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186.中等部昇格試験7
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物音一つしないこの空間で一人、
座っていると、色々と考えてしまう誠一だった。
くそっ、この行為は、これは奴の協力を得るための
代償で目覚めてしまったのだろうか。
こんなことがいつまで続くのだろうか。
本当にリシェーヌは生きているのだろうか。
様々な思いが胸に去来した。
突然、空気が激しく振動した。
木々にぶら下がるクリスタルが激しく揺れた。
誠一の肌もびりびりと大気の震えを感じていた。
「先生、いらしてるんでしょう」
誠一は、震源地の方へ声をかけた。
「むっ、アルフレート様もいらっしゃいましたか」
すっきりした様子の剣豪は、すたすたと
誠一の方へ歩いて来た。
ここまで、足音を消して歩けるものなんだなと
誠一は感心していた。
「先生は、一体、ここへどういった目的で?」
毎度のことであるが、剣豪からリシェーヌを
隠す様に立つ誠一。
「いやぁ、アルフレート様と同じですよ。
たまに身体に溜まった気を開放しないと、
淀んでしまうのです。
まっアルフレート様の場合は若さゆえに
溜まるモノのようですが」
にやつく剣豪の表情に怒りを覚えた誠一だった。
「まあ仕方ありません。
私も経験のあることなので。
それより、どうぞ」
剣豪は背負っている袋を広げて、
水筒とおにぎりを誠一に渡した。
おにぎりを渡された誠一は、
まじまじと見つめてしまった。
この地では、それほど珍しいものであった。
食べると具がなく、塩味だけであった。
それでも誠一は懐かしさに目頭が熱くなっていた。
誠一は、例えそれが自分の正体が
暴かれる可能性があったとしても
この懐かしい味を誰かに話さずには
いられなかった。
見ることも食べることもできないリシェーヌに
誠一は、二個目のおにぎりを見せて、
一生懸命、説明をした。
「リシェーヌ、これはおにぎりと言って、
海を渡って、東方にある島国の食べ物なんだよ。
シンプルにして最強、具の種類によって、
千万変化の味を表現できるんだ」
リシェーヌへ話しかける誠一の話の内容に
耳を傾けながら、剣豪は冷静に誠一を観察していた。
無論、誠一の感傷に引きずられることなく、
一挙手一投足、見逃すことなく観察していた。
長きに渡り秘めた感情を発露し、
落ち着いた誠一は、疑わし気な視線を
剣豪に送っていた。
剣豪の態度は普段通りであった。
にこにことしながら、構えていた。
「一体、どういうつもりですか?」
剣豪が素直に話すとは思えなかったが、
自然にその言葉が発せられた。
「いえいえ、高々、我が出身の食べ物で
そこまでそこまで興奮するとは思いませんでした。
エスターライヒ家がどうにも東方との交易が
あったことにも驚きですな。
はて、そのような記録は無かったような
気がしますが」
誠一は七面メイスを構えて、彼を警戒した。
しかし、戦いになれば、一方的に惨殺されて
終わることは火を見るよりも明らかであった。
「いやいや、アルフレート様、
何か誤解しておるようです。
詮索するつもりはございません。
以前、お会いした人々も何故か我が郷土料理に
いたく感動したもので。
もしやと思い、振舞ったのです。
接点の全くない方々がどうして
こう感動するのか、甚だ不思議なものですな」
カラカラと笑う剣豪であった。
その言葉の全てを真に受けるほど、
誠一は純真ではなかった。
必要最小限のことだけ、伝えた。
「いまのところはそう捉えておきましょう」
「ふむふむ、そうですな。
それがお互いにとって、よろしいでしょう。
アルフレート様は、もう一度、溜まったモノを
抜くのであれば、私はこれでお暇いたします」
いやいや、この人、此処から
どうやって地上に戻る気なの。
素朴な疑問であった。
「学院長がアイテムを貸与してくれたので、
それでちょちょいと帰ります。それでは」
手をひらひらと振りながら、魔術陣の方へ
向う剣豪だった。
誠一はその後姿を見ながら、
剣豪が何らかの目的で自分に
近づいて来たことを確信した。
恐らくエスターライヒ家に
入り込んだのも彼の持つ何かしらの情報網に
自分の存在が引っ掛かたからであろう。
自分のような存在に接触していることは、
本人が話していたはず。
彼の目的は不明だったが、お互いの利益が
