12 / 85
初めての狩り③
しおりを挟む
シルヴァーは道なき道を進む。
「外れの浜」からの道は、通り道らしい体裁が最低限整っていたが、今回はただ草むらを突っ切っているだけとしか感じられない。
女王と愛犬にとっては勝手知ったる道なのだろうが、僕はついていくだけで精いっぱい。道のりの険しさを楽しむように軽快な動きを見せるシロを、心の底から羨ましいと思った。
にわかにシルヴァーの歩が緩んだ。
肩越しに前方を窺うと、切り株があった。座るのにちょうどよさそうだと思ったら、案の定、女王はそれの座面を軽く手で払ってから腰を下ろした。
「それではクロ、獲物を狩ってこい」
「この場所で、ですか。ぱっと見、なにもいませんけど」
「たわけが。鳥や獣がわざわざしとめられに来るわけがないだろう。虐待されて喜ぶ変態ではあるまいし」
……それもそうだ。
「周りをよく見ろ。たくさんの果物がなっているだろう。それに誘われて鳥が頻繁にやってくる。あたしはそれをここで眺めるのが好きでね。腰かけるのにちょうどいい切り株もあるし」
四囲を見回すと、確かに、青紫色や赤色の実をつけた樹が至るところに生えている。ただ、今は鳥の姿は見当たらず、鳴き声も聞こえない。
「それでは頑張ってくれ。制限時間は、あたしが飽きて帰るまでだ。この島はそういうふうに時間が流れているからな」
シルヴァーは薄水色の花の匂いを嗅いでいたシロを呼び寄せ、戯れはじめた。頭をこれでもかというほど撫でてやったあと、僕には聞き取れない小声で話しかけている。シロと遊んでいるときの彼女は、年齢がぐっと幼くなる。
大物を狩れたら、僕も頭を撫でてもらえるだろうか。たくさん獲物を狩れたら、褒めてくれるだろうか。
奴隷の身分なのだから多くは望めないにせよ、せめてシロくらいは。
「――よぃ、行こう」
葉音をできるだけ立てないようにしながら、一人と一匹から遠ざかる。
手ごろな高さに紫色の果実を見つけ、手を伸ばして一粒ちぎる。少し皮が破れ、微かな甘い匂いが鼻孔に届いた。わずかかばかり露出した果肉は白っぽい黄緑色で、ブドウそっくりだ。
指の腹で表面をさっと拭い、口に入れる。甘い。皮は柔らかくてそのままで食べられるし、小さな種子の食感も悪くない。昼食が堅いパンだけだった身からすれば、ちょっとした御馳走だ。
もう一粒、二粒と口に入れて、それ以上はやめておく。
シルヴァーに見つかったらなにを言われるか分からない。それに、見事に獲物をしとめられれば、ブドウよりも遥かに大きな報酬が得られるはずだ。
「外れの浜」からの道は、通り道らしい体裁が最低限整っていたが、今回はただ草むらを突っ切っているだけとしか感じられない。
女王と愛犬にとっては勝手知ったる道なのだろうが、僕はついていくだけで精いっぱい。道のりの険しさを楽しむように軽快な動きを見せるシロを、心の底から羨ましいと思った。
にわかにシルヴァーの歩が緩んだ。
肩越しに前方を窺うと、切り株があった。座るのにちょうどよさそうだと思ったら、案の定、女王はそれの座面を軽く手で払ってから腰を下ろした。
「それではクロ、獲物を狩ってこい」
「この場所で、ですか。ぱっと見、なにもいませんけど」
「たわけが。鳥や獣がわざわざしとめられに来るわけがないだろう。虐待されて喜ぶ変態ではあるまいし」
……それもそうだ。
「周りをよく見ろ。たくさんの果物がなっているだろう。それに誘われて鳥が頻繁にやってくる。あたしはそれをここで眺めるのが好きでね。腰かけるのにちょうどいい切り株もあるし」
四囲を見回すと、確かに、青紫色や赤色の実をつけた樹が至るところに生えている。ただ、今は鳥の姿は見当たらず、鳴き声も聞こえない。
「それでは頑張ってくれ。制限時間は、あたしが飽きて帰るまでだ。この島はそういうふうに時間が流れているからな」
シルヴァーは薄水色の花の匂いを嗅いでいたシロを呼び寄せ、戯れはじめた。頭をこれでもかというほど撫でてやったあと、僕には聞き取れない小声で話しかけている。シロと遊んでいるときの彼女は、年齢がぐっと幼くなる。
大物を狩れたら、僕も頭を撫でてもらえるだろうか。たくさん獲物を狩れたら、褒めてくれるだろうか。
奴隷の身分なのだから多くは望めないにせよ、せめてシロくらいは。
「――よぃ、行こう」
葉音をできるだけ立てないようにしながら、一人と一匹から遠ざかる。
手ごろな高さに紫色の果実を見つけ、手を伸ばして一粒ちぎる。少し皮が破れ、微かな甘い匂いが鼻孔に届いた。わずかかばかり露出した果肉は白っぽい黄緑色で、ブドウそっくりだ。
指の腹で表面をさっと拭い、口に入れる。甘い。皮は柔らかくてそのままで食べられるし、小さな種子の食感も悪くない。昼食が堅いパンだけだった身からすれば、ちょっとした御馳走だ。
もう一粒、二粒と口に入れて、それ以上はやめておく。
シルヴァーに見つかったらなにを言われるか分からない。それに、見事に獲物をしとめられれば、ブドウよりも遥かに大きな報酬が得られるはずだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる