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アルベニーニョはすべてを敬介に話した。
黒の魔石を持つものは童貞のまま処女を失うことで創世神となれること。
その相手役としてアルベニーニョが選ばれたこと。
アルベニーニョが拒否すれば他の男があてがわれるはずだったこと。
完全に創世神となってしまえば帝国に利用されるだけだったということ。
それを防ぐために番の契約を結んだこと。
けれどそれは仕方なくではなく、アルベニーニョが結びたかったから、帝国に敬介を渡したくなかったからなのだと言った。
そして今、恐らく敬介は創世神としての力だけ手に入れた状態であること。
「ここまでは大丈夫ですか」
「うん……」
夜着をかけられながら語られたそれに敬介はうなずく。
「でも何か体が変わったっていう感じはしないけど……」
「額の魔石が虹色に変わっています。虹色は創世神の証ですから」
「これが……」
敬介は己の額のそれに手を当てる。ほんのりと温かい。
「それでこれからのことなんですが……突飛なことを言ってもいいですか」
「うん、いいよ」
「天空に城を築きませんか」
敬介はアルベニーニョを信頼していたから大抵申し出は受け入れるつもりだったがあまりのことにきょとんとしてしまった。
「天空に?」
「はい。今までの魔王のように城を建ててそこで暮らしてもいいと思ったのですが地続きに城を建てては攻めてこられます。なので天空に作ったらどうかと」
あなたの力ならそれは可能だと思います、と言われてはあ、と敬介は目を丸くする。
「本当に突飛なことを考えるね」
「もうそれしか無いかなと思いまして」
「食料とかはどうするの?」
「魔法で生み出せると思います。創生の力は無から有を生み出す力ですから。天空に城を作り、周りを結界で覆って日の強さや空気の濃さを調整します」
「できなかったら?」
「あなたは悪くは扱われないと思いますが私は捕らえられて処刑されるでしょう」
「処刑……」
「命令に背いてあなたを番にしたんですから当然です。私が死ねば番は解消されます。そうすれば恐らくあなたは完全なる創世神となる。帝国の思うままです」
「それは、嫌だね」
「どうか、私を選んでくれませんか」
差し伸べられた手を敬介はじっと見て、そしてアルべニーニョの顔を見て微笑んだ。
「もちろん」
そっと手が重なった。
「ならば夜の明けぬうちにことを成しましょう。今夜私があなたを抱くことは上も知っています。夜が明けたら兵士がやってくるでしょう」
「分かった。私たちの幸せのために、成そう」
「ありがとうございます」
アルべニーニョが敬介を抱き寄せると、敬介もまたアルべニーニョを抱きしめたのだった。
夜が明けて、宰相が近衛兵を伴って敬介にあてがった部屋へ向かうと中はもぬけの殻だった。
そして窓から見えたその光景に一同は驚愕に目を見開いた。
空に、巨大な何かが浮かんでいた。
ここからでは底の部分しか見えず何なのかわからない。
慌てて魔法兵を呼び出して透視させた。
するとそれは巨大な城だということがわかった。
玉座には額に虹色の魔石を輝かせた敬介が座り、傍らにはアルべニーニョが控えている。
宰相はそれで全てを理解した。アルべニーニョに謀られたのだと。
途端、脳内に声が響いた。
「私たちはここで幸せに暮らしますので手出し無用です。余計なことをしてきた場合はそれ相応の対応をとらせてもらいますのでよろしくお願いします」
口調は丁寧だったが有無を言わさぬ語気であった。それ以降透視魔法も効かなくなる。
宰相は負けを認めざるを得なかったのである。
「これで良かった?」
玉座でふうとため息を吐いた敬介にアルべニーニョはええ、と微笑みかけた。
「あとひとつ、お願いをしてもいいですか」
「なぁに?」
「あなたの血を分けて欲しいのです」
「血を?なにするの?」
「飲みます」
飲む、の言葉に敬介はぎょっとしたようだった。
「飲むの?」
「ええ、あなたは創世神ですからもう年は取りません。このままでは私はあなたをひとりにしてしまう。それを防ぐために」
「えっと、血を飲むと不老不死になるとかそういうの?」
そういうことです、とアルべニーニョは笑った。
「ええと、どうやってあげればいいのかな」
「どちらでもいいので親指を貸してもらえますか。そこに歯を立てます」
「い、痛いよね?」
「すみません、こればかりは」
苦笑すると敬介はわかった、と震える手を差し出してきた。
左の手を借りてアルべニーニョはその親指の腹に牙を立てた。
「っ」
びくりと敬介の体が震える。牙を抜いてそこを舐めるとじわ、と鉄錆臭い味が口内に広がった。
じゅるっとそれを吸って飲み込む。
アルべニーニョの額がかあっと熱くなってばくんっとそこに縦長の目のようなものが出来た。
「ア、アリー!額に……!」
驚く敬介とは裏腹にアルべニーニョはどこまでも冷静に唇を指から離してぱちんと指を鳴らした。
すると途端に指の傷が癒えた。
「え、アリー、魔法……」
アルべニーニョは額の新しく生まれた目に手をやってこれは天眼です、と答えた。
「創世神に認められた証です。基本的には魔石と同じですが千里眼の効果もあります」
だから魔法が使えるようになったんです、とアルべニーニョは微笑んだ。
「使わないときは閉じてもいられます」
そう言うと天眼が閉じてよく見ないとそこに切れ目があるとはわからなくなってしまう。
「アリーはどうしてそんなに詳しいの?それがふつう?」
いいえ、と彼は笑う。
「私は仮にも王の甥ですから王族の図書館に出入りできたのです。そこの禁書を片っ端から読んで得た知識ですよ」
王族にも関わらず獣人だった私にとって無知は致命傷でしたから、と彼の幼い頃が垣間見えることをアルべニーニョは苦々しげに語った。
「でもそのおかげであなたを手に入れられた。私はもう、それで良いんです」
アルべニーニョは敬介の手の甲にちゅっと口付けた。
敬介はそれを穏やかな気持ちで受け入れたのだった。
黒の魔石を持つものは童貞のまま処女を失うことで創世神となれること。
その相手役としてアルベニーニョが選ばれたこと。
アルベニーニョが拒否すれば他の男があてがわれるはずだったこと。
完全に創世神となってしまえば帝国に利用されるだけだったということ。
それを防ぐために番の契約を結んだこと。
けれどそれは仕方なくではなく、アルベニーニョが結びたかったから、帝国に敬介を渡したくなかったからなのだと言った。
そして今、恐らく敬介は創世神としての力だけ手に入れた状態であること。
「ここまでは大丈夫ですか」
「うん……」
夜着をかけられながら語られたそれに敬介はうなずく。
「でも何か体が変わったっていう感じはしないけど……」
「額の魔石が虹色に変わっています。虹色は創世神の証ですから」
「これが……」
敬介は己の額のそれに手を当てる。ほんのりと温かい。
「それでこれからのことなんですが……突飛なことを言ってもいいですか」
「うん、いいよ」
「天空に城を築きませんか」
敬介はアルベニーニョを信頼していたから大抵申し出は受け入れるつもりだったがあまりのことにきょとんとしてしまった。
「天空に?」
「はい。今までの魔王のように城を建ててそこで暮らしてもいいと思ったのですが地続きに城を建てては攻めてこられます。なので天空に作ったらどうかと」
あなたの力ならそれは可能だと思います、と言われてはあ、と敬介は目を丸くする。
「本当に突飛なことを考えるね」
「もうそれしか無いかなと思いまして」
「食料とかはどうするの?」
「魔法で生み出せると思います。創生の力は無から有を生み出す力ですから。天空に城を作り、周りを結界で覆って日の強さや空気の濃さを調整します」
「できなかったら?」
「あなたは悪くは扱われないと思いますが私は捕らえられて処刑されるでしょう」
