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13 近藤 勇の戦さ
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土方は屯所の自室でのんびりとした日々を送っていた。
その後、近藤と総司を見舞ったが、
近藤の傷の経過は順調だった。
これは松本良順が横浜にいたフランス人医師に、
近藤の傷の治療をさせたことが功を奏したのだ。
やはりフランスの医学は日本のはるか先を行っていた。
総司の病も富士山丸を下船以来、小康状態にあった。
だが隊への復帰などとても望めない。
いつまた危篤に陥ってもおかくしくない状況にある。
総司と会う日を、一日でも多く持とうと土方は思っていた。
江戸城の勝安房守から連絡があり、
上野大慈院に謹慎している慶喜公の警護を新選組に命じて来た
大政奉還したとはいえ、慶喜は未だ徳川家の盟主である。
その存在は薩長側にとっても大きい。
薩長が狙う可能性は大である。
だが、警護する幕臣がいない。
それで鳥羽伏見の戦いで大きな戦果をあげた新選組に、
白羽の矢が立ったのだ。
土方は万一を考え、
スペンサー銃を持たせた隊士百名を派遣することにした。
これで大慈院の慶喜はまず安泰である。
勝は喜んだ。
当然、土方には感謝した。
上野の森でスペンサーを持った隊士百名が慶喜を守るので万全である。
薩長といえども、簡単に手を出すことはできない。
だが、この土方の決断がのちに近藤との間に大きな軋轢を生むことになる。
近藤が突然新屯所に姿を見せたのは、それから三日後であった。
もはや抜くこともない虎鉄を携えて。
土方はじめ隊士たちは驚いた。
右手は使えぬものの、近藤の傷はほぼ完治していた。
やはり良順が、横浜のフランス人医師に見せたのは正解だった
だが同時に近藤はとんでもない土産を持って来ていた。
薩長と土佐が甲州を陥とすべく、
土佐の板垣退助率いる二千の官軍が東山道を北上していると言うのだ。
それについて勝から、新選組が甲州を占拠すべき!と命じられたと言うのだ。
土方にとってこれは寝耳に水だった。
伏見で土方率いる新選組の圧倒的勝利を、近藤は明らかに意識していた。
「今度はわしが新選組の実力を見せてやる」とまで言った。
近藤さん、勘違いしないでくれて!やめておいた方がいい!土方はそう思った。
この戦いにスペンサーは使えない。
伏見の戦いは民家の立ち並ぶ市街地である。
市街戦だった。
しかし、甲州で戦うとなれば広大な山野の大自然の中だ。
射程の短いスペンサー銃にとっては決定的に不利だ。
射程千メートルもあるスナイドルが有利となる。
近藤の言葉に、土方は一言も発しなかった。
少なくともこれは俺の戦さではない。
銃の知識も情報もない近藤さんの戦さだ。
だが、近藤はすでに莫大な軍資金を手に入れていた。
大坂から慶喜たちが持ち帰った四千両、旧幕府から二千三百四十両、加えて近藤のパトロンである松本良順から三千両の合計で一万両近い大金だった。
しかし、金だけあってもそれに見合う権謀術数の戦術がなにもない。
作戦なしで戦さはできない。
危険すぎる。
それが近藤には分かっていない。
永倉、原田、斎藤らも乗り気ではない。
無言の彼らに近藤が苛立ち始めた。
第一、大慈院警護に百名が割かれ、新選組の隊士は実数五十名しかいない。これをどうするのか。
情報では東山道の板垣隊の兵力は二千ある。
どう考えても勝負にならない。
旧幕府の勝や大久保も、これをどこまで本気でやる気があるのか。
近藤一人が踊っている。
「問題は兵力だろう。それは必ずわしがなんとかする!この戦さをやると決めた!諸君もそのつもりで、準備にかかってくれ!」
土方には近藤の腹の中が透けて見えていた。
勝から、甲州を制圧した暁には所領二十五万石は新選組のものだ。
慶喜公を迎えて徳川家の再興を約束する。
とでも吹き込まれたのだ。
近藤はすっかりその気になっている。
あり得ない!夢物語だ!
事態は東山道軍と新選組(名前を甲陽鎮撫隊と称するらしいが)、の甲府城への先陣争いの様相を呈している。
だが、板垣の背後には、薩長土佐本隊すなわち官軍数十万が控えている。
武器もアームストロング砲を始め資金とともに豊富だ。
新選組の背後には何もない!
旧幕府は抜けがらだ。
近藤は甲州二十五万石に目が眩んでいるが、この戦さはどう見ても無謀である。負け戦さの可能性が高い!
どうしてもやるとなれば、作戦を十二分に練らねばならない。
それには時間が少なすぎた。
土方には言うべき言葉がなかった。
近藤には池田屋事件という輝かしい実績があるが、あれはあくまで個人戦だ。
一軍を率いての指揮経験がない。
あるのは遊郭通いと、いい女は何がなんとしても手に入れるという執念だけだ。
土方は頭を抱えた。
いま彼は近藤 勇の戦さをしようとしていた。
刀槍主体の勝算のないこの戦さを、敢えてやらせるべきなのか!
その後、近藤と総司を見舞ったが、
近藤の傷の経過は順調だった。
これは松本良順が横浜にいたフランス人医師に、
近藤の傷の治療をさせたことが功を奏したのだ。
やはりフランスの医学は日本のはるか先を行っていた。
総司の病も富士山丸を下船以来、小康状態にあった。
だが隊への復帰などとても望めない。
いつまた危篤に陥ってもおかくしくない状況にある。
総司と会う日を、一日でも多く持とうと土方は思っていた。
江戸城の勝安房守から連絡があり、
上野大慈院に謹慎している慶喜公の警護を新選組に命じて来た
大政奉還したとはいえ、慶喜は未だ徳川家の盟主である。
その存在は薩長側にとっても大きい。
薩長が狙う可能性は大である。
だが、警護する幕臣がいない。
それで鳥羽伏見の戦いで大きな戦果をあげた新選組に、
白羽の矢が立ったのだ。
土方は万一を考え、
スペンサー銃を持たせた隊士百名を派遣することにした。
これで大慈院の慶喜はまず安泰である。
勝は喜んだ。
当然、土方には感謝した。
上野の森でスペンサーを持った隊士百名が慶喜を守るので万全である。
薩長といえども、簡単に手を出すことはできない。
だが、この土方の決断がのちに近藤との間に大きな軋轢を生むことになる。
近藤が突然新屯所に姿を見せたのは、それから三日後であった。
もはや抜くこともない虎鉄を携えて。
土方はじめ隊士たちは驚いた。
右手は使えぬものの、近藤の傷はほぼ完治していた。
やはり良順が、横浜のフランス人医師に見せたのは正解だった
だが同時に近藤はとんでもない土産を持って来ていた。
薩長と土佐が甲州を陥とすべく、
土佐の板垣退助率いる二千の官軍が東山道を北上していると言うのだ。
それについて勝から、新選組が甲州を占拠すべき!と命じられたと言うのだ。
土方にとってこれは寝耳に水だった。
伏見で土方率いる新選組の圧倒的勝利を、近藤は明らかに意識していた。
「今度はわしが新選組の実力を見せてやる」とまで言った。
近藤さん、勘違いしないでくれて!やめておいた方がいい!土方はそう思った。
この戦いにスペンサーは使えない。
伏見の戦いは民家の立ち並ぶ市街地である。
市街戦だった。
しかし、甲州で戦うとなれば広大な山野の大自然の中だ。
射程の短いスペンサー銃にとっては決定的に不利だ。
射程千メートルもあるスナイドルが有利となる。
近藤の言葉に、土方は一言も発しなかった。
少なくともこれは俺の戦さではない。
銃の知識も情報もない近藤さんの戦さだ。
だが、近藤はすでに莫大な軍資金を手に入れていた。
大坂から慶喜たちが持ち帰った四千両、旧幕府から二千三百四十両、加えて近藤のパトロンである松本良順から三千両の合計で一万両近い大金だった。
しかし、金だけあってもそれに見合う権謀術数の戦術がなにもない。
作戦なしで戦さはできない。
危険すぎる。
それが近藤には分かっていない。
永倉、原田、斎藤らも乗り気ではない。
無言の彼らに近藤が苛立ち始めた。
第一、大慈院警護に百名が割かれ、新選組の隊士は実数五十名しかいない。これをどうするのか。
情報では東山道の板垣隊の兵力は二千ある。
どう考えても勝負にならない。
旧幕府の勝や大久保も、これをどこまで本気でやる気があるのか。
近藤一人が踊っている。
「問題は兵力だろう。それは必ずわしがなんとかする!この戦さをやると決めた!諸君もそのつもりで、準備にかかってくれ!」
土方には近藤の腹の中が透けて見えていた。
勝から、甲州を制圧した暁には所領二十五万石は新選組のものだ。
慶喜公を迎えて徳川家の再興を約束する。
とでも吹き込まれたのだ。
近藤はすっかりその気になっている。
あり得ない!夢物語だ!
事態は東山道軍と新選組(名前を甲陽鎮撫隊と称するらしいが)、の甲府城への先陣争いの様相を呈している。
だが、板垣の背後には、薩長土佐本隊すなわち官軍数十万が控えている。
武器もアームストロング砲を始め資金とともに豊富だ。
新選組の背後には何もない!
旧幕府は抜けがらだ。
近藤は甲州二十五万石に目が眩んでいるが、この戦さはどう見ても無謀である。負け戦さの可能性が高い!
どうしてもやるとなれば、作戦を十二分に練らねばならない。
それには時間が少なすぎた。
土方には言うべき言葉がなかった。
近藤には池田屋事件という輝かしい実績があるが、あれはあくまで個人戦だ。
一軍を率いての指揮経験がない。
あるのは遊郭通いと、いい女は何がなんとしても手に入れるという執念だけだ。
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