少女王とその奴隷

阿波野治

文字の大きさ
18 / 85

夜と朝①

しおりを挟む
 夜の帳が下りると、僕はようやく小屋に入ることを許された。
 折り畳み式テーブルの上に蝋燭が灯っている。その小さな明かりは、空間の隅々まで及んでいない。そのせいか、小屋の中は少し狭く感じられた。
 床には一面植物が敷かれている。明かりを見た瞬間、蝋燭が落下したら大変なことになる、と心配した。思わずまじまじと見つめていると、

「どうした? 蝋燭は初めて見るのか? 無知なふりをしても同情はしてやらんぞ」
 ベッドの上から女王が冷やかした。シロは彼女の足にじゃれつき、彼女は愛情がこもった手つきでそれをいなしている。

 シルヴァーのこれまでの言動を思えば、なんでもない一言なのかもしれない。しかし、僕は教訓を読み取った。
 ようするに、僕はただの奴隷なのだ。女王の股間の蜂蜜を舐めるという大役を仰せつかっても、あくまでも奴隷。人間として愛情を注がれたわけではないし、飼い犬よりも地位が上なわけでもない。
 こんな教訓、悲しすぎる。

 知らず知らずのうちに調子に乗って、取り返しがつかない事態に陥る前に知ることができて、よかった。
 そう自分に言い聞かせて、なんとか気持ちを立て直した。

 僕は出入り口脇の壁際にあぐらをかき、一人と一匹が戯れる様子を観察する。
 シルヴァーはシロがしている遊びは、様々だ。肉体的に触れ合うこともあれば、手持無沙汰に藁を噛んでいる愛犬の様子をぼんやりと眺めることもあり、無言でただ見つめ合うだけの時間を送ることもある。
 僕には見向きもしない。シルヴァーも、シロも。
 普段どおりに振る舞っているだけなのか、あえて無視しているのか。「僕はしょせん奴隷」という教訓を得ていなければ、あるいは嫉妬の炎がちらついていたかもしれない。

「おい、寝るぞ。シロが眠そうにしておるからな」
 シルヴァーがベッドからおもむろに腰を上げて告げた。
 歩き出したので、なにをするのかと思って目で追っていると、いきなり世界が闇に包まれた。蝋燭を吹き消したのだ。

「お前の居場所をドアのそばに定めたのは、不法侵入者対策のためだ。一睡もするなとは言わんが、不審な物音が聞こえるなどしたら迅速に対処しろ」
「この島には、何者かが訪れることがあるのですか?」
「お前のような例もなくはないから気をつけろという意味だ。全く、相変わらず呑み込みが悪い」

 シーツがこすれる音がした。ベッドに入ったのだろう。

「この島に来る人間はあらかじめ決まっておる。その件に関してはおいおい話すから、今日のところは体を休めろ。休息をとるのもお前の仕事だぞ。明日も働いてもらわなければならないからな」
「承知しました、陛下」
 返事はない。またシーツが動く微かな音が聞こえて、空間は無音に満たされた。

 秩序を乱さないように、僕は静かに横になる。ちょうど鼻の先にあった、名前の知らない花がほのかに自己主張した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...