「処刑……」
「命令に背いてあなたを番にしたんですから当然です。私が死ねば番は解消されます。そうすれば恐らくあなたは完全なる創世神となる。帝国の思うままです」
「それは、嫌だね」
「どうか、私を選んでくれませんか」
差し伸べられた手を敬介はじっと見て、そしてアルべニーニョの顔を見て微笑んだ。
「もちろん」
そっと手が重なった。
「ならば夜の明けぬうちにことを成しましょう。今夜私があなたを抱くことは上も知っています。夜が明けたら兵士がやってくるでしょう」
「分かった。私たちの幸せのために、成そう」
「ありがとうございます」
アルべニーニョが敬介を抱き寄せると、敬介もまたアルべニーニョを抱きしめたのだった。
夜が明けて、宰相が近衛兵を伴って敬介にあてがった部屋へ向かうと中はもぬけの殻だった。
そして窓から見えたその光景に一同は驚愕に目を見開いた。
空に、巨大な何かが浮かんでいた。
ここからでは底の部分しか見えず何なのかわからない。
慌てて魔法兵を呼び出して透視させた。
するとそれは巨大な城だということがわかった。
玉座には額に虹色の魔石を輝かせた敬介が座り、傍らにはアルべニーニョが控えている。
宰相はそれで全てを理解した。アルべニーニョに謀られたのだと。
途端、脳内に声が響いた。
「私たちはここで幸せに暮らしますので手出し無用です。余計なことをしてきた場合はそれ相応の対応をとらせてもらいますのでよろしくお願いします」
口調は丁寧だったが有無を言わさぬ語気であった。それ以降透視魔法も効かなくなる。
宰相は負けを認めざるを得なかったのである。
「これで良かった?」
玉座でふうとため息を吐いた敬介にアルべニーニョはええ、と微笑みかけた。
「あとひとつ、お願いをしてもいいですか」
「なぁに?」
「あなたの血を分けて欲しいのです」
「血を?なにするの?」
「飲みます」
飲む、の言葉に敬介はぎょっとしたようだった。
「飲むの?」
「ええ、あなたは創世神ですからもう年は取りません。このままでは私はあなたをひとりにしてしまう。それを防ぐために」
「えっと、血を飲むと不老不死になるとかそういうの?」
そういうことです、とアルべニーニョは笑った。
「ええと、どうやってあげればいいのかな」
「どちらでもいいので親指を貸してもらえますか。そこに歯を立てます」
「い、痛いよね?」
「すみません、こればかりは」
苦笑すると敬介はわかった、と震える手を差し出してきた。
左の手を借りてアルべニーニョはその親指の腹に牙を立てた。
「っ」
びくりと敬介の体が震える。牙を抜いてそこを舐めるとじわ、と鉄錆臭い味が口内に広がった。
じゅるっとそれを吸って飲み込む。
アルべニーニョの額がかあっと熱くなってばくんっとそこに縦長の目のようなものが出来た。
「ア、アリー!額に……!」
驚く敬介とは裏腹にアルべニーニョはどこまでも冷静に唇を指から離してぱちんと指を鳴らした。
すると途端に指の傷が癒えた。
「え、アリー、魔法……」
アルべニーニョは額の新しく生まれた目に手をやってこれは天眼です、と答えた。
「創世神に認められた証です。基本的には魔石と同じですが千里眼の効果もあります」
だから魔法が使えるようになったんです、とアルべニーニョは微笑んだ。
「使わないときは閉じてもいられます」
そう言うと天眼が閉じてよく見ないとそこに切れ目があるとはわからなくなってしまう。
「アリーはどうしてそんなに詳しいの?それがふつう?」
いいえ、と彼は笑う。
「私は仮にも王の甥ですから王族の図書館に出入りできたのです。そこの禁書を片っ端から読んで得た知識ですよ」
王族にも関わらず獣人だった私にとって無知は致命傷でしたから、と彼の幼い頃が垣間見えることをアルべニーニョは苦々しげに語った。
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