50 / 60
何故、妹は姉をざまぁするに至ったか㊾
しおりを挟む
「卒業おめでとうございます。イエルノ様」
「高等部でも頑張ってください」
――中等部の卒業式。
お姉様は当然のようにやってこなかった。私に何一つ言葉を書けることもなかった。お姉様がそう言う人だと私は分かっているから、今更傷つきはしない。
お姉様は今、乙女げぇむの世界に必死だから。その世界のことしか目に入っていないから。
……私に、卒業おめでとうといってくれたのは、お姉様じゃなくヒーナやデル兄様、ラス兄様たちだった。
本当の血のつながった姉ではなく、血のつながりのない親しい人の方が私の事をよく分かっている。
「来年にはもう高等部だね」
「ええ」
卒業式が終わって、ヒーナたちから言葉をかけられて――、その後、私はウーログと一緒に居た。カプラッド公爵家の王都の屋敷にウーログは来てくれていた。お姉様は家にいたけれど、私に何も言わなかった。いつも通りの生活をしている。
ウーログは乙女げぇむの事を把握しているただ一人の理解者だ。……お姉様をざまぁする準備は、もう大体整っている。あと一年もあるけれど、長い間進めてきたことだから。
「……ねぇ、ウーログ。デル兄様はヒーナに恋したわ」
「そういうところだけ何で乙女ゲームと一緒なんだろうね」
「さぁ、人の気持ちなんて分からないから。ただヒーナは良い子だわ。一生懸命で、貴族としての教養も備えてきている。きっともっと素敵な女性になるでしょうね」
ヒーナが良い子で、真っ直ぐだから――きっとデル兄様は恋をした。
昔はデル兄様はお姉様を愛していたと思う。お姉様が大好きで、お姉様の傍に居たいと思っていた。お姉様との未来を考えていた。その気持ちは徐々になくなっていった。……これはお姉様の心が離れ、お姉様が距離を置いた結果だ。
その乙女げぇむの世界では、”悪役令嬢アクノール・カプラッド”はデル兄様と距離を置くことはなかったらしい。お姉様のメモによると、お姉様はデル兄様を拠り所にして、デル兄様を特別に思っていた。だからこそ嫉妬して暴走していたらしい。
お姉様はそうならないように心がけていたのかもしれない。此処が乙女げぇむの世界だと信じているからこそ、そうならないようにしようとしていたのだと思う。
――本当にお姉様がそのころから此処と乙女げぇむを混同しなければよかったのに。
「イエルノ、ヒロインのことはどうするの?」
「私からは何もしないわ。ヒーナとデル兄様が上手く行くようにとか、そういうのはしないわ。ざまぁもヒーナを関わらせる気は今の所ないわよ。……まぁ、向こうから関わりたいっていうならともかく、今の所お姉様へのざまぁという茶番は、ちゃんと根回しをした者達の間だけで行う予定だもの。ざまぁの催しの事にも気づかないでしょう。お父様や陛下たちにはもう話を通しているから、後は本当に、ざまぁするだけ」
あと一年も経たないうちに、ざまぁは決行される。私の行う準備をお姉様は全く気付かない。ヒーナの言葉も相変わらず聞かない。
「でもそうね……、ヒーナがデル兄様と結ばれるなら、デル兄様は伯爵家に入るか、それとも家を興すことになるかのどちらかでしょうね。公爵家はラス兄様が継ぐし、お姉様は他の家に嫁ぐか、家にいるかになるだろうけど……。まぁ、お姉様が現実を見てくれるのならばどうにでも出来るわ。今の状態のお姉様は社交界に出すのも難しいもの」
「アクノール様の社交界が遅れているのは、そのせいだもんね。イエルノも社交界デビューはざまぁが終わってからするんでしょう?」
「ええ。その予定よ。ちゃんと、お姉様の事が終わってからがいいわ。まだ学園生活中か卒業してすぐぐらいなら社交界デビューには遅くないもの」
私の自慢の、私の大好きなお姉様。
