私は大好きなお姉様をざまぁする

池中織奈

文字の大きさ
58 / 60

何故、妹は姉をざまぁするに至ったか57

しおりを挟む
「イエルノ……、どうして」
「お姉様は馬鹿ですね。馬鹿なお姉様……。私はお姉様のこと、大好きよ。でも――大嫌いよ」
「……イ、イエルノ?」
 ああ、もう馬鹿なお姉様。
 まったく此処まで来ても私の言葉を理解出来ないといった様子のお姉様に私は笑ってしまう。
「――ねぇ、お姉様。お姉様は私の事を全く見ていないでしょう。私が何を好きか、私が何を思っていたか。私が……どうしてお姉様を大嫌いなのか。それも全く考えてこなかったでしょう。――だから、お姉様、お話しましょう」
「え……えっと」
 お姉様はうろたえている。
 お姉様は乙女げぇむという思い込みが崩れてきている。ざまぁという衝撃で、私がまさかこんなことをするなんて思っていなかったからこそ――お姉様は私をようやく見てくれている。
「……いいから行きましょう。お姉様。私の事をちゃんと見て、私の事をちゃんと考えてください。お姉様を大好きで、大嫌いな私の話をちゃんと聞いてください。”今のお姉様”なら私の言うことをきいてくれますよね?」
 お姉様は私の視線が怖かったのか、こくこくと頷く。
 その表情は怯えがある。……お姉様が私をこんな風に見てくれるなんて、ゾクゾクする。だって今までお姉様は私を取るに取らない存在と思っていたから。
「では――皆さま、私とお姉様はこれで失礼します。皆さま、此処までの協力を感謝いたします。皆さま本来のパーティーに参加していただければと思います。また、感謝の品はまた後日お渡しいたしますわ」
 私はそう言ってカッテシーをして、混乱した表情のお姉様を連れてその場を後にする。デル兄様に視線を向ければ、デル兄様は頷いてくれていた。
 ――あとは任せた、とでもいう風に。
 デル兄様の心がまだお姉様にあって、お姉様との婚約を続けていくつもりならば――、このままデル兄様は一緒に来ただろう。だけどもうデル兄様とお姉様の間には深い溝が出来ている。――だからこそ、デル兄様はこのままヒーナと共に居る。
 多分、告白でもそのままするのではないかな。
 ありがとうの気持ちを込めて、デル兄様にお辞儀をした。デル兄様との、義理の兄妹のような関係もこれで途切れる。……私とデル兄様の仲が崩れるわけではないけれど、これで完全にデル兄様とお姉様の婚約関係は無くなったのだ。




