15 / 20
15
しおりを挟む
夕方になってアルべニーニョが帰城した。
背後には四人の男を連れている。
「ケイスケ、こちらが昼に伝えた四人です」
アルべニーニョは左端の男から順に紹介していった。
「全員近衛兵団第一軍団所属です。左からサルベルーニャ・カフゼン。五席です」
「よろしゅう」
サルベルーニャは背中まで伸びた暗めの金髪を後ろで三つ編みにしている。彫りの深い顔立ちで鼻が結構な鷲鼻だ。しかしそれが色男に見せている。
「ガウマノリッテ・スパーキュ。こんな顔ですが二十後半です」
「こんな顔って失礼な。よろしくお願いしまーす」
ガウマノリッテはさらさらの明るい金髪に海の色を移したような大きな青い瞳。これは確かに年齢を聞いていなかったら二十歳かそこらかと思ってしまいそうだ。
「ウスラキノフ・ゼッペ。彼は第三副官をしています。経理を任せるには最適かと」
「よろしく……」
ウスラキノフがぺこりと会釈をする。背の丈はアルベニーニョに迫る大男で銀髪にエメラルとグリーンの四角い顔をした厳つい顔の男だ。
「最後にクシャメラック・ボルゾン。六席で軍医も勤めております」
クシャメラックはこれで軍人なのかというくらい線の細い体型をしている。だが仮にも軍人だ。きっと脱いだら凄い系なのだろう。茶髪に鳶色の瞳がよく似合ったアシンメトリな髪型をしたひとだった。
「よろしくお願いします」
「今日はようこそいらっしゃいました。どうですか、空中都市は」
それに答えたのはサルベルーニャだった。
「いやあ一瞬でここまで跳んでビビりましたわ。ここは太陽に近いんに暑う無いんですね」
「ええ、光量を調整しているので。空気も調整しているので息苦しくはないと思います」
ところで、と敬介はアルベニーニョを見る。
「五席とか六席ってなんですか?」
「ああ、序列ですよ。軍団長が一席、第一副官が二席、第二副官だった私が三席、第三副官のウスラキノフが四席、あとは強さ順に十席まで決まっているという感じです」
「ああ、そういう。あともう一つ気になってるんだけれど」
「はい」
「皆さん名前が長いのはこの国ではそういう風習なのですか?」
「ああ、男子は長めですね。その方が強く育つと言われています」
「アリーのヴァンは?」
「あれは私が王族だったからです。普通はミドルネームはありません」
「そうなんだ。ああ、立ち話ですみません、街はもう見てきましたか?ああ、そうですか。まだ誰も住んでないんですけどね。中は私が案内しますね」
街は外観をざっと見てきたというので城の中へ案内する。
「こちらが庭園です。王城の庭園を参考にさせていただきました」
「確かに似てますね。でもこちらの方がセンスがいい。王城のはとにかく派手な花を植えてますから」
クシャメラックが穏やかに言う。言葉をついだのはサルベルーニャだ。
「せやな。王城のはけばけばしいてあかん。薔薇。とにかく薔薇。四季全部薔薇祭り。あれは悪趣味やで」
「私はあそこの冬薔薇はよいと思うが」
アルべニーニョが小首を傾げて言う。
サルベルーニャはあかんあかんと手と首を激しく左右に振った。
「あんな統一性のない色合いはあかん。赤一色ならまだしも黄色やの白やの黒やのやりたい放題やん。アリーはセンスあらへんからその辺わからへんのや。咲いてりゃええってもんとちゃうで」
「……」
ムッとしたように黙り込むアルべニーニョに敬介はくすりと笑う。言い負かされる彼だなんて、いつもと違う姿が見られて楽しい。
「サルベルーニャさんは地方の出ですか?口調がその……」
サルベルーニャは訛っとるって言いたいんやろ?と笑った。
「俺は西の方の少数部族の出やねん。こんな田舎嫌やー言うて村を飛び出て帝国軍に入ったんや。他の奴らからはクチから生まれたやろ言われますわ」
ケタケタ笑うサルベルーニャに敬介もくすくすと笑う。
「私の住んでいた世界にも似たような口調の人たちがいますよ。あなたと同じように陽気な方が多いみたいです」
「へえ。そうなんですか。そりゃあうるさそうだ」
ガウマノリッテがにやにやしながら言う。
なんやと、とサルベルーニャがガウマノリッテの頭をぐしゃぐしゃとかき回す。
「わわ、やめてくださいよー!」
「ナマ言うからや」
城内をぐるっと一周してティールームへ向かう。
それぞれ思い思いにカウチに座るとメイドたちが静かに紅茶を運んできた。
「ん?これは?」
運ばれてきたのは紅茶は紅茶でもアイスティーだった。
