少女王とその奴隷

阿波野治

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セックス

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 消灯後しばらくが経ち、僕がまどろみはじめたころ、セックスの夜が幕を開けた。

 開始早々からクライマックスのような猛攻を受けながら、シルヴァーはなぜ寝込みを襲うような真似をするのだろう、と考える。
 ふと気を抜くと意識が飛びそうになる性的快感。ぶつかり合う肉と肉の乾いた音。その音の合間に断続的に聞こえてくる喘ぎ声の官能性。それらに猛烈に邪魔されて、思案はままならない。

 前進を実質的に封じられたことで、今宵初めて、シルヴァーのセックスの激しさを客観視する。
 よくぞこうも続くものだと、喘ぎ喘ぎ思う。賞賛するのでもなく、軽蔑するのでもなく、ただそう思う。

 僕が果てるたびに、シルヴァーは決まって僕を罵倒した。吐き散らされる言葉は、子ども同士の喧嘩で飛び交うような幼稚で単純なものばかりだが、一方的に攻められた挙げ句に絶頂に至った直後だけに、心に深く刺さる。
 僕はそれが嫌で、終わる瞬間をなるべく先延ばしにしようと、懸命の努力を重ねてきた。
 しかし今となっては、限界まで耐え凌ぐことに固執しなくてもいいかもしれない、と考えが変わりつつある。天秤にかければ、そちらのほうが楽な気がするし、それに、罵倒が快い気もするのだ。

 快感に転化することで苦痛に対処しようとしているのだろうか?
 もしそれが正しいなら、恐ろしい。無意識に行われたことも。味を占めた心が雪崩れ込むように傾斜していく展開も。

 確かなのは、シルヴァーの攻撃的なセックスのみを切り取れば、文句なしに快感だということだ。
 終わりのない絡み合いにはうんざりするし、疲れる。性の捌け口として使われるのも、能動的な働きかけが禁じられるのも、違うと思う。
 しかし、その一点だけは真実だ。
 だからこそ、僕はまんまと呑まれている。

 それにしても、なぜ寝込みを襲うような真似をするのだろう? 女王なのだから、「セックスをするぞ」と有無を言わさずに命じればいいだろうに。
 少し大人しくなったのかと思うと、急に激しく込み上げてくる快感に邪魔されながら、途切れ途切れに、しかし粘り強く思案する中で、不意に浮かんだ考えがある。

 女王だからこそ、面と向かって命じるのが嫌なのだろうか?
 ひとたび浮かぶと、その説が正しいとしか思えなくなった。
 ようするに、プライドだ。女王であるがゆえに高いプライドが、奴隷相手にセックスを要求することを許さないのだ。

 ……でも。
 でも、なぜ、セックスだけなんだ? 道具を作れだの、「ふたご湖」に行くのに付き合えだの、他の命令ならば臆面もなく投げつけてくるのに、なぜセックスだけは主張を控えるんだ? 女王らしさでいえば、性のはけ口になれと有無を言わさずに命じるほうが、ずっとそれらしいではないか。

「――ああっ」
 やがて呆気なく、僕は今宵七回目の絶頂に至った。
 闇夜の中で荒い呼吸がくり返されている。二人分の呼吸音は半ば融け合い、峻別できない。

「また果ておったか。堪え性のないやつめ」
 一区切りがついて遅れること十数秒後、シルヴァーは僕を小馬鹿にした。歓喜を押し殺しているような声だ。
 僕の呼吸はまだ少し速いというのに、女王は早くも再び動きはじめる。

 まことに、まことに、島の夜は長い。
 記憶を失う前に生きていた僕の世界では、どうだったのだろう?
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