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3 それぞれの間話。
間話①(ナガレ視点)
竜人のナガレは、
他の竜人に比べて長い間、番が生まれてくれなかった。
―――池は、いつも何も映してくれない。
たまにナガレの「番」を見つけてくれても、まだ赤ん坊だ。仕方なく彼らの成長を待ったのちに池を覗けば、すでに結婚していただの、すでに墓の中だ……。
そもそも、竜人ほど長寿な種族の中から「番」が見つかるのは非常に稀だ。
もっとうまくやる方法などいくらでもあったはずだが、それでもナガレは「待つ」以外の方法しか知らなかった。
兄竜も、ナガレと同じ年に誕生した竜人らも既に番を見つけていた。
己だけが数百年をかけて「魂の片割れ」とも呼べる番を探して焦がれている。
―――だから、きっと番も「ナガレ」という存在を待っているはずだ。
そしてようやく見つけ出したのが、人間の「リオ」だった。
(今度こそ、失敗してなるものか……)
竜人にとって大事なのは「番」であって、性別は関係ない。
一秒が一日に思えるほどに、
ナガレはリオが成長するのを、今か今かと待ち望んでいた。
「リオ」
「はい、竜人様」
―――竜人様。
美しい花嫁姿に身を包んだリオを見て、昂った気持ちが少しだけ冷めた。
「番だろ?俺のことは竜人様ではなくナガレと呼べ。これから寝食を共にするのだ」
「……?」
「なにを驚く必要がある?」
「あ、……すみません。……寝食までとは、考えてなくて…」
リオは教育機関のない村で育った青年である。ぎこちない敬語は「竜人」様に失礼がないようにと、付け焼き刃で村人が教え込んだ丁寧な言い方に過ぎない。
『―――余計なことを言う前に、口を閉ざせ』
なにせリオが竜人様の逆鱗に触れるようなことがあれば、村も巻き添えになるかもしれないのだから……。
しかし、ナガレにとっては「教養」など二の次であった。
「不束者ですが、よろしくお願いします。 ナガレ様」
今まで「番」を見つけても、こうして会うことは叶わなかった。
だが、それでよかったのかもしれない。
リオの視界の中を、独占したいと思った。
―――――――――――――――――
間話。②(リオ視点)
城にやってきたばかりのリオは、基本的に部屋の中で過ごすことが多かった。
「あれ…?」
いつも扉は重く、外に出るなと閉じられているものだと思っていた。
けれどその日は、使用人の過失できちんと閉まっていなかった。
(……もしかして、出てもいいのか?)
ナガレ様に「部屋から出るな」と命令はされていない。
そーっと廊下を覗いても、そこには誰もいない。静かだった。
廊下の絨毯はふわっと柔らかく、窓から射す光はあたたかい。
リオは、久しぶりの自由に胸の奥がふわりと軽くなるのを感じた。
「~~~♪」
ひとりで広い城を、踊るように歩くリオは鼻歌を歌ってご機嫌だ。
まるで廊下を独占しているかのような、ちょっとした優越感に浸っていた。
―――が、ここは「竜人」の巣の中である。
さらにここは竜人の「番」がいる棟であり、立ち入る者には主人であるナガレの許可が必要だった。
厳重な場所とは知らず、リオは高い天井を見上げたり、飾られている絵画を鑑賞して―――中庭に出た瞬間、思わず足を止めた。
「 わっ!」
そこは、光と水の精霊が舞う美しい庭だった。
* * *
噴水と花、あたたかな日差しだ。
「こんにちは、とってもいい天気だね」
ふわふわと綿毛のような、小さな光。
地上では「精霊」は絶滅したと聞かされていたが、優しく話しかければリオの声に精霊もくるりと回って喜んでいた。
『~~~~♪』
「! 歌が歌えるんだ!」
精霊たちは珍しい人間に興味と好奇心を持って近づいてくる。
歌えるし踊れるし、なんだってできるぞ!と。
「あははは! とっても綺麗だね」
『~♪~~~♪』
無邪気な彼らの様子に、リオも手拍子をして喜んだ。
こうしてすっかり時間を忘れて見惚れてしまった、その時
「番様…!」
悲鳴のような声が響いた。
それも一つではない。次々と声が重なる。
「―――――番様!!」
