【完結】ユキイロノセカイ

はーこ

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本編

*40* エピローグ

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 ふわふわ、と。まるで、浮いているような心地よさ。

ゆきちゃーん、朝ですよー」

 やわらかな声音。するすると髪を梳く指。
 目覚めるどころか、むしろ眠りに落ちそうなまどろみの中。

「……いたずらしますよ?」

 働かない頭で、言葉の意味を理解するより早く。

 ――ちゅっ。

 パチリと目が覚めれば、視点を合わせるまでもない。
 ほぼゼロ距離であたしを映し出す、チョコレート色。

「まだぼんやりしてる。かわいい」
「……っん……」

 ふにゃあっとゆるんだ笑みに、要注意。……そんなこと、すっかり忘れてた。
 寝起きをいいことに、好き放題落とされるキス。
 甚大なる被害を受けたのは、一度や二度じゃないっていうのに。

「んっ……んん~っ!」
「……ん、あれ、ほんとに起きちゃった?」

 仕掛けてきたのはそっちのくせに、ふざけんなよ、残念そうな顔しやがって!

「……せつっ! どっから湧いたの!?」

 ガバッと食い付くように起き上がる。
 布団のそばに膝と手をつき、あたしをのぞき込んでいた雪は、ミルクティー色のダッフルコート姿。

「んー、普通に玄関から入ってきたよ?」
「鍵を渡した覚えはないが」
「かえくんに譲ってもらいました」
「……その存在を忘れてた」

 高熱で寝込んだときに渡したもの。住人が忘れてたくらいだ、どうやって存在を聞き出したのか。
 いや、やめとこう。雪だからだ。それで全部まかり通る。

「で、朝っぱらから何の突撃なの?」
「お引っ越し作業、手伝おうと思って!」
「なんで雪がやる気満々なわけ」
「そりゃ張り切るよ。早く終わったら、早く幸ちゃんが来てくれるってことだもん」
「ヒマ人だねー……」
「お仕事はお休みだから安心して!」
「……ガチのヒマ人かよ」

 低血圧なもんで、雪のテンションにはついて行けずじまいだけど。

「動くな」
「えっ……なにっ?」

 おどおど身体を強張らせた雪の、ふわふわな黒髪。やわらかいクセ毛に付いた雪化粧を払う。

「わ、どうりでひんやりすると思った」
「コート脱いで座ってな。朝ご飯作るから」

 十中八九そうだろうと踏んだら、案の定図星だったようで。

「ぼくも手伝いますっ!」

 はたと声を上げる姿は、変なところで下心がないと言うかなんと言うか。

「幸ちゃんはいいお嫁さんになるね。楽しみだなぁ」

 ……一言多いのはいつものことだが。
 そんな雪に捕まってしまったのは、まぁ自業自得でもあるか。


 当たり前のように陽が昇って、大切な人と、何気ない日々を送る。

 当たり前のようで奇跡的な毎日を、呼吸しながら、進んでいく。

 雪がそばで笑うから、あたしは幸せなの。
 君色に染まってはじめて、鮮やかになる世界。

 これがそう。

 ユキイロノセカイ。


【完】
 
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