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376.グレートウォールへ2
しおりを挟む「アルフレート様、バロック一家の件は
いいとしても白は戴けません。
噂で聞き及んでいるかもしれませんが、
白は陛下直属の近衛兵のみに許された色でございます」
ジェイコブは口をパクパクと動かすだけで言葉になっていなかった。
「説明が不足していたようですね。
戦場での功を誇る訳ではございませんが、
白き鎧を戦場で赤く染め上がるぐらいの活躍を
陛下にお見せしたく希望したのです。
バロック一家の件は、このままやられっぱなしで
この地を去るのは、陛下に馳せ参じるには甚だ外聞が悪く、
陛下の声望に傷をつけてしまいます」
できるかぎりにっこりと笑い、無邪気な表情で話す誠一であったが、
ジェイコブは震えるばかりで何も答えなかった。
バラムも同様であった。
二人は事を性急に進めた事を後悔し、
そして今の話を聞かなければ良かったと後悔していた。
バラムが重い口を開いた。
「今のお話を伺った以上、了解する以外に選択肢はありません。
正直、断りたい案件ですが、断れば陛下を狭量と罵る輩が現れるでしょう。
受ければ、味方から独断専行の誹りを受けるでしょう。
アルフレート様、随分と難しい立場に追い込んでくれましたな」
ジェイコブはバラムの言葉の合間に頷くだけで何も言わなかった。
バラムの独断で済ませいたのがありありと目に見えて分かった。
日和見主義など許すまじと誠一は断じた。
「バラムさんのご意見は非常に参考になりました。
しかし、交渉の最終判断はジェイコブ殿でしょう。
この場の最高責任者のお言葉を頂きたいものですね」
誠一の言葉は、一瞬にしてジェイコブのストレス耐性を突破してしまった。
「むぐむぐ、むぐー」
意味のない言葉を叫びながら、テーブルに突っ伏してしまった。
流石に面前で泡拭いて倒れるとは誠一も予想していなかった。
動揺を悟られまいと、彼を気遣う素振りをしたが、動きは固かった。
無論、バラムは見抜いているが、誠一に合わせた。
「後程、概ね賛成ということで、書状にてご回答いたします。
ジェイコブ様がこのような状態でありますので、
本日は屋敷に戻らせて頂きます」
バラムが合図すると、ジェイコブは何人かの兵士に担がれて、
馬車に乗せられた。
誠一は交渉を有利に進められたことに満足した。
馬車の中でジェイコブは先ほどのことが嘘の様に姿勢を正した。
「あのガキ、本当に必要か?調子に乗りやがって」
バラムはため息をついた。
「ふううっ、ジェイコブ様。やはり演技でしたか。
困ります。あのような事、アルフレート様には何度も通用しません」
「いや、本当に一瞬、頭に血がのぼって、倒れたんだよ。
だけどそのまま、倒れたままにしただけさ。
あのガキ、交渉が上手くいったと満足そうにほくそ笑んでいたよな。
バラム、勿論、あんなことは受け入れないよな。
俺も上手く言質を取られないように策を弄したんだからな」
己の策が上手くいったと自画自賛するジェイコブにバラムが首を振った。
「全面的に受け入れます。それ以外ないでしょう。
今日中に書類を作成しますので、
ジェイコブ様はサインだけしてください」
物凄く疲れた声のバラムにジェイコブは息を呑み、何も言えなかった。
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