訳がわからず立ち尽くすリオの前に護衛が駆け込んでくる。
そして彼らは血相を変えて膝をつく。
「ああ、よかった!ご無事で…!」
「え、や、あの……」
「よかった、こちらにおりました!!」
幼い迷子を見つけたかのような歓喜の声だが、狼狽えるリオの声は小さく震えていた。
その瞬間、ゾワっと空気が変わる。
「リオ、何をしている」
重い気配と怒りと焦燥を孕んだ
――――竜人の 低い声。
さっきまで楽しそうだった精霊たちは姿を消し、護衛は息を呑んだ。
彼らの視線が自分に集まったのを感じた。
「……っ、な、ナガレ、さま?」
「何故、勝手に出た」
竜人は大股で歩み寄り、リオの腕を掴んだ。
「!? ご、ごめんなさい…! とても……きれいでしたので」
「許可はしてないぞ」
「……な、ナガレ様を、探したくて……。それで、目を盗みました」
オレの外出には許可が必要だった、とよく分かった。
それなのに扉が開いていたから勝手に出た―――なんて、もしかすると誰かが叱られてしまうかもしれない。
嘘はいけないことだけれど咎められるのはオレだけでいい。ぎゅっと目をつぶって―――なのに、何故かナガレ様の雰囲気がくすっと、穏やかになったのを感じた。
「これに懲りたのなら、もう二度と消えるな」
「……はい」
素直に応じれば、竜人は微かに怯えるリオをそっと抱き上げた。
「リオ、怪我はないか?」
「…? はい、何もありません」
心配したと言わんばかりの仕草に、何も言わずに身を委ねる。
これ以上、ナガレ様の心を乱すのはよくない気がして……。
「いいか、今日は誰も部屋に立ち入るな」
使用人たちには目もくれずリオを部屋に運ぶナガレ。
――――以降、リオのいる部屋の扉は二重鍵になった。
竜人のナガレは、
他の竜人に比べて長い間、番が生まれてくれなかった。
―――池は、いつも何も映してくれない。
たまにナガレの「番」を見つけてくれても、まだ赤ん坊だ。仕方なく彼らの成長を待ったのちに池を覗けば、すでに結婚していただの、すでに墓の中だ……。
そもそも、竜人ほど長寿な種族の中から「番」が見つかるのは非常に稀だ。
もっとうまくやる方法などいくらでもあったはずだが、それでもナガレは「待つ」以外の方法しか知らなかった。
兄竜も、ナガレと同じ年に誕生した竜人らも既に番を見つけていた。
己だけが数百年をかけて「魂の片割れ」とも呼べる番を探して焦がれている。
―――だから、きっと番も「ナガレ」という存在を待っているはずだ。
そしてようやく見つけ出したのが、人間の「リオ」だった。
(今度こそ、失敗してなるものか……)
竜人にとって大事なのは「番」であって、性別は関係ない。
一秒が一日に思えるほどに、
ナガレはリオが成長するのを、今か今かと待ち望んでいた。
「リオ」
「はい、竜人様」
―――竜人様。
美しい花嫁姿に身を包んだリオを見て、昂った気持ちが少しだけ冷めた。
「番だろ?俺のことは竜人様ではなくナガレと呼べ。これから寝食を共にするのだ」
「……?」
「なにを驚く必要がある?」
「あ、……すみません。……寝食までとは、考えてなくて…」
リオは教育機関のない村で育った青年である。ぎこちない敬語は「竜人」様に失礼がないようにと、付け焼き刃で村人が教え込んだ丁寧な言い方に過ぎない。
『―――余計なことを言う前に、口を閉ざせ』
なにせリオが竜人様の逆鱗に触れるようなことがあれば、村も巻き添えになるかもしれないのだから……。
しかし、ナガレにとっては「教養」など二の次であった。
「不束者ですが、よろしくお願いします。 ナガレ様」
今まで「番」を見つけても、こうして会うことは叶わなかった。
だが、それでよかったのかもしれない。
リオの視界の中を、独占したいと思った。
―――――――――――――――――
間話。②(リオ視点)
城にやってきたばかりのリオは、基本的に部屋の中で過ごすことが多かった。
「あれ…?」
いつも扉は重く、外に出るなと閉じられているものだと思っていた。
けれどその日は、使用人の過失できちんと閉まっていなかった。
(……もしかして、出てもいいのか?)
