三十歳童貞で魔法使いになれるなら五十歳童貞は魔王になれる~実は創世神だそうです~

高槻桂

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 夕方になってアルべニーニョが帰城した。
 背後には四人の男を連れている。

「ケイスケ、こちらが昼に伝えた四人です」

 アルべニーニョは左端の男から順に紹介していった。

「全員近衛兵団第一軍団所属です。左からサルベルーニャ・カフゼン。五席です」
「よろしゅう」

 サルベルーニャは背中まで伸びた暗めの金髪を後ろで三つ編みにしている。彫りの深い顔立ちで鼻が結構な鷲鼻だ。しかしそれが色男に見せている。

「ガウマノリッテ・スパーキュ。こんな顔ですが二十後半です」
「こんな顔って失礼な。よろしくお願いしまーす」

 ガウマノリッテはさらさらの明るい金髪に海の色を移したような大きな青い瞳。これは確かに年齢を聞いていなかったら二十歳かそこらかと思ってしまいそうだ。

「ウスラキノフ・ゼッペ。彼は第三副官をしています。経理を任せるには最適かと」
「よろしく……」

 ウスラキノフがぺこりと会釈をする。背の丈はアルベニーニョに迫る大男で銀髪にエメラルとグリーンの四角い顔をした厳つい顔の男だ。

「最後にクシャメラック・ボルゾン。六席で軍医も勤めております」

 クシャメラックはこれで軍人なのかというくらい線の細い体型をしている。だが仮にも軍人だ。きっと脱いだら凄い系なのだろう。茶髪に鳶色の瞳がよく似合ったアシンメトリな髪型をしたひとだった。

「よろしくお願いします」
「今日はようこそいらっしゃいました。どうですか、空中都市は」

 それに答えたのはサルベルーニャだった。

「いやあ一瞬でここまで跳んでビビりましたわ。ここは太陽に近いんに暑う無いんですね」
「ええ、光量を調整しているので。空気も調整しているので息苦しくはないと思います」

 ところで、と敬介はアルベニーニョを見る。

「五席とか六席ってなんですか?」
「ああ、序列ですよ。軍団長が一席、第一副官が二席、第二副官だった私が三席、第三副官のウスラキノフが四席、あとは強さ順に十席まで決まっているという感じです」
「ああ、そういう。あともう一つ気になってるんだけれど」
「はい」
「皆さん名前が長いのはこの国ではそういう風習なのですか?」
「ああ、男子は長めですね。その方が強く育つと言われています」

「アリーのヴァンは?」
「あれは私が王族だったからです。普通はミドルネームはありません」
「そうなんだ。ああ、立ち話ですみません、街はもう見てきましたか?ああ、そうですか。まだ誰も住んでないんですけどね。中は私が案内しますね」

 街は外観をざっと見てきたというので城の中へ案内する。

「こちらが庭園です。王城の庭園を参考にさせていただきました」
「確かに似てますね。でもこちらの方がセンスがいい。王城のはとにかく派手な花を植えてますから」

 クシャメラックが穏やかに言う。言葉をついだのはサルベルーニャだ。

「せやな。王城のはけばけばしいてあかん。薔薇。とにかく薔薇。四季全部薔薇祭り。あれは悪趣味やで」
「私はあそこの冬薔薇はよいと思うが」

 アルべニーニョが小首を傾げて言う。
 サルベルーニャはあかんあかんと手と首を激しく左右に振った。

「あんな統一性のない色合いはあかん。赤一色ならまだしも黄色やの白やの黒やのやりたい放題やん。アリーはセンスあらへんからその辺わからへんのや。咲いてりゃええってもんとちゃうで」
「……」

 ムッとしたように黙り込むアルべニーニョに敬介はくすりと笑う。言い負かされる彼だなんて、いつもと違う姿が見られて楽しい。

「サルベルーニャさんは地方の出ですか?口調がその……」

 サルベルーニャは訛っとるって言いたいんやろ?と笑った。

「俺は西の方の少数部族の出やねん。こんな田舎嫌やー言うて村を飛び出て帝国軍に入ったんや。他の奴らからはクチから生まれたやろ言われますわ」

 ケタケタ笑うサルベルーニャに敬介もくすくすと笑う。

「私の住んでいた世界にも似たような口調の人たちがいますよ。あなたと同じように陽気な方が多いみたいです」
「へえ。そうなんですか。そりゃあうるさそうだ」

 ガウマノリッテがにやにやしながら言う。
 なんやと、とサルベルーニャがガウマノリッテの頭をぐしゃぐしゃとかき回す。

「わわ、やめてくださいよー!」
「ナマ言うからや」

 城内をぐるっと一周してティールームへ向かう。
 それぞれ思い思いにカウチに座るとメイドたちが静かに紅茶を運んできた。

「ん?これは?」

 運ばれてきたのは紅茶は紅茶でもアイスティーだった。
 琥珀色の液体の中に氷が浮かんでいてグラスの底には輪切りのオレンジが一枚沈んでいる。
 グラスにはガラス製のストローが添えられている。
 帝国では紅茶は貴重で珍しいものだったし飲むとしても夏でも温かいものが一般的だったしストローは子供の使うものだとされてきた。

 四人に微かな戸惑いが走る。しかし敬介もアルべニーニョも気にせずストローをさしてアイスティーを飲んでいる。
 四人が戸惑いながらそれに倣うとはっとしたように顔を見合わせた。

「うま!」
「美味しい……!」
「美味いな」
「美味しいです」

 口々にそう言うと良かった、と敬介が笑った。

「お口にあったようで何よりです」
「オレンジが爽やかでええな」

 サルベルーニャがくるくるとストローでかき回しながら言う。

 他の三人もうなずいた。

「紅茶なんて久しぶりに飲みました。我々の間では高級品ですからね。アイスティーにするというのも滅多にないですし……お茶は温かい状態で飲むといういうものだと思って飲んでました」

 ガウマノリッテがそう言いながらグラスを眺める。

「思ったのですけど、この世界の人たちって食に疎いというか、お腹が膨れればそれでいいみたいな考え方ですよね」
「そうやなぁ、料理に時間かけるくらいなら他に使えって教わったわ」

 サルベルーニャがうむむと唸る。

「王城での食事も正直、味気なかったです。調味料が足りてないのだと思いました」

 そうですね、と答えたのはクシャメラックだ。

「スパイスは高価なんです。塩だけは海から摂れますから比較的使えますがそれ以外はあまり実りが良くなくて……恐らく王族でも自由には使えていないでしょう」
「それなんですけど、私のこの国では自由に使えます。私が育てているからです。まだ住人がおらず使用人しか使わないのでどれくらいでいくらにするとかは決めてないのですけどゆくゆくは地上との貿易品にしたいと思ってます」
「スパイスがそんな簡単に……?しかし創世神ならばそれくらいはできて当然か」

 クシャメラックがふむ、と考え込む。
 するとメイドが一人敬介に歩み寄ってきて何か耳打ちした。

「夕飯の準備ができたようです。今夜は思う存分我が領土のスパイスを味わっていただきましょう」

 敬介がにっこりと笑った。
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