少女王とその奴隷

阿波野治

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二人の出会い①

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 投げ飛ばされ、揉みくちゃにされ、押しつぶされて、塩辛い水を無理矢理に飲まされた。涙よりも遥かに塩味が濃く、喉が燃え上がった。
 飲まされて、飲まされて、飲まされて――意識が暗転した。
 心を染め上げた黒は見る見る濁り、そうかと思うと薄らぎはじめる。ある瞬間を境に、闇は光とは似て非なる白へと急接近し、
 世界に一つの区切りがつけられた。

* * *

 頭はぼんやりしている。
 視界は終わった世界のように真っ暗だ。
 後頭部と尻と背中が柔らかいものに接している。僕は仰向けの姿勢らしい。
 肌を撫でる風は不愉快に蒸し暑い。なにもにおわない。生温かくぬめぬめしたものが、右手の甲を規則的に撫で上げている。

 時間とともにゆっくりと意識が晴れていき、やがて正体が判明した。
 動物の舌だ。優しく、労わるように、僕の手を舐めてくれている動物がいる。

 ゆっくりと瞼を開くと、少女の顔が視界に飛び込んできた。
 その顔は、軽い驚きに包まれている。放心しているようにも見える。あどけなさと端麗さが同居した目鼻立ちだ。つぶらで艶やかな青い瞳は、眼窩に宝石がはめ込まれているかのようだ。
 十代の半ば、だろうか。
 腰に届く銀色の髪の毛は白色の成分が多い。肌は健康的な褐色。頭を花冠で、首元を貝殻のネックレスで、手首をカラフルな小石のブレスレットで、それぞれ飾っている。

 観察している間も、動物に舐められる感触は続いている。
 ただし、少女の顔は僕の視界の真正面で、なおかつ、薄桃色の唇は閉ざされている。つまり、右手を舐めているのは彼女ではない。

 首を右に回す。
 白い犬がいた。賢そうというよりも元気そうな、短毛の中型犬だ。しっぽを盛んに振っていて、一秒たりともじっとしていない。
 僕が目を覚ましたのに気がつくと、白犬は舐めるのをやめて、挨拶でもするように「ワン」とひと声鳴いた。

「あたしが舐めているとでも思ったか? お前、凄まじく滑稽な顔をしていたぞ。この変態が」

 視界を正面に戻すと、少女はいつの間にか僕から一歩距離を置いていた。くびれた腰に両手を宛がい、軽蔑しきった色を顔に浮かべている。
 僕は心臓が物理的に縮まったような感覚に襲われた。少女から威厳を感じたからだ。声、態度、雰囲気――なにがそう感じさせたのかまでは分からない。

「どうした、じろじろ見て。あたしの体におかしなものでもついているのか」
「いえ、そうではなくてですね。……あなたは何者?」
「間の抜けた質問だな。もっと他に優先して知るべきことがあるだろう。周りをよく見てみろ」
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