私をちゃんと見てくれるお姉様と一緒に社交界デビューできたらきっと幸せだろう。
「――ウーログも、私と一緒に社交界デビューしてくれるのでしょう?」
「うん。僕はイエルノと一緒に社交界デビューしたいからね。イエルノの一番のハッピーエンドは、アクノール様をざまぁして、一緒に社交デビューすることでしょ? 僕はそのハッピーエンドを迎えさせたいからね」
大好きで、大嫌いなお姉様。
私にとって自慢で、大好きで、昔のことを思い出して心が温かくなって。
だけど、私の事を見てくれないから、大嫌い。
……そんなお姉様をざまぁして、お姉様と一緒に笑う。その未来は、私だけのハッピーエンドかもしれない。お姉様は乙女げぇむの世界から覚めたいなんて思ってないかもしれない。それでも私はお姉様をこの乙女げぇむの世界から覚めさせる。
「高等部に上がったらもう少しお姉様の動向も探れるわ。私がお姉様に話しかけるのもそこまで不自然でもない。どうせざまぁをするなら、もっと色んな事に根回しをして、お姉様がこの後生きやすいようにする必要がある。お姉様のおかしさはそれなりに広まっているけれど、学生の内だからこその過ちに抑えるようにするわ」
お姉様は私にとって予想外のこともするかもしれない。それでも私は、それを目指す事。それを中等部の卒業式に改めて決意した。
「高等部でも頑張ってください」
――中等部の卒業式。
お姉様は当然のようにやってこなかった。私に何一つ言葉を書けることもなかった。お姉様がそう言う人だと私は分かっているから、今更傷つきはしない。
お姉様は今、乙女げぇむの世界に必死だから。その世界のことしか目に入っていないから。
……私に、卒業おめでとうといってくれたのは、お姉様じゃなくヒーナやデル兄様、ラス兄様たちだった。
本当の血のつながった姉ではなく、血のつながりのない親しい人の方が私の事をよく分かっている。
「来年にはもう高等部だね」
「ええ」
卒業式が終わって、ヒーナたちから言葉をかけられて――、その後、私はウーログと一緒に居た。カプラッド公爵家の王都の屋敷にウーログは来てくれていた。お姉様は家にいたけれど、私に何も言わなかった。いつも通りの生活をしている。
ウーログは乙女げぇむの事を把握しているただ一人の理解者だ。……お姉様をざまぁする準備は、もう大体整っている。あと一年もあるけれど、長い間進めてきたことだから。
「……ねぇ、ウーログ。デル兄様はヒーナに恋したわ」
「そういうところだけ何で乙女ゲームと一緒なんだろうね」
「さぁ、人の気持ちなんて分からないから。ただヒーナは良い子だわ。一生懸命で、貴族としての教養も備えてきている。きっともっと素敵な女性になるでしょうね」
ヒーナが良い子で、真っ直ぐだから――きっとデル兄様は恋をした。
昔はデル兄様はお姉様を愛していたと思う。お姉様が大好きで、お姉様の傍に居たいと思っていた。お姉様との未来を考えていた。その気持ちは徐々になくなっていった。……これはお姉様の心が離れ、お姉様が距離を置いた結果だ。
その乙女げぇむの世界では、”悪役令嬢アクノール・カプラッド”はデル兄様と距離を置くことはなかったらしい。お姉様のメモによると、お姉様はデル兄様を拠り所にして、デル兄様を特別に思っていた。だからこそ嫉妬して暴走していたらしい。
お姉様はそうならないように心がけていたのかもしれない。此処が乙女げぇむの世界だと信じているからこそ、そうならないようにしようとしていたのだと思う。
――本当にお姉様がそのころから此処と乙女げぇむを混同しなければよかったのに。
「イエルノ、ヒロインのことはどうするの?」
「私からは何もしないわ。ヒーナとデル兄様が上手く行くようにとか、そういうのはしないわ。ざまぁもヒーナを関わらせる気は今の所ないわよ。……まぁ、向こうから関わりたいっていうならともかく、今の所お姉様へのざまぁという茶番は、ちゃんと根回しをした者達の間だけで行う予定だもの。ざまぁの催しの事にも気づかないでしょう。お父様や陛下たちにはもう話を通しているから、後は本当に、ざまぁするだけ」
あと一年も経たないうちに、ざまぁは決行される。私の行う準備をお姉様は全く気付かない。ヒーナの言葉も相変わらず聞かない。
「でもそうね……、ヒーナがデル兄様と結ばれるなら、デル兄様は伯爵家に入るか、それとも家を興すことになるかのどちらかでしょうね。公爵家はラス兄様が継ぐし、お姉様は他の家に嫁ぐか、家にいるかになるだろうけど……。まぁ、お姉様が現実を見てくれるのならばどうにでも出来るわ。今の状態のお姉様は社交界に出すのも難しいもの」
「アクノール様の社交界が遅れているのは、そのせいだもんね。イエルノも社交界デビューはざまぁが終わってからするんでしょう?」
「ええ。その予定よ。ちゃんと、お姉様の事が終わってからがいいわ。まだ学園生活中か卒業してすぐぐらいなら社交界デビューには遅くないもの」
私の自慢の、私の大好きなお姉様。
私をちゃんと見てくれるお姉様と一緒に社交界デビューできたらきっと幸せだろう。
「――ウーログも、私と一緒に社交界デビューしてくれるのでしょう?」
「うん。僕はイエルノと一緒に社交界デビューしたいからね。イエルノの一番のハッピーエンドは、アクノール様をざまぁして、一緒に社交デビューすることでしょ? 僕はそのハッピーエンドを迎えさせたいからね」
大好きで、大嫌いなお姉様。
私にとって自慢で、大好きで、昔のことを思い出して心が温かくなって。
だけど、私の事を見てくれないから、大嫌い。
……そんなお姉様をざまぁして、お姉様と一緒に笑う。その未来は、私だけのハッピーエンドかもしれない。お姉様は乙女げぇむの世界から覚めたいなんて思ってないかもしれない。それでも私はお姉様をこの乙女げぇむの世界から覚めさせる。
「高等部に上がったらもう少しお姉様の動向も探れるわ。私がお姉様に話しかけるのもそこまで不自然でもない。どうせざまぁをするなら、もっと色んな事に根回しをして、お姉様がこの後生きやすいようにする必要がある。お姉様のおかしさはそれなりに広まっているけれど、学生の内だからこその過ちに抑えるようにするわ」
お姉様は私にとって予想外のこともするかもしれない。それでも私は、それを目指す事。それを中等部の卒業式に改めて決意した。
0
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです
ふわふわ
恋愛
王太子ユリウスは、王立学園の卒業舞踏会で突然宣言した。
「カリスタ・ヴァレリオンとの婚約を破棄する!」
隣には涙を流す義妹ルミレア。
彼女は「姉に虐げられてきた可哀想な令嬢」を演じ、王太子はそれを信じてしまう。
だが――王太子は知らなかった。
ヴァレリオン公爵家が
王国銀行の資金、港湾会社の株式、商人組合の信用保証――
王国経済の中枢を支える契約のほとんどを握っていたことを。
婚約破棄と同時に、カリスタは静かに言った。
「では契約を終了いたします」
その瞬間、王国の歯車は止まり始める。
港は停止。
銀行は資金不足。
商人は取引停止。
そしてついに――
王宮大広間で王太子の公開断罪が始まる。
「私は悪くない!」
「騙されたんだ!」
見苦しく喚き暴れる王太子は、衛兵に取り押さえられ、床を引きずられるようにして連行されていく。
王太子、義妹、義父母。
すべてが破滅したとき、カリスタはただ静かに告げる。
「契約は終わりました」
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる