転生者と蘇生者。勇者を助けたら、望みもしないの転生させれらてた。平和な世の中なんで、元の世界と前世の知識でまったり無双漫遊生活を満喫すること

ゆうた

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外伝、胸に傷のある少女

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エルフの少女クリスティーナ、通称クリス。

エルフの王族でログリーナ学院の
雌雄一対の俊英と称された才女。

戦場で華麗に舞い踊るよう細剣を振るったその姿は
まるで剣舞の様であったと評された。

しかし、ある小規模な魔物の討伐にて、
胸を剣で貫かれ、戦場で倒れた。
薄れゆく意識を必死に繋げ止めようしたが、
それを嘲笑うかのように意識は次第に掠れていった。
クリスティーナの近くで激しい剣戟の音が
聴こえていた。

『フィン』

彼女の口から零れるのは音でなく血であった。
5感の全てが既に機能を失っているようだった。
微かに聴覚だけが音を捉えていた。

「ふん、恋敵を助ける義理はないんだがな。
だがまあ、見てしまった以上、助けない訳にはいかんな。
すまないが、万物の霊薬はない。
今は、上級回復薬しかない。
運が良ければ命が繋がるだろう」

クリスはぼとぼと液体が胸の傷口に
かけられるのを感じた。
それに伴って凄まじい痛みが全身を駆け巡った。
そして、クリスは意識を失った。

クリスは、目覚めた。

視界に入る眩い陽光、耳に入る木々のざわめき、
鼻に香る花々の香り、全ては慣れ親しんだものだった。

「むっここは世界樹の都」

キョロキョロと周囲を見渡すクリスだった。
身体を少し動かすと節々が軋み、胸に痛みを感じた。
胸の辺りにエルフ族に伝わる薬草をすり潰したものが
塗られていることを感じた。

おぼろげな記憶にフィン、陽翔、
転生云々といった言葉に残っていた。

クリスはもぞもぞとベッドから
起き上がろうとしたが、上手くいかなかった。

ノックの後でドアが静かに開いた。

その直後に派手な叫び声が部屋中に響き渡った。

「お嬢様ぁー」

凄まじい勢いでクリスにメイドは近づき、
手に持つ品を側のテーブルに置いた。
そしてやさしくクリスを抱きしめた。

「えっと、マティルダさん」

「ええ、マティルダにございます。
取り乱して、申し訳ございません」

「ううん、良かった。それよりマティ重いよ」

「も、申し訳ございません」
直ぐにマティは、クリスより離れたが、
涙が止まることはなかった。

マティが落ち着くのを待って、
クリスは事の経緯を尋ねた。

「エエエッ、世界樹の葉を使ってしまったの」

「いえ、この都の源泉たる
世界樹の葉ではございません。
出処は分かりませんが兎に角、
ここへ男性のエルフによって運び込まれた時、
患部に貼られていました」

「むー」

無論、クリスには思い当たる節があった。
ソフィアであろうことは容易に想像できた。

クリスが戦線に復帰できるくらいに回復した頃、
魔物たちは各国の軍に圧し返され始めていた。
クリスはエルフの軍を率いて戦線に復帰した。
雌雄一対の俊英の二つ名に恥じない戦果を上げ、
魔物の群れを魔王領に圧し返すことに多大な貢献をした。
次第に魔物は少なくなり、世界は平穏を取り戻した。
局地戦で多少の名を上げたフィン・エラザスの名は、
その他大勢の中に埋もれていった。
彼以上の功績を上げた戦士や魔術師は幾らでもいた。
クリスの名声のおまけとして、語られる程度で
時が経てば忘れ去られる程度であった。
しかし、彼の名は、クリスの心から消えることは
なかった。

 大戦後、クリスは王族の務めとして、
婚姻を父たる国王より望まれた。
しかし、クリスは事ある毎に悲し気な表情で
かぶりを振った。

「父上、胸に大きな傷があります。
閨で殿方の驚きの表情を見たくはございません」

国王は何度か婚姻を薦めた。
しかし、娘に甘い国王は、何度も娘の悲しい表情を
見るに婚姻を薦めなくなった。

「お嬢様、上手くあしらいましたね」

「マティ、何のことかしら」
両手を服の上から胸の傷に重ねる様な仕草を
クリスがした。

マティは大きくため息をついた。
「お嬢様、一生をお一人で過ごすのでしょうか?
それにはエルフの寿命は些か長すぎます」

「ふーん、じゃあ、マティから結婚したらどうかしら」

全く動じないマティだった。
「私の幸せはお嬢様とあります。
お嬢様が無事に幸せを掴みましたら、身を引きます」

クリスの両手は、自然と胸の傷あたりの
服を強く握りしめた。傷は既に塞がっていた。
しかし、ぽっかりと心に開いた傷は
塞がらないままだった。
少女の淡い恋心は、長い年月がその恋の結末を癒し、
懐かしい思い出となることはなかった。

『絶対に諦めないだから。
相手が英雄ソフィアでも絶対に負けない』

「お嬢様、どういたしましたか?」

「いえ、なんでもないんだから。
それよりもっと色々と調べることがあるから」

「はい分かりました。
あまりご無理をしないでくださいな」

クリスは、誰をも魅了してやまない
爽やか笑顔を浮かべた。
「はいはい、分かりました。
マティ、遅い場合は、先に寝て」
うやうやしく一礼をするマティだった。

少女は、胸に消えることのない深い傷を負った。
その傷と共に彼女は彼の帰りを待っていた。
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