少女王とその奴隷

阿波野治

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初めての狩り④

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 とにもかくにも、藪の中に身を潜める。
 持参してきた武器は、弓と、矢を何本かと、一本だけ急ごしらえで作った槍。それだけだ。
 鳥が飛来するのを待ち伏せし、弓を使って矢を放ち、しとめる。
 知識も経験もない僕には、そんな原始的でシンプルな方法しか思いつかない。
 見張るのは、たくさんの実をつけた樹の方向。
 形だけ弓を構えてみて、矢を引き絞るだけのスペースがあると確かめた。あとは鳥が来るのを待つだけなのだが、

「……来ない」
 五分、十分、さらには十五分と待ってみても、一向に姿は見えないし、鳴き声も聞こえない。

『たわけが。鳥や獣がわざわざしとめられに来るわけがないだろう』
 シルヴァーの発言はもっともだ。
 もっともだとは思うが、やはり待つのはつらい。女王とシロがそう遠くはない場所にいるとはいえ、孤独感はかなりのものだ。

 葉と葉の隙間からシルヴァーの様子を窺う。シロが自分のしっぽを追いかけてぐるぐる回っている様子を見て、上機嫌そうに微笑んでいる。陛下のために戦わなければ、尽くさなければ、という思いが高まった。
 しかし、待てども、待てども、鳥は現れてくれない。

 待ちぼうけを食らい続けている僕の脳みそは、早くも制限時間のことを考えはじめた。
 あたしが飽きるまでがリミットだ、とシルヴァーは言っていた。いくらシロが好きとはいえ、何時間も遊ばないだろし、日没時間も気になる。

 試射してみよう、と不意に思い立つ。
 そういえば、矢を作っている最中に「出発の支度をしろ」とのお達しが下ったので、まだ一度も試していなかったのだった。

「……よし」
 矢をつがえ、弓を構える。そうすることで、体の奥底に眠っていた闘争心が湧き起こり、鬱屈が見る見る薄れていく。
 真正面に生えた樹の梢にぶら下がる、明るい黄色の果実に狙いを定めた。矢を引き絞る。矢が果実を射抜き、果汁が放射状に飛び散る様を思い描く。

 いざ矢を放とうとした瞬間、枝が折れる乾いた音がした。枝は枝でも、そこかしこに生えている樹のそれではない。力が加わったことで、弓が真っ二つに折れてしまったのだ。
 切り株の方角からシルヴァーの声が聞こえた。シロに向かってなにか言ったらしい。僕の耳には、僕を軽やかに嘲笑ったように聞こえた。

 直後、羽ばたきの音が聞こえた。我に返って振り向いた。
 僕が直立していたとすれば顔の高さくらいの梢に、一羽の鳥がとまっている。全身が灰色で、闇色の瞳で僕のことをじっと見ている。僕は体を縮めて藪に身を隠しているが、鳥がいる場所からは筒抜けらしい。
 鳥に対する認識が、「見たこともない珍しい鳥」ではなく、「汚名を返上するために誂え向きの獲物」へと変わるまでに、そう時間はかからなかった。

 音を立てないほうが望ましい状況でなかったなら、僕は舌打ちをしていただろう。
 獲物。よりもよって、弓矢が使い物にならなくなったばかりのタイミングで……。
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