少女王とその奴隷

阿波野治

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初めての狩り⑦

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 空が暗くなりはじめてから、闇一色に染め上げられるまでの時間は、短いようで長いらしい。ジャングルを抜けて「まん丸原っぱ」に出たとき、世界は依然として昼間に属する明るさに包まれていた。
 日が沈む方角を仰げば、日没の兆候を発見できたかもしれない。しかし、僕は関心を別の対象に奪われた。
 シルヴァーが小屋の外にいるのだ。出入り口近くの外壁にもたれて地面に座っている。彼女の目の前にはシロもいる。

「……なんだろう」
 なにか様子がおかしい。そのおかしさの正体が、今僕がいる場所からは遠すぎて掴めない。訝しく思いながらも、一人と一匹に歩み寄る。

 十メートルを切ったあたりで、愕然として足を止めた。
 シルヴァーは裸だった。衣服はもちろんのこと、花冠も、ネックレスも、ブレスレットも外した、一糸まとわぬ姿。
 熱帯の風が甘い香りを運んでくる。源泉は、彼女の体。昼間にも嗅いだこの匂いは――蜂蜜だ。

 シルヴァーの表情は、切なげで、少し苦しそうで、それでいて嬉しそうだ。そんな複雑な表情を一言で表す単語は、記憶を喪失した僕の頼りない辞書にもしっかりと記載されている。
「恍惚」だ。

 両脚は投げ出され、剥き出しになった股間にシロが鼻先を埋めている。頻繁にちらつく人肉の色にも似たものは、舌。
 シロは、シルヴァーの股間を舐めているのだ。

 彼女の陰部は黄金色に輝いている。最初、太陽光に照らされているからだと思ったが、その部分だけが光っているのはおかしい。そもそも、シロの体によって日射しは遮られている。
 蜂蜜だ。シロはシルヴァーの股間に付着した蜂蜜を舐めているのだ。
 いくらなんでも、股間にピンポイントで、あの量の蜂蜜をこぼすとは考えにくい。シルヴァーはわざとその部分に蜂蜜を塗り、舐めさせているのだ。恍惚感を得るという、ただ一つの目的のためだけに。

 僕の心臓は早鐘を打っている。全身が太陽を押しつけられたかのように熱い。特に股間は異常なまでの高温だ。その部位は当然、見るに堪えない醜悪な様相を呈しているのだろう。
 シルヴァーに見られるのは、恥ずかしい。剥き出しのままぶら下げておくのは、みっともない。
 今までのそんな気持ちはどこかへと消え去り、早く使いたい、本来の使いかたで使いたい、という思いで胸は満たされている。
 僕はシルヴァーへと歩み寄る。

「おお、クロか」
 琥珀色に染まる股間に右手で蓋をし、恍惚の表情で僕を見上げる。

「獲物もなし、武器もなしの素っ裸の姿は、哀れだのう。哀れ以外のなにものでもない」
 シルヴァーの声音は、凛々しさをしっかりと保ちながらも、輪郭がとろけている。親しみが湧く声だ。それ以上に、そそる声だ。

「興奮をしておるな、お前は」
「はい。興奮しています」
「獲物の一匹も捕まえてこないくせに、女王の裸体に欲情するとは、呆れた男だのう。見てのとおり、あたしはそれどころではないのだよ」

 おあずけを食らったシロは、主人の手を舐めたり、指先に鼻面を押し込んだりして蜜にありつこうと試みているが、なにがなんでも手に入れてやろうという強引さはない。御馳走を前にしても主従関係は絶対なのだ。
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