22 / 31
第一部
22.手羽中のさっぱり煮
しおりを挟む
セレスティノとセックスをした翌朝、腰と股関節が若干痛かったのと尻の穴が違和感ばちばちだったのを除けばまあ元気だった。
もっとこう、生まれたての子鹿みたいなことになるかと不安になっていたけれど勝臣の体は思いの外頑丈らしかった。
それともセレスティノが手加減してくれたかだ。
まあ多分そうなんだろうなぁと思いながら勝臣はセレスティノと並んでソファに座ってテレビを見ている。
朝食は済ませた。今は朝のニュースを見ながら昼ごはんをどうするか考えているところだった。
あっさりしたものが食べたいな、と思う。セレスティノの大きなもので腹の奥を突かれ続けたからか食欲が今ひとつなくてセレスティノにはいつも通りトーストを食べさせたが自分は昨日の残りのミートソースパスタを温め直してもそもそと食べただけだ。
そうだ、と思う。手羽中を煮よう、と思った。
久しぶりに作るけどあれは簡単でいい。材料を入れてひたすら煮るだけなのだから。
煮込むのに時間はかかるがどうせ頭の中はぼーっとしているのだ。ちょうどいい。
「買い物行くか」
「大丈夫?」
「うん。もうそんなに痛くない」
「俺ひとりで行ってこようか?」
心配そうに言うセレスティノにばか、と肘鉄を喰らわせた。
「一緒に行ったほうが楽しいだろ」
「……うん」
セレスティノは幸せそうに笑った。
スーパーに着くとまず玉ねぎをカゴに入れた。あとはサラダの材料と手羽中をふたパック。
ポン酢も少なくなってたからカゴに入れる。にんにくと生姜のチューブは……にんにくはあるな。生姜だけ買おう。
買い物を終えてマンションに帰る。時間は十一時少し前。ちょうどいいな、と勝臣はまずエプロンを付けて手を洗って米を研いで早炊きでセットした。
まずは鍋の中に手羽中を入れてそこににんにくチューブすこしと生姜チューブを多めに。
玉ねぎもざくざくと切って鍋にバラしていれる。
そこにポン酢をだばばーっと注いで同じくらいの量の水で割る。
それを火にかけてあとはひたすら煮る。
吹き出ないように気をつけながら火加減を見て、その間にセレスティノがサラダを準備する。
鍋はアクが出るのでそれをこまめに取りながら味を見る。目分量で入れているのでちょっと味が濃いかもしれない。うん、やっぱりちょっと濃い。水を足す。
ある程度アクを取ったらあとは放置。アクは取りすぎても良くないとなにかで読んだ。
火を中火にしてセレスティノを見る。
「ディーノ、ちょっと任せていいか?あと三十分は煮るから」
「うん、いいよ」
「ちょっと電話してくる」
セレスティノにその場を任せて寝室に引っ込んだ。
スマートフォンをタップしてひとつの番号を呼び出す。多分使うことはないだろうと思っていた番号だ。
「……あ、佐々木です。お久しぶりです。あの、変な話ししていいですか。あの、夢を見たんです。航さんの。航さん、こう言ってました。居場所は言えないけど幸せでいるよって。でも、お母さんの和風ロールキャベツが食べれないのが寂しいって」
電話の先の相手は泣き出してしまった。航です、それは絶対に航です。そう泣いていた。
うちのロールキャベツが和風だなんて知っているのはうちの家族だけですから、と彼女は泣きながら笑って、幸せでいるのならいいんです、ありがとうございますと言った。
「こんな不確かな夢なんかで申し訳ないんですけど、何かの運命かと思いまして」
彼女は何度もありがとうございますと繰り返してまた何かあったら教えてください、と通話を終えた。
「……」
これで少しは安心してもらえるだろうか。こちらの都合で伝えるのが遅くなって申し訳ないと思う反面、もうこんなのはごめんだと思った。
子供を失った親の傷はいつまでも癒えないのだろう。きっと、セレスティノの親も今頃心配している。
いつか自分が死ぬときになって、そのときにも姿を表さない息子の存在を親はどう思うのだろう。薄情だと思うのだろうか。そうではないのだとどうにか知らせることはできないのだろうか。航が勝臣を使って親に言付けを頼んだように、セレスティノも航を介してなにか伝えられないだろうか。
久しぶりに航に会いたいと思った。
通話を終えてキッチンに戻るとセレスティノが鍋と向かい合っていた。
「だいぶ煮えたか?」
「わかんない。玉ねぎはくたくたになってきた」
「ん-」
セレスティノから菜箸を受け取って鍋をかき混ぜる。振り返って炊飯器を見るとあと五分もせず炊けそうだった。
「飯炊けたらこっちもどんぶりに上げるか」
「了解」
茶碗を出したりサラダを運んだりしているうちにご飯が炊けた。
「ディーノ、ご飯任せた」
「あいさ」
どんぶりによく煮込まれた手羽中と玉ねぎをたっぷり盛り付けて汁もたっぷり注ぐ。
「よし食うぞ!」
「はーい!」
エプロンを外してローテーブルの前に座る。
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせていただきますをしたらとんすいに手羽中と玉ねぎを取り分ける。
手羽中は手で豪快にかぶりつく。
「あちち」
掴む指先も熱いがかじる口も熱い。はふはふしながら肉を骨からかじり取っていく。
よく煮込まれた手羽中は軟骨も美味い。きれいに食べたらティッシュで手を拭いて今度はご飯だ。
くたくたに煮込まれた玉ねぎをご飯に乗せて一緒にかっこむ。ポン酢のさっぱりとした味とくたくた玉ねぎの甘みがこれまたご飯の甘みと相まって酸っぱ甘い感じがとても美味しい。ご飯が進む。
「汁かけよ」
「あ、俺もやるー」
れんげで汁を掬ってご飯にかけてかきこむ。すっぱうまい。生姜とにんにくがいい味を出している。
手羽中の一本、玉ねぎの一欠片も残さず食べていただきましたをして。
「はー美味しかった」
「美味かったな」
するとセレスティノが茶碗を集めて立ち上がった。
「今日は俺がひとりで片付けるよ。兄さんはテレビでも見てて」
「大丈夫か?」
「大丈夫。兄さんこそ体労ってよ」
「おー、じゃあそうするわ」
ソファに座って洗い物を始めたセレスティノを見つめる。
「兄さん、そんなに見られると恥ずかしいよ」
「いやあいい男だなって思って」
「兄さんはかわいいよ」
「そこはいい男って言ってほしかった」
「ごめん、俺ってほら、素直だから」
「自分で言うな」
軽口を叩き合って笑い合って。今日もごちそうさまでした。
もっとこう、生まれたての子鹿みたいなことになるかと不安になっていたけれど勝臣の体は思いの外頑丈らしかった。
それともセレスティノが手加減してくれたかだ。
まあ多分そうなんだろうなぁと思いながら勝臣はセレスティノと並んでソファに座ってテレビを見ている。
朝食は済ませた。今は朝のニュースを見ながら昼ごはんをどうするか考えているところだった。
あっさりしたものが食べたいな、と思う。セレスティノの大きなもので腹の奥を突かれ続けたからか食欲が今ひとつなくてセレスティノにはいつも通りトーストを食べさせたが自分は昨日の残りのミートソースパスタを温め直してもそもそと食べただけだ。
そうだ、と思う。手羽中を煮よう、と思った。
久しぶりに作るけどあれは簡単でいい。材料を入れてひたすら煮るだけなのだから。
煮込むのに時間はかかるがどうせ頭の中はぼーっとしているのだ。ちょうどいい。
「買い物行くか」
「大丈夫?」
「うん。もうそんなに痛くない」
「俺ひとりで行ってこようか?」
心配そうに言うセレスティノにばか、と肘鉄を喰らわせた。
「一緒に行ったほうが楽しいだろ」
「……うん」
セレスティノは幸せそうに笑った。
スーパーに着くとまず玉ねぎをカゴに入れた。あとはサラダの材料と手羽中をふたパック。
ポン酢も少なくなってたからカゴに入れる。にんにくと生姜のチューブは……にんにくはあるな。生姜だけ買おう。
買い物を終えてマンションに帰る。時間は十一時少し前。ちょうどいいな、と勝臣はまずエプロンを付けて手を洗って米を研いで早炊きでセットした。
まずは鍋の中に手羽中を入れてそこににんにくチューブすこしと生姜チューブを多めに。
玉ねぎもざくざくと切って鍋にバラしていれる。
そこにポン酢をだばばーっと注いで同じくらいの量の水で割る。
それを火にかけてあとはひたすら煮る。
吹き出ないように気をつけながら火加減を見て、その間にセレスティノがサラダを準備する。
鍋はアクが出るのでそれをこまめに取りながら味を見る。目分量で入れているのでちょっと味が濃いかもしれない。うん、やっぱりちょっと濃い。水を足す。
ある程度アクを取ったらあとは放置。アクは取りすぎても良くないとなにかで読んだ。
火を中火にしてセレスティノを見る。
「ディーノ、ちょっと任せていいか?あと三十分は煮るから」
「うん、いいよ」
「ちょっと電話してくる」
セレスティノにその場を任せて寝室に引っ込んだ。
スマートフォンをタップしてひとつの番号を呼び出す。多分使うことはないだろうと思っていた番号だ。
「……あ、佐々木です。お久しぶりです。あの、変な話ししていいですか。あの、夢を見たんです。航さんの。航さん、こう言ってました。居場所は言えないけど幸せでいるよって。でも、お母さんの和風ロールキャベツが食べれないのが寂しいって」
電話の先の相手は泣き出してしまった。航です、それは絶対に航です。そう泣いていた。
うちのロールキャベツが和風だなんて知っているのはうちの家族だけですから、と彼女は泣きながら笑って、幸せでいるのならいいんです、ありがとうございますと言った。
「こんな不確かな夢なんかで申し訳ないんですけど、何かの運命かと思いまして」
彼女は何度もありがとうございますと繰り返してまた何かあったら教えてください、と通話を終えた。
「……」
これで少しは安心してもらえるだろうか。こちらの都合で伝えるのが遅くなって申し訳ないと思う反面、もうこんなのはごめんだと思った。
子供を失った親の傷はいつまでも癒えないのだろう。きっと、セレスティノの親も今頃心配している。
いつか自分が死ぬときになって、そのときにも姿を表さない息子の存在を親はどう思うのだろう。薄情だと思うのだろうか。そうではないのだとどうにか知らせることはできないのだろうか。航が勝臣を使って親に言付けを頼んだように、セレスティノも航を介してなにか伝えられないだろうか。
久しぶりに航に会いたいと思った。
通話を終えてキッチンに戻るとセレスティノが鍋と向かい合っていた。
「だいぶ煮えたか?」
「わかんない。玉ねぎはくたくたになってきた」
「ん-」
セレスティノから菜箸を受け取って鍋をかき混ぜる。振り返って炊飯器を見るとあと五分もせず炊けそうだった。
「飯炊けたらこっちもどんぶりに上げるか」
「了解」
茶碗を出したりサラダを運んだりしているうちにご飯が炊けた。
「ディーノ、ご飯任せた」
「あいさ」
どんぶりによく煮込まれた手羽中と玉ねぎをたっぷり盛り付けて汁もたっぷり注ぐ。
「よし食うぞ!」
「はーい!」
エプロンを外してローテーブルの前に座る。
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせていただきますをしたらとんすいに手羽中と玉ねぎを取り分ける。
手羽中は手で豪快にかぶりつく。
「あちち」
掴む指先も熱いがかじる口も熱い。はふはふしながら肉を骨からかじり取っていく。
よく煮込まれた手羽中は軟骨も美味い。きれいに食べたらティッシュで手を拭いて今度はご飯だ。
くたくたに煮込まれた玉ねぎをご飯に乗せて一緒にかっこむ。ポン酢のさっぱりとした味とくたくた玉ねぎの甘みがこれまたご飯の甘みと相まって酸っぱ甘い感じがとても美味しい。ご飯が進む。
「汁かけよ」
「あ、俺もやるー」
れんげで汁を掬ってご飯にかけてかきこむ。すっぱうまい。生姜とにんにくがいい味を出している。
手羽中の一本、玉ねぎの一欠片も残さず食べていただきましたをして。
「はー美味しかった」
「美味かったな」
するとセレスティノが茶碗を集めて立ち上がった。
「今日は俺がひとりで片付けるよ。兄さんはテレビでも見てて」
「大丈夫か?」
「大丈夫。兄さんこそ体労ってよ」
「おー、じゃあそうするわ」
ソファに座って洗い物を始めたセレスティノを見つめる。
「兄さん、そんなに見られると恥ずかしいよ」
「いやあいい男だなって思って」
「兄さんはかわいいよ」
「そこはいい男って言ってほしかった」
「ごめん、俺ってほら、素直だから」
「自分で言うな」
軽口を叩き合って笑い合って。今日もごちそうさまでした。
0
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる