転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組！だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業？それとも社畜？誰か助けて

598.鍛冶師1

溶けることのない氷結に覆われている霊峰氷山を
背に鉱物の産出と武器、防具といった製造で
大いに賑わうソルテール。そこへ誠一たちは再び到着した。

「この時期は霊峰氷山からの吹き下ろしの風が
強いせいで寒いらしいわ。
そのせいで酒が飛ぶように売れるのよ」
シエンナのうんちくに誰もが適当な相槌を打っていたが、
莉々だけは真剣な面持ちで耳を傾けていた。
気を良くしたシエンナは売れ筋の酒の種類を
事細かに説明し始めた。

余りの長さに誠一がシエンナを止めたが、
莉々は左程、苦痛に感じていなかったようであった。
「冒険者ギルドで仕事を受けるが、当然、
商人のライセンスも持っているさ。
情報はいつ何時役に立つか分からないが、
知っていて損はないだろう」
莉々の言うことは正鵠を射ているが、
誠一には真似できそうになかった。

莉々の怪我はソルテールに到着するまでに
十分に回復していた。
誠一は莉々をどうすべきか悩んでいた。
ここでわずかばかりの餞別を渡してお別れするべきか、
クランのメンバーに誘うべきか、
頭の中を二つの考えがぐるぐると巡っていた。

じっーと莉々の顔を眺める誠一であった。
リシェーヌも将来は莉々のようなタイプの美人に
なるんだろうなと莉々の美貌にあてられた誠一は
関係ないことに思いを巡らせてしまった。

誠一は、不思議そうに見つめ返す莉々の背後から
突き刺すような冷たい視線を感じた。
その冷気で誠一は現実に引き戻された。

単純な美貌に見惚れた程度で浮気の類になる訳ないよな、
いや、なるのか。誠一は上擦った声で視線の主へ声をかけた。
「キャ、キャロ。ごきげんよう」

「ふううう、アル。
街中で一緒に行動する婚約者に
ごきげんようってどういうこと？」

ほんの少しだけだが、称号『婚約者1キャロリーヌ』が
反応した。
誠一はキャロリーヌの不満の原因が良く分かった。
莉々も二人の若干、険悪な雰囲気を察した様だった。
すぅーと一歩、身を引く莉々であった。
どうやら男女の機微を察するのは莉々の方が数段、
キャロリーヌより上のようであった。

　誠一の隣に並んだキャロリーヌは
少し機嫌が良くなったようだった。
「アル、シエンナは商会に顔を出して来るって言ってたわ」

「アル、ロジェとサリナが宿の方は押さえたから。
その後、昼食を取ったと思うわ。
午後、二人は商業ギルドに魔石や素材の相場を
確認に行ってくるようよ」

キャロリーヌの左手を握りながら報告に
耳を傾ける誠一だった。
後ろを付いて来るアミラが二人の真似をして
ヴェルの右手を握った。一瞬、ヴェルが妙な声を上げた。
その後、アミラがあたふたと謝る声が聞えた。
大方、強く握り過ぎたのだろうと思い誠一と
キャロリーヌは顔を見合わせて笑った。

「ふふふ、誰かさんが初めてダンスを踊った時のようね」

「いやいや、キャロ。あそこまで強く握った覚えはないけど」

何気ない会話をキャロリーヌが楽しんでいると
莉々が間に割って入ってきた。