星夜に種を〜聖母になっちゃったOL、花の楽園でお花を咲かせる!〜

はーこ

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本編

*26* 騎士の笑み

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「……っは……」

 ひときわ熱い吐息が、無音の世界を振動させる。

「恋人冥利につきますね」

「……?」

 ぽーっと、まだ夢の中に浮いているみたい。
 おぼろげな視界で、ゆるりと弧を描く唇。
 ちろりと覗いた赤い舌が、名残惜しげに引く銀糸をぷつりと舐めとった。

「私もですよ」

「んぇ……?」

「とても気持ちがよかった」

 蠱惑的な色香をまとった花の笑みを前にして、思い出したように身体の芯から込み上げる熱がある。

「っえ……あ、はっ……!? ちょっ待っ……なし! 今のなし!!」

「それはいただけませんね。セリ様もあんなに気持ちよさそうにされていたではありませんか。私の首に腕を回して、瞳を蕩けさせて……」

「うわぁあああ! 言わないで! 言わないでくださいぃいいい!!」

 恥ずかしいってレベルじゃない。気がどうかしていたとしか思えない。
 だって、いくらヴィオさんに気を許してるからって、あんな……

「っくく……はははっ!」

「えっあの、ヴィオさん……?」

 そうこうしていると、爆笑された。
 もう一度言う。爆笑された。いつもクールでビューティーなあのヴィオさんに、だ。

「あなたがあまりにも可愛らしい反応をなさるので、つい意地悪をしてしまいました」

 くすくすと肩を震わせるヴィオさん。クールだけど意外におしゃべり好きであたしを甘やかしまくる、いつものヴィオさん。
 そうとわかったら、わなわなと込み上がるものを止められない。

「ヴィオさんのばかーっ!」

「はい、ごめんなさい」

「うそだ絶対悪びれてないでしょー!!」

「よくおわかりで」

「ばかぁーーーーっ!!!」

「っふふ、あなたはどうして、そんなにいじらしいのですか、はは!」

 やけくそになってポカポカとパンチを繰り出すも、余計にヴィオさんの笑いに拍車をかけるだけ。
 それだけじゃない。両腕いっぱいに抱きしめられて、その豊かでやわらかいお胸にぽふんと顔を埋めされられる羽目になる。
 あーはいはい、どうせヴィオさんには勝てませんよーっと。

「ね、セリ様。私の言い訳を、聞いてくださいませんか」

「内容によります……」

「では、ひとつだけ。──愛してるんです」

「んなっ……ななっ!」

「愛しくてかけがえのない、私にとって唯一のあなた。あなたを愛することこそ、至高の喜びなのです──私の可愛いひとマイ・リトル・レディー

 衣擦れがして、わずかに身体を離されたのもつかの間。こつりとふれあう、額と額。
 するりと頬を撫でた指が、髪を梳き、耳朶をあらわにさせる。
 細められたペリドットは、朱に彩られた薄紫の小花を捉えているんだろう。

「お約束いたします──ヴァイオレットは、あなたのために咲き誇りましょう」

「っ……いい感じにまとめやがりましたね……こんなの、卑怯だ~っ!」

 ヴィオさんはわかってない。自分がどれだけ美人でイケメンかわかってない。なのにそんな殺し文句を恥ずかしげもなく。
 こうも連日口説き落としにかかられたら、あたしだって内心穏やかじゃない。

「手加減してくださいよ……このままじゃ、恥ずか死んじゃいますって……」

「えぇ、セリ様の嫌がることは、絶対にしません。嫌がることは、ね」

「わかってて言ってますよね!? もぉやだヴィオさんのばか! オリーヴに言ってまたおやつ抜きにしてもらいますからねっ!」

「それは怖い、はははっ!」

 へなへなと脱力したら、当たり前のように抱きとめられて。
 聞き捨てならない発言にぷんすこ声を張り上げたら、弾けるような笑い声を返されて。
 その間ずっと、ひとときもあたしを離そうとしないんだから……もう末期だと思いますよ、ヴィオさん。

 そんな文句も、視界の端で煌めく黄金色に気づいたら、何も言えなくなっちゃう。
 彼女の左胸を飾る星のブローチ。肩章と同じ色合いだから、シックな黒の軍服に変に浮かなくてよかったな、とどうでもいいことを考えた。

「……これは、驚いたな……」

 もうどうにでもなれと現実逃避をしていたことは認めるけど、ふいに聞こえた少年の声に、雷に撃たれたような戦慄が走った。
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