 お姉様を連れて向かったのは空き部屋である。



 此処は教師の方に話を通して取ってもらっている。ちなみにウーログとラス兄様も一緒に此処にいてくれている。ラス兄様に関してはお姉様がこのような状況になっても、お姉様が何かやらかすのではないかという不安からここに来たらしい。
 ……ラス兄様はおかしくなってからのお姉様しか知らない。
 お母様が亡くなる前の、優しくて自慢だったお姉様を知らないからだ。ラス兄様にとってずっとお姉様はおかしな人だったからだろう。お姉様がちゃんと現実を見てくれるようになって、ラス兄様とも仲良くなれたらいいのにと思う。それはラス兄様とお姉様次第だけど。
 私はお姉様に視線を向ける。
 椅子に座り込んだお姉様の身体は震えている。
「さて、改めましてお姉様、何が起こっているかわかりますか?」
 お姉様は首を横に振る。
「――お姉様は私にざまぁされました。私が全部整えました。お姉様は……衝撃を与えれば今の状態になると思ったから。良かったです。今のお姉様は私の話をちゃんと聞いてくれて」
「……ざまぁって、イエルノは、私と一緒?」
「いいえ、違います。私はそのお姉様が思い込んでいた世界の事を正しく知っているわけではありません。ただ私の婚約者はお姉様と同じでした。だから……お姉様のノートを見て、私はお姉様が何故こうなったのかを理解しました」
 お姉様は「婚約者……?」と呟いてウーログの姿をその目に捕らえる。
 ウーログの事が今まで視界に入っていなかったらしい。本当にお姉様は、仕方がないほど馬鹿だ。
「アクノール様、俺はウーログ・カイドィシェフですよ。イエルノの婚約者の。アクノール様にとっては俺の事なんて全く視界には入っていなかったかもしれませんが……、俺はイエルノと一緒に貴方を見てましたよ。俺のことも、イエルノのことも、そしてラスタ様のことも、全員見ていないからこの状況に陥っているのはわかりますか? ラスタ様なんて俺がびっくりするぐらい貴方を警戒している」
「……え」
 ウーログの言葉を聞いて、お姉様は驚いたようにラス兄様を見る。ラス兄様は、睨みつけるような鋭い眼光で、お姉様を見ていた。お姉様が怯えたような表情をする。
 ああ、もう本当にお姉様は私たちのことなど何一つ見ていなかったのだ。何一つ見ていなかったからこそ、何でラス兄様にこんな表情を向けられるか分かっていない。
 お姉様の頭の中では、ラス兄様とも仲良く付き合っていたつもりらしいし……。本当にどういう思い込みだったのだろうか。
「ラ、ラスタ」
「……アクノール様。貴方は本当に、イエルノが言うように全く今まで俺のことも見ていなかったんですね。よく分からない事ばかり言っていて、俺やイエルノがどんな態度を取っても何かにとりつかれたように行動を改めなかった貴方がこんな態度を俺に向けていることに俺は驚いています」
 ラス兄様の言葉に、意味が分からないといった様子を見せるお姉様。ラス兄様は、お姉様に対して良い感情何て欠片もないのだ。それこそヒーナが言っていたようにラス兄様の姿こそ、本当にお姉様に一欠けらも心を砕いていない姿なのだろう。
「貴方は最初から俺に対しての様子がおかしかった。俺のことを見ていないのに、俺のことを知っている様子を見せた。そしてイエルノに対してもそうだ。貴方の中にあるイエルノしか見ていなくて、実際に目の前にいるイエルノの事を貴方は見ていなかった。
 ――俺は、イエルノやウーログと違って、貴方がどうしてそんな風になっていたのかも、何故今になって俺のことをちゃんと見るようになっているかもー―分からない。それに知りたくもない。けど……イエルノはずっと貴方を見てましたよ。貴方が自分の事を見ていなくても、ずっとイエルノは貴方の事を見ていたんだ」
 ラス兄様は、そう言ってお姉様の目を真っ直ぐに見ていた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです

ふわふわ
恋愛
王太子ユリウスは、王立学園の卒業舞踏会で突然宣言した。 「カリスタ・ヴァレリオンとの婚約を破棄する!」 隣には涙を流す義妹ルミレア。 彼女は「姉に虐げられてきた可哀想な令嬢」を演じ、王太子はそれを信じてしまう。 だが――王太子は知らなかった。 ヴァレリオン公爵家が 王国銀行の資金、港湾会社の株式、商人組合の信用保証―― 王国経済の中枢を支える契約のほとんどを握っていたことを。 婚約破棄と同時に、カリスタは静かに言った。 「では契約を終了いたします」 その瞬間、王国の歯車は止まり始める。 港は停止。 銀行は資金不足。 商人は取引停止。 そしてついに―― 王宮大広間で王太子の公開断罪が始まる。 「私は悪くない!」 「騙されたんだ!」 見苦しく喚き暴れる王太子は、衛兵に取り押さえられ、床を引きずられるようにして連行されていく。 王太子、義妹、義父母。 すべてが破滅したとき、カリスタはただ静かに告げる。 「契約は終わりました」

処理中です...