ナガレ様に「部屋から出るな」と命令はされていない。
そーっと廊下を覗いても、そこには誰もいない。静かだった。
廊下の絨毯はふわっと柔らかく、窓から射す光はあたたかい。
リオは、久しぶりの自由に胸の奥がふわりと軽くなるのを感じた。
「~~~♪」
ひとりで広い城を、踊るように歩くリオは鼻歌を歌ってご機嫌だ。
まるで廊下を独占しているかのような、ちょっとした優越感に浸っていた。
―――が、ここは「竜人」の巣の中である。
さらにここは竜人の「番」がいる棟であり、立ち入る者には主人であるナガレの許可が必要だった。
厳重な場所とは知らず、リオは高い天井を見上げたり、飾られている絵画を鑑賞して―――中庭に出た瞬間、思わず足を止めた。
「 わっ!」
そこは、光と水の精霊が舞う美しい庭だった。
* * *
噴水と花、あたたかな日差しだ。
「こんにちは、とってもいい天気だね」
ふわふわと綿毛のような、小さな光。
地上では「精霊」は絶滅したと聞かされていたが、優しく話しかければリオの声に精霊もくるりと回って喜んでいた。
『~~~~♪』
「! 歌が歌えるんだ!」
精霊たちは珍しい人間に興味と好奇心を持って近づいてくる。
歌えるし踊れるし、なんだってできるぞ!と。
「あははは! とっても綺麗だね」
『~♪~~~♪』
無邪気な彼らの様子に、リオも手拍子をして喜んだ。
こうしてすっかり時間を忘れて見惚れてしまった、その時
「番様…!」
悲鳴のような声が響いた。
それも一つではない。次々と声が重なる。
「―――――番様!!」
訳がわからず立ち尽くすリオの前に護衛が駆け込んでくる。
そして彼らは血相を変えて膝をつく。
「ああ、よかった!ご無事で…!」
「え、や、あの……」
「よかった、こちらにおりました!!」
幼い迷子を見つけたかのような歓喜の声だが、狼狽えるリオの声は小さく震えていた。
その瞬間、ゾワっと空気が変わる。
「リオ、何をしている」
重い気配と怒りと焦燥を孕んだ
――――竜人の 低い声。
さっきまで楽しそうだった精霊たちは姿を消し、護衛は息を呑んだ。
彼らの視線が自分に集まったのを感じた。
「……っ、な、ナガレ、さま?」
「何故、勝手に出た」
竜人は大股で歩み寄り、リオの腕を掴んだ。
「!? ご、ごめんなさい…! とても……きれいでしたので」
「許可はしてないぞ」
「……な、ナガレ様を、探したくて……。それで、目を盗みました」
オレの外出には許可が必要だった、とよく分かった。
それなのに扉が開いていたから勝手に出た―――なんて、もしかすると誰かが叱られてしまうかもしれない。
嘘はいけないことだけれど咎められるのはオレだけでいい。ぎゅっと目をつぶって―――なのに、何故かナガレ様の雰囲気がくすっと、穏やかになったのを感じた。
「これに懲りたのなら、もう二度と消えるな」
「……はい」
素直に応じれば、竜人は微かに怯えるリオをそっと抱き上げた。
「リオ、怪我はないか?」
「…? はい、何もありません」
心配したと言わんばかりの仕草に、何も言わずに身を委ねる。
これ以上、ナガレ様の心を乱すのはよくない気がして……。
「いいか、今日は誰も部屋に立ち入るな」
使用人たちには目もくれずリオを部屋に運ぶナガレ。
――――以降、リオのいる部屋の扉は二重鍵になった。
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