衝突するまでは、得難い協力者として、
割り切って、接することにした。
座っていると、色々と考えてしまう誠一だった。
くそっ、この行為は、これは奴の協力を得るための
代償で目覚めてしまったのだろうか。
こんなことがいつまで続くのだろうか。
本当にリシェーヌは生きているのだろうか。
様々な思いが胸に去来した。
突然、空気が激しく振動した。
木々にぶら下がるクリスタルが激しく揺れた。
誠一の肌もびりびりと大気の震えを感じていた。
「先生、いらしてるんでしょう」
誠一は、震源地の方へ声をかけた。
「むっ、アルフレート様もいらっしゃいましたか」
すっきりした様子の剣豪は、すたすたと
誠一の方へ歩いて来た。
ここまで、足音を消して歩けるものなんだなと
誠一は感心していた。
「先生は、一体、ここへどういった目的で?」
毎度のことであるが、剣豪からリシェーヌを
隠す様に立つ誠一。
「いやぁ、アルフレート様と同じですよ。
たまに身体に溜まった気を開放しないと、
淀んでしまうのです。
まっアルフレート様の場合は若さゆえに
溜まるモノのようですが」
にやつく剣豪の表情に怒りを覚えた誠一だった。
「まあ仕方ありません。
私も経験のあることなので。
それより、どうぞ」
剣豪は背負っている袋を広げて、
水筒とおにぎりを誠一に渡した。
おにぎりを渡された誠一は、
まじまじと見つめてしまった。
この地では、それほど珍しいものであった。
食べると具がなく、塩味だけであった。
それでも誠一は懐かしさに目頭が熱くなっていた。
誠一は、例えそれが自分の正体が
暴かれる可能性があったとしても
この懐かしい味を誰かに話さずには
いられなかった。
見ることも食べることもできないリシェーヌに
誠一は、二個目のおにぎりを見せて、
一生懸命、説明をした。
「リシェーヌ、これはおにぎりと言って、
海を渡って、東方にある島国の食べ物なんだよ。
シンプルにして最強、具の種類によって、
千万変化の味を表現できるんだ」
リシェーヌへ話しかける誠一の話の内容に
耳を傾けながら、剣豪は冷静に誠一を観察していた。
無論、誠一の感傷に引きずられることなく、
一挙手一投足、見逃すことなく観察していた。
長きに渡り秘めた感情を発露し、
落ち着いた誠一は、疑わし気な視線を
剣豪に送っていた。
剣豪の態度は普段通りであった。
にこにことしながら、構えていた。
「一体、どういうつもりですか?」
剣豪が素直に話すとは思えなかったが、
自然にその言葉が発せられた。
「いえいえ、高々、我が出身の食べ物で
そこまでそこまで興奮するとは思いませんでした。
エスターライヒ家がどうにも東方との交易が
あったことにも驚きですな。
はて、そのような記録は無かったような
気がしますが」
誠一は七面メイスを構えて、彼を警戒した。
しかし、戦いになれば、一方的に惨殺されて
終わることは火を見るよりも明らかであった。
「いやいや、アルフレート様、
何か誤解しておるようです。
詮索するつもりはございません。
以前、お会いした人々も何故か我が郷土料理に
いたく感動したもので。
もしやと思い、振舞ったのです。
接点の全くない方々がどうして
こう感動するのか、甚だ不思議なものですな」
カラカラと笑う剣豪であった。
その言葉の全てを真に受けるほど、
誠一は純真ではなかった。
必要最小限のことだけ、伝えた。
「いまのところはそう捉えておきましょう」
「ふむふむ、そうですな。
それがお互いにとって、よろしいでしょう。
アルフレート様は、もう一度、溜まったモノを
抜くのであれば、私はこれでお暇いたします」
いやいや、この人、此処から
どうやって地上に戻る気なの。
素朴な疑問であった。
「学院長がアイテムを貸与してくれたので、
それでちょちょいと帰ります。それでは」
手をひらひらと振りながら、魔術陣の方へ
向う剣豪だった。
誠一はその後姿を見ながら、
剣豪が何らかの目的で自分に
近づいて来たことを確信した。
恐らくエスターライヒ家に
入り込んだのも彼の持つ何かしらの情報網に
自分の存在が引っ掛かたからであろう。
自分のような存在に接触していることは、
本人が話していたはず。
彼の目的は不明だったが、お互いの利益が
衝突するまでは、得難い協力者として、
割り切って、接することにした。
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