私は大好きなお姉様をざまぁする

池中織奈

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何故、妹は姉をざまぁするに至ったか㊾

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「卒業おめでとうございます。イエルノ様」
「高等部でも頑張ってください」
 ――中等部の卒業式。
 お姉様は当然のようにやってこなかった。私に何一つ言葉を書けることもなかった。お姉様がそう言う人だと私は分かっているから、今更傷つきはしない。
 お姉様は今、乙女げぇむの世界に必死だから。その世界のことしか目に入っていないから。
 ……私に、卒業おめでとうといってくれたのは、お姉様じゃなくヒーナやデル兄様、ラス兄様たちだった。
 本当の血のつながった姉ではなく、血のつながりのない親しい人の方が私の事をよく分かっている。
「来年にはもう高等部だね」
「ええ」
 卒業式が終わって、ヒーナたちから言葉をかけられて――、その後、私はウーログと一緒に居た。カプラッド公爵家の王都の屋敷にウーログは来てくれていた。お姉様は家にいたけれど、私に何も言わなかった。いつも通りの生活をしている。
 ウーログは乙女げぇむの事を把握しているただ一人の理解者だ。……お姉様をざまぁする準備は、もう大体整っている。あと一年もあるけれど、長い間進めてきたことだから。
「……ねぇ、ウーログ。デル兄様はヒーナに恋したわ」
「そういうところだけ何で乙女ゲームと一緒なんだろうね」
「さぁ、人の気持ちなんて分からないから。ただヒーナは良い子だわ。一生懸命で、貴族としての教養も備えてきている。きっともっと素敵な女性になるでしょうね」
 ヒーナが良い子で、真っ直ぐだから――きっとデル兄様は恋をした。
 昔はデル兄様はお姉様を愛していたと思う。お姉様が大好きで、お姉様の傍に居たいと思っていた。お姉様との未来を考えていた。その気持ちは徐々になくなっていった。……これはお姉様の心が離れ、お姉様が距離を置いた結果だ。
 その乙女げぇむの世界では、”悪役令嬢アクノール・カプラッド”はデル兄様と距離を置くことはなかったらしい。お姉様のメモによると、お姉様はデル兄様を拠り所にして、デル兄様を特別に思っていた。だからこそ嫉妬して暴走していたらしい。
 お姉様はそうならないように心がけていたのかもしれない。此処が乙女げぇむの世界だと信じているからこそ、そうならないようにしようとしていたのだと思う。
 ――本当にお姉様がそのころから此処と乙女げぇむを混同しなければよかったのに。
「イエルノ、ヒロインのことはどうするの?」
「私からは何もしないわ。ヒーナとデル兄様が上手く行くようにとか、そういうのはしないわ。ざまぁもヒーナを関わらせる気は今の所ないわよ。……まぁ、向こうから関わりたいっていうならともかく、今の所お姉様へのざまぁという茶番は、ちゃんと根回しをした者達の間だけで行う予定だもの。ざまぁの催しの事にも気づかないでしょう。お父様や陛下たちにはもう話を通しているから、後は本当に、ざまぁするだけ」
 あと一年も経たないうちに、ざまぁは決行される。私の行う準備をお姉様は全く気付かない。ヒーナの言葉も相変わらず聞かない。
「でもそうね……、ヒーナがデル兄様と結ばれるなら、デル兄様は伯爵家に入るか、それとも家を興すことになるかのどちらかでしょうね。公爵家はラス兄様が継ぐし、お姉様は他の家に嫁ぐか、家にいるかになるだろうけど……。まぁ、お姉様が現実を見てくれるのならばどうにでも出来るわ。今の状態のお姉様は社交界に出すのも難しいもの」
「アクノール様の社交界が遅れているのは、そのせいだもんね。イエルノも社交界デビューはざまぁが終わってからするんでしょう?」
「ええ。その予定よ。ちゃんと、お姉様の事が終わってからがいいわ。まだ学園生活中か卒業してすぐぐらいなら社交界デビューには遅くないもの」
 私の自慢の、私の大好きなお姉様。
 私をちゃんと見てくれるお姉様と一緒に社交界デビューできたらきっと幸せだろう。
「――ウーログも、私と一緒に社交界デビューしてくれるのでしょう?」
「うん。僕はイエルノと一緒に社交界デビューしたいからね。イエルノの一番のハッピーエンドは、アクノール様をざまぁして、一緒に社交デビューすることでしょ? 僕はそのハッピーエンドを迎えさせたいからね」
 大好きで、大嫌いなお姉様。
 私にとって自慢で、大好きで、昔のことを思い出して心が温かくなって。
 だけど、私の事を見てくれないから、大嫌い。
 ……そんなお姉様をざまぁして、お姉様と一緒に笑う。その未来は、私だけのハッピーエンドかもしれない。お姉様は乙女げぇむの世界から覚めたいなんて思ってないかもしれない。それでも私はお姉様をこの乙女げぇむの世界から覚めさせる。
「高等部に上がったらもう少しお姉様の動向も探れるわ。私がお姉様に話しかけるのもそこまで不自然でもない。どうせざまぁをするなら、もっと色んな事に根回しをして、お姉様がこの後生きやすいようにする必要がある。お姉様のおかしさはそれなりに広まっているけれど、学生の内だからこその過ちに抑えるようにするわ」
 お姉様は私にとって予想外のこともするかもしれない。それでも私は、それを目指す事。それを中等部の卒業式に改めて決意した。



 
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