三十歳童貞で魔法使いになれるなら五十歳童貞は魔王になれる~実は創世神だそうです~

高槻桂

文字の大きさ
12 / 20

12

しおりを挟む
 アルベニーニョはすべてを敬介に話した。
 黒の魔石を持つものは童貞のまま処女を失うことで創世神となれること。
 その相手役としてアルベニーニョが選ばれたこと。
 アルベニーニョが拒否すれば他の男があてがわれるはずだったこと。

 完全に創世神となってしまえば帝国に利用されるだけだったということ。
 それを防ぐために番の契約を結んだこと。
 けれどそれは仕方なくではなく、アルベニーニョが結びたかったから、帝国に敬介を渡したくなかったからなのだと言った。
 そして今、恐らく敬介は創世神としての力だけ手に入れた状態であること。

「ここまでは大丈夫ですか」
「うん……」

 夜着をかけられながら語られたそれに敬介はうなずく。

「でも何か体が変わったっていう感じはしないけど……」
「額の魔石が虹色に変わっています。虹色は創世神の証ですから」
「これが……」

 敬介は己の額のそれに手を当てる。ほんのりと温かい。

「それでこれからのことなんですが……突飛なことを言ってもいいですか」
「うん、いいよ」
「天空に城を築きませんか」

 敬介はアルベニーニョを信頼していたから大抵申し出は受け入れるつもりだったがあまりのことにきょとんとしてしまった。

「天空に?」
「はい。今までの魔王のように城を建ててそこで暮らしてもいいと思ったのですが地続きに城を建てては攻めてこられます。なので天空に作ったらどうかと」

 あなたの力ならそれは可能だと思います、と言われてはあ、と敬介は目を丸くする。

「本当に突飛なことを考えるね」
「もうそれしか無いかなと思いまして」
「食料とかはどうするの?」
「魔法で生み出せると思います。創生の力は無から有を生み出す力ですから。天空に城を作り、周りを結界で覆って日の強さや空気の濃さを調整します」
「できなかったら?」

「あなたは悪くは扱われないと思いますが私は捕らえられて処刑されるでしょう」
「処刑……」
「命令に背いてあなたを番にしたんですから当然です。私が死ねば番は解消されます。そうすれば恐らくあなたは完全なる創世神となる。帝国の思うままです」
「それは、嫌だね」
「どうか、私を選んでくれませんか」

 差し伸べられた手を敬介はじっと見て、そしてアルべニーニョの顔を見て微笑んだ。

「もちろん」

 そっと手が重なった。

「ならば夜の明けぬうちにことを成しましょう。今夜私があなたを抱くことは上も知っています。夜が明けたら兵士がやってくるでしょう」
「分かった。私たちの幸せのために、成そう」
「ありがとうございます」

 アルべニーニョが敬介を抱き寄せると、敬介もまたアルべニーニョを抱きしめたのだった。


 夜が明けて、宰相が近衛兵を伴って敬介にあてがった部屋へ向かうと中はもぬけの殻だった。
 そして窓から見えたその光景に一同は驚愕に目を見開いた。
 空に、巨大な何かが浮かんでいた。
 ここからでは底の部分しか見えず何なのかわからない。
 慌てて魔法兵を呼び出して透視させた。

 するとそれは巨大な城だということがわかった。
 玉座には額に虹色の魔石を輝かせた敬介が座り、傍らにはアルべニーニョが控えている。
 宰相はそれで全てを理解した。アルべニーニョに謀られたのだと。
 途端、脳内に声が響いた。

「私たちはここで幸せに暮らしますので手出し無用です。余計なことをしてきた場合はそれ相応の対応をとらせてもらいますのでよろしくお願いします」

 口調は丁寧だったが有無を言わさぬ語気であった。それ以降透視魔法も効かなくなる。
 宰相は負けを認めざるを得なかったのである。


「これで良かった?」

 玉座でふうとため息を吐いた敬介にアルべニーニョはええ、と微笑みかけた。

「あとひとつ、お願いをしてもいいですか」
「なぁに?」
「あなたの血を分けて欲しいのです」
「血を?なにするの?」
「飲みます」

 飲む、の言葉に敬介はぎょっとしたようだった。

「飲むの?」
「ええ、あなたは創世神ですからもう年は取りません。このままでは私はあなたをひとりにしてしまう。それを防ぐために」
「えっと、血を飲むと不老不死になるとかそういうの?」

 そういうことです、とアルべニーニョは笑った。

「ええと、どうやってあげればいいのかな」
「どちらでもいいので親指を貸してもらえますか。そこに歯を立てます」
「い、痛いよね?」
「すみません、こればかりは」

 苦笑すると敬介はわかった、と震える手を差し出してきた。
 左の手を借りてアルべニーニョはその親指の腹に牙を立てた。

「っ」

 びくりと敬介の体が震える。牙を抜いてそこを舐めるとじわ、と鉄錆臭い味が口内に広がった。
 じゅるっとそれを吸って飲み込む。
 アルべニーニョの額がかあっと熱くなってばくんっとそこに縦長の目のようなものが出来た。

「ア、アリー!額に……!」

 驚く敬介とは裏腹にアルべニーニョはどこまでも冷静に唇を指から離してぱちんと指を鳴らした。
 すると途端に指の傷が癒えた。

「え、アリー、魔法……」

 アルべニーニョは額の新しく生まれた目に手をやってこれは天眼です、と答えた。

「創世神に認められた証です。基本的には魔石と同じですが千里眼の効果もあります」

 だから魔法が使えるようになったんです、とアルべニーニョは微笑んだ。

「使わないときは閉じてもいられます」

 そう言うと天眼が閉じてよく見ないとそこに切れ目があるとはわからなくなってしまう。

「アリーはどうしてそんなに詳しいの?それがふつう?」

 いいえ、と彼は笑う。

「私は仮にも王の甥ですから王族の図書館に出入りできたのです。そこの禁書を片っ端から読んで得た知識ですよ」

 王族にも関わらず獣人だった私にとって無知は致命傷でしたから、と彼の幼い頃が垣間見えることをアルべニーニョは苦々しげに語った。

「でもそのおかげであなたを手に入れられた。私はもう、それで良いんです」

 アルべニーニョは敬介の手の甲にちゅっと口付けた。
 敬介はそれを穏やかな気持ちで受け入れたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

処理中です...