17 / 85
初めての狩り⑧
しおりを挟む
「蜂蜜、ですね」
「そうだ。ついうっかり、こぼしてしまってな。シロに掃除を手伝ってもらっていたのだが、犬は舌が小さいからいつまで経っても終わらんのだよ。というわけでクロ、お前が舐めるんだ」
シルヴァーは口笛を吹いてシロの注目を惹き、手を払う仕草をした。
シロはすぐさま二メートルほど主人から遠ざかり、彼女のほうを向いておすわりをする。行為のさなかよりも激しく振り動かされるしっぽが、今現在の彼の心境を如実に表している。
僕はさっきまでシロがいた場所に四つん這いになり、顔を低くした。陰部は蜂蜜の助けを借りて妖しく輝いている。
「さあ、早く」
顔を近づけると、嫌な匂いが鼻孔に押し寄せた。物理的に鼻を押し返してくるような濃密さだ。蜂蜜の匂いと、シロの唾液の臭いと、シルヴァーの股間の臭いが混合した、おぞましい臭気。
なんという臭さだろう。
なんという甘美さだろう。
「なにをぼさっとしておる。さあ、早く!」
僕は奴隷から犬へと成り下がって、一心不乱に舐めた。
* * *
全ての蜂蜜が胃の腑に消えた。
シルヴァーはしばし肩で息をしていたが、やがて大儀そうに立ち上がった。少し離れた場所で待機しているシロを手招きし、いっしょに小屋に入った。
一人取り残された僕は、しばし四つん這いの姿勢を維持したのち、両脚を投げ出して地面に座り込んだ。奇しくも、行為を及ぼされているさなかのシルヴァーと同じ座りかただ。
唇の上と口の中には、匂いが染みついている。甘味と苦味と酸味がいっしょくたになった、オリジナルの蜂蜜の匂いが。
* * *
「クロよ。言うまでもなく、お前は食事抜きだからな」
いきなりドアが開いてシルヴァーが告げた。彼女はすっかり元のような衣装に着替えている。どんな魔法を使ったのか、蜂蜜の残り香すらもまとっていない。
「なに不満そうな面をしておる。あたしへの奉仕は当たり前の義務なのだから、できて当然。報酬をもらいたければ、必要とされている以上の働きを見せろ。自分が奴隷だということを忘れるんじゃないぞ。一瞬たりともな」
ドアの隙間からシロがこちらを見ている。漏れてくるのは彼の規則的な息づかいと、食べ物の匂い。準備は彼女がしたのだろうか?
無慈悲にドアが閉ざされた。
* * *
島の女王を名乗る少女・シルヴァーは、僕から記憶を奪い、奴隷にした。
横柄で、人づかいと言葉づかいが荒く、思いやりがない。
そのような人物に隷属して生きていかなければならない、という理解が深まるにつれて、絶望感は濃度を増した。
しかし、蜂蜜を舐めさせられた一件が、一方的だった流れに変化をもたらした。
あの体験は、屈辱的な罰であると同時に、甘美なる報酬でもあった。シルヴァーがどんなつもりで命じたのかは神のみぞ知るが、少なくとも僕はそう感じた。
これさえあるならば、仕える主人が横柄だろうが、人づかいと言葉づかいが荒かろうが、思いやりがなかろうが、なんとか生き抜いていけるのでは?
「そうだ。ついうっかり、こぼしてしまってな。シロに掃除を手伝ってもらっていたのだが、犬は舌が小さいからいつまで経っても終わらんのだよ。というわけでクロ、お前が舐めるんだ」
シルヴァーは口笛を吹いてシロの注目を惹き、手を払う仕草をした。
シロはすぐさま二メートルほど主人から遠ざかり、彼女のほうを向いておすわりをする。行為のさなかよりも激しく振り動かされるしっぽが、今現在の彼の心境を如実に表している。
僕はさっきまでシロがいた場所に四つん這いになり、顔を低くした。陰部は蜂蜜の助けを借りて妖しく輝いている。
「さあ、早く」
顔を近づけると、嫌な匂いが鼻孔に押し寄せた。物理的に鼻を押し返してくるような濃密さだ。蜂蜜の匂いと、シロの唾液の臭いと、シルヴァーの股間の臭いが混合した、おぞましい臭気。
なんという臭さだろう。
なんという甘美さだろう。
「なにをぼさっとしておる。さあ、早く!」
僕は奴隷から犬へと成り下がって、一心不乱に舐めた。
* * *
全ての蜂蜜が胃の腑に消えた。
シルヴァーはしばし肩で息をしていたが、やがて大儀そうに立ち上がった。少し離れた場所で待機しているシロを手招きし、いっしょに小屋に入った。
一人取り残された僕は、しばし四つん這いの姿勢を維持したのち、両脚を投げ出して地面に座り込んだ。奇しくも、行為を及ぼされているさなかのシルヴァーと同じ座りかただ。
唇の上と口の中には、匂いが染みついている。甘味と苦味と酸味がいっしょくたになった、オリジナルの蜂蜜の匂いが。
* * *
「クロよ。言うまでもなく、お前は食事抜きだからな」
いきなりドアが開いてシルヴァーが告げた。彼女はすっかり元のような衣装に着替えている。どんな魔法を使ったのか、蜂蜜の残り香すらもまとっていない。
「なに不満そうな面をしておる。あたしへの奉仕は当たり前の義務なのだから、できて当然。報酬をもらいたければ、必要とされている以上の働きを見せろ。自分が奴隷だということを忘れるんじゃないぞ。一瞬たりともな」
ドアの隙間からシロがこちらを見ている。漏れてくるのは彼の規則的な息づかいと、食べ物の匂い。準備は彼女がしたのだろうか?
無慈悲にドアが閉ざされた。
* * *
島の女王を名乗る少女・シルヴァーは、僕から記憶を奪い、奴隷にした。
横柄で、人づかいと言葉づかいが荒く、思いやりがない。
そのような人物に隷属して生きていかなければならない、という理解が深まるにつれて、絶望感は濃度を増した。
しかし、蜂蜜を舐めさせられた一件が、一方的だった流れに変化をもたらした。
あの体験は、屈辱的な罰であると同時に、甘美なる報酬でもあった。シルヴァーがどんなつもりで命じたのかは神のみぞ知るが、少なくとも僕はそう感じた。
これさえあるならば、仕える主人が横柄だろうが、人づかいと言葉づかいが荒かろうが、思いやりがなかろうが、なんとか生き抜いていけるのでは?
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる