16 / 85
初めての狩り⑦
しおりを挟む
空が暗くなりはじめてから、闇一色に染め上げられるまでの時間は、短いようで長いらしい。ジャングルを抜けて「まん丸原っぱ」に出たとき、世界は依然として昼間に属する明るさに包まれていた。
日が沈む方角を仰げば、日没の兆候を発見できたかもしれない。しかし、僕は関心を別の対象に奪われた。
シルヴァーが小屋の外にいるのだ。出入り口近くの外壁にもたれて地面に座っている。彼女の目の前にはシロもいる。
「……なんだろう」
なにか様子がおかしい。そのおかしさの正体が、今僕がいる場所からは遠すぎて掴めない。訝しく思いながらも、一人と一匹に歩み寄る。
十メートルを切ったあたりで、愕然として足を止めた。
シルヴァーは裸だった。衣服はもちろんのこと、花冠も、ネックレスも、ブレスレットも外した、一糸まとわぬ姿。
熱帯の風が甘い香りを運んでくる。源泉は、彼女の体。昼間にも嗅いだこの匂いは――蜂蜜だ。
シルヴァーの表情は、切なげで、少し苦しそうで、それでいて嬉しそうだ。そんな複雑な表情を一言で表す単語は、記憶を喪失した僕の頼りない辞書にもしっかりと記載されている。
「恍惚」だ。
両脚は投げ出され、剥き出しになった股間にシロが鼻先を埋めている。頻繁にちらつく人肉の色にも似たものは、舌。
シロは、シルヴァーの股間を舐めているのだ。
彼女の陰部は黄金色に輝いている。最初、太陽光に照らされているからだと思ったが、その部分だけが光っているのはおかしい。そもそも、シロの体によって日射しは遮られている。
蜂蜜だ。シロはシルヴァーの股間に付着した蜂蜜を舐めているのだ。
いくらなんでも、股間にピンポイントで、あの量の蜂蜜をこぼすとは考えにくい。シルヴァーはわざとその部分に蜂蜜を塗り、舐めさせているのだ。恍惚感を得るという、ただ一つの目的のためだけに。
僕の心臓は早鐘を打っている。全身が太陽を押しつけられたかのように熱い。特に股間は異常なまでの高温だ。その部位は当然、見るに堪えない醜悪な様相を呈しているのだろう。
シルヴァーに見られるのは、恥ずかしい。剥き出しのままぶら下げておくのは、みっともない。
今までのそんな気持ちはどこかへと消え去り、早く使いたい、本来の使いかたで使いたい、という思いで胸は満たされている。
僕はシルヴァーへと歩み寄る。
「おお、クロか」
琥珀色に染まる股間に右手で蓋をし、恍惚の表情で僕を見上げる。
「獲物もなし、武器もなしの素っ裸の姿は、哀れだのう。哀れ以外のなにものでもない」
シルヴァーの声音は、凛々しさをしっかりと保ちながらも、輪郭がとろけている。親しみが湧く声だ。それ以上に、そそる声だ。
「興奮をしておるな、お前は」
「はい。興奮しています」
「獲物の一匹も捕まえてこないくせに、女王の裸体に欲情するとは、呆れた男だのう。見てのとおり、あたしはそれどころではないのだよ」
おあずけを食らったシロは、主人の手を舐めたり、指先に鼻面を押し込んだりして蜜にありつこうと試みているが、なにがなんでも手に入れてやろうという強引さはない。御馳走を前にしても主従関係は絶対なのだ。
日が沈む方角を仰げば、日没の兆候を発見できたかもしれない。しかし、僕は関心を別の対象に奪われた。
シルヴァーが小屋の外にいるのだ。出入り口近くの外壁にもたれて地面に座っている。彼女の目の前にはシロもいる。
「……なんだろう」
なにか様子がおかしい。そのおかしさの正体が、今僕がいる場所からは遠すぎて掴めない。訝しく思いながらも、一人と一匹に歩み寄る。
十メートルを切ったあたりで、愕然として足を止めた。
シルヴァーは裸だった。衣服はもちろんのこと、花冠も、ネックレスも、ブレスレットも外した、一糸まとわぬ姿。
熱帯の風が甘い香りを運んでくる。源泉は、彼女の体。昼間にも嗅いだこの匂いは――蜂蜜だ。
シルヴァーの表情は、切なげで、少し苦しそうで、それでいて嬉しそうだ。そんな複雑な表情を一言で表す単語は、記憶を喪失した僕の頼りない辞書にもしっかりと記載されている。
「恍惚」だ。
両脚は投げ出され、剥き出しになった股間にシロが鼻先を埋めている。頻繁にちらつく人肉の色にも似たものは、舌。
シロは、シルヴァーの股間を舐めているのだ。
彼女の陰部は黄金色に輝いている。最初、太陽光に照らされているからだと思ったが、その部分だけが光っているのはおかしい。そもそも、シロの体によって日射しは遮られている。
蜂蜜だ。シロはシルヴァーの股間に付着した蜂蜜を舐めているのだ。
いくらなんでも、股間にピンポイントで、あの量の蜂蜜をこぼすとは考えにくい。シルヴァーはわざとその部分に蜂蜜を塗り、舐めさせているのだ。恍惚感を得るという、ただ一つの目的のためだけに。
僕の心臓は早鐘を打っている。全身が太陽を押しつけられたかのように熱い。特に股間は異常なまでの高温だ。その部位は当然、見るに堪えない醜悪な様相を呈しているのだろう。
シルヴァーに見られるのは、恥ずかしい。剥き出しのままぶら下げておくのは、みっともない。
今までのそんな気持ちはどこかへと消え去り、早く使いたい、本来の使いかたで使いたい、という思いで胸は満たされている。
僕はシルヴァーへと歩み寄る。
「おお、クロか」
琥珀色に染まる股間に右手で蓋をし、恍惚の表情で僕を見上げる。
「獲物もなし、武器もなしの素っ裸の姿は、哀れだのう。哀れ以外のなにものでもない」
シルヴァーの声音は、凛々しさをしっかりと保ちながらも、輪郭がとろけている。親しみが湧く声だ。それ以上に、そそる声だ。
「興奮をしておるな、お前は」
「はい。興奮しています」
「獲物の一匹も捕まえてこないくせに、女王の裸体に欲情するとは、呆れた男だのう。見てのとおり、あたしはそれどころではないのだよ」
おあずけを食らったシロは、主人の手を舐めたり、指先に鼻面を押し込んだりして蜜にありつこうと試みているが、なにがなんでも手に入れてやろうという強引さはない。御馳走を前にしても主従関係は絶対なのだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる