白な世界に、彼女とふたり。境界を曖昧にして、溶け込んでいるみたいだ。
 あぁ……今日はやけに、花の香りが濃い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...