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418.代理戦8
しおりを挟む「ひっ」
シエンナの横顔を除いたヴェルが恐怖に悲鳴を上げた。
ぷるぷるとシエンナの黒いローブが震えていた。
「手加減してやるつもりだったが、容赦しない。水弾」
ドスの効いた低い声が練兵場に響いた。
「ひいいいっ」
シエンナの声を聞いたヴェルが恐怖に悲鳴を上げた。
「おい、小僧。びびってないで来い。
ザガナスも我もおまえらを殺しはしないからな」
バーバラが竜を撫でていた。竜は、気持ち良さそうに鳴いた。
「竜が相手か!相手に不足なし。いくぞっ!」
既に補助魔術によりヴェルの身体能力は格段に向上していた。
「ほう、無詠唱か。本当に魔術師なんだな」
バーバラは竜に騎乗した。
長槍を片手で振り回して、ヴェルと刃を交えるバーバラであった。
何故か竜は飛翔せずにその場に丸まって蹲っていた。
「これは一体、飛翔せよ、飛翔せよ」
バーバラの命令に全く答えようとしない竜であった。
見ようによってはヴェルに向かって抗戦の意を示さずに
頭を下げているようだった。
「おらー!どうしたどうしたぁ」
ヴェルが調子にのって、突きを繰り出していた。
ヴェルが首にかけているアミラより送られたタリスマンが
輝いていた。
「全く調子にのり過ぎだ」
ロジェがため息をついた。
「それだけの実力差があるんだろう。
所詮、ランクなんて眉唾物だろ、ロジェさんヨ」
ブラスナの言葉は、正にこの世界の摂理を
否定するものであった。
「ほう、それは敬虔なる使徒の言葉とは思えんな」
「そりゃあな、冒険者なんて長くやっていれば
誰でもたどり着く見解だろう。
あの二人はランクなんぞで測れないほどの
死線を越えて来ているだろうよ。
残念ながら、バーバラ様とザガナス様では到底、敵わないだろ」
ブラスナが愉快そうに高笑いをしていた。
「何故、動かぬ。このたわけが!」
バーバラは、怒声を竜に浴びせて、飛び降りた。
剣を抜き、ヴェルと対峙した。
「おいおーい、竜無き騎士は只の人。やめとけって」
ヴェル本人には煽っているつもりは全くなかったが、
バーバラを怒らせるには十分であった。
「皇族をそこまで侮辱するとは、覚悟はあろうな」
バーバラは剣を振り上げて、ヴェルに襲いかかった。
「ゴアアッー」
突然、大人しくしていた竜が暴れ出し、
無防備なバーバラの背中に爪を振り下ろした。
「ちっくそったれが。お前さんの弟は一体何者だ。
姫さんに傷がついたら、流石に洒落になんねえ」
ブラスナはあらん限りの力を持って、
バーバラと竜の間に入ろうとした。
しかし、間に合わないことは明白であった。
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