少女王とその奴隷

阿波野治

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夜と朝①

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 夜の帳が下りると、僕はようやく小屋に入ることを許された。
 折り畳み式テーブルの上に蝋燭が灯っている。その小さな明かりは、空間の隅々まで及んでいない。そのせいか、小屋の中は少し狭く感じられた。
 床には一面植物が敷かれている。明かりを見た瞬間、蝋燭が落下したら大変なことになる、と心配した。思わずまじまじと見つめていると、

「どうした? 蝋燭は初めて見るのか? 無知なふりをしても同情はしてやらんぞ」
 ベッドの上から女王が冷やかした。シロは彼女の足にじゃれつき、彼女は愛情がこもった手つきでそれをいなしている。

 シルヴァーのこれまでの言動を思えば、なんでもない一言なのかもしれない。しかし、僕は教訓を読み取った。
 ようするに、僕はただの奴隷なのだ。女王の股間の蜂蜜を舐めるという大役を仰せつかっても、あくまでも奴隷。人間として愛情を注がれたわけではないし、飼い犬よりも地位が上なわけでもない。
 こんな教訓、悲しすぎる。

 知らず知らずのうちに調子に乗って、取り返しがつかない事態に陥る前に知ることができて、よかった。
 そう自分に言い聞かせて、なんとか気持ちを立て直した。

 僕は出入り口脇の壁際にあぐらをかき、一人と一匹が戯れる様子を観察する。
 シルヴァーはシロがしている遊びは、様々だ。肉体的に触れ合うこともあれば、手持無沙汰に藁を噛んでいる愛犬の様子をぼんやりと眺めることもあり、無言でただ見つめ合うだけの時間を送ることもある。
 僕には見向きもしない。シルヴァーも、シロも。
 普段どおりに振る舞っているだけなのか、あえて無視しているのか。「僕はしょせん奴隷」という教訓を得ていなければ、あるいは嫉妬の炎がちらついていたかもしれない。

「おい、寝るぞ。シロが眠そうにしておるからな」
 シルヴァーがベッドからおもむろに腰を上げて告げた。
 歩き出したので、なにをするのかと思って目で追っていると、いきなり世界が闇に包まれた。蝋燭を吹き消したのだ。

「お前の居場所をドアのそばに定めたのは、不法侵入者対策のためだ。一睡もするなとは言わんが、不審な物音が聞こえるなどしたら迅速に対処しろ」
「この島には、何者かが訪れることがあるのですか?」
「お前のような例もなくはないから気をつけろという意味だ。全く、相変わらず呑み込みが悪い」

 シーツがこすれる音がした。ベッドに入ったのだろう。

「この島に来る人間はあらかじめ決まっておる。その件に関してはおいおい話すから、今日のところは体を休めろ。休息をとるのもお前の仕事だぞ。明日も働いてもらわなければならないからな」
「承知しました、陛下」
 返事はない。またシーツが動く微かな音が聞こえて、空間は無音に満たされた。

 秩序を乱さないように、僕は静かに横になる。ちょうど鼻の先にあった、名前の知らない花がほのかに自己主張した。
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