土方歳三の戦さースペンサーカービン銃戦記ー

工藤かずや

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18 決裂

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内藤新宿で土方は近藤らと別れて横浜へ向かった。
スネルと会うためである。
斎藤からはスネル兄弟商会の所在地を聞いただけで、果たして当人がいるかどうかはわからなかった。

斎藤も確認のしようがないのだ。
しかし、とにかく会うことだと土方は思った。
いつまで江戸に居られるかわからない。

勝沼戦争に惨敗した以上、板垣軍が東から江戸に迫るのは時間の問題だ。
いち早く新兵器を手に入れ、その武器に合った最強の戦術を考える。それこそが土方の戦さだ!
新兵器を手に入れるには莫大な金がかかる。

金さえあれば、新式武器はいくらでも手に入る。
問題は戦術だ!
これは簡単ではない。経験と天才的なひらめきが要求される。

薩長土肥は抜け荷で大金を持っている。土方が御用金で得る金などたかが知れている。
金額の桁が三つくらい違うのだ。
それでも新兵器購入の手付けくらいは打てる。

横浜について斎藤から聞いた甲二十番舘の建物へ向かった。
スネル兄弟商会はなかった。
昨年越したと言うのだが、異動先はわからない。

残るは越後の住居だが、すぐに移動するのはさすがに無理だ。
仕方なく土方は江戸の屯所へ戻った。
屯所では近藤と永倉たち中隊長が激しく対立して居た。

何事か、この大事な時に!
戻ってきた土方を斎藤が見た。スネルと会えたか。と目で問うている。
土方は首をわずかに振って見せた。

近藤がこの場の事情を説明した。
この度の戦さの敗因は、
旧新選組隊士全員が近藤の臣下でないことにある、と言う。

これから江戸を出て安房流山、宇都宮、会津とおそらく転戦となろうが、
我々は一体であたらねばならぬ。
板垣軍が精強なのは、兵がいつでも板垣のために命を捨てると言う覚悟の元にいるからだ。

つまり強固な主従関係にある。
近藤は永倉たちに臣下となれと迫っていた。
「歳、どう思う」

隊士たちの前では決して歳とは呼ばない近藤が、我を忘れている。
試衛館以来新選組は、仲間・同士の集団でやって来た。
それをここへ来ていきなり家来になれ!と言うのは無理がある!

明らかに近藤の増長である。
「副長の返答はいいです!」
斎藤がいった。

返答に困る土方をおもんばかったのだ。
壬生時代にもこれはあった。
池田屋事件の直後だった。

近藤の増長ぶりに怒った永倉、原田、斎藤らが、
新選組脱退を会津本陣へ訴え出たのだ。
驚いた会津公用方は、急いで近藤、土方を呼んで両者の考えを聞いた。

さすがの近藤も、上様も心痛されておられる!と会津容保の名を出されると、
折れないわけには行かなかった。
その場に酒肴が用意され、両者の手打ちとなった。

しかし、今は間を取り持つ者がいない。
決裂は決定的だった。
幾多の戦いを経てここまで来て、すでに局中法度は有名無実だった。

永倉たち中隊長五名は席を蹴って屯所を出て行った。
江戸で急きょ募集した新米隊士二十数名が残された。
近藤は深いため息をついて腕組みした。

江戸には続々と薩長の軍勢が入ってきている。
江戸城も大奥を始め諸役人の退去が求められている。
近藤たちもいつまでもここにはいられなかった。

今夜中に安房流山へ向かうことになった。
土方の頭の中には、スネルのことしかなかった。
どこへ行ったのか。どうしたら会えるのか。

隊士などいつでも集められるし、訓練も出来る。
問題は新式武器とそれを買う金だ。金の工面はなんとでもなる。
得たいのはガトリング砲とアームストロング砲、そして長射程の連発小銃情報だ。

土方は焦りに焦った!
だが、彼の危惧は正しかった。
当時すでにアメリカ南北戦争は終焉を迎え、
ウィンチェスター銃と言う最強の小銃を生み出していた。

十四連発で射程距離三千メートル、
有効射程二千メートルと言う土方が求めていた最強の新式小銃だった。
しかも、当時スネルはウィンチェスター五千挺を保有していたのだ。

スネルは横浜の店と越後の自宅を売り払い、新たに会津に邸宅を購入していた。
日本人女性も妻にした。昨年のことである。
不運なことに斎藤にこの情報は伝わっていなかった。

もし、このウィンチェスター五千挺が土方の手に渡っていたら、
これ以降の戊辰戦争の様相はまったく変わったものとなっていた。
一年早く土方がスネルと会っていたなら・・・!

歴史の皮肉である。

その夜遅く、近藤たちは新屯所を出て安房流山へと移動した。









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