琥珀色の液体の中に氷が浮かんでいてグラスの底には輪切りのオレンジが一枚沈んでいる。
グラスにはガラス製のストローが添えられている。
帝国では紅茶は貴重で珍しいものだったし飲むとしても夏でも温かいものが一般的だったしストローは子供の使うものだとされてきた。
四人に微かな戸惑いが走る。しかし敬介もアルべニーニョも気にせずストローをさしてアイスティーを飲んでいる。
四人が戸惑いながらそれに倣うとはっとしたように顔を見合わせた。
「うま!」
「美味しい……!」
「美味いな」
「美味しいです」
口々にそう言うと良かった、と敬介が笑った。
「お口にあったようで何よりです」
「オレンジが爽やかでええな」
サルベルーニャがくるくるとストローでかき回しながら言う。
他の三人もうなずいた。
「紅茶なんて久しぶりに飲みました。我々の間では高級品ですからね。アイスティーにするというのも滅多にないですし……お茶は温かい状態で飲むといういうものだと思って飲んでました」
ガウマノリッテがそう言いながらグラスを眺める。
「思ったのですけど、この世界の人たちって食に疎いというか、お腹が膨れればそれでいいみたいな考え方ですよね」
「そうやなぁ、料理に時間かけるくらいなら他に使えって教わったわ」
サルベルーニャがうむむと唸る。
「王城での食事も正直、味気なかったです。調味料が足りてないのだと思いました」
そうですね、と答えたのはクシャメラックだ。
「スパイスは高価なんです。塩だけは海から摂れますから比較的使えますがそれ以外はあまり実りが良くなくて……恐らく王族でも自由には使えていないでしょう」
「それなんですけど、私のこの国では自由に使えます。私が育てているからです。まだ住人がおらず使用人しか使わないのでどれくらいでいくらにするとかは決めてないのですけどゆくゆくは地上との貿易品にしたいと思ってます」
「スパイスがそんな簡単に……?しかし創世神ならばそれくらいはできて当然か」
クシャメラックがふむ、と考え込む。
するとメイドが一人敬介に歩み寄ってきて何か耳打ちした。
「夕飯の準備ができたようです。今夜は思う存分我が領土のスパイスを味わっていただきましょう」
敬介がにっこりと笑った。
背後には四人の男を連れている。
「ケイスケ、こちらが昼に伝えた四人です」
アルべニーニョは左端の男から順に紹介していった。
「全員近衛兵団第一軍団所属です。左からサルベルーニャ・カフゼン。五席です」
「よろしゅう」
サルベルーニャは背中まで伸びた暗めの金髪を後ろで三つ編みにしている。彫りの深い顔立ちで鼻が結構な鷲鼻だ。しかしそれが色男に見せている。
「ガウマノリッテ・スパーキュ。こんな顔ですが二十後半です」
「こんな顔って失礼な。よろしくお願いしまーす」
ガウマノリッテはさらさらの明るい金髪に海の色を移したような大きな青い瞳。これは確かに年齢を聞いていなかったら二十歳かそこらかと思ってしまいそうだ。
「ウスラキノフ・ゼッペ。彼は第三副官をしています。経理を任せるには最適かと」
「よろしく……」
ウスラキノフがぺこりと会釈をする。背の丈はアルベニーニョに迫る大男で銀髪にエメラルとグリーンの四角い顔をした厳つい顔の男だ。
「最後にクシャメラック・ボルゾン。六席で軍医も勤めております」
クシャメラックはこれで軍人なのかというくらい線の細い体型をしている。だが仮にも軍人だ。きっと脱いだら凄い系なのだろう。茶髪に鳶色の瞳がよく似合ったアシンメトリな髪型をしたひとだった。
「よろしくお願いします」
「今日はようこそいらっしゃいました。どうですか、空中都市は」
それに答えたのはサルベルーニャだった。
「いやあ一瞬でここまで跳んでビビりましたわ。ここは太陽に近いんに暑う無いんですね」
「ええ、光量を調整しているので。空気も調整しているので息苦しくはないと思います」
ところで、と敬介はアルベニーニョを見る。
「五席とか六席ってなんですか?」
「ああ、序列ですよ。軍団長が一席、第一副官が二席、第二副官だった私が三席、第三副官のウスラキノフが四席、あとは強さ順に十席まで決まっているという感じです」
「ああ、そういう。あともう一つ気になってるんだけれど」
「はい」
「皆さん名前が長いのはこの国ではそういう風習なのですか?」
「ああ、男子は長めですね。その方が強く育つと言われています」
「アリーのヴァンは?」
「あれは私が王族だったからです。普通はミドルネームはありません」
「そうなんだ。ああ、立ち話ですみません、街はもう見てきましたか?ああ、そうですか。まだ誰も住んでないんですけどね。中は私が案内しますね」
街は外観をざっと見てきたというので城の中へ案内する。
「こちらが庭園です。王城の庭園を参考にさせていただきました」
「確かに似てますね。でもこちらの方がセンスがいい。王城のはとにかく派手な花を植えてますから」
クシャメラックが穏やかに言う。言葉をついだのはサルベルーニャだ。
「せやな。王城のはけばけばしいてあかん。薔薇。とにかく薔薇。四季全部薔薇祭り。あれは悪趣味やで」
「私はあそこの冬薔薇はよいと思うが」
アルべニーニョが小首を傾げて言う。
サルベルーニャはあかんあかんと手と首を激しく左右に振った。
「あんな統一性のない色合いはあかん。赤一色ならまだしも黄色やの白やの黒やのやりたい放題やん。アリーはセンスあらへんからその辺わからへんのや。咲いてりゃええってもんとちゃうで」
「……」
ムッとしたように黙り込むアルべニーニョに敬介はくすりと笑う。言い負かされる彼だなんて、いつもと違う姿が見られて楽しい。
「サルベルーニャさんは地方の出ですか?口調がその……」
サルベルーニャは訛っとるって言いたいんやろ?と笑った。
「俺は西の方の少数部族の出やねん。こんな田舎嫌やー言うて村を飛び出て帝国軍に入ったんや。他の奴らからはクチから生まれたやろ言われますわ」
ケタケタ笑うサルベルーニャに敬介もくすくすと笑う。
「私の住んでいた世界にも似たような口調の人たちがいますよ。あなたと同じように陽気な方が多いみたいです」
「へえ。そうなんですか。そりゃあうるさそうだ」
ガウマノリッテがにやにやしながら言う。
なんやと、とサルベルーニャがガウマノリッテの頭をぐしゃぐしゃとかき回す。
「わわ、やめてくださいよー!」
「ナマ言うからや」
城内をぐるっと一周してティールームへ向かう。
それぞれ思い思いにカウチに座るとメイドたちが静かに紅茶を運んできた。
「ん?これは?」
運ばれてきたのは紅茶は紅茶でもアイスティーだった。
琥珀色の液体の中に氷が浮かんでいてグラスの底には輪切りのオレンジが一枚沈んでいる。
グラスにはガラス製のストローが添えられている。
帝国では紅茶は貴重で珍しいものだったし飲むとしても夏でも温かいものが一般的だったしストローは子供の使うものだとされてきた。
四人に微かな戸惑いが走る。しかし敬介もアルべニーニョも気にせずストローをさしてアイスティーを飲んでいる。
四人が戸惑いながらそれに倣うとはっとしたように顔を見合わせた。
「うま!」
「美味しい……!」
「美味いな」
「美味しいです」
口々にそう言うと良かった、と敬介が笑った。
「お口にあったようで何よりです」
「オレンジが爽やかでええな」
サルベルーニャがくるくるとストローでかき回しながら言う。
他の三人もうなずいた。
「紅茶なんて久しぶりに飲みました。我々の間では高級品ですからね。アイスティーにするというのも滅多にないですし……お茶は温かい状態で飲むといういうものだと思って飲んでました」
ガウマノリッテがそう言いながらグラスを眺める。
「思ったのですけど、この世界の人たちって食に疎いというか、お腹が膨れればそれでいいみたいな考え方ですよね」
「そうやなぁ、料理に時間かけるくらいなら他に使えって教わったわ」
サルベルーニャがうむむと唸る。
「王城での食事も正直、味気なかったです。調味料が足りてないのだと思いました」
そうですね、と答えたのはクシャメラックだ。
「スパイスは高価なんです。塩だけは海から摂れますから比較的使えますがそれ以外はあまり実りが良くなくて……恐らく王族でも自由には使えていないでしょう」
「それなんですけど、私のこの国では自由に使えます。私が育てているからです。まだ住人がおらず使用人しか使わないのでどれくらいでいくらにするとかは決めてないのですけどゆくゆくは地上との貿易品にしたいと思ってます」
「スパイスがそんな簡単に……?しかし創世神ならばそれくらいはできて当然か」
クシャメラックがふむ、と考え込む。
するとメイドが一人敬介に歩み寄ってきて何か耳打ちした。
「夕飯の準備ができたようです。今夜は思う存分我が領土のスパイスを味わっていただきましょう」
敬介がにっこりと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる