【完結】星夜に種を

はーこ

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本編

*14* 嘆きの森

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 どんなに美麗なグラフィックゲームでも到底敵わない躍動が、そこにある。

「──遅いっ!」

 レイピアを思わせる金色の片手剣が、今にも襲いかかろうとしていた影をまたたく間に貫く。
 ヒギィ! と甲高い奇声が上がり、コウモリの身体にブタの顔をかけ合わせたようなモンスターが煙のように消え失せた。

「すごい……」

「お褒めいただき、恐悦至極」

 花の名前を持つ美貌の騎士が、月並みな感想しか紡げないあたしへと視線を落とし、ペリドットの瞳を和らげる。
 剣を抜いた状態で襲い来るモンスターを悉く撃退し、かつあたしを支えながら、華麗な手綱さばきを披露してみせるという。なんちゅー技術と体幹だ。

「私にすべてをお委ねください、レディー」

「ひぇ……」

 そして、この顔面国宝に至近距離で微笑みかけられ、後ろから抱きしめられているという状況……
 チート級の、反則なのでは?


  *  *  *


 イケメンはイケメンでも、おっぱいがついたイケメンだって知って愕然としたあたしの話、する?

「えぇっと……その、ヴァイオレットさんは、」

「お気軽にお呼びください。ヴィオ、と」

「おぉうふ……」

 だからね、そうやって傷口に塩ぶち込んでくるのやめてくんない?

 ヴァイオレットさんもといヴィオさんは、女性だったらしい。
 ただでさえ衝撃で挙動不審なのに、あふれんばかりのイケメンオーラを惜しげもなく注がれるんだぞ、ご褒美通り越して罰ゲームだぞ、これ。

 すがる思いで視線を逸らしたら、「私も同じく、リアンとお呼びいただきたいですわ」と、小刻みに肩を震わせてヴィオさんに賛同するリアンさんがいた。
 絶対面白がってる。ここにあたしの味方はいないの?

「とりあえず……あたしを、気絶させてください」

「何をおっしゃるのですか!?」

「一応おふたりに敵意がないことはわかったので、その主さん? にとっとと会って、話をしようかと。意識がない間に転移魔法使ってもらえれば、あたしも平気だし……」

「レディー……?」

「ほら、屋敷から連れ出したときみたいに、ふわっと意識飛ばしてもらって……あ、魔法がダメなら殴ってもらってもいいんですけど……え、ダメ?」

「あなたというお方は……いけません、絶対に」

 ビビリ散らかして醜態をさらすより名案だと思ったのに、ダメらしい。
 ヴィオさんだけでなくリアンさんも失笑していたので、あたしはまたやらかしたのか。

「よろしいですか、セリ様」

「は、はい、何ですか、リアンさん」

「あなたと私共に流れるマナの源は、根本から違うものです。異なる魔力と魔力の衝突は、とても繊細で、危険なもの。時として命を脅かすことすらあるのです」

「そ、そういえば、ジュリがそんなことを言っていたような……」

「では、おわかりいただけますね。先ほどはやむを得ず催眠魔法を行使いたしましたが、その影響で、セリ様の体内には私の魔力──言うなれば異物が残っている状態です」

「それで……?」

「同じ日に2度も魔法を受けてしまえば、あなたの魔力が過剰反応を起こし、催眠作用に留まらず、ショック状態に陥ってしまう可能性があるのです」

「アナフィラキシー的な!?」

 どうしよう、やばいやつじゃん。
 二日酔いなら経験はあるけど、吐き気が辛いとか、そんなレベルのお話じゃないだろう。

「じゃあやっぱり、ここは景気よく一発入れてもらって……」

「私にあなたを傷つけろとおっしゃるのですか? お戯れもほどほどに」

「う……」

 あたしが話す度、どんどんヴィオさんの表情が剥がれ落ちていくの、恐怖でしかないんですけど。
 いやでも、じゃあどうしろって言うのさ。

「遊興をご所望でしたら、私がお付き合いいたします。遠乗りなどいかがでしょう、レディー」

「ふぇ、とおのり?」

 とおのり、遠乗り。
 あれだよね、お馬さんに乗るやつ。でもここにいなくない? お馬さん。

 間抜け面をさらすあたしの背後で、「まぁ、それは名案だわ!」とリアンさんが拍手を打ち鳴らす。
 と思ったら、パキリ、パキリと、身近な木の枝を2本手折った。

「樹皮の身体に、琥珀の瞳、たてがみは色とりどりの小花が彩って、蹄が蹴った地面には、真っ赤な薔薇が咲き誇る──あぁ、なんて素敵なのかしら!」

 歌うように、おとぎ話を紡ぐように。
 緑色の宝石がはめ込まれた小振りな木製の杖を、指揮棒のように振るうリアンさん。
 その白い指先を離れた2本の枝が空中でまばゆい光を発し、見る間に2頭の馬をかたち作った。

「あれは……」

「ゴーレムです。風や土の魔法を得意とするリアンは、このように自在な姿かたちのゴーレムを錬成し、操ることができるのです」

「うん? チートがここにもいるぞ……?」

 うわ、本当に身体が樹皮でできてるし、足元に薔薇が……「うふふ、照れますわ、セリ様」……ってあの、まだ褒めてませんが。

「失礼」

「わっ!」

 何が起こったのかわからない。気づいたときには、遥か頭上にあるゴーレムの背へ跨っていた。
 うそでしょ? あの華奢な腕で、あたしを軽々と。

「モンスターは私がすべて蹴散らします。さぁ、この森を駆け抜けましょう、レディー・セリ」

 颯爽とゴーレムに飛び乗り、後ろから抱きしめるように支えてくるヴィオさんは、騎士というよりも王子様だった。
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