少女王とその奴隷

阿波野治

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初めての狩り①

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 黒パンの全量が胃の腑に消えたのを見計らったようなタイミングで、小屋のドアが開いた。

「食べ終わったか。ちょうどいい。お前にはこれから、狩りの道具を作ってもらう」
「狩りの道具、ですか」
「そのままの意味だ。狩りをするのはお前、そのための道具を作るのもお前だ。小屋の周りに工具と資材が置いてあるだろう。それらを自由に使って作ってくれ。どんな道具を作るのかはお前に任せる。資材が足りないようならジャングルで調達してくれ。ただし、『まん丸原っぱ』に近い樹を伐り倒して、無様な景観にはするなよ。景観は大事だからな、景観は」

 淡々と告げてドアを閉めようとしたが、再び大きく開いて顔を出し、

「分かるな? 汚名返上のチャンスを与えてやったんだ。しっかりと準備しろよ」
 微かな音を立てて、今度こそドアが閉まった。

 慈悲をかけられたことで、惨めな気持ちは一気に緩和された。ぜひともシルヴァーのために働こう。喜ばせよう。失望させた分を取り返そう。意欲が漲り、前向きな気持ちになれた。
 問題は、僕に狩りをした経験がないことだ。自分自身の過去は闇の中だが、「狩り」という単語が出た瞬間の心理状態を客観視した限り、少なくともその道に熟達した人間ではないらしい。

「――なにはともあれ」
 武器作りだ。

 工具は、ハンマーが一本にナイフが一振り。
 資材は木材、もとい、太さも長さも様々な木の枝が約三十本ばかり。
 長く太い棒を見て槍を、湾曲した棒を見て弓矢を、それぞれ思い浮かべた。前者は先端をナイフで削って鋭くすればいいが、弓矢を作るには弓弦が必要だ。

「おい、シロ。僕は今からジャングルに入るけど、ついてくるか?」

 壁際で寝そべっているシロに声をかける。
 薄目を開けて僕を見上げたが、すぐに瞼を閉じた。もう一度呼びかけると、うっとうしそうにしっぽをぱたぱたと地面に叩きつける。
 行きたくないらしい。というよりも、目下の人間の命令に従いたくないのか。

「しょうがない」
 ナイフを手に、「外れの浜」に通じる道へと入っていく。


* * *


 地面に落ちている石を見て、槍の刃や矢じりにしてはどうかと思い立った。ただ、生物を殺傷し得る形状に加工する方法が分からない。そのままでも使えそうな、先端が尖った石をいくつか持ち帰ることにする。
 弓弦には植物の蔓を使うことにした。蔓は弾力があって強靭で、少々引っ張ったくらいではびくともしない。ナイフで何本か切り取った。

 材料集めのさなか、樹の幹に鉛色の小さな甲虫がへばりついているのを見かけた。この島で初めて見た、人間と犬以外の生き物だ。
 甲虫は身じろぎ一つせず、じっとしている。背中を指でつつくと、緩慢に少しだけ動いた。
 植物の葉が蚕食され、糞らしき小さな黒い塊が付着しているのも見た。そう離れていない場所で鳥が甲高い声で鳴いたときは、思わず肩が跳ね上がった。姿を見ることは叶わなかったが、羽ばたきの音は聞いた。

 間近に掃いて捨てるほどいるわけではないにせよ、とにかく生物が棲息しているのは分かった。
 狩るのであれば鳥だ、ということも。
 となると、槍でしとめるのは難しい。優先するべきは弓矢